TSネコ少女おじさんは百合の間に挟まらない(叶わぬ願い)   作:TSの聖地(性地)ハーメルン巡礼者N

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※ロトム視点




2-9 『提案』と『鬼の女王』の間に挟まる話

 

 

「わたしを……買ってください……!」

 

 

「は?」「ほう?」「えっ!?」「ちょおっ!?」「────」

 

「……? …………?? ………………んなっ!? な、ななななに言ってんだレオーネェェェ!?!?」

 

 他の奴らの戸惑いの声から遅れること十数秒、俺の絶叫が日没前の村はずれに響く。

 ()が理解を拒むとか、こんな経験は初めてだ。それほどの衝撃、それほどに予想外。

 いや、俺のことなんてどうでもいい。それよりレオーネは、ラブリーマイエンジェルは何バカなことを言ってるんだ。

 話の流れ的に『自分ならレンドの性癖のいくつかに合致してるだろ』ってことを伝えてるんだろうが……ん? あれ??

 

 …………うわ、マジだ。クーニュほどじゃねえが、レオーネもレンドの好みのいくつかに引っかかってやがる。今までレオーネに粉かけてないことからわかる通り、普段のヤツなら食いつくほどじゃないが……余裕のない今なら食いつきかねねぇ!

 ヤッッッベ、妹が “売買対象” になるなんて考えたことも無かったから気づかなかったぜ。ど、どどどうすりゃいいんだオイィィ!?

 

「……いやぁ、このような展開になるとは想定外。差し支えなければどうしてそのような結論に至ったか、お教え願えませんかな?」

 

「わたしは別に構いませんが。ただ、それを説明するにはレンド氏の隠し事を明かす必要が────はあ、構わない、と。では、説明いたしましょう」

 

 そこから語られた内容を簡単にまとめよう。

 今から2年ほど前、とある街を訪れた時のこと。仕事の合間にレンドの調査をしていると、ヤツに買われたことがあるという貴重な女が偶然見つかった。

 これはチャンスと話を聞いてみれば、それはもう饒舌(じょうぜつ)に詳細を語ってくれたそうな。んで、その話の中でレンドの性癖が明らかになったんだと。

 以下に重要度順に並べる。

 

①処女厨

 未経験の女じゃないと抱く気にもならない。必須条件。しかし、この性癖のせいで商売女のほぼ全員が対象外。例外は話し相手の女のように未経験のまま親などに売られた場合のみ。

 

②シチュエーションフェチ

 自分に抱かれる際の女の感情や状況に(こだわ)る。

 イヤでイヤで仕方がないが、何かを得る・守るためにヤられなければならない。そんな特定の事情から来る、諦観に似た感情を女側が抱いてることが必須条件。

 また、その際に女との仲が親密であればあるほど良し。仲の良い女を買わなければならない男+仲の良い男に買われなければならない女= “たまんねぇ背徳感” ……なんだとさ。キメェな!

 

③面食い

 美人であることが必須。美女系の顔立ちだとなお良し。

 

④巨乳好き

 必須というほどではないが、デカい方がいい。

 

⑤レアもの好き

 一般的な女には無い、珍しい身体的特徴があるとなお良し。クーニュの日焼けとは違う天然物の褐色肌、両足に刻まれた大きな傷跡なんかが該当する。

 

 以上が、“元” 娼婦から得たレンドの情報となる。

 ぺらぺら客の情報を喋り過ぎだろと思わんでもないが、レンドがそれはもうアホみたいな高額で買ってくれたおかげで早々に抜け出すことができて感謝していなくもない。

 だが、それはそれとして気持ち悪いのでレオーネに忠告も兼ねて教えたんだと。う~ん、これは無罪!

 

「わたしには胸も特徴的な箇所もありません。ですが、必須条件の2つ目までは満たしていると申告いたします。あとは――」

 

「俺がレオーネちゃんの顔を気に入るか次第ってわけだ。ただなぁ、君の顔っつーか目がよぉ。その分厚いデカ眼鏡のせいでいつも見えないからなぁ。────外させてもらうぜ?」

 

「…………はい」

 

 レオーネの眼鏡か。アレ、なんでか知らんが光の反射かなんかで常にレオーネの目を隠してるんだよな。兄貴的には残念なような、悪い()()けになるから良かったような? そんな複雑な感情を抱くブツだ。

 

 だが、現状ではレオーネを守る最後の鎧。ソレが今、ロトムの手により外された。

 

「……へえ、俺の美人好きを知ってなお自薦してくるだけはあるじゃないか。こいつは上玉だぜ、クハハ!」

 

 ああチクショウ、やっぱりか。

 レンドの好みド真ん中であるクーニュみたいな “妖艶系美女” な顔立ち。レオーネはソレとは異なる “クール系カワイイ” 寄りの顔立ちだが、十分(じゅうぶん)に美人の枠内に収まる外見だ。

 

 ヤバイヤバイヤバイ!? お、俺が……俺が止めなければ! 兄貴として妹を守るんだあああ!!

 

「オイ待てレオーネ! 自分がなに言っ「おっとぉ、楽しい見世物の邪魔はダメだぜ!」放せオイ――むがぁっ!?」

 

 レンドとの間に立ち塞がろうとした俺を、取り巻きの1人が地面に押さえ込んで口を塞ぐ。その表情は言葉通りに楽しげだ。

 

「兄さん……っ、それで? お2方はどうされますか?」

 

「私はレンドさんに任せますよ。彼がどちらを選ぼうと、まだ可能性は繋がりますしねぇ」

 

「はい? それはどういう……兄さんの借金を返されたら貴方がたは最後の介入先を失うハズです。そのことはカスヤネン氏も認めていたではありませんか」

 

「それはレオーネちゃんが俺との一晩を()()()()()()の話だ! いいことを教えてやろう。俺たちみたいな高位の冒険者はな、一般人と夜を共にする時は大抵――手加減をしている。なぜなら、一般人だと俺たち体力バカの本気を受け止めきれずに壊れちまうことがあるからだ」

 

「っ……」

 

「言うまでもないだろうが、今回は手加減しねぇ。忘れてないよな、もともと俺たちは君を殺そうとしてたんだぜ? クーニュなら同じ高位冒険者同士、俺の本気だろうと受け止められただろうよ。だが、ひょろっこい君だと……どうだろうなぁ、ククク」

 

 ぐぬぅ……マ、マズイぜこりゃあ。

 万が一そうなった場合、首を絞めた等の明らかな過失が無いと不幸な事故死として処理される。つまり、レオーネは合法的に殺されるということ。

 そうなりゃ流石にレンドはほとぼりが冷めるまで村に立ち入れないだろうが、毒の件(俺の弱み)を握るカスヤネンは野放しのまま。次期村長の座が転がり込んできた俺は再びコイツらの操り人形だ。

 

 クソッ、このゲス野郎どもが! こんなことになるんだったら俺が死んだ方が何百倍もマシだったじゃねぇかああ!!

 

「死、ぬ…………っ、上等ですよ。今度こそわたしが……! わたしがあの人たちを守ってみせます!」

 

「ハハ、よくぞ言った! その覚悟に敬意を表し、クーニュのために用意してた “淫薬” 無しで正々堂々と戦ってやる。死んでも後悔すんじゃねーぞ!」

 

 合意は成った。ここから先、レンドが満足するまでレオーネはヤツのものだ。

 そのレンドにとって、目を隠しちまう眼鏡は邪魔な物でしかない。だからだろう、ヤツは右手で弄んでいた眼鏡を放り捨てた。

 頼りなく宙を舞い、冷たい地面に向けて落ちていく眼鏡。組み伏せられ、手も足も出ない俺にはソレが……まるで今のレオーネのように感じ、自然と目で追ってしまう。

 

 あぁ、誰か。誰か俺の妹を助けてくれ……!

 

 この期に及んでも結局は他人頼み。

 そんな俺の願いなんかが届くハズもなく、ついにレオーネ(眼鏡)が地面に堕ち――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――(にャ)にをしている――にャ」

 

 落ちる寸前、小さな手により受け止められる眼鏡。

 その手は優しく眼鏡をすくい上げると、見覚えのありすぎる黒服の胸元で(いと)おしそうに抱きしめられる。

 

 その光景はまるで1枚の絵画のようで────俺は一生忘れられない光に脳を焼かれた。

 

「レオーネちゃんから手を放しなさい! その娘はお前たちの汚らしい手で触れていい存在じゃないのよ!」

 

 ――ハッ!? そ、そうだレオーネ!

 

 わりかし近くから聞こえてきた声、こちらも聞き覚えのありすぎるキンキン声だ。

 案の定、そこにいたのはラーナ。怒り心頭といった表情でカスヤネンとレンドを睨みつけている。

 

 オイオイオイ、ここは冒険者どもに囲まれてんだぞ。

 いったいどこから湧いて出や「ぐあっ!?」――ッ、な、なんだァ!?

 

「正直、もう頭と心がぐちゃぐちゃだけど……レオーネちゃんとロトムさんは返してもらうわ~」

 

 頭上から聞こえた悲鳴と鈍い打撃音。その直後、俺を拘束していた冒険者がよろめいた。

 そうだよな、ラーナがいるならお前もいるよなぁ。顔を見ずともその間延びした声の主を特定した俺は、その隙にササッと襲撃者の背中に隠れる。

 

「あ、貴女たち……! どうして……いや、どうやってここに」

 

「クーニュ!? あ、ち、違うんだ! これはだな、そのぅ……」

 

「レンド……」

 

「アタシたちが間に合ったのはクロコのおかげよ――って、クロコ?」

 

 ラーナが名前を出したことで注目が集まるなか、相変わらず調子が悪そうなクロネコがふらふらと歩み出る。

 

「――にャにをしていると聞いている――にャ」

 

「「ッ!?」」

 

 パペットを介さず話す時のアイツの声は酷く小さい。そんなんだから、(たま)に喋っても誰にも聞き取ってもらえずイジケてる時もあるくらいだ。

 だが、今のクロネコの言葉を聞き逃すヤツはいないと断言できる。声量自体は変わってないというのに――存在感が違いすぎるのだ。

 

「クロちゃん……そうよね、あれだけ必死に私たちをここに連れてこようとしてくれたのだもの」

 

「もう既に片手は自由*1なのにパペットをつけない……そう、アンタはそれだけ大事なことを言おうとしているのね。いいわ、ガツンと決めちゃいなさい!」

 

 クロネコの生態は特殊すぎて、あのレオーネですら未だに全容を掴みきれていない。

 だが、流石に1ヶ月もすればわかってきたこともある。それが、コイツ自ら口を開けて話す時は “(本人なりに)大事なこと” を話しているの()()()、ということ。……いや、“だろう” ってオイ。

 

「────」(フリフリ)

 

「クロコ、さん……」

 

 

「────」(ブワァッ)

 

「ッ!? な、なんつープレッシャーだよ、クソがッ……!」

 

 レオーネを見つめていた時は機嫌良さげに振られていた2本の尻尾。それが、レンドの方を向いた瞬間に毛が逆立つ。デケェ耳まで同様なことと併せ、明らかに威嚇だ。

 

(お、おお……! クロネコ、お前ってヤツはそこまでレオーネのことを!)

 

 感動しすぎて涙すら浮かんできた目でクロネコを見つめる。

 他のヤツらもそうだ。レオーネは呆然と、ラーナは拳を握りしめ、クーニュは微笑みと共に見つめ。逆に、クロネコからとてつもねぇ敵意を向けられたであろう者たちは引きつった顔で凝視している。

 誰もが口を閉ざさざるを得ない。

 そんな奇妙な静寂のなか、クロネコの口が再び開かれ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――眼鏡っ娘とヤる時に眼鏡を外させるのはNG――にャ」

 

「は?」(威圧)

 

 

 ――その日、俺は(オーガ)の女王を見た。

 

 

 

*1
左手のこと。右手はクーニュパペットで使用中

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