彼女と僕しか知らない一日 ~妙に距離感の近い元気系ガイノイドと行く小旅行~ 作:さばてん@コピーライター
翌日は早朝から、
彼女を乗せて遠くの山奥まで車を走らせる。
彼女は助手席、僕は運転席。
便利だろうから、免許を取らないか聞いてみると、いらないのだという。
彼女の言うことには
「私が運転もできるようになったら、いよいよ君がいらん子になっちゃうでしょ。介護されたいのなら止めないけれど…」
とのこと。
あくまで世話のかかる居候らしくしていたいのだろうか…漫画か何かで学んだのかもしれない。
しばらく山道を走らせると、路傍にはちらほら、普通の車では入れないような道が増えてくる。
こんな山奥まで、普段は自力で通っているらしいが
僕が一緒の時は、徒歩でバイパス道や山腹を爆走する訳にはいかないので
2泊3日の休みをとって付き合っている。
何故、同伴が必要かといえば
勿論、その"運動"のためだ。
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森の奥深く、動物も騒がない川のほとり
草むらの影から突き出た猟銃の、引き金に掛けられた細い指が
音もなく引かれる。
ズドン、と響き渡る銃声。木立の小鳥が一斉に飛び立ち
そして…無傷の鹿が早足に逃げていった。
「当たってたかな?」
「………惜しかったね。次いこっか」
高そうな軍用スコープから目を離して、彼女の肩をコツコツとつつく。
単純なれども難度の高い狙撃は、人ならざる彼女にとっては更に複雑だ。
視覚で獲物を捉え、触覚を頼りに引き金を引き、五感全てを用いて効果を判定する
人間が訓練を積んで獲得する自然な感覚や動作を、彼女は数字の羅列でしか把握・計算できない。
過酷な地球の自然は彼女の本来の住処ではなく
不安定な人型の肉体でさえ、本来の身体ではないのだという。
生きているだけで、世界と自分の誤差が大きくなっていく
なのでこのように、人間の感じているものと彼女の感じているものを共有する必要がある、らしい。
今も僕の隣に、見た目だけは完璧な姿勢でライフル銃を構える彼女がいる。
「ね、見失っちゃう。トラッキングは?」
「まだいる…北北西、150。左へ速歩」
僕のスコープの動きにつられるように
彼女もゆっくりと首を回す。
「わかんないな…あ、今!」
ぐっと身を起こすと、振り向きざまに立膝で一発。
倒木の影に紛れる茶色い毛皮へ、軟質金属の銃弾が吸い込まれる
「ライフル!……当たった?」
「………当たった!お疲れ様。」
相変わらず"命中した感覚"は分からないらしい。
とはいえ、獲物探しと射撃は彼女の十八番。僕の役割は観測・経過観察と結果報告だけだ。
そんな彼女に、大戦中はどうやって戦っていたのか聞いたことがある。
曰く「撃たれたら同じ方向に撃ち返す。また撃たれたらもっと撃つ、もう撃たれなければ成功」
とのこと。信じ難いほどお粗末なトライ・アンド・エラーだ
しかし、こうして彼女を手伝っていると
その言葉は本当だったことを実感できる
一度外しても、誤差や獲物の状況を教えて<インプットして>あげれば、ほんの何発かのうちに正確な射撃が出来るようになった。
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ひととおり山を走り回り、一息ついていると
彼女も隣に腰を下ろす。
「ところでね、このへんに…温泉宿があるんだって。行ってみよっか」
てっきり野宿のつもりで用意してきたが、それもまた有難い提案ではある…
二つ返事で承諾すると、彼女はちょっと空を仰ぎ見る
多分、通信衛星を探しているのだろう。
そういえば猫は時々、なんとなしに空を仰ぎ見るらしい。
猫耳のような給排気口を伏せ、空色の瞳をまん丸に開けて佇む姿は
なるほど、"何もしていないをしている"猫のようでもある。
「お待たせ、部屋取れたよ!携帯に送っておくね。先に戻ってるから」
車へ戻る背中を見送りながら、携帯端末を開くと
妙ちきりんな予約内容に、僕は唖然とした。
『一名様。介護ロボットあり、車両あり』