強化プログラムが終了間近にせまった頃、時の政府から緊急入電があった。
刀剣男士たちは入電の内容を見るため、広間に設置された大型モニターの前に緊張したようすで集まっていた。
加州清光は執務室で審神者と一緒に専用モニターを見ていた。
加州清光と審神者の前で、こんのすけが暗号通信の解読作業を進めている。
そこへふらりと、三日月宗近が現れた。
「俺もここで一緒に見てかまわないか?」
三日月は執務室の前に立って入室の許可を求めた。
審神者は不審に思って目をすがめたが、特に断る理由もなく、警戒を込めた低い声で「……どうぞ」と答えた。
加州清光は二人を心配そうに見比べた。審神者はあからさまに嫌そうだが、三日月宗近はまるで意に介さず涼しい顔をしている。
ほどなく、モニターに『解読終了』の文字が、次いで『画像不鮮明』、『出力開始』が表示された。
モニターに目元を仮面で隠した人物が現れた。映像は擦り切れたように見える。その人物は刀剣男士と雰囲気がよく似ていた。
「大侵寇、勢い衰えず」
冷静なその音声からは感情は読み取れない。砂嵐のような雑音混じりだ。
「本部への跳躍経路へ浸食あり。政府はこれより、緊急防衛態勢に入る。以降は自立プログラムにて、管狐を通じ本丸の機能を継続。……八雲、断つ。生き残れ」
ここで突然ぷつりと、画像と音声が消えた。
広間で大型モニターを見ていた者たちは顔を見合わせ、ただならぬようすに何事かとざわめいた。
執務室ではこんのすけがしばらくモニターの調整を試みていたが、これ以上の情報は見込めないと判断し、審神者に向かってこう告げた。
「……通信が途絶えました。以降、『大侵寇』においては各位判断での攻防が許可されました」
「……うむ」
三日月宗近はひとり納得したようすでうなずいた。
「なに? さっきの入電」
加州清光が誰に尋ねるでもなく呟くと、三日月宗近が答えた。
「政府のクダ屋だ。援軍要請ではなかったならば、これからが肝要」
「クダ屋?」
と加州清光が尋ねると、三日月宗近は答えた。
「政府でこんのすけを管理している者だ。あれが直接連絡してくるほどには緊急かつ重要というわけだな」
「……八雲断つって、どういうこと?」
「ただ道連れにするわけにはいかない、といったところか」
「あたりまえだろ。道連れにされるとか、困るんだけど」
加州清光は少なからず動揺し、うろたえていた。あの入電のようすでは、政府や本丸を取り巻く状況が悪化しているのは間違いない。
一方、三日月宗近は落ち着いたようすで構えている。
「うむ。ゆえに時の政府は各本丸を自立プログラムに移行させるというわけだな。あちらの状況は芳しくない……だが、これで好きなように働ける」
三日月宗近は意味ありげに微笑んだ。
加州清光は「え?」と聞き返した。好きなように働ける、とは?
「白き、月を待て」
三日月宗近はそう言い残し、くるりと背を向けて去った。
加州清光はその背に向かって、
「ちょっと! 白き月ってなに」
と問いただしたが、三日月宗近はまったく足を止めず、少しも振り返らなかった。質問は受けつけない、という態度だ。
審神者はずっと黙ったまま、去ってゆく三日月宗近の背中をにらみつけている。
加州清光ははらはらしながら、審神者のいまいましげな顔と三日月宗近の背を何度も見比べた。
三日月宗近の姿が見えなくなると審神者は吐き捨てるように言った。
「わざわざ何しに来たんだ、あいつは」
「……白き月を待てって言いに来たんじゃないの、たぶん。意味が分かんないけど……」
と加州清光が答えると、審神者はとても嫌そうに顔をしかめて言った。
「だとしたら、三日月だけはあらかじめ入電の内容を知ってたってことか……。前にも『月をみて何を思う』と謎をかけてきたが」
加州清光は困り果ててしまった。主が三日月宗近を疑っている状況をなんとかしたい。だが、三日月宗近はクダ屋を知っていたり、明らかに一人だけ色々と分かっているようすだ。なのに「白き月を待て」だの、「月をみて何を思う」だの、謎めいたことしか言わない。これでは審神者はますます三日月宗近への疑念を深めるだけだ。
状況が悪化している中で、こうして主と三日月宗近がギクシャクしたままなのは絶対によろしくない。近侍としては放置したくないが、どうすればいいか分からなかった。