TSネコ少女おじさんは百合の間に挟まらない(叶わぬ願い) 作:TSの聖地(性地)ハーメルン巡礼者N
※ラーナ視点
「きゃあああ!? このっ、こっち来んなあ!!」
食料を求めて入った森から村への帰り道、アタシは窮地に陥っていた。突如5匹ものゴブリンに遭遇してしまい、数少ない成果である野草や山菜を捨てて逃走する羽目になったのだ。
数刻にも及ぶ努力が無駄になったことが悔しくて歯を食いしばる。悔しい、悔しい……キライ。
アタシは!
聞くところによるとヤツらの身体能力は人間の10歳児程度か、それ以下らしいわ。なのに、アタシは振り切れない。いや、それどころかだんだん追い詰められているくらいだ。
人間だったら振り切れただろう。魔法を得意とするエルフ族だったら逃げる必要すらなかったハズだ。
なのに……なのにっ! その2種族のハーフであるアタシは何もできない役立たず!
「いやだ……! ふざケロ触んな! 放しなさいよもうっ!!」
ついには1匹に足を掴まれ押し倒される。クサイ汚いキモい、やめてっ!
……わかってる。
ゴブリンの被害は何回か聞いたことがあるもの。こうなったらもう女性はおろか男性ですら凌辱を免れ得ない。抵抗するだけ無駄。
むしろ、抵抗すればするほど生存確率は下がる。なぜなら、抵抗力を奪うために四肢を傷つけられるから。そうなれば当然のこと死のリスクは増えるし、いざ逃亡の機会が訪れた時に動けなくなってしまう。
なので、ここでの正解は一旦諦めることなのだ。別に妊娠するわけでもないのだから。
(「幸せになることを諦めたらダメよ~。いつかきっと――」)
でも、アタシは……! アタシだけは諦めちゃダメなんだっ!
クーねぇが足を犠牲にしてまで守ってくれたのに、アタシが諦めたらもう二度と顔向けできないじゃない!
アタシは必死に抵抗した。でも、現実なんてのはいつも非情で。
振りかぶったその先、狙いは――
(み、右手……!? いやっ、だめ! 手は……右手だけはやだ! アタシから裁縫まで奪わないでええ!!)
上げかけた悲鳴をなんとか堪える。コイツらは獲物の嫌がることを率先してやる連中だ。アタシのウィークポイントを把握なんてされたら最後、必要以上に念入りに痛めつけられることでしょうよ。
そんなことはさせない。被害を最小に抑えるためにも絶対に態度に出すものか、と目を閉じて痛みに備えるが……。
(……あれ、痛みが来ない? それどころか動きが止まってる……? なんで……っ、なに、この音)
ぽきゅぽきゅ、ぽきゅきゅきゅきゅ――足音のようにも聞こえるけど、だとしたらあまりにもマヌケな音。
でも、今のアタシはそれに縋るしかない。
ゴブリンどもはアタシを見ていない。ヤツらの警戒の先、視線を辿っていった先には……子ども!?
「え……あっ! ダ、ダメよ、来ちゃダメ! 早く逃げなさい!!」
年齢はアタシとクーねぇで面倒見てる子どもたちの年長組よりやや上くらいだろうか。だが少なくとも、アタシより年下なのは間違いない。*1
だったらアタシにとって、あの子は守る対象だ。たとえアタシに守る力なんて無いのが現実だとしても。
だから今の発言は当然のこと。なのに、なのにあの子は――
――笑っている気がした。それはもう嬉しそうに、輝かしいものでも見たかのように。
…………表情はひとっかけらも動いてなかったハズなのにね。
「――ッ゙」
「ちょ、ちょっと! 大丈夫!?」
“クロコ” と名乗った不思議な女の子。そんな少女が、アタシなんかを助けようとしたせいで窮地に陥っていた。
“ゴブリン
「あっ、そんな……アタシ…………」
なんとか立ち上がろうするも、恐らく痛みで崩れ落ちる少女。その光景は足が動かなくなった頃のクーねぇを連想せざるを得ないもので……アタシのトラウマを容赦なく刺激する。
(またアタシのせいで誰かが犠牲に……! ダメ、そんなことは絶対にさせない! ごめん、クーねぇ。でも、今度はアタシが守るんだ!)
呆然としているのか、ゴブリンどもが近づいてきても無反応な女の子。その様子から打つ手がないと判断し、彼女を押し倒して覆いかぶさる。
こうしてしまえば、より身体の大きいアタシを盾にできるもの。あとは互いに抱き合って引き剥がされないようにすれば、女としての被害に遭うのはアタシだけで済むだろう。
まあ、そんな決意も結局は無駄になったのだけれどね。ファイターが女の子の能力を脅威に思ったのか、殺害を優先したからだ。
それにより死期こそ早まったが……アタシ的にはこの結末の方が遥かにマシなのは事実。こんなアタシのために勇敢に戦い、この結果を手繰り寄せてくれたこの子には感謝しかないわ。
「っ……! ごめんね、アタシを助けようとしたせいでアナタまで……」
心からの謝罪。ただまあ、そんなので許されるとは到底思っていない。だから、最後に恨み言の1つや2つは覚悟してたんだけどね……。
返ってきたのは温かな抱擁で。そんな嬉しいものを貰えるとは考えていなかったアタシは、涙を堪えることができなかった。
そんな優しい彼女のおかげだろう。いよいよ最期の時、場違いにも穏やかな気持ちとなっていたアタシの脳裏に大切な人たちの姿が浮かぶ。
今まで素直になれなかったけど――きっと、言える。
「ごめんね、みんな。それから……今までありがとね、クーねぇ────大好き」
ドクン
最初、アタシはそれを鼓動だとは認識できなかったわ。だって、密着していたにしてもソレはあまりにも大きく、雄々しく、雄大で力強く────頼もしいものだったから。
信じられなかった。だってアタシよ? 自他とも認める人間不信の意地っ張りのこのアタシが、初対面の子どもに大恩あるクーねぇと同じくらいの頼もしさを抱いたなんて。ホントなんの冗談よ、って感じ。
でもね、アタシを優しく
――不安なんてほとんど魔力嵐と一緒に吹っ飛んでいたわ
『うニャ~、やっぱりパペットの出来がショボすぎるのが痛いニャー。チビジャリが裁縫ざこざこ人形師じゃニャければ一瞬で片が付いてたハズだニャァ……』
「……ちょっとアナタ、今の……どういうこと?」
『ああン? まあ簡単に言えば、パペットの出来が良くニャればニャるほど操作対象の能力が上がるのニャ』
この一連の会話がなく、足を引っ張っただけの存在として救われてた場合……きっと、アタシたちの関係はもっと歪なモノになってたんでしょうね。
アタシは裁縫が好き。それ自体も好きだけど、なによりも嬉しいのは家族の役に立てるからだ。
……でもその反面、絶対の自信を持っているってわけじゃあない。村では一番だと思っているけど、それが “桶の中の蛙*2” だってことは思い知っているから。
だから、パペットの作製を依頼された時は嬉しかった。これでアタシも少しは役に立てるんだって、上がったテンションのままにパペットを作り上げたわ。
ただ、その直後。じーっとパペットを観察してるその子を見て、すぐに不安の心が鎌首をもたげ始めた。
だって、この少女は明らかにこの辺りの子どもじゃないもの。髪や肌はツヤツヤだし、なにより服が高級品だと一目でわかるレベルなのよ? それと比べられたらアタシの作品なんて……ってね。
それだけに、顔を上げた少女が放った言葉は――アタシの心を大きく揺さぶった。
「──────あり」
「っ!! …………あ、う、うん……」
まだ
それがわかるだけにね、アタシの心は喜びと疑念の狭間で揺れ動いていたわ。
でも、その疑念は打ち砕かれた。それはもうバリンバリンにね。
だってさ、この子製のパペットの時は拮抗していた戦いが、アタシ製のになったら一瞬で勝負がついちゃったのよ? そんなのもう認めるしかないじゃない。アタシは役に立てた、ってさ。
そんな喜びと若干の戸惑いに震えるアタシの耳に届く、特徴的なぽきゅぽきゅ音。それが遠ざかっていくのに気づいた瞬間、アタシは反射的に手を伸ばしていた。べ、別に置いていかれるのが怖かったわけじゃないけどね!
…………そして何故か見せつけられる、キレッキレの謎ダンス。アタシはウチュウの真理を理解しそうになったわ……いや、ウチュウってなによ??????
その後もまあ出てくる出てくる、奇行の闇鍋ごった煮。アタシは早々に察したものよ。――ああ、この子は良くも悪くもヤバイやつなんだって。
そしたらなんかアタシだけいろいろ悩んでるのがバカらしくなっちゃってね。自分でもびっくりするくらい素直にお礼を言うことができたわ。*4
……なによぉ、なんか文句あんの? ふんっ!
そして、そんな奇行の最たる出来事が……っ、ぅああ~~もうっ! お、思い出しただけで恥ずかしい……!
いきなりアタシの手を取ったかと思えば、すごいだの尊敬だのと
さらには、思わずその手を乱暴に振りほどいたら即座に両手を取られて自分のほっぺに押し付けてくるのだもの。“しまった” と自己嫌悪する暇もなく、ただただ柔らかなもちもち感に思考を奪われた。
まったく! こんな
…………さて、と。
……う、うぅああ~~~~っ!
こ、ここまでで済んでいればアタシはクールなお姉さんキャラでいられたのにぃ!*5
ええそう、そうよ。ここまでの状況で既にアタシの精神状態はズタボロだった。もう一風でもあれば吹き飛ばされるくらいには弱っていたのよ。
そんな時にわずかとはいえ笑顔を――極上の微笑みを向けられてみなさい? それも、今の今までピクリとも表情を動かしてなかった恩人からよ?
――耐えられるわけないじゃない
タイミング
この世に存在するありとあらゆる “美” ですら霞むような、冗談みたいに整った
神が手掛けたとしか思えない完全対称のパーツのなか、まるで彼女が人であることを主張するかのように片側にのみ配置された泣き
乾いた
…………………………その…………………………み、認めるわ。
確かにこの時、アタシは救われた。身も心も、ね。そこは認める。そこだけは認めましょうとも。
でも、認めない。絶対に認めないわ!
顔全体が熱く、真っ赤になってるであろうことも。
繋いだ手から安らぎを感じ、あまつさえ離した時には名残惜しささえ感じてしまったことも。
村までの道中、まともに顔を見られなくて悶々としていたことも。
これから先、自然と彼女の姿を目で追ってしまうことも。
あ、あまつさえ出会ったその日に……ど、どどど同衾を許してしまったなんて……!
ぜーーーーーったいに!!
認めてなんてあげないんだからあああっ!!!!!!