はい、続きです。
温泉開発部。それは「まだ見ぬ温泉の開拓」を目的として掲げ行動している部活。彼女らは温泉の探求に日夜心血を注いでいるのだ。………といえば聞こえはいいだろう。しかし、実態は温泉開発のためならば文字通りどこであろうと即座に開拓を行い(しかも方法は主に爆破)、それによって発生する被害など一切知ったこっちゃないといわんばかりの周囲への無頓着さを誇る、キヴォトスでも屈指のテロリスト集団(実質)である。
そんな彼女らのリーダーである温泉開発部部長鬼怒川カスミだが、実は意外に賢かったりする。実際彼女はゲヘナ有数の勤勉家であり、温泉開発のための勉学は怠らず複数の論文を読み解くことも可能。また知能犯というくくりであればキヴォトス最凶格であるとの呼び声も高い。一方で、フィジカルはあまり強くはないほうで、自身が前線に立って戦うことはあまりしない。どちらかといえば裏から場を操るフィクサータイプだ。
…そう、だからこそ、今、絶対絶命といってもいい状況に陥っている。
「…そこまで警戒しなくてもいいと思いますよ?」
「私があなたを目の前にして警戒しないと思っているのかい?もし警戒しないと思っているなら、なかなかお優しい考えをしているようだねぇ。」
「でも、あなたは手を出すようなことはしないでしょう?…キヴォトス屈指の知能犯にして温泉開発部部長の鬼怒川カスミ」
「まさか、世間で超人と名高いあなたに知能犯といってもらうとは…まぁ、私がやっているのは犯罪行為ではないと主張したいところだけどね…。」
「うふふ…さて、アイスブレイクはこれでいいかしらね?」
「今ので緊張が取れたと思わないでくれたまえよ?」
あら、残念。と言って目の前の女性はコーヒーを一口飲んだ。
「では、話してもらおうか。………なぜ、あなたのような人が
「ええ、話すわ。…………………これはとても大事な、
そういって、目の前にいる人物…キヴォトスの連邦生徒会長は佇まいを直し、そして
「あの島、たしか髑髏島と呼ばれてたかしら?」
「あぁ、あそこがどうしたんだい?」
「そこにいるのでしょう?あの子が?」
「………あぁ、いるとも。彼女はそこの管理を担っているからね。…まさか?!」
「あの子に、ブレーザーに会わせてくれないかしら?」
とんでもないことを言い出した。
「なぜ…それを許可しないといけないんだ?…そもそも、君とあの子が会うということに何の意味があるというのかね?」
「意味ならあるわ。大きな意味が。キヴォトスの未来がかかっているのよ?」
「…それだ、そこが疑問だ。なぜ彼女があなたと会うことが『キヴォトスの未来がかかっている』ほどの意味を持つ?」
カスミは肩を震わせ、相手を見上げ、睨んで、問うた。
「なぁ、連邦生徒会長…あなたは、何を、どこまで知っているんだ?」
超人が目を少し細める。それだけで、カスミは周囲の気温がまるで氷河の中にいるように冷たいものになったと錯覚した。それほどの、圧。
「ッッッ?!?!」
ゲヘナの風紀委員長も、トリニティの正実委員長も、ミレニアムの00も、それらすべてを合わせても足りないような異質さ。現在存在する者の中で、上記の者たちをも差し置いて超人と呼ばれる存在。その片鱗。
ふぅと生徒会長が息を吐く。同時に部屋に満たされていたものが霧散していく。カスミは「ぜはーッ」と荒い呼吸を行った。それを横目に
「申し訳ないけど、それを言うことはできないわ。伝わらないもの。」
「ハァ…ハァ…伝わらない、だと?いったいどう言うことだ?」
「実際に聞いたらわかるわ。」
そう言った後、彼女は
「彼女の、ブレーザーに秘められた誰にもわからない力。それが色彩を打ち破り、破滅を回避するカギの一つになるかもしれないということよ。」
と続けた。
…しかし、カスミには何を言っているのかわからなかった。聞こえないのではない。何かを言っているのはわかるが、それが言語として認識できないような感覚だった。
「……………………なるほど、確かに、わからない。…伝わらないということが…理解できたよ。」
「…ならよかったわ。」
…そういった彼女の顔は、決意と哀しみそして、後悔が滲んでいて、
「?!」
まるで泣いているようでもあった。
そういった彼女の顔はもう元通りで、先ほどの顔がまるで幻のようだった。
「それじゃあ、私のお願い、聞いてくれるかしら?」
……………………………脳裏に、顔がよぎる。あの相貌が、双眸が、こちらを見つめるあの光の渦が、私に問いかける。
……………………………………………………………………………………………………………………はっきり言って、正直、「だからどうした」という思いが強い。メリットも少ないし、「温泉開発に影響あるか?」と言われれば、まぁあまりないだろう。何より、相手はあの「超人」。何をするのかわからないし、…全てが手のひらの上という可能性だって十二分にある。
それでも、それでも、だ。…「あれ」はなんだ。まるで、捨ててしまうことがつらいのを耐えるようなあの顔はなんだ?何かをあきらめることを選んだようなあの目はなんだ?今にもこぼれだしそうだったあの涙は、なんだ。
「………………どうやら、私は、甘くなったらしい。」
「いいだろう、今度、彼女に会わせよう。そうだな…1週間後に来てくれ。」
その言葉を聞いた生徒会長は、目を少し見開き、ほどなくして微笑んだ。
「『甘くなった』ではありませんよ。…あなたは、『成長』、したのですよ。きっと。」
「なんにせよ、ありがとうございます鬼怒川カスミ。来週の予定は明けておきますね。」
「ああ、わかった。」
「では、また来週。」
「ああ、また来週。」
そのやり取りの後、連邦生徒会長は部屋を出て行き、
「さて、メグやアースガロンに相談しなくては。…ブレーザーには何と言おうかね…。」
カスミは思考を巡らせるのだった。
部屋を出てしばらく歩いていると後ろから声が聞こえてきた。
「キキキッ、こんにちは、連保生徒会長。この私がエスコートしてやろうか?」
「…珍しいこともあるのね、羽沼マコト議長?」
そこには、
「キキキッ、これでも議長だからな…気をつけろよ?漏れ出ていたぞ。」
「あら、それは、悪いことをしたわね。」
「あぁ、気をつけるといい。ここは血気盛んなものが多いんだ。それに風紀委員が動いたら面倒くさいだろう?」
「あら、あなたが守ってくれないのかしら?」
「私単体に
「ふふふっ、楽しみにしてるわ。」
「キキキキキッ!あぁ!楽しみにしておくといい!!!」
………しばらく歩いて、おもむろに、生徒会長が口を開いて、マコトに質問を投げかける。それは、「何故ブレーザーをあのテロリスト集団といってもいい温泉開発部に預けたのだ?」という問い。それに対する返答は、余りにも端的であった。
「なにをいっているんだ?預けるに決まっているだろう?」
彼女は続ける
「ここはゲヘナ学園だぞ?」
そこまで言った後、雰囲気が変わる。じりじりと全身を、魂を焼き尽くすような圧力。それらは、すべてマコトのほうから発せられていた。
「………確かに、温泉開発部はテロリスト集団とみなせるかもしれん。」
「だが、彼女らが
「わかるか?連邦生徒会長殿」そう言って連邦生徒会長を見つめる目には業火が宿っていた。
「もしも、
次の瞬間にはその空気を霧散させて、続けた。
「それにな…この私の情報網によれば、あの子はカスミによぉーくなついているそうじゃないか。それならば、こちらにとっても好都合というものだからなぁ!キキキキキィッ!」
そうして機嫌よさそうに笑うマコト。
「……相変わらずどこでつかんだんだか。」
「このマコト様の情報網を侮るなよ!その気になればあらゆる情報を入手してくれるわ!!キキキ、キャハハハハハハハハハハハァーーーーー!!!」
「……セキュリティの見直しが必要ね。」と生徒会長は呟き、上機嫌なマコトとともに出口へと歩いていく。
『あのマコトでこれならば安心だ。』という安堵とブレーザーに対する期待。そして、もはや覆ることのないだろう自らの運命に、思考を巡らせ、思いをはせ、ほんの少し足取りを重くさせながら。
時は2月上旬
全てが動くまで、あと、2ヶ月を切っていた。
次回は「あの子」の視点です。