彼女と僕しか知らない一日 ~妙に距離感の近い元気系ガイノイドと行く小旅行~ 作:さばてん@コピーライター
「温泉、よかったね」
「肩凝りに効いた気がする」
あれから数刻。
誰も来ない露天風呂で2人きり、水鉄砲を教えたり、水中じゃんけんで負け続けたり
サウナへ入ろうとする彼女を引き止めたりした後
部屋へ戻ってくつろぐ。
1人分の予約であったから、浴衣も羽織も1人分だけ
彼女は替えの下着と羽織を、僕は浴衣の帯を締める。
4人家族向けの小さな炬燵。
角に身を寄せあって入ると、いつもより
彼女の体温を近くに感じる。
ふと目線を下げると、羽織から覗く半ズボンと半袖のシャツに吸い込まれた。
ズボンから覗く脚と柔らかな腰のラインは、人間であれば年相応の柔らかな身体を連想させて…
ごくり、と思わず何かを飲み込んだ。
ゆったりとしたシャツの裾から、羽織に隠されたふくよかな胸元に視線を移し…
白地のシャツに大きくプリントされた
『 進 化 論 』
の文字と見つめ合う。
サルからサラリーマンへ進化する図案の端にいるのは
漫画のような───今となっては当たり前に見られるが───イヌ科の耳尻尾を生やした子供の姿。
まるで『お前たち人間は取って替られる』と言われているようで、少し寒気がする。
そこはかとなく緩いTシャツを眺めながらため息をつくと、こちらを見つめる2つの青色と目が合った。
「どうしたの?」
「いや…その、その格好は寒くない?」
「ん、あったかいよ!身体の奥から温まる感じ」
大きめの袖から手先をちょっと出して、湯呑みを傾けて見せる
熱いお茶を飲めば、確かに身体も暖まることだろう。
つられて、湯呑みに口をつける
「それはよかった…暖かいね。僕も…」
君の隣なら……そう口走りそうになって、はっと気付く。隣にいるのは居候のロボットで、人間じゃないはずなのに
まるで僕は、人間の女の子に…恋をしてしまったような素振りを……
頬を熱くして俯いていると、彼女がちょいちょいと袖を引いてくる。
「ちょっと。ちょっと横へ寄って」
「んん?何を……うわっ!」
炬燵の角を開けると、唐突に身体を引っ張られ
炬燵の中に引きずり込まれる
目を白黒させていると、すぐ隣にひょっこりと
彼女が顔を出した。
「あんまり、暖かそうじゃなかったから…嫌かな?」
「ぃ…嫌じゃないが…」
僕をどうするつもりか、とは聞けなかった。
首の後ろに柔らかい感覚がある…多分、腕枕されていて
ドクドクと早鐘を打つ心臓を撫でるように、僕の胸に暖かい手が添えられる。
「いいよ、このまま寝ちゃっても」
何か言い返そうとして、ひゅっと息を吸い込む
自分とは違う、女の子の香り
おかしいな、同じシャンプーの筈なのに。
これじゃあ、まるで……
ゆらり、身体の奥で邪念が鎌首を持ち上げる
そうだ。相手は人間じゃないのだから、何かあったとて…
そっと…確かめるように、試すように尋ねてみた。
「ねぇ、もし…良かったら。今夜は一緒に…」
全て言い終わらぬうちに、そっと視界を塞がれる
暖かな暗闇のすぐ裏側、僕の見えていないところで
2つの青色が、にやりと笑みを浮かべた。
それから何があったかは、あまり語ることが出来ない。
ただ、前より少しだけ
彼女が控えめになったような気がするのは、僕の気の所為ではないかもしれない。
ご精読いただき、有難う。
今後も邁進してまいります。