TSネコ少女おじさんは百合の間に挟まらない(叶わぬ願い)   作:TSの聖地(性地)ハーメルン巡礼者N

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※ロトム視点




2-6 『うなじ』と『選択肢』の間に挟まる話

 

 

(は、入りたくねぇぜオイィ……)

 

 村人たちが寝静まった深夜、俺は地獄の入口(竜のアギト前)に立っていた。

 いやまあ、傍から見れば空き家の前で突っ立ってるだけに見えるんだろうがな? 気持ち的にそんな状態にまで追いつめられているってこったよ。

 

 空き家――そう、空き家。この他より状態がマシな家の中にはカスヤネンとレンドの旦那がいて、俺を待っている。ぜってーに怒り狂った状態でなぁ!

 何でわかるかって?

 まあ、俺に心当たりがありすぎるってーのもあるが……扉の横にいる見張り役が同情するような目でこっちみてるからな!

 俺は屠殺される前の家畜かよ、オイィ!

 

「おうゴルァ、ロトム! さっさと入んねぇとブッ殺すぞ!」

 

「すませんしつれいしゃっす!?」

 

 旦那がクーニュの前じゃ絶対に出さないチンピラ()の時点でもう嫌な予感しかしねぇが、こうなったらもう覚悟きめるしかねぇ!

 いざ――!?

 

「「…………」」

 

 

 ズゴゴゴゴ……!!

 

 

 扉を開けた瞬間、ションベンちびりながら逃げ出さなかった俺は褒められるべきだと思う。

 普段は『筋肉に悪い』って謎持論から滅多に酒を呑まない旦那が、あおるように杯を空けている。雰囲気なんざトゲどころじゃねぇ。旦那の武器である大剣並みに物騒でヤバすぎる。

 カスヤネンもそうだ。普段浮かべている気色悪い微笑みは欠片も存在せず、俺をハッキリと睨みつけてきやがる。

 帰りてぇ……。俺を殺したいと思ってるだろう妹がいる家のほうがまだマシだぜオイィ…………。

 

「ではロトムさん、まずは説明を。いったいこの村に何が起きたのです? 以前に私達が来たのが、およそ50日前。わずかの期間であまりにも()()()()()()()()()()()

 

「ゴクゴク――ブハァ! 特にクーニュのことだ! 何がどうなってやがんだクソッタレ!!」

 

 まあ、そうくるよなあ。

 さあて、いきなり正念場だぜオイ!

 

「すんません、それは勘弁してください! 俺の立場は落ちに落ちちまった。村の機密をゲロったりしたら最悪追い出されちまう……」

 

「あ゙あ゙ん゙!?」

 

「うひいぃぃっ!?」

 

 旦那の投げた木製のジョッキが顔のすぐ横を通り過ぎ、壁に当たる。オイオイ、壊れたんじゃね?

 ヤベェ、あのジョッキはたしかクーニュお手製のプレゼントだったハズ。当然、クーニュを狙う旦那は丁寧に扱ってたのに……クーニュのやつ何しやがったんだ?

 

「立場ねぇ? まあ、それも当然ですか。貴方が彼女たちにしたことを考えれば」

 

 ああクソその通りだよ。

 まず、レオーネと敵対したこと自体は問題じゃねえ。そうするよう仕向けたのは親父だし、俺もレオーネも負けた側をどうこうするつもりはなかったからな。

 

 問題なのは、俺が勝利のために手段を選ばなかったこと。レオーネの大切な友人を2人も犠牲にしようとしたことだ。

 

 流石のレオーネでも実兄がこんな非道な手段を取るとまでは考えてなかったんだろうな。珍しく後手に回り、あと一歩で敗北というところまで追い込まれてやがった。

 最終的にはあの黒猫(とオマケのゴブリン)が全部ひっくり返してしまいやがったが、クーニュとラーナがあと少しで取り返しのつかないところまで堕とされていたという事実は変わらない。

 

 それはつまり俺があの3人に殺したいほど恨まれているということであり、村の次期トップと主戦力を完全に敵に回したということでもある。

 こんな状況で『長いものには巻かれろ』派が大多数の、その他大勢の村人が俺の味方をすると思うか?

 答えは否。今の俺に話しかけるのは以前から付き合いのある、ごく一部のヤツだけだ。それも、おっかなびっくりな。

 

 だからこそ、これ以上の裏切り行為は許されないのだが……!

 

「困りましたねぇ。この村に種を蒔き、芽が出るまでにどれだけの時間と費用を費したことか」

 

「ほんとスマネェ! たが、このとおり! どうかもう手を引いてくれえ!!」

 

 そうだよな、そっちはそっちで退()けないよなぁ。

 こうなることが最初からわかってた俺は渾身の土下座をぶちかます。とある国から伝わったとされる、誠意を示すための最新ポーズらしいぜ! 知らんけど。

 

「まあ、商売なんてものは結局のところ自己責任。仮に私に損失が出たとしても貴方に責はありません」

 

「……!」

 

「それに、ラーナさんのおかげでたんまりと儲けは出ています。貴方の協力が得られないなら、ここで利益を確定させて撤退するのも1つの道でしょう」

 

「そ、そうだぜオイ! これ以上クロネコに関わるくらいなら「た・だ・し!」……え」

 

「ただし、貴方の()()()()は別ですがねぇ」

 

「うっ」

 

 そ、それを脅迫材料にするのは卑怯だろう!?

 ……そう、俺はコイツに明確な弱みを握られている。どちらか一方でも村の誰かに知られた瞬間、確実に俺はこの村にいられなくなるほどの弱みだ。

 俺がコイツに利益をもたらしているうちは絶対に公表されることなど無いと断言できたが……今となっちゃあ首筋にナイフを突きつけられているようなもんだぜクソがっ!

 

 さらに、崖っぷちの俺に追い打ちが加えられる。

 

「それによぉ、テメェは前回の時に言ってたよなあ。次に俺らが来るくらいにはクーニュを抱けるようにしとくって。なのに、なんで俺はこんなむさ苦しい場所で酒を抱えてるんだア゙アン!?」

 

 別に酒を呑む必要ねーだろ、って口に出したら殺されんだろなぁ。

 

「ロトムよお、俺が今日というこの日のために何日()()()()()かわかるか? もう “暴発寸前” なんだよ。わかってくれるよなあ?」

 

「な、なら村の女で「俺の性癖知ってんだろド低能!!」すんませんしたぁ!?」

 

 知ってるけど知るかこの◯◯好きの◯◯厨がボケエエエッ!!

 

「ったくよぉ……ん? はっはーん、なんだよそういうことかよ」

 

「へ? ど、どうかしたんスかね?」

 

「いや、1人条件に合うヤツがいることにようやく気がついてな。悪かったなあ、遅くなっちまって。この際だから()()()()()を開拓してみるものアリだよな!」

 

「…………………………は?」

 

「だから! お望み通りテメェの穴ぶち壊してやるっつってんだよォ!!」

 

 

「ギャア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?!?」

 

 

 意味を理解した瞬間、俺はケツを押さえて壁際まで一気に後退。隅でガタガタ震えるだけの存在と化していた。

 

「……いや、冗談に決まってるだろ。勃つわけねーっつの。ひくわー」

 

 おっま……! やっていい冗談とダメなのもわかんねーのかオイ!

 こちとらあのクロネコのせいで、そういうのはご法度なんだよ!*1

 

「とにかくですね、ロトムさん。このままでは話そうが話すまいが、どちらにせよ貴方は終わりなのですよ。ですが、話せば私たちが何か打開策を思いつくかもしれませんよ?」

 

「ぐっ、だが……」

 

「まあ、無理にとは申しません。先程()()()()()()()()事件により、いくつかの情報が()()()()()()()()()()()()もので。ある程度の推測は可能なのですよ」

 

 コイツ、よくもまあいけしゃあしゃあと言えたものだなオイ。どうせ仕込みなんだろうに。

 だがまあ、そうだな。アイツらが不用心にも出しゃばってきて、先にコイツらに情報を与えてしまったんだ。

 なら俺が話しちまったとしても今さらなわけで。なんだ、アイツらの自業自得じゃねーか! ヨシ、俺は悪くないぜオイイ!

 

 っつーことで話すが……話し方には注意だ。

 俺の目的は変わらねぇ。なんとしてでも例の件からは手を引かせないとな。

 

 

 

 

 

~(事情説明中)~

 

 

 

 

 

「……なるほど。それで1日どころか、わずか数刻で完全に状況をひっくり返されたわけですか。クロコさんのせいで計画が破綻したが、彼女がいなければゴブリンに滅ぼされていた……ふっ、ままならないことですね」

 

 俺が見たこと聞いたこと、その全てを話した際のカスヤネンは納得の表情を浮かべていた。

 もちろん驚愕や怒りの感情も多少は混じっているが、コイツの言う “推測” ってのとさほど離れてなかったのだろうな。比較的冷静だ。

 

「あンのクソ猫娘ッ!! 全部アイツのせいじゃねーか! 許さねぇ……絶対にブッ殺してやらァ!!」

 

 それに比べ、旦那は完全にプッツンしてやがる。

 そのクソ猫娘のおかげで愛しのクーニュが無事だったことにすら気づいてないぜオイ。

 

「お前ら、まさかこのまま諦めるとか言わねえだろうな! お前らはせいぜい1~2年の時間を無駄にしただけだが、俺は6年以上だぞ! このまま『はいそーですか』なんて納得できねーぞ!!」

 

 いや、諦めようぜ? その方がきっとマシだぞ?

 

「まさか? 当然、私だって同じ気持ちです。あのハーフエルフは金のなる木――いえ、()()と言ってもいい存在。そうそう手放せるものですか」

 

 ラーナが持つ、エルフ特有の此の世ならざる美貌。男を誘蛾灯の如く惹き寄せてならないソレは、アイツにとってはウンザリするもの。

 ソレをハーフのアイツが受け継いでしまったのは最大の不幸で……大多数の人間にとっては手付かずの宝石(幸運)が手招きしてるようにしか見えないのだろうな。

 オマケにラーナが編んだ服やらの縫製品も、カスヤネンがやっているように()()()()()()()()()()()()()()

 つまり、アイツ1人を手に入れることができれば、“昼” でも “夜” でも大金を稼ぎ出せるのだ。まさに “金のなる大木” 、本人はヒョロっこいがな。

 

 俺の話を聞いても2人はやはり諦めきれないようだ。まあ、わかる。ここまでだったら俺も理解と共感ができた。

 だがな、次のカスヤネンの発言だけは認められねえ!

 

「それに加えあの半獣、クロコさんの生地も我が手に「ダメだ!!」……はい?」

 

 バッカ野郎が……っ! いくら冷静でもお金第一(商人の考え方)をしてるようじゃ、やっぱりダメだ。

 こっちだってクロネコの能力が(カネ)になることくらいわかってんだよ。それでも! これ以上あの理解不能な理不尽ネコ娘と関わるのはヤバイとなぜ気づかないんだ!

 俺たちが一歩一歩着実に積み重ねてきた努力を、たったの一晩で無に還しやがったバケモノなんだぞアイツは。

 

「オイオイ、あんな小娘になにビビってんだ。確かにヤツの魔法でクーニュが戦闘可能になるのは面倒だが、本人はダラケきった甘えん坊のチビじゃねーか。くはは!」

 

 だよな、わっかんねえよなぁ。

 いくら俺が注意喚起しても実物が “あんなの” じゃナメくさるわ。俺だって逆の立場ならそうなる自信しかないもんよ。

 あんのアホネコ、なんでこんな重要な時にダルッダルに溶けきってやがるんだか。この村に来た当初のアイツだったら脅威論にも、ある程度の説得力があっただろうに。チクショウ!*2

 

「というわけなのでロトムさんの意見は却下です。私たちは3人を手に入れる方向で行動しますし、当然貴方も逃げられません。さっさと覚悟を決めることですね」

 

「…………後悔すんぞ、確実に」

 

「ハッ、そんな未来は訪れませんよ。実際、たった1つの手段を講じるだけで天秤は我らの方へ傾けられるのですから。……まあ、少々危ない橋を渡ることになりますがね」

 

「危ない橋だぁ?」

 

「ええ、では――はい、コレを渡しておきましょう」

 

「ん、俺に? ……ッ!? コ、コレって、おま……!」

 

 見覚えのある手のひらサイズの薬壺。よみがえる記憶――

 

 

(「この “毒薬” は非常に値が張りますが大変便利なものでして。無味無臭なうえ基本的に遅効性、さらに摂取量を調整することで効果を思い通りに操れるという優れもの。それこそ、ちょっとした頭痛から……死亡させることまで自由自在です」)

 

 

 ハ、ハハハ。コイツ、()()俺に誰かを陥れさせるつもりなのかよ……!

 

 ……そう、また。既に一度、俺はこのバカ(たけ)ぇ毒薬を使っている。俺の弱みである借金と罪の象徴でもある。

 毒を盛ったのは実の父親である現村長、タイミングはレオーネがこの村を離れた時。(効果)は病気と勘違いさせ、一時的に床に臥すことになる程度だ。

 つまり、クーニュとラーナたち及びレオーネがピンチに陥るキッカケとなる親父の病気は人為的に起こされたもので――その犯人はカスヤネンに(そそのか)された俺ってわけだな。

 

「こ、今度は誰に盛れってんだよオイ。また親父……いや、最大の懸念材料であるクロネコか? だが、どうやって……」

 

「だから猫の小娘にビビってんのはテメェだけだっつの。それに、もう後継者が指名されてるのに今さら村長をどうこうしても意味ねぇだろ」

 

「それに加え、件の3名には利用価値があるという話をしたばかりでしょうに。貴方が狙うべき人物は次期村長――レオーネさんですよ」

 

「レオーネだと? いや、レオーネを一時的にダウンさせたところで親父が今まで通り職務を行うだけだぞ。前みたいに俺が代理になるわけじゃない」

 

「……なら、“一時的” じゃなければ?」

 

 ──────は??

 

「ハッキリと言いましょうか、ロトムさん。貴方はレオーネさんを――」

 

 

 

 

 

「殺しなさい」

 

 

 

 

 

 そこから先の記憶は途切れ途切れだ。

 覚えているのは3つ。毒を盛る期限を指定されたこと、改めて念を押されたこと。もう1つは……今は関係が無いことだ。

 毒の期限は翌日の日没前までとなった。理由は明後日の早朝までしかカスヤネンたちが滞在できないから。日没以降の服毒だと出発後にレオーネが倒れることになり、またもや事態にカスヤネンと旦那が関われなくなる。どうやら今度はガッツリ横槍を入れてくるつもりらしいな。

 そして、改めての二択の念押し。“レオーネ殺害” か “俺の奴隷堕ち” 、俺に残された選択肢は本当に少ない。

 レオーネを廃し、俺が再び村の実権を握り機会を伺うか……俺自身が死ぬまで働くことで返済する。

 

 俺はどちらかを選ばなければならない。

 

 だが、いつの間にか家のベッドにいた俺は決断を下すことは出来ず────気がつけば朝を迎えていたのだった。

 

 

*1
ドーン事件のこと(1-8参照)

*2
ちなみに、その場合だと今以上にアホ行動を繰り返すので結局ナメられます。ちかたないね

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