TSネコ少女おじさんは百合の間に挟まらない(叶わぬ願い) 作:TSの聖地(性地)ハーメルン巡礼者N
※クーニュ視点
今回の襲撃、その最大の山場であった2匹の上位種との戦闘後のこと。
……そう、“なんとか” 。正直な話、幾度となく寝落ちしそうになるラーナちゃんとクロコちゃんをあの手この手でここまで連れてくることの方が、ゴブリンたちより遥かに厄介だったと思う。ふふ、かわいいからいいけれどね。
「っ! クーニュさん! ラーナさん!」
「あっ、クーねぇ! ラナねぇと黒猫さんもいるー!」
「ぅ、うえぇぇぇん! よかった、ぶじだあああ!!」
「みんな……!」
私たちに最初に気がついたレオーネちゃんの涙まじりの安堵の声。そして、それをきっかけに子どもたちが私たち3人に突撃してくる。
……ああそうか、前に家庭持ちの冒険者が言っていた “帰る場所がある幸せ” というのはこういうことだったのね。
うん、なるほど。これは確かに胸が熱くなるし、彼らが見せた “生還への執念” も今なら理解ができる。また1つ、勉強になった。
「……あーその、クーニュよ。そろそろいいか?」
「ええ、お待ちいただきありがとうございました~。さあ、みんなはラーナちゃんたちと一緒にいてね~」
私に抱きついていた子どもたちを後ろの2人に任せる。報告は大人であり、元冒険者として経験がある私が行うべきだから。
「村を襲おうとしていた集団は
「うおおおおお!」
「よかった、よかったよーー!!」
「もうダメかと思ったが……ありがとう、ありがとう……!」
「協力者……なるほどなぁ」
「あらあらうふふ~」
最低限しか知らされていない村人たちの大歓声。そんな中、協力者の正体を察した一部の面々の表情が曇る。その気持ちは私も理解できるので思わず苦笑を漏らしてしまう。
村民の大半が集まっているこの場では詭弁を弄して誤魔化したけど、対策会議に参加していた方々は協力者の正体を正しく理解している。
「それで、その協力者こと首謀者である上位種たちは今どこに?」
「こっそり私たちの家に向かってるハズよ~。……もう、そんな不安そうな顔しないの。大丈夫、クロコちゃんを信じてあげて」
「……はい。貴女がそう言うのなら」
眉尻を下げながら内緒話のために近づいてきたレオーネちゃんを安心させるため、軽くよしよししてあげる。他の皆さんも村人たちの手前なるべく表情に出さないようにしているけれど、不安を隠しきれてはいないようだ。
(まあ、無理もないわ~。クロコちゃんとの約束があるから手を出さないけど、本来だったらあの2匹を生かしておく理由なんて無いもの~)
それどころか、村への滞在まで黙認しなければならないんだもの。いくら大恩人の要望とはいえ、そう簡単に納得できるものではないのでしょう。
……私とラーナちゃんみたいに、あの子の魔法の規格外さを身をもって体感していれば話は別なのかもしれないけど。
「それでクーニュよ。ヤツらの死体はどうしたんだ?」
「一部、役に立ちそうなゴブリンはクロコちゃんが手持ちに加えてました~。それ以外はあの子の能力で処分したので、もうお掃除はいらないと思います~」
「ほう、それは重畳。お客人にはもう足を向けて寝られんな。ハッハッハ!」
ゴブリンの死体は大地を弱らせてしまう。これも私たち人間から嫌悪される特徴の1つ。
なので、本来だったらこの後は村人総出での焼却作業が待っていたんだけど、クロコちゃんのおかげでその必要も無くなった。
ただでさえ痩せているあの森にダメージが入っていたら、それはもう悲惨なことになっていたハズだ。改めて、本当にいくら感謝しても足りない恩ができたと思う。
「…………さて、最後の仕事をするとしようか。――皆のもの、傾聴せよ!」
「お? どうかしたのか村長」
「かねてより伝えておった通り、近々ワシは村長の立場から降りる予定であった。……後任が決まり次第、な」
「ッ!」
弛緩していた空気がピリッと張り詰める。
まあ、それも当然だろう。なにせ今回の襲撃が知らされるまでの村一番の関心ごとであり、私たち家族が
(……それはそうと皆さんが怯えた表情で私を見てるのは~、もしかしなくても殺気が漏れちゃいましたかね~? ひ、久しぶりの戦闘の影響で気が高ぶってるんです~。許してください~)
「こっわ……。ゴホン、後任の候補は2人。ワシの子であるロトムとレオーネだ」
未だに慣れないけど無国民の集落、特に田舎になればなるほどこうした世襲は増えていく。だから、他の村人たちから異論は出なかった。
唯一出た異論は1人からだけ。当事者であるロトムさんが妹のレオーネちゃんまで候補とされたことに納得しなかったのだ。
曰く、長男である自分以外に適任はいない、とのこと。
世襲、及び男性の立場が強くなる田舎特有の考え方だろう。その田舎どころか僻地と言っても過言ではないのがこの村なわけで。普通ならロトムさんが次期村長でなんの問題もなく決まっていたでしょう。
「ハハッ、そうかオヤジ! ついに俺サマを認めて引退するんだなオイ!」
「…………」
今まで不機嫌そうに黙っていたロトムさんが意気揚々と前に出てくる。その自信はどこから出てくるのかしら。まったくもぅ。
対し、レオーネちゃんは黙ったままスッと私の前へ……私を庇うような位置に陣取った。いったい、この娘には何が見えているのでしょうね?
村長さんの発言に対するそれぞれの反応からも世襲がすんなりと決まらなかった理由がなんとなくわかるハズだ。
そう、ロトムさんの評価や評判がイマイチなのに対し――レオーネちゃんが優秀過ぎたのよね。
慣習を重視するならロトムさん、能力を重視するならレオーネちゃん。どちらを選ぶのか迷った村長さんは、“村のためになる目に見える結果” を先に出した方を次期村長とすることにしたのだ。
「このバカ息子は今の流れでどうしてその結論に達したのだか……。今日のお前が何をした? レオーネは作戦立案に避難計画まで立ててみせたぞ」
「うっ、いやそれは……ってオイ!? ま、まさかオヤジ……」
「ああそうだ。此度の襲撃未遂は
周囲の皆さんも気づいたのでしょう。困惑と納得が混ざったようなざわめきが広がっていく。
「それに比べ、レオーネは結果を出してみせた。この功績は最大限に尊重すべきであろう」
命を助けられたのですもの。それを理解した人からレオーネちゃんの村長就任を期待する声が上がっていく。
「これに異議を唱えられるとすれば実際にゴブリンどもを殲滅したクーニュら3人のみ。だが、客人は部外者だしラーナは未成年、村の決め事への参加権は無い。――さて、クーニュよ」
「は、はい~」
「聞くまでもないとは思うが、お主はどちらを支持するのだ?」
「ゲェッ!? な、なあオイ、クーニュ。俺はお前らに仕事を紹介しようとしたり、いつも気にかけてやってたよなぁ。だから当然、俺を――」
未だに現実を直視できていないロトムさんを意識から外し、目の前で私に背を向けているレオーネちゃんを見る。
彼女は私の視線に気がつくと少しだけ振り返り、私とラーナちゃんにしか見せない微笑みを浮かべるのだ。まるで、安心させるかのように。
――ああもう、ほんとズルいなぁ。私のほうが年上なのに。
「ふぅ~~……はい、私もレオーネちゃんを支持いたします~」
「んなっ!? てめぇクーニュ! よそ者の分際でよくも「そこまでです兄さん! トッシュさん!」――レオーネ! この愚妹が……って放せオイィィッ!!」
村にたどり着いた時点でクロコちゃんの能力による補助は切れている。なので、今の私は無力も同然。
そんな私に向けて拳を振り上げながら近づいてくるロトムさん。だが、衝動的なその行為は立ちふさがったレオーネちゃんと、彼女の指示で動いた自警団長のトッシュさんに阻まれた。
というか、トッシュさんがロトムさんの真後ろにいたのは、あらかじめレオーネちゃんに指示されていたからなんでしょうね。この娘が私たちの味方で本当に良かった。
「決まりだな。では、ワシの後任の座は「待てええ゙え゙!! 話を聞けオヤジィィ!!」……ハァ」
まさに必死。血を吐くかのような絶叫に村長さんの最終決が遮られる。すると、流石に忍びなかったのか村長さんは静観の構えを見せた。
「オイ、オヤジもお前らもよおおく考えろ! 俺ならこの村を変えられる! 地図に名前どころか印すら抹消された、人だって減るばかりのこの村を発展させられるんだよ!」
「ぬぅ……」
村長さんの表情が歪む。ロトムさんが言及した現状からの脱却は、彼の親の代より続く悲願でもあるからでしょう。
「詳細は言えないが、発展のための計画は進んでいるぜオイ。その計画の要となる2人の
「兄さんっ! 貴方はまだそんな低俗なことを……」
ロトムさんからの鬼気迫る視線を、腕を目いっぱいに広げたレオーネちゃんが遮ろうとしてくれる。それだけで感の良い数人は、彼の言う “協力者” が誰なのかを察したようね。
そう、その2人とは────私とラーナちゃんのこと。
自分から認めるのはすっごく釈然としないけど……事実として私たち2人は男性目線で “女としての価値” が高い。特にラーナちゃんは。それこそ桁違いレベルでね。
そんな私たちに、結果を出そうと焦っていたロトムさんは目をつけた。私たちの身体で村発展のための資金を稼ごうとしたのだ。
ただ、この計画には最初から穴があった。前提となる私たちの協力が得られるハズもなかったのよね。
ロトムさんは前々から私たちをいつか利用できないか考えていたようだけれど、実際に計画を立て実行しようとしたのは村長さんの通達後からだ。
その当時の私たちの生活は、貧しくはあっても現状ほど追い詰められてはいなかった。そのため、ロトムさんは当時のままでは私たちを言いくるめることは不可能と判断し、機会を伺うことにしたのでしょう。
そして数カ月後、彼にとっては最大のチャンスが……逆に、私たちにとっては最大の不幸が訪れたのだ。
キッカケとなったのは村長さんが病にかかり、一時的に床に伏せてしまったこと。長としての職務が困難となったため、村の規定通り代理が立てられることになったわ。
代理となるのは本来ならロトムさんとレオーネちゃんの2人。だが、不運なことにレオーネちゃんは当時、他の町村との交渉事のために村を離れてしまっていたのだ。
一時的に村の実権を単独で握ったロトムさん。ここから彼は私たちを追い詰めるために様々な嫌がらせを始めてしまう。
最初は村の物々交換の基準、それの見直しと遵守の徹底だった。
この村の流通は一部貨幣や宝石で行われているものの、大半はサービスを含んだ物々交換で行われている。
物々交換は当人どうしの納得のもと行われるのが基本よね。ただ、それだとどうしても基準があやふや、ケースバイケースになるのでトラブルになることもあるわけで。
そんな時のため、村では一応の目安となる交換基準を策定していた。まあ、普段は参考程度にしかされないものだったのだけど。
だが、ロトムさんが村長代理となった翌日のこと。彼は一方的にこの基準の見直しと遵守の徹底を村人に通達したのだ。……私たちが圧倒的に不利となる見直しをね。
物々交換での私たちの交換材料は、私の緋刃での物の切断サービスと木工。それと、ラーナちゃんの裁縫とお料理、“農作物の成長促進” サービス。これらの価値をロトムさんは引き下げたのだ。
……たったそれだけで私たちは困窮した。それはそうだろう。だって、見直し以前と同じことをしているのに2つ得られていたパンが1つしか交換できなくなったのだから。
もちろん私たちは抗議した。でも、ロトムさんは『需要が増えるんだからいいだろオイ』の一点張り。けっきょく撤回させることはできず、しぶしぶ受け入れざるを得なかったのよね……。
確かに需要は増えた。ただ、ラーナちゃんは身体が弱いからお仕事を増やせない。とある事情で私の切断サービスは不定期だし、木工の方も需要が増えた分を捌き終えたら閑古鳥。
そんな状態がしばらく続き、食べていくのがやっとで着替えもままならなくなった頃にレオーネちゃんが帰還。村長さんも復帰し、早速とばかりに救済を求めたのだけど……既に手遅れとなっていた。
損をする人がいれば得をする人もいるのは当然のことで。そんな得をした人たちと、ロトムさんに
結果、物々交換の問題は解消されずジリ貧の状態が続いた。私たちの惨状を見かねて手助けしてくれていた人たちもいたけれど、裏でロトムさんが手を回したらしく次第に離れていく。……最後まで残ってくれたのはレオーネちゃんと
私はともかく、子どもたちにひもじい思いだけはしてほしくない。そんな願いのもと、私たちは非効率的だと覚悟しつつも最後の手段である畑を始めたのだ。幸い、土地だけは余っていたから。
本当はこの手だけは使いたくなかった。理由はレオーネちゃんの貴重な時間を奪ってしまうから。
農業というのはとても大ざっぱに言えば、大量の時間と労力を犠牲にしてわずかな食料を得るための方法だ。*1
私たちの場合、私とラーナちゃんは労力・知識ともに戦力外なので労力の部分は子どもたちが担当。その子どもたちの監督と指導を知識豊富なレオーネちゃんにお願いせざるを得なかった。
優しい彼女はこころよく引き受けてくれたのだけど……当然の結果として、次期村長への実績作りに掛けられる時間が大幅に減ってしまったのよね。
それでも彼女は私たちの役に立てれば嬉しいと言ってくれたし、私たちも期待をしていた。これで食糧事情だけでも改善できる、と。
だが、私たちは見誤った────人間の “悪意” を
それは今から10日前、待ちに待った収穫を翌日に控えた早朝のこと。
いつものように朝イチで畑の様子を見に行った子どもたちが、大泣きしながら飛び込んできたことで事態が判明した。
――作物の全滅
一見すると、それは獣害のようだった。食い荒らされたように見える作物、中型動物の足跡に見える痕跡、糞など……。私たちもそれを見て、対策はしてたけどダメだったか、と崩れ落ち……そこで思考を停止させてしまっていたわ。
でも、遅れて駆けつけたレオーネちゃんの反応は違っていた。畑を観察しながら何かを考えていると思ったら、数分後には据わった目で自分の家を見下ろしていたのだ。*2
これは何かあると察した私とラーナちゃんだけで話を聞いてみると、彼女は自分の推測を話してくれた。曰く、これは
細かく聞いてみるとその推測は理にかなったもので私たちも納得したのだが、私は正直とまどっていた。私の人生の中でこれほどまでの悪意にさらされたことが初めてだったからだと思う。
だが、幼少期から理不尽の連続だったラーナちゃんは……それはもう激怒した。私とレオーネちゃんで止めなかったらロトムさんに詰め寄っていたんじゃないかしら。
そして結局、私たちは泣き寝入りするしかなかった。決定的な証拠もなしに告発しても煙に巻かれ、言いがかりをつけられたとして逆に追い込まれることが目に見えていたからだ。
期待が大きかっただけに私たちの落胆もまた大きなものだった。特に子どもたちの傷は深かったわね。
そんな子どもたちの傷を癒やすため、私とラーナちゃんは一芝居うつことにした。無事だった作物があったと嘘を吐き、子どもたちの食事量を増やしたのだ。……私たち2人の分を減らして。
当然、減らしたのを悟られない努力はしたわ。お皿の底を密かに上げたり、理由を作って食事の時間をずらしたりしてね。
子どもたちは最初のうちは喜んだ。でも、私とラーナちゃんの
このままだとバレるのは時間の問題。そう感じていたが、私にはもう打つ手は残されていない。……しかし、ラーナちゃんにはまだ1つだけ手が残されていた。
そして今日の早朝、ラーナちゃんが私にすら内緒で森に入ってしまったのだ。この時期の森がいろいろと不安定なのを承知で。……まあ、ゴブリンは流石に想定外でしょうが。
クロコちゃんがいなかったらと考えると本当に恐ろしい。ほぼ間違いなく私たち一家全員、想像すら
私の人生は山も谷もそれなりにあったが、なんだかんだで恵まれていたんだと思う。故郷の地を踏めなくなっても仲間ができたし、足が動かなくなっても家族ができた。
でも、この一連の出来事で私は痛感したわ。“悪意” は容赦なく襲ってくるし、弱い者はただただ奪われるしかないことを。
だからもう、私は弱いままではいられない。幸いなことに私は条件付きとはいえ力を取り戻せた。足はもう――動く。
────だから先に進もう、一歩ずつでも
「ロトムさん、私たちはもう貴方の言葉に耳を貸すことはないわ。今後、一切の接触を拒ませてもらいます」
「んなっ!?」
「村の皆さんも聞いてください。私はレオーネちゃん以外の下で
そう言って双棍の先に緋刃を顕現させる。
拡がっていく動揺、当然の反応でしょう。程度の差こそあれ彼らはみな危機意識が高まっている状態。そんななかでこんな遠回しの脅しをされたらねぇ?
(本当は私に武力の行使先を選ぶ権利なんてないんだけどね~。なにせ私とラーナちゃんはもう
「ぐ……クソがああっ!! こんな村どうなってもしらねえからなオイ! おぼえてやがれええ!」
次第に増えていく冷たい視線。ついには取り巻きにも距離を取られたロトムさんが逃げ出していく。典型的な捨て台詞とともに。
「愚かな子よ……。さて、レオーネ。後は任せてよいな? 病み上がりの老骨にはちと堪えた」
「はい、ゆっくりとお休みください。……
普段のレオーネちゃんは公の場では村長さんのことを “父” と呼ばず、役職名で呼ぶことを徹底していた。それが今やぶられ……そのことに気づいている村長さんも微笑むだけで黙認している。
つまり、今の短いやり取りこそが――
「皆さん、聞いてください。ただいまより父に代わり、わたしが
「「「お、おお……!」」」
レオーネちゃんの宣言に周囲がザワつくなか……私は喜びに震える手の振動が双棍に伝わらないよう、必死にバランスをとっていた。
「では、村長代理として最初の仕事をさせていただきます。以前に前村長代理により改定された物々交換に関する指針と、その遵守の徹底。これを廃し、以前の状態に戻すことにいたします」
「はあ!? そ、そんな横暴が――おファッ!? う、うぅん……」
以前より元に戻すことを反対していたうちの1人が私をチラ見した瞬間、意識を失いました。
あらあラ、おかしなこともあるものですねェ、もうっ。うふフ~。
「日に2回もクーニュさんの瞳を見られたのは幸運ですね。さて、他に異議申し立てのある方はいませんか? 後から文句を言ってきても受け付けませんよ」
「……い、異議なーし」
「顔に似合わず恐怖政治とはたまげたなぁ……」
「コホン! では、反対意見もないようなのでこれで確定といたします。それと、クーニュさんたちへの謝礼を考えねばなりません。クーニュさん、なにか希望はありますか?」
「! じゃ、じゃあ1つだけ~。お腹を空かせている子どもたちに、お腹いっぱいのご飯を食べさせてあげたいわ~」
「うぅん、相変わらず欲のないことで逆に困ってしまいますね。わかりました、その程度お安い御用です……が、それはまた明日にしましょうか」
「そんな!? できれば今すぐに「後ろです、クーニュさん」――えっ?」
呆れたような、微笑ましいものでも見たような。そんな表情のレオーネちゃんの指差す方向には――
「……スゥ……スゥ……」
「────ムニャァ──」
「「「……クゥ……スピー……」」」
子どもたちに纏わりつかれたラーナちゃんとクロコちゃんを中心に、ひとかたまりとなって眠っている――あまりにも尊い光景が存在していた。
なるほど、あれは流石に起こせない。私もちょっと余裕がなさすぎたわね、反省反省もう反省。
「ふふ、でもあの状態では取れる疲れも取れません。すみませんが、動ける女性陣でクーニュさんたちの家まで運んであげてください」
「はっはっは、あいよー。お安い御用さね」
「う、うちの子たちがごめんなさ~い!?」
「いいんだよ、クーニュちゃん。今までなにもしてあげられなかったんだ。このくらいはさせておくれよ」
我が家は男性嫌いのラーナちゃんに合わせ、基本的に男性の立ち入りはご遠慮いただいている。そのため、子どもたちを運ぶという力仕事を女性陣に頼まざるを得ないのだけど……皆さん、快く引き受けてくれてありがたい限りだ。
そのまま、ペコペコと頭を下げてみんなが運ばれていくのを見守っていると――
「ありゃりゃ、こいつはちと困ったねぇ?」
「くくく。そうだねぇ、むりやり離すってのはかわいそうだわ」
残るは団子の中心部にいたラーナちゃんとクロコちゃんだけとなった頃、その2人を運ぼうとした御婦人方が戸惑いの声を上げている。
笑い声も混じっているから深刻なトラブルというわけではないでしょうが、いったい何が…………まあ!
「あら! あらあらまあまあ~!!」
「これは……! ふふ、確かにこれでは引き離せませんね」
か、かわいいわ~!
2人は隣り合い、寄り添うように眠っていた。手を固く握り合って。
安心しきってるのでしょう。ラーナちゃんは表情が緩んでいるし、クロコちゃんは無表情ながら耳が垂れ下がっている。添い寝してあげてる時の子どもたちの耳と同じ反応なのよねぇ、うふふ。
でも、ちょっと意外。2人がこんなに仲良くなって嬉しいのは確かなのだけど――
「……少し悔しいですね。わたしがラーナさんに手を繋ぐことを許されるまで2年はかかったのですが」
「私と一緒に寝てくれるまでも1年以上かかったからね~。私も嫉妬しちゃうかも~」
それほどラーナちゃんにとって、己の命と家族を救われたって事実は大きいのかしらね。……なんとなく、それだけじゃ説明がつかないような気もするけど。
「まあ、気にすることはないわ~。昔と今のラーナちゃんを比べるだけ無駄。それくらい性格や警戒心が別人レベルで変わっちゃってるもの~。そして、その好転には間違いなく貴女の存在が大きかった。それは私が保証しま~す」
「ありがとうございます。……大丈夫ですよ。少々照れくさいですが、彼女の親友の座は誰にも渡すつもりはありませんので」
「──ッ、────スニャァ──」
あら~? クロコちゃんが一瞬だけ反応したような……気のせいかしらね。
「と、それはさておき2人を運ばなくては。幸い、ゴザの上で寝てくれてますのでゴザごと運んでしまいましょう」
レオーネちゃんともう1人の御婦人を加え、4人でラーナちゃんたちを運んでもらう。ふ~、これで一安心ですね~。
……一安心、か。
遠ざかっていくクロコちゃんを見ながら考える。彼女が今日、この場所を訪れていなければどうなっていたのかを。
ラーナちゃんは森で。私も間を置いて森で
そして、レオーネちゃんと子どもたちも同様だっただろう。違いは時間と場所程度の差しかなかったハズだ。
仮にゴブリンの問題がなかったとしても、食糧問題も今日がタイムリミットだったと思う。実際、クロコちゃんの食料支援がなければ少なくとも私はロトムさんの “お仕事” を受けざるを得なかった。
そうなってたらきっと、ラーナちゃんは二度と笑ってくれなかったんじゃないかな。
そのことが簡単に想像できるくらい……あの子の心の奥底に刻まれた傷は、ほとんど癒えていないのだから。
「私たちを救ってくれて本当にありがとう、クロコちゃん」
クロコちゃんのおかげで私たちの未来は繋がった。だから私は感謝するし、あの子のためなら己を刃とすることも厭わない覚悟を持つ。
そしてなにより、私は……私だけはもう、彼女のことを
……そう、レオーネちゃんの懸念通りに。
たとえ、今日の出来事がどんなにクロコちゃんにとって都合が良くても。
────何者かの作為があろうとも