第一部隊が政府防衛作戦の援軍に向かったあと、第二部隊以下は資源確保のために遠征に向かった。本丸に残った者たちは三名から四名の一組で本丸を巡回警備した。
三日月宗近と乱藤四郎と蜻蛉切は、本丸外回りの警護組のひとつとして、持ち場の巡回を始めた。
しばらくは三人とも無言で空模様を警戒していた。あの紫色の空から、いつなんどき敵の連合軍が急襲してくるか分からない。
乱藤四郎と蜻蛉切は三日月宗近が気にかかるようで、歩きながらちらちらと見ていた。
やがて乱藤四郎がおずおずと話しかけてきた。
「ねぇ、三日月さん、その刀……加州さんのだよね?」
三日月宗近はよくぞ聞いてくれたとばかりに嬉しそうに言った。
「うむ。加州がこの俺を信じて預けてくれたのだ」
「えぇっ……じゃあ、三日月さんの刀は? 加州さんが持っていったの?」
乱藤四郎が目を丸くして尋ねると、三日月宗近は「いかにも」と答えた。
蜻蛉切は「なんと……」と言葉を失い、乱藤四郎と顔を見合わせた。
三日月宗近は大切そうに、腰の物に手を添えた。この加州清光の打刀は何にも代えがたい、仲間としての信頼の証だった。そして互いの愛刀を預け合ったのは、これまでめぐってきた数えきれない円環の中で、三日月宗近には初めての経験だった。
出陣直前に、三日月宗近を訪れた加州清光はこう言った。
「俺の代わりに最後まで本丸を守ってほしい。それでもし、俺が無事に戻れたら、今まで隠してたことを全部話してよ。一緒にどうしたらいいか考えよう。今度こそ、円環を抜け出すために」
「………」
三日月宗近はしばらく考えこんだ。そして、腰の太刀を鞘ごと外して差し出した。
「では、これを持っていけ」
「でも、これはあんたの」
「政府に潜入するのだろう? これが役に立つはずだ」
加州清光は三日月宗近の太刀を見つめた。これまでの出来事からすると、三日月宗近と時の政府との間には何か秘密のつながりがあるのは間違いない。役に立つというのは、やはりそういう意味なのだろう。
「……分かった。じゃあ……これを」
加州清光は自分の打刀を差し出した。
「良いのか?」
三日月宗近が問いかけると加州清光は笑った。
「あんたにも刀がないと、いざってときに主を守れないじゃん」
二人は互いに刀を交換した。
「三日月。本丸を、主を……頼んだよ」
「うむ」
そして三日月宗近は加州清光を正門まで送り届け、その出陣を見送った。
防衛ラインでは空に黒い穴が観測された。その光を一切受け付けない黒い穴から、ぞろぞろと敵の連合軍が現れた。
絶え間なく押し寄せる敵部隊に、時おり検非違使の部隊が混ざっている。検非違使の中にも大型の敵がいた。普段の数倍の大きさの槍だ。
前衛防衛ラインは練度最高ランクの本丸が守っていたが、敵をさばききれなかった。中央防衛ラインや最終防衛ラインにも堅牢で素早く打撃力のある敵が多い。最終防衛ラインでさえ苦戦するありさまだ。どの本丸も部隊の負傷や疲労への対応に追われた。
加州清光は出陣直前に、第一部隊の全員に途中離脱の計画を知らせていた。第一部隊は部隊長行方不明のため戦闘不能として本丸に帰城し、以降は援軍を出さず、本丸の警護に当たる手はずになっている。単独で政府の本部に潜入するつもりでいることは伏せた。
第一部隊の者たちは加州清光が三日月宗近の太刀を持っているのに気づいていたが、何も言わなかった。加州清光がこの数か月、ずっと審神者と二人だけで話し合いを重ねているのを、本丸中の刀剣男士はうすうす気づいていた。そのため加州清光の途中離脱は何らかの極秘任務なのだろうと第一部隊の全員は飲み込んでいた。
加州清光がちょうど部隊を離脱しようとしていたとき、敵が襲ってきた。
石切丸が敵の刃を防いで加州清光を守った。
「三日月さんを、頼んだよ」
石切丸の背中に向かって加州清光はごく短く「うん」と応え、最終防衛ラインの最奥に向かって疾走した。