TSネコ少女おじさんは百合の間に挟まらない(叶わぬ願い)   作:TSの聖地(性地)ハーメルン巡礼者N

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※ロトム視点




2-8 『策』と『提案』の間に挟まる話

 

 

 ついに……ついに来てしまった夕方。俺とレオーネの2人はカスヤネンたちの待つ空き家へと向かっているのだが……。

 

「な、なんで冒険者たちから睨みきかされてんだオイィ……?」

 

「そうですね、監視役および脅し役といったところでしょうか。まあ、こちらに手を出してくる可能性は現時点ではほぼゼロ。気にする必要はありませんよ」

 

「ホントだろうなぁ……? なんか増えていってるぞオイィィ……」

 

 屈強な冒険者どもに囲まれつつあるってのに、普段通りに歩を進めるレオーネ。ウチの妹が図太すぎる。

 

 堂々と歩く妹と、その背中でビクつく兄貴。そんな情けない格好のまま進むこと少し、いよいよ見えてきてしまった悪の枢軸。それと、待ち構えていたのであろうカスヤネンとレンド。

 カスヤネン(片や)ニコニコ、レンド(片や)今にも襲いかかってきそうなほど睨みつけてきやがる。そんな風に2人の姿は対象的なのに、纏う雰囲気は共通だ。もちろん、ろくでもないヤツな!

 ……俺たち、マジで生きて帰れんのかぁ?

 

「これはこれは、ご両人。ご機嫌麗しゅう。午後はほとんどお見かけしませんでしたが、わたくしどもに何かご用ですかな?」

 

 うげぇ……なんつーわざとらしさだよ。慇懃無礼すぎて威嚇と同じだぞソレ。

 

「まどろっこしいやり取りは無しにしましょう。兄さんは貴方がたと決別する道を選び、わたしもすべての事情を把握しております。そのうえで話し合いに来ていることをご承知おきください」

 

「っつーわけだ! どうか話を聞いてくれぇ!」

 

「…………ほぅ」

 

「ロトム、テメェって野郎はホントによお!! とことん使えねえなボケがあ!!」

 

 怖い怖いこわいぃぃ!? 土下座してやってるんだから、剣の柄に手をかけるなよおぉぉ……。

 

「レオーネさん、貴女は本当に厄介な御方だ。念入りに準備をした計画ならまだしも、急きょ用意した計画程度ならあっさりと食い破ってくる」

 

「買いかぶり過ぎですよ。実際、わたしごときでは気ままな猫さん1人にすら振り回されている」

 

 いやいや、アレは規格外というか例外中の例外だと思うぞ?

 

「まあ、わたしのことは置いておきましょう。それよりカスヤネン氏、兄さんの借金の証文をお見せください」

 

「おや、まさか私を疑ってたりしますか? それとも、難癖をつけて踏み倒すおつもりで? 例えば、『毒物の売買は違法だから無効』……そのあたりでしょうか」

 

「おお! その手があった「黙っててください兄さん」――す、すまねぇ!?」

 

 あっぶねえええ!! かろうじて繋がったばかりの、か細い()が切れかけた音がしたぜ……。

 両手で口を押さえた俺が戦々恐々としているうちに、カスヤネンが証文を持ってくる。

 

「…………なるほど、あの毒は用法用量を守れば薬にもなる。富裕層の間では実際に少量の取引もある、と。それなら借金理由は常識の範囲内、証文自体も正規のもの。なので、兄さんの借金は有効です」

 

「オ、オウ、悪かったからラーナみたいな極寒のジト目は止めような? わざわざ眼鏡ずらさなくていいんだぜ?」

 

 あのクロネコは普段からこんな肝が冷える視線に晒されてんのに、何故のほほんとしてられるんだ?

 とんでもなく図太いのか……まさか、前髪が壁になってて気付いてないのか!? クソ、やはり毛量や毛質の差が……親父の血があっ!!

 

「ククク、どうやらご理解いただけたようで。ロトムさんの借金と罪、後者はレオーネさんと被害者の村長殿が不問とすれば揉み消せるでしょう。ですが――」

 

「借金を清算しない限りは貴方がたは兄さんという最後の介入先を手放す気はない、と。――ふふ、これは困りましたね」

 

 困った。そう言いつつも、その表情は妙に朗らかだ。

 

「……言葉とは裏腹に想定内、といったところですか」

 

「いえいえ、困っているのは事実ですよ? ただ……()()()()()()()()()()()()()ことも事実、というだけです」

 

「ほう? その心は?」

 

「借りた側が元本分さえ返済すれば、その者は支払い能力と意志があるものと見做されるのが一般的です。その状態で借りた側に不当な返済を迫ったりした場合、罰せられるのは貸した側――間違っていますか?」

 

「……いいえ。ははぁ、なるほど。確かにその状態になられたら最後、借金を理由にしたロトムさんへの脅迫は不可能になりますねぇ」

 

 マジで!? よっしゃああ、希望が見えたあああ!!

 そう言うってことは元本分なら即金で用意できるってことなんだよな?

 

「いえ。残念ですが当家の保有現金、及び村の共用現金を含めても足りません。この毒薬がこれほど高価だとは存じませんでした」

 

「おやおや、それは重畳ですなぁ。実は心中穏やかではなかったのですよ。ハッハッハ!」

 

「オ、オィィ……レオーネぇ……」

 

「そんな情けない声を出さないでください。お金が足りないなら、持っている人に出してもらえばよいだけではないですか」

 

 カネを持ってるヤツだあ? そんなの村人に……いや、いるわけ無いな。

 なら、クロネコの布をカスヤネンに売れば……いやいや、それも無理だ。カスヤネンがこの状況で真っ当な取引に応じるわけがない。目先の利益に飛びつくヤツだったらどんだけ楽だったか。

 だとすると残るは冒険者たちだが、この場面で関係が薄いヤツが出てくるわけもないか。

 

 と、なると――消去法で残るのは1人だけだ。

 

「時にレンド氏、貴方は女性をお買いにはならないのですか?」

 

「「「………………は??」」」

 

 あまりに予想外な切り口に、男3人分の戸惑いの声が上がる。そして、順次キョドりだす野郎ども。

 若い、しかも堅物系の女から突然に(シモ)の話を振られたら男なら誰でもこうならぁな。悲しき習性だよホント。

 

「い、いや俺は別に……ま、間に合ってるというか?」

 

「いいえ、貴方は間違いなく限界が近いハズです。それこそ、“暴発寸前” と言っても良いくらいには」

 

「そのフレーズ……! テメェ、ロトムゥゥ! 他人様(ひとさま)の性事情までバラしやがったのか! 見損なったぞ!!」

 

「濡れ衣だぜオイィ!?」

 

 いくら俺でも同じ男として、そんな最低なことはしねーよ。しかも、よりによってラブリーマイエンジェルに聞かせるわけあるかよ汚らわしい。

 

「本来の計画では昨夜にクーニュさんを買うつもりだったのですよね?」

 

 

「……えっ? ど、どういうこと~……?」

 

 

「以前、男性は()()()()()()()()()()()()()()()単純な生物、と聞いたことがあります」

 

 オゥイ、誰だウチの妹に余計な知識ふきこんだヤツは!

 

「事実、レンド氏はクーニュに振られた(望みが絶たれた)昨夜以降、女性を見る度に苦悶の表情を一瞬だけ浮かべています。常に苛つき、時折前屈みになるなど特徴的な反応が多々見られ――」

「ストップだレオーネ!? それ以上いけない!」

 

 からかい半分とかで言われるなら流しようもあるがよう。真面目に観察・考察・指摘されるとか、いたたまれないにも程があるだろ……。敵とはいえ同じ男として同情の念を禁じ得ないぜ。

 

 

「――たまってる――ってやつにャのかにャあ」

 

「クロちゃん? 突然どうしたの~……ま、まさか今の会話に重大な秘密が~?」

 

「気にするだけ無駄よクーねぇ。クロコのこれは、くっだらない話をさも重大なことのように言ってるだけなんだから」

 

 

 さて、レオーネによる突然の羞恥プレイにプルプルしてたレンドだが、ようやく話の方向性が見えたのだろう。不敵な笑みでレオーネと相対する。

 

「なるほどなぁ、高ランク冒険者の俺なら女を高く買えるだろって話か。だが、残念。今は金欠でなあ? ホレ、いざという時の回復薬ですらこんな低品質なモンしか買えやしねぇ」

 

 視線の先にはポーチに吊るされた回復薬。その色は、うっすい緑色。

 これは、ただでさえ低品質な薬を薄めてるということ。ちょっとした知識さえあれば一目で察せる景気の悪さだ。

 

「こんな有様じゃ女を買うなんて、とてもとても。それとも、“見()き” でも頼めってかぁ?」

 

 

「――しょうがにャいにャあ――いいよ――にャ」

 

「お・だ・ま・り。まったく、いくらアタシたちの存在がバレないからって調子に乗りすぎないでよね」

 

 

 だが、俺は知っている。レンドの金欠がブラフ、つまりはウソっぱちであることを。

 そして、ウチのレオーネがこの程度のブラフを見抜けないわけがないことも。

 

「レンド氏の携行品の質が目に見えて悪くなったのは、思い返せば村長戦が始まり父が倒れる少し前でしたよね。それによりレンド氏はクーニュさんへの支援が思うようにできなくなり、クーニュさんもまた助けを求められませんでした」

 

 

「あー、そういえばそんなこともあったわね。あの時はタイミングが悪いって嘆いたものだわ」

 

「それでも可能な範囲で支援を続けてくれて助かったわ~。レンドがいなければ、もっと子どもたちがひもじい思いを――」

「…………最初から全部、貴方がたの底意地の悪いマッチポンプだと、わたしが早く気付けていればっ……!」

 

 

「「えっ!?」」

 

 

「レンド氏の秘めた目的はクーニュさんを抱くこと。そのために貴方は当初、真っ当な方法で彼女を落とそうとしていた」

 

 クーニュの元パーティメンバーの中、唯一レンドだけが近場に残った理由がソレだ。足が不自由になり、生活にも余裕があるとは言えないアイツを支えることで惚れさせようとしたんだな。

 

「しかし、数年という時間をかけてもクーニュさんは貴方に(なび)くことはなかった。さぞや業を煮やしていたことでしょう。そんな折、貴方にとって千載一遇の機会が訪れた」

 

 その機会こそが、俺とレオーネの後継者争いだ。

 レンドはカスヤネンと共謀して俺を手駒とし、クーニュを追い詰めさせた。んで、ヤツ自身は逆にクーニュを支え続けているように見せかけることで好意を得ようとしたわけだ。

 だが、追い詰めようとしてるのに、これまで通りの支援を続けてたら本末転倒だよな。

 そこで計画実行――つまり、俺を使って親父に毒を盛らせる前に金回りが悪化したフリを始めた。そうすりゃ支援を減らしても言い訳が立つし、()()使()()()()()()のクーニュは勝手に納得してくれるって寸法よ。

 んで、後は簡単な話だ。

 時間が経つにつれ、クーニュは心身ともに追い詰められていく。助けてくれるのはレンドとレオーネのみ。レンドの支援自体は減ったにもかかわらず、その価値は上昇する一方――そんなカラクリなわけだな。

 

「結果、ついにクーニュさんは貴方に想いを寄せるようになった。その相手が内心では歪んだ劣情を向け、ほくそ笑んでいるとも知らずに」

 

 

「そ、そんな……ウソ、よね……?」

 

「落ちついてクーねぇ……って、クロコ? ちょ、なんでアンタがクーねぇ以上に取り乱してんのよ!? コラ、フード取れちゃうからヘドバン(首振り)禁止! バレる、バレちゃうからぁ!?」

 

 

 ――ん? なんか一瞬ラーナの口やかましい声が聞こえたような?

 …………いや、んなわけねーなオイ。

 

「どうでしょう、何か間違っていますか? まあ、証拠もありませんし認めなくても――」

「いんや、認めるぜ。クーニュたちがいない時なら別に隠す理由も無いしなぁ。流石はレオーネちゃん、優秀ゆうしゅーってか! クハハ!」

 

 

「あっ………………」

 

「クーねぇ!? ふ、ふざケロあんにゃろう……! 許さない……絶対に!!」

 

 やっぱ認めるか。己が有利な時は、とことん傲慢だからなコイツ。まあ、この時間はクーニュたちが晩飯の準備とガキどもの世話で()()()()()()()()()からってのもあるんだろうが。

 

「認めていただけるとは話が早いです。では、ここからが本題――クーニュさんとの初夜、おいくらなのですか?」

 

「ま、ざっとこんなもんだな」

 

「っ……!」

 

 レンドが指で表した金額に息を呑むレオーネ。そりゃビビるよなあ、俺もそうだったもんよ。なんせ、一夜分で俺の借金額を余裕で超えるからな。

 クーニュにさほど惹かれない俺からすればボッタクリにしか思えないが、ガチの適正価格らしいんだよなコレで。野郎って生き物がアホなのかクーニュがスゲェのか、俺にはわからん。

 ……ちなみに、ラーナはこれ以上なのが確実なんだよなぁ。夜の商売にも詳しいカスヤネンでさえ『オークション(競売形式)にした場合、いくらの値が付くのか想像すらできません』って肩をすくめたレベルだ。ホント同情するぜ、アイツの境遇には。

 

「……失礼、少々取り乱しました。つまりですよ? ()()に努めた甲斐もあり、貴方はクーニュさんを買えるだけの金額を用意することができた。そして当然、今も手付かずのまま所持している」

 

「で、女を買ってカネを落とせって策なわけだ。ククク、だとしたら残念。この村でウリをやってる女のなかに好みはいねーよ」

 

「まあ、そうでしょうね。レンド氏の好み――正確には “特殊性癖” に合致する商売女性は、そうはいないでしょう」

 

「ッ゙!?」

 

 ――ギロリ

 

 だ・か・ら、俺じゃねーっつの!

 いや、そんなことよりオイ。え、なにウチの妹ってば、他人が隠してる個人的な性癖まで把握してるのかよ!? それはちょっと……ダメじゃない??

 ホラ、俺とカスヤネンだけでなく、周りを囲っている冒険者どもまでドン引きしてるじゃねーかオイィ。

 

「そ、そんな目で見ないでください。心配せずともレンド氏しか調査してません――あ、いえ、そういう意味でもなくてですね!?」

 

 色恋沙汰と勘違いされかけて珍しくテンパったレオーネの説明によると、もう何年も前からレンドの調査を独自に行っていたんだと。

 調査をした理由は個人的な関心から。その詳細こそ “女の勘” とか言って濁してたが、クーニュたちが移住してきた当初からレンドを怪しんでいたとはな。さすがは俺の妹だぜ!

 

「んで? 俺を調べたならわかってんだろ? 俺は()()()にならいくらでもカネを出すが、それ以外にはケチくさい男でなぁ。限界が近かろうが、性癖に(かす)りもしねぇ女を買ったりはせんぜ?」

 

「ですが、それは逆に言えばクーニュさんほどでなくとも条件の何本かに掠れば今の貴方なら食指が動くということ。そこで、わたしからの提案です――」

 

 ここまで、俺は極度の緊張感のなかにいつつも、心のどこかで事態を楽観視していたのだと思う。

 レオーネがいる。俺の妹なら、なんやかんやでなんとかしてくれる。……そう思い込んでしまっていた。

 

 レオーネは別に天才ではないのに。己の手に余る事態に対し、なんの犠牲もなく乗り越えられるような―― “物語の主役” では決してないんだよ!

 

 

 

「わたしを……買ってください……!」

 

 

 

 ────は??????

 

 

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