TSネコ少女おじさんは百合の間に挟まらない(叶わぬ願い) 作:TSの聖地(性地)ハーメルン巡礼者N
※ロトム視点、1万字オーバー
「兄さん、今からスープを温め直しますがいりますか?」
「え……あ、ああそうだな。も、もらおうかな~……なんて?」
(ど、どうする、どうすりゃいいんだオィィ……!)
あのクソッタレな会合の翌日、レオーネに毒を盛る期限である日没まで残り数刻となった昼過ぎ頃。未だに俺は実行どころか決断を下すことすらできていなかった。
(もう時間がない……だが、こんな時こそ落ちついて考えるんだオイ)
まず大前提として、俺は二者択一を迫られている状況だ。
俺が奴隷墜ちするか、レオーネを殺すかの二択。……選ばなければ自動的に前者になるだろうな。
ちぃと変な言い方だが借金自体はちゃんとしたものだし、国民様であるカスヤネンが無国民の俺を非道に扱おうと咎めるヤツはいねぇ。
カスヤネンたちに見切りをつけられたら俺に残るのは莫大な借金のみ。ラーナたちと違い、俺には
「めがねめ~がねめがねっこ~、めがねがほんたいっていわないで~♪」*1
(チッ、人の気も知らず呑気に鼻歌なんぞ歌いやがって。よく歌詞の意味も知らねぇ曲を歌えるぜ、ったく……)
普段は鼻歌なんぞ絶対にしないレオーネが聞き慣れない……なんとなく堅苦しさを感じる言語で鼻歌を歌っている。それだけ機嫌が良いってことだろうがな。
コイツの特徴の1つとして、知識欲が満たされていると機嫌が良くなるってのがある。現状のコレなんかがまさにそうで、レオーネの知識欲を満たしているのはクロネコだ。
あのメスガキ、どこから仕入れてくるのかわからんが妙なことをよく知っていてな。俺やラーナなんかは話半分かそれ以下くらいに聞いてるが、レオーネだけは興味津々だったりするのだ。うさんくせぇだけだと思うんだがなぁ?
ただ、そのうさんくさい入れ知恵が今回ばかりは俺に味方して……本当に “味方” か? ――ッ、いやうん! 味方だな! 確かに俺に味方していた。
今、レオーネは昼食として朝食の残りのスープを温め直しているが、そもそも俺たちにとって昼食は一般的ではない。んな余裕は無いからな。
だが、その常識に異を唱えるヤツが1人。そう、クロネコのことだ。
レオーネ経由で聞いたことだが、ヤツは昼食が出ないと知ると号泣したらしい。ま、両手の人形どもが、だがな。本人は相変わらずの無表情だったそうだぜ。
で、昼メシ昼メシうるせぇから理由を聞いたところ、クロネコのいた場所では1日3食オヤツ付きが
そんな環境にいたなら昼メシオヤツ抜きは辛かろうとクーニュが同情し、アッチの家ではソレを標準とすることにしたんだと。
クロネコとガキどもは狂喜乱舞したそうだが……調理担当のラーナは筆舌に尽くし難いすっげぇ顔してたらしいぜ。ざまぁ。
ま、そのこと自体はどうでもいい。重要なのは昼メシの件がレオーネにまで波及し、ウチでも選択制で食べるかどうかを決められるようになったことだ。
なんでそんなことになったのかというと、食事が義務化されるに至った理由をクロネコに聞いたらしいんだよな。そして、教えられた理由にある程度納得したレオーネも昼食を摂るようになり、ついでに俺と親父の分も希望すれば作ってくれるようになったのだ。
ちなみに理由についてはよくわからん。なんか……えい、よー? だかそんなのが健康と成長に良いとかなんとか? 消化と吸収がうんちゃら?? こっちの言葉で話せって感じだったな。
ともかく、健康に良いってんなら昼メシを摂らない理由もない。ウチなら簡単な軽食くらいなら増やしても、さほど家計に影響は無いからな。
さて、そんなわけでウチにも昼食の時間を設けたわけだが、これが何故俺にとって都合が良いのか?
それは今の昼食の時間こそが、唯一の毒物混入のチャンスだからに他ならない。
カスヤネンが用意した毒は経口摂取を基本とするものだ。そのため、バレずに飲ませるためには飲食物の中にこっそりと混ぜる必要がある。
この点、親父の時は楽だった。だって、俺がメシ用意してたわけだし。
だが、レオーネの場合は逆。それはもう超絶に難しくなる。なぜなら我が家の調理担当はレオーネ自身だし、基本ぜんぶ自分でやるからな。俺が突然メシや水を用意したりしてみろ、コイツの頭なら恐らく一瞬で見抜いてくるぞ。
となると必然、残された混入チャンスは1つに絞られる。それは、 “食卓に飲食物が置かれた後に人の目を盗んで混入する” こと。
しかし、これもまた難しい……いや、難し
だが、昼食の時は逆で親父はまずいない。親父曰く、『長年の習慣を変える方が老体には堪える』のだと。ただ、人がメシ食ってるのを見てるのもそれはそれでキツイらしく、この時間はどこかの家で駄弁ってることが多いな。
ということはだ。レオーネがメシをテーブルに置いた後、何らかの手段で離席させれば……チャンス到来ってわけだぜ。
「はいどうぞ、兄さん。それでは――いただきます」
「……そのヘンテコ儀式、俺はやらねぇぞオイ」
「おや、それは残念です。『この世のすべての食材に感謝を込めて、いただきます』……なかなか興味深い考え方だと思いますよ。グルメスパ◯ザーとやらが無いので簡略化された儀しかできないのが口惜しいくらいです」
「なんでだろうな。心底この場に無くて良かったと思えるのが不思議だぜオイ」
バカな妹だ。なんでか知らんがクロネコの言うことなら大抵は受け入れちまう。そのせいで己の命すら失いかけてるってのにな。クロネコもナイスアシストってやつだぜ。
俺はレオーネにバレないように深呼吸し、隠し持っている薬壺をそっとなぞる。
…………すぅー
…………はぁー
────────よし!
覚悟を決めた俺は、欠伸をした後に背中をボリボリと掻く。昨日の会合で伝えられた3つ目の記憶、計画実行の合図だ。
すると、およそ30秒後に玄関からノックの音が響く。
「ごめんください、カスヤネンですがー! 次回の行商の件でお話があるのですが、レオーネ村長代理殿はおられますかなー!」
「あ、はーい! すぐに参ります! 少々お待ちをー!」
親父と違い、人に気を使いすぎる癖のあるレオーネは待たせることを良しとしない。だから、こうしてほぼ手つかずのスープが場に残されるわけだ。
(くく、なんとも呆気ないものだなオイ? あばよ、愚妹。俺はお前が大嫌いだったぜ――)
ほんと、憎たらしくて仕方がない妹だったもんだ。何年も何度もお前と比べられて、俺がどれだけ悩んできたと思ってやがる。
逆出涸らし、産まれる順番と性別を間違えた兄妹、妹のために胎に才能を置いてきた男、などなど。人間ってヤツはクズばかりだよなあ! 俺の前ではチヤホヤするくせに影ではボロクソに言いやがってよお! 子どもってのは案外察しがいいもんだぞ、クソが……!
レオーネはレオーネで普段は人に気を使いすぎるバカのくせして、
これ以上、俺から何も奪うんじゃねぇ!!
奪われるくらいなら――俺が何もかも奪ってやると決めただろ!!!!
俺に残された “最後の砦” を奪われるくらいなら――
(「おにいちゃん、れおとあそんでくださ~い」)
(「いいぜ、レオ! なにして遊ぶんだおい!」)
「殺せるわけねえだろクソッタレがオイイイイ゙イ゙!!」
あの後、家の裏口から飛び出した俺はがむしゃらに走り続け、気がついたら森の中で叫んでいた。手つかずの薬壺を懐に忍ばせたまま。
ハハ、そうだよ。無理に決まってるじゃねぇか。最初からわかってたことだろ、心にもない葛藤したフリでいつまでも現実逃避してんじゃねーよ。アホか。
ああ――心にもない、当たり前だ。だってよぉ……俺の最後の砦は “レオーネの兄貴であること” だぞ。
俺を兄貴という存在にしてくれる唯一の存在である
「いや、ちげーな……。俺がカスヤネンや旦那だけでなく村人すら信頼できず、本当の目的を誰にも話してなかったのが
いつからだっただろうなぁ。俺がレオーネの兄というポジションに固執しだしたのは。
こんなことが表に出たら勘違いされるだろうが、別に俺はシスコンというわけではない……ハズ。村に年の離れた妹を持つヤツがいるが、暇さえあれば付きまとってやがるからな。ああいうのが真性だろ。
なんというか、俺はたぶん人の上に立つのが好きなんだろうな。で、そのキッカケがレオーネだったんだ。
当たり前だが、ガキの頃のレオーネは明確に俺の下の存在だった。別にアイツは天才ってわけじゃないし、昔は身体が弱かったというのもある。よく泣いたし、俺が世話しなければ外にも出られない時代があったんだ。
この頃は良かったよなぁ。親父が元気だったから仕事なんざほとんど無かったし、村長の長男ってだけで自然とガキ連中のボスだった。
そしてなにより、妹が常に後ろを付いてきて『おにいちゃん、おにいちゃん』ってなぁ……うぅ、思い出したら涙が出てくるぜ。
だが、そんな俺の天下は長くは続かなかった。
崩壊の始まりはレオーネが文字を習い始めたことだ。
アイツは俺よりも遥かに短い期間で基礎を覚えると、取り憑かれたように文字を追うようになった。村にある数少ない書物に始まり、親父がおふくろに送ったラブポエムまで見つけ出し、ありとあらゆる文字をな。
それからは、あっという間だったぜ。
レオーネは蓄えた知識を活かし、村に問題が起こる度に調査や提案をするようになった。それが子どもの
ついに頭角を現したレオーネに対し、俺はなにをやっても平凡だった。
するとどうだ。レオーネが女だったこともあり、俺の評価や評判は手のひら返しで一気に崖下へ転がり落ちていったもんよ。前述した俺への陰口なんかもこの頃からだったな。
だが、そんな状況でも俺はへこたれなかった。今の俺しか知らないヤツには信じられんだろうが、クーニュたちを気にかけてた時代もあったんだぜ?
そんな風に昔の俺が腐らないでいられたのは2本の精神的支柱があったからなんだろうな。
それこそが、“次期村長であること” と “おにいちゃんであること” だ。
だが…………ある日のこと、それらは突然折れかかることになる。
年齢を重ね、体調を崩すことが多くなってきた親父が隠居することを決めた。そこまでなら別に問題は無いのだが、己の子たちの現状を鑑みて……あろうことか俺を次期村長にすることを躊躇いだしやがったのだ。で、後継者争いへと繋がるわけだわ。
これで支柱の1本に亀裂が走ったわけだが、さらに俺の理不尽な不幸は続く。その頃から
「改めて思うが、なんだよ兄さんって! 他人行儀にも程があるだろ、妹よ! オイイ!」
まず、頭から “お” が外れてるよな。この頭の “お” は敬意の表れだ。“客人” だと下に見てるように感じるが、“お客人” だと敬ってるように感じるだろ? それが外れたってことはだ。レオーネは、もう俺を敬うつもりは無いってこった。
当然、後ろの “ちゃん” から “さん” への降格も深刻だ。距離を……感じるッ……!
あとよ、なんか堅くね? 同じ “
こうして親父の迷いをキッカケに、俺の2本の精神的支柱にヒビが入ったわけだ。
そうなりゃ当然、修復に全力を尽くすよなあ? 誰だってそ―する、俺だってそーした。だが、結果は出なかったんだよな……。
次の村長になるには村のためになる、わかりやすい成果が必要だ。で、一番わかりやすいのは何か? そりゃカネだろ。
そう結論づけた俺はいろいろ手を尽くしたんだが、どれも空振りに終わることに。対し、レオーネは焦らずコツコツと村外でなにやら交渉しているようだった。
俺は焦ったぜ。そりゃあもう、傍から見てもわかりやすいぐらいにな。
「だからこそ俺は…………カスヤネンとレンドに付け込まれちまった」
まず、接触してきたのはカスヤネンだ。ヤツは俺にこう提案してきた。『クーニュを高級娼婦にし、彼女を看板とした高級娼館で村に人とカネを呼ぶ』、そんなクソみたいな提案だ。
確かにアイツはカネになる。なんたって、クーニュはこの大陸では珍しい日焼けじゃない天然モノ褐色肌の純粋な人間だ。そのうえ美人な方だし、あの凶悪なボインもある。娼婦となったら客が付かない夜は無いだろう。
ただ、俺は最初の頃はこの提案をキッパリ断っていた。当たり前だろ? 妹に慕われたいのに、その妹の友人を望まない道に堕とすとか本末転倒じゃねーか。
だが結局……俺はこの提案を受け入れることになる。
時間が経つにつれ強くなる一方の焦燥感。そこを根っからの商人であるカスヤネンが、あの手この手で煽ってきやがる。俺の正常な判断力は少しずつ失われていった。
そしてついに……カスヤネンから、とある凶報がもたらされたのだ。レオーネの策が近いうちに実を結びそうだ。次の外部訪問がその時だろう、ってな。
少しでも冷静に考えれば、その情報になんのウラも存在しないガセだって気づけるんだ。しかし、当時の俺に冷静さなんて欠片も残されてはいなかった。
そんな時にカスヤネンが連れてきたのがレンドの旦那だ。で、旦那はこう言った。『クーニュを娼婦にするぐらいなら俺が買う。俺ならクーニュも抵抗感は薄いだろうし、カネならある。お前はそのカネで村長になれるだろうよ』ってな。
カスヤネンも続ける。『村長という立場は今を逃せば、もう2度と手に入ることはありませんよ』とな。
「あぁ、そうか。今になって思うが……ここが俺の分水嶺だったんだろうなぁ」
そして俺は見事に選択を誤った。悪魔2匹の手を取ってしまったのだ。
ほんと、なんで当時の俺は『クーニュと旦那は互いに好き合ってるっぽいし、レオーネも納得するだろ』って考えたんだろうな。
それからのことを多くは思い返すまでもないだろう。
カスヤネンの最初の策で俺は親父に毒を盛ってしまった。別に死ぬわけじゃない、と必死に言い訳してな。
ここで俺に “借金” と “罪” という逃れられない
カスヤネンはクーニュとラーナの奴隷化(本命は後者)。旦那はクーニュを特殊な状況で抱くことで己の特殊性癖を満たすこと。オイオイオイ、ゲスにも程があるぜ。
俺は追い込まれた。当時の状況を言語化するなら……『逃げたら2つ、進めば1つ失われる』って感じか?
逃げたら――つまり、カスヤネンたちの計画から降りたら俺の借金と罪がバラされる。そうしたら村長の座も兄としての立場も失うのは確実。
対し、進めば――つまり、このまま計画を進めれば村長の座だけは手に入る。……まあ、妹からは修復不可能なほど嫌われるだろうが。
「なら、進むしかないだろ……! レオーネを遠ざけてでも、俺に残された最後の希望へ!」
その頃からだ。俺も妹の呼び方を変えたのは。“レオ” から “レオーネ” へ。態度も激変させ、会話も最低限以外は拒むようになった。
失われるのが確定したんだ。なら、俺から遠ざけたと思い込んだ方が遥かにマシだろ。
当然、目も合わせない。……いや、合わせられないが正確か。そりゃそうだろ。なんせ、初めの頃は最愛の妹に確かに残っていた親愛の情が少しずつ、確実に減っていき……最後には侮蔑しか残ってなかったのだから。
「だが結局、あのクロネコのせいで両方を失った。……でも、だ。レオーネが笑っていられるなら――ま、アリなんじゃねーのかオイ?」
その笑顔に、俺という存在は邪魔でしかない。憎くて悍ましくて仕方ない人間が同じ屋根の下とか、俺だったら『さっさと死なねーかなコイツ』って毎日思ってるだろうよ。
くはは……あーあ。なんかもうどうでもよくなってきたな。生きる希望なんて1つも残ってやしねぇんだしよ。
なら、いっそのこと…………………………し、死ぬのもアリ、か?
俺が死ねばカスヤネンたちは目的への唯一の取っ掛かりを失うことになる。
それに服毒死だとわかれば、当然のこと出処を調査するわけだ。そうなれば――
「レオーネなら……俺の最愛の妹なら確実にカスヤネンたちにたどり着く。そうなりゃアイツらの野望は終わり。2度とこの村に入れなくなるだろうよ。……クク、ハハハッ! アイツらの吠え面が目に浮かぶようだぜ!」
ずっと手に持ったままだった薬壺。ある意味、俺の破滅の象徴だ。
それがどうだ? 今の俺には輝いて見えるぜ。……決して、目に涙が溜まってるせいで光が乱反射してるせいじゃないハズだ。
「親父、すまねぇ。先立つ不幸だったか? 許してくれよな……。おふくろもすまねぇ……」
クソ親だのなんだの言ってきちまったが、その俺自身が最大のクソクソ息子だったってオチだ。本当に情けないぜ。
「レオーネ、俺は……俺はっ……! 俺が誇れる “兄貴” に……! なにより、お前が誇れる “おにいちゃん” になりたかった…………!!」
だが、その望みはもう2度と叶わない。他ならぬ俺自身の愚行により。
なら、せめてもの罪滅しとして俺がしてやれることは――
「俺が死んでやることだけ……! う、ああアアアァァッッ!!!! 」
薬壷のフタを開け、一気に中身を「お、おにいちゃんっ!!」――どうした、レオォ!?
背後から突如聞こえた天使の声に振り返る。もちろん自殺なんぞ中断、そんな邪魔な考えは即座に投げ捨てだ。当たり前だろ?
毒だのなんだのの些事なんか知るかあ! 思考も身体も感覚さえも、今だけは「俺のすべてを “ラブリーマイエンジェル” レオーネたんのために!」
「心の声が漏れてますよ兄さn――ッ!? お、おにいちゃん! わかりましたから無言で毒を飲もうとするのは止めてください! それと、お、おにいちゃんもクロコさんの影響をバッチリ受けているじゃないですか!」
「いい響きだよな、ラブリーマイエンジェル……どういう意味かは知らんが」
いやあ、クロネコが子どもたちを猫かわいがりしてる時にたまに使うフレーズ*5なんだが、なんつーか
これを言い始めた漢は、きっと同類に違いないぜオイ。
などと、俺が未だ見ぬ
「あ、オイコラ卑怯だぞ! 返しやがれ!」
「返すわけがありません。ああ、それと。もし
まだだぞレオーネ。
ここからさらに両手を足の下に挟み込む。さすれば完成、俺式無抵抗のポーズ!(ドヤ顔を添えて)
「ハァ……本当に貴方という人は。会話を怠ったのは互いの落ち度ですが、まさかこんな明後日の方向へ暴走するとは直前まで読めませんでした。わたしもまだまだですね」
「は? 暴走って、おま……俺の行動が見当違いだとでも言いたいのか、オイィ?」
「
最短の単語で全否定ヤメロォ!? これでもいろいろ考えてるんだぞ……?
「お、おにいちゃんの場合、直感とか身体の動くままに行動したほうが良い結果を生むと何度も言ったではありませんか」
「オイコラ、
「最初の質問、つまり最も気になっていた部分がソコなのですか……。はい、それはですね――」
――それから俺達兄妹は
それでわかったことだが、今回の暗殺計画が成功することは絶対になかったのだ。なんせ、レオーネに計画のほとんどを見抜かれていたからな。
まず大前提としてだが、レオーネは俺の背後に “黒幕的な協力者” がいることにクロネコが来る以前から気づいていたらしい。
気づけた理由は2つ。
1つ、俺が考えたとは思えないほど計算されつくされた計画であったこと。
2つ、なんだかんだで非情になりきれない俺が、あのようなオークの
ってオイコラ、それは俺を
まあ実際、例の物々交換のレート変更からクーニュの家の畑を潰したことまで、実行したのは俺だが考えたのはカスヤネンだからな。正解ではある。
ただ、気がついたところで既に打つ “手” がない状況だったらしい。その後は現状維持すらできず、ジワジワと後退する日々。
そんな絶望的な状況が “猫の手” によりひっくり返された。
レオーネは安堵し、クロネコに感謝する。それと同時に、もう2度と遅れを取らぬよう徹底的に追い詰められた原因を洗い直したそうだ。
そして、たどり着いた。
自分が村を離れた期間を
そしてなによりも、村人に聞き込みをして判明した『村長が倒れる前に
俺とカスヤネンたちは繋がっており、悪辣な入れ知恵をされている可能性が高い。例の “黒幕的な協力者” はカスヤネンとレンドである――そう結論づけたレオーネは注意深く俺たちを観察した。
すると、案の定カスヤネンたちは怪しく蠢きだす。昨日の深夜に俺がこっそり家を抜け出していたのも把握してやがった。
そして、今日。
レオーネ曰く、朝から最高に挙動不審だったらしい俺。その様子から、さほど時間を置くことなく仕掛けてくると確信。
俺が朝の生理現象で、とある場所に籠もっている間にプライベートスペースを捜索。あらかじめ毒物を疑っていたおかげで薬壷を無事発見した。
あとはソレを証拠に衆人環視の状況下で晒し上げれば俺は投獄か追放され――
「……そうなったら最後、俺は近いうちに衰弱死か野垂れ死にだろうな」
「はい。ですが、わたしにだって人並みに肉親への情はあります。それに兄さ……お、おにいちゃんは最後に踏みとどまり贖罪の覚悟を見せてくれました。ですので、流石にそこまでは望みません」
「お、おぉレオーネ……お前ってやつはそこまで俺のことを!」
「勘違いなさらないでください。貴方が大切な友人たちを陥れ、苦しめたこと。わたしは絶対に許しませんので」
だ、だよなぁ……。
たが、レオーネに完全に愛想を尽かされるという最悪の事態は免れた。変な考え方になるが、自殺しようとして助かったぜ。
おかげでまた、2人きりの時のみ “おにいちゃん” と呼んでくれるらしいしな! なんかドモるけど。
「し、仕方ないじゃないですか。わたしが呼び方を変えた本当の理由は――」
レオーネが呼び方を変えたのは、忘れたいけど忘れられない後継者争いが勃発した日だ。
その変更の理由、対外的には『争う者同士が親しくしていたら緊張感が生まれません』などとコイツは説明していた。
だが、それはブラフ。一応、理由の1つであることは事実だが、その比率はわずかにすぎないらしい。
では、比率の大半を占める本当の理由とは――
「ハアアア!? 恥ずかしいって、なんだそりゃあ! 妹が兄貴を『おにいちゃん♡』と呼ぶことの、どこに恥ずべき要素があるってんだオイィ!」
「気持ちの悪い言い方しないでください。一般的な兄妹はそんなものなのですよ。――あ、『俺たちは一般的じゃないから問題ない』とかは受け付けませんので、あしからず」
なら、俺たちは一般て……フ、フン。流石はレオーネ、俺の思考をよく読んでるぜオイ。
「いえ、読めなかったから今の事態になっているわけでして。まさか、呼び方と家の外での態度を少し素っ気なくしただけで、ここまで理解不能な思い詰め方をするなんて……」
「逆になんでショックを受けないと思ったのかが俺にはわからん!」
「……もういいです。わたしが全部悪かったということで、この話は終わりにしましょう。――さて、では行きましょうか」
ガックリと肩を落としたレオーネがこれまでの話をぶった斬る。そして、次の瞬間には1人で納得してスタスタと……お前、そういうとこだぞ。どこに行くってんだオイ。
「はい? どこもなにも、カスヤネン氏のところですが。期限とされた日没まで猶予がありません。期限を迎えた時の彼らの行動が読めない以上、こちらから乗り込んだほうが主導権を握れる分だけまだマシなのですよ」
レオーネの言葉にハッと背後を振り返る。すると、沈みつつある太陽が……ヤッベ、そういや昼過ぎから一刻以上は話してたんだったか。確かにもう時間が無い。
だからといって、敵の本拠地に俺たちだけで乗り込むのは違くねぇ!? 暴力に訴えられたら何の抵抗もできないぞ?
「わたしだってこんな危険な橋を渡りたくなどありませんよ。ですが、お、おにいちゃんの悪事を表沙汰にできない以上は他人には頼れません。……まあ、心配せずともどうにかなるでしょう。策もありますし、
「お、おお……! 流石はラブリーマイエンジェル、悔しいが頼りになるぜぇ。よし、ならさっさと終わらせるぞ!」
こうして俺は、レオーネと2人だけでカスヤネンたちの待つ空き家へ向かうことになった。
……レオーネの言葉に隠された、我が妹の考え方の致命的欠陥に気づくことなく。