TSネコ少女おじさんは百合の間に挟まらない(叶わぬ願い)   作:TSの聖地(性地)ハーメルン巡礼者N

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2-10 『鬼の女王』と『尊死』の間に挟まる話

 

 

(ニャ)にをしているって聞いてんのニャ!』

 

『メガーネさm……レオーネさまに望まぬ夜伽をさせようにゃどと! お恥を知りませでございますにゃん!』

 

「オイコラ、さらっと前の発言を無かったことにしようとしても無駄だからな」

 

 うるせー黙ってろォ! こちとらこれ以上ラーナたんの怒りは買えないんだよ! メシ抜きオヤツ抜きはもうイヤなんじゃー!!

 

 さて、前回ラスト(つい先ほど)の俺の魂の叫びがラーナたんの堪忍袋の緒をぶち切った件だが。二次元ならともかく三次元(リアル)だと、やっぱ理解されへんのやなって。前世のネット情報だと、眼鏡はヤってる時の邪魔になるらしいからなぁ。しょぼーん……。

 まあ、それはそれとしてだ。俺はラーナ(鬼の女王)を鎮めるべく、彼女が望んでいたであろう言葉にしれっと修整を図ったわけだな。

 

 ――え、いやレオーネ嬢を心配してなかったわけじゃないんだよ。

 ただね、ちょ~っとだけカッとなったというか? 優先順位が他人(ヒト)と少し違ったというか? 個性の範疇だと(ぼか)ぁ思うわけですよ、はい。

 

「皆さん、どうしてここに……? なぜ、来てしまったのですか……」

 

「クロちゃんが緊急事態だって教えてくれたのよ~。何が起こっているのかわからなかったから “コレ” を使ってまで飛んできたけど~……ホント正解だったわねぇ」

 

 そう言いつつクーニュさんが指で(つま)んだのは “おんぶ紐” 。なんでおんぶ紐なのかというとですねぇ……今回の事態が “緊急” 且つ “詳細不明” だったからだ。

 

 ――時系列順に振り返ってみよう。

 

 キッカケはゴロ寝中だった俺の尻尾が、突如として特異な反応を示したことだ。

 だが、見覚えが無いかというと違う。2本の尻尾でハートを作り、それが破れるように別れ、最後に特定の方向を指し示すようにアッピルする。ラーナたんと出会った時と同じ反応。湧いてくる危機感&焦燥感と併せ、誰かが危機に陥っている可能性が高い。

 なので、以前と同様に俺が救援に向かう……ことはできない。

 いやね? なんでか知らんが昨日の夜、具体的には猫舌カミー◯事件以降みょ~に体調が優れなくてなぁ。ダルさは増す一方だし、意識はふわふわするしでよう。ぶっちゃけ歩くだけで精一杯なんだわ。

 だからさ、ちょいと失礼な例えになるけど足代わりと戦力になる人が必要だった。その条件を満たすのは1人と1匹。ただ、機動力のことを考えるとクーニュさんに軍配が上がる。よって、彼女で確定だ。

 

 俺は急いで事情を説明したし、彼女も即座に頷いてくれたよ。だが、ここで1つ問題が起きた。一緒に話を聞いていたラーナたんまでもが『わたし(アタシ)も同行する』と言い出してしまったのだ。(ラナ)京院。

 ラーナたん曰く、『アンタだけじゃ、いざという時に対応できないでしょ』とのこと。要は俺の既存のパペットで事態に対処できない場合、現地でパペットを作製するわけだが、その時に彼女の超絶技巧が必要になるだろって話だな。

 それはまあ、ごもっともなんだけどさ。自衛手段すらない人間を危険かもしれない場所に連れて行くのもねぇ。

 ――ん? ゴブリンの時は一緒だっただろって?

 あの時はラーナたんにも明確な役割があったし、何より勝ち確な状況だったからだよ。今とは前提条件が違うのさ。

 この意見はクーニュさんも同意してくれたよ。だが、ラーナたんは一歩も引かなかった。体が弱いってのに何が彼女をそこまで駆り立てるのか……俺にはわからん。

 

 で、結局はラーナたんも同行することに。説得の暇が惜しいからね、これは仕方ない。

 ただ、そうなると1つ問題が。クーニュさん1人では俺とラーナたんを同時に運ぶには、文字通りに手が足りなかったのだ。まあ、タノ死イ高台ダイブするもんね。非力なラーナたんを1本の手だけで支えるのは少し不安らしい。……え、 “少し” で済むの?

 ということで、双棍を片手で抱えたラーナたんをクーニュさんがお姫様抱っこ(重要)で運ぶことに。ヒュ~、見せつけてくれるじゃねーか! いいぞもっとやれ♡

 しかし、そうなると俺は自力でクーニュさんの背中にしがみつかなければならないわけだ。まあ、昨日もやったことだし……そう考えた俺は彼女の背中に飛びつき、そのままズルズルと地面にズリ落ちた。あるぇ~?

 どうやら俺は力がほとんど入らなくなっているようだ。猫舌カ◯ーユ事件直後はできた “だいしゅきホールド” すら不可能になるほどに悪化している。

 それを見たクーニュさんが家から持ってきた物こそが、おんぶ紐。……俺の尊厳とプライドを破壊し、凌辱しつくした忌まわしき呪物だ。

 

 ――そう、俺はここに来るまで赤ちゃん(よろ)しくおんぶされてきたんだよ!(号泣)

 

 いやさ、これがプレイなら構わないよ? むしろバッチコイって感じ?

 ただ、流石の俺でもリアル赤ちゃん扱いはちょっとねぇ……『は~い、こわくないでちゅよ~』じゃねーんだわ。(よこしま)な気持ちなど欠片も存在しない純度100%の母性を向けられてみな? 死ゾ。

 ああいうのはさぁ、互いに赤ちゃん役が大人だと認識したうえでの背徳感を味わうのが目的であって以下略。

 

「これだけの人数にバレずに侵入してくるとは……いったいどうやったのです?」

 

「フン、言うわけないでしょうに」

 

 え~、言わないの~? 隙あらば自分語りというか娘自慢したくなるのがオタクの習性なんだけどにゃあ。……仕方ない、心の中で語るか。

 

 言わずもがなだが、クロコちゃんの元ネタは黒子だ。で、その黒子には1つの “お約束” がある。見る側から()()()()()()()()()()()()、そんなお約束だ。

 元ネタにこんな面白い特徴があるんだぜ? 設定厨の俺が似たような能力を組み込まないわけがない。

 

 ――そう、クロコちゃんは特定の条件下で “透明人間” になれるのだ!

 

 その条件ってのも簡単、パーカーのフードを被るだけ。それだけで服に蓄えられている魔力が尽きるまで他者から認識されなくなるってわけよ。

 しかも、透明化中は出した音や匂いも()()()()()無視される。

 さらに、この透明化は他者にお裾分けすることもできる。条件は俺の素肌に触れていること。

 なので、ここに来るまで俺は………………ラ、ラーナたんとは手を繋ぎ、クーニュさんの素肌に手を触れていましたことをここに懺悔いたします。ハラキリ……ハラキリ不可避ッ!!

 

 う、うぅ……まあ、それは今回の事態が一段落してからにしてだ。

 

 実はこの透明化、ちゃんとデメリットもある。それは、透明化中は天使ちゃん&悪魔ちゃん(いつもの2人)以外のパペットが使用できなくなること。

 なので今回でいうと、尻尾が指す目的地らしき空き家群手前でクーニュさんの補助を切り、そこからは双棍()を突いて歩くクーニュさんのペースに合わせざるを得なかった。

 それともう1つ。さっき、一部を除いた音や匂いが他者から無視されるって脳内解説をしたわけだが……透明化中はその “一部” に該当する音や匂いが逆に増幅されるデメリットが発生する。

 その音の1つが『ぽきゅ ぽきゅ ぽきゅ』……そう、俺の猫足シューズから出るぽきゅ音ですわ。*1おお、ぽきゅ音よ。お前はどこまで俺を苦しませるんだい……?

 

 ま、要するにデメリットの関係上、透明のまま奇襲を仕掛ける――なんてチート行為は現状ではできないってわけだな。実際、この制限があるせいでゴブリンウィッチに接近する時は採用できなかったわけですわ。

 チッ、ったく余計な設定を付け加えやがってよぉ。誰だよ『性能や能力には相応のデメリットがなければつまらない』なんて、ほざいてたアホは。死ねよ死んでたわ!(転生者ギャグ)

 

 …………コホン。ともかく、以上が俺の切り札の1つである透明化の全てだ。

 ちな、以前にスケープゴート(キャット)の件でクーラナの2人を説得した時があったじゃん? その時に開示した能力こそが、この透明化だったりする。身を隠すのに打って付けだからね。

 

 いやぁ、俺の設定を忠実に再現してくれた天使様にはホント足を向けて寝られんな。どこにいるかわからないけど!

 

「どこから……聞いてやがった」

 

「……最初からよ、レンド」

 

 ん~、正確にはちょっと違うんだけどね。

 俺たちがここに到着したのはレオーネ嬢が借金の証文を確認している時であり、その前の会話内容は俺の耳が捉えた内容を天使ちゃんたちが通訳していたってのが正しい。

 

「だから、レオーネちゃんの件だけじゃない。バカ兄貴の借金に毒物、なによりクーねぇやアタシたちへの悪だくみまで! ぜーーんぶ聞いちゃったんだからね、このクズども!」

 

 ま、1人はカスなんですけどねwww(激ウマギャグ)

 

「ねぇレンド、説明して。いったいどういうことなの~?」

 

「…………」

 

「私たちにとってレオーネちゃんが大事な大事な恩人だって知っているでしょう? それなのに、あ、あんな……」

 

「……フ」

 

「それに私を、その、買うって「フハハハハハ!!」……レ、レンド?」

 

「ヒ、ヒヒヒッ! あーあー、計画がメチャクチャだぜ。こらもう穏当な手段だけで事を成すのは不可能だ。なあ、カスヤネンよぉ」

 

「……むぅ」

 

 穏当だぁ? 毒だのなんだのやっといて今さら何を言ってんだコイツ。

 

「レンド、どうして! なにか、なにか弱みでも――」

「うるせえ!! あぁクソッ、本当だったら昨日の夜には長年の欲望をお前に叩きつけてたハズだったのによぉ! お前は俺の上で淫らに腰振ってりゃよかったんだ!」

 

「そ、そんな……」

 

「クーねぇ……」

 

 ガックリと肩を落とすクーニュさんに寄り添うラーナたん。レンドの()()()()()()()だったとはいえ、親しくしてた人に裏切られたんだ。そりゃショックだよ。

 ……え、なんで強調したのって? 大事なことだからだよ! 認めん、俺は認めんからなあ!

 

 ま、まあ、それはさておき。今のクーニュさんを矢面に立たせるのは酷だろう。

 というわけで俺は2人(+オマケ1)を庇うように前に出る、シャキーン! ……ちょっとフラついてるのは勘弁な。

 

「小娘ェ……! テメェが村に来たせいで全て台無しだ! 絶対にブッ殺してやらァ!!」

 

「やれやれ、彼女も金のなる木なんですがねぇ。ですが、これ以上に盤面を引っ掻き回されるリスクを考えると……やむを得ませんか」

 

 猛々しい剥き出しの殺意と、這い寄るようなねちっこい害意が俺を襲う。

 ……うん、ちゃんと怖い。暴力を伴う喧嘩なんて姉貴としかしたことないってのによぉ。雑魚ゴブリンくらいならまだしも、クーニュさんと同格なヤツのプレッシャーはキッツイわ。

 

 そんな感じで尻尾丸めて普通にビビり散らかしていると、後ろから肩に手を置かれ――

 

「ありがと~、クロちゃん。私ならもう大丈夫よ~」

 

「――」(シュババッ)

 

「「背中隠れるのはやっ!?」」

 

 うるせー、こちとら平和な日本育ちの魔法使い(後衛職)やぞ! 前衛の陰に隠れて何が悪いんじゃい!

 ――あ? 走れないんじゃなかったかって?

 バッキャロウ、火事場のクソ力に決まってるじゃねーか。命かかってますからーー!!

 

「さあ、いきましょうか。まずはレオーネちゃんを助けましょう()()()、ね?」

 

 お、“確実に” ですか。へっへっへ、了解りょーかい。

 小声で知らされた作戦を完璧に理解した俺は右手にクーニュさんパペットを装着、彼女の額に触れる。続いて左手もポケットに突っ込み――

 

「おっと、そこまでにしてもらいましょうか。こちらにはレオーネさんがいることを忘れずに」

 

「クク、外見もあって子どもの遊びにしか見えないことが、まさかの戦闘準備だもんなぁ。“初見殺し” もいいとこだぜ」

 

 現在の状況を整理しよう。

 空き家群の中で最も大きな空き家を背に、レンドとカスヤネン。それと、カスの方に拘束されているレオーネ嬢。

 そこから20歩分ほどの距離を開け、俺、クーニュさん、ラーナたん、ロトムの4人が対峙する。

 で、そんな7人を囲むように10人ほどの冒険者が睨みをきかせているって感じだ。その中には母娘(おやこ)丼3人衆の姿もあるな。あ、ロトムを拘束しててクーニュさんに不意打ちされたヤツは気絶してるぞ。

 

 そんな状況で、俺たちは第一目標であるレオーネ嬢の奪還を成さねばならないわけだ。

 では、どうするのが最適か? その答えは――レンド(敵側)が既に出している!

 

「レオーネちゃんは返してもらうわ!」

 

 俺の補助を受けたクーニュさんがカスヤネンとの距離を詰める。彼女にかかれば20歩の距離なぞ有って無いようなもの。

 反応すらできず、あっという間に棍がカスの脇腹に突き刺さる――

 

「んなっ、クーニュ!? テメェ、人質とられてるってわかってんのか!!」

 

「レンド……くっ!?」

 

 直前、割って入ったレンドの大剣が辛くも受け止め、クーニュさんを弾き返す。どうやら見た目通り、スピードはクーニュさんが上でパワーはレンドが上のようだ。

 

「オイ、カスヤネン!」

 

「ええ、私もナメられたものです。どうせ手出しできないと考えたのでしょうが、まったくもって甘すぎる。警告料として……そうですね、指を貰いましょうか」

 

「っ……」

 

 悪い笑みを浮かべたカスヤネンがレオーネ嬢の小指に手を掛ける。なるほど、“貰う” というのは指を折るってことね。

 

 ふ~ん…………チャーンスッ!

 

「――ぱぺっと操霊術(ねくろまんしー)

 

「ッ!? なん――グハッ!?」

「え────ッ、ギャアアア!?」

 

 人間の意識ってのは、そう多数には振り分けられない。現にヤツらの意識も脅威となるクーニュ(襲撃者)、アドバンテージたるレオーネ(人質)の2人でいっぱい()っぱいなのだろう。俺への警戒が疎かだ。

 

 計画通り(例のゲス笑顔)

 

 内心で新世界の神ばりに “キラッ☆” と嘲笑い、ポケットに突っ込んだままだった左手をこっそり引き抜く。その手にはゴブリン闘士(ファイター)パペットを装着済みだ。

 ヤツらの背後に召喚されるファイター。流石にレンドには即効で気付かれたが、それでも十分。フルスイングした棍棒がレンドを防御ごと弾き飛ばし、続けざまにカスヤネンの手首を握り潰す。

 ハッハッハー! ホントの初見殺しってのはなあ、こういうことを言うんだぜい!

 

「今よ! レオーネちゃん!!」

 

「ク、クーニュさ――!? ん゛んんんんんっ!?!?」

 

 作戦のままにできた明確な隙を逃すわけもなく。文字通り一足飛びでレオーネ嬢のもとに向かったクーニュさんが、彼女を抱えて戻ってくる。お姫様抱っこで! やったぜ!

 

 これで彼女は取り返したし、あとは “アレ” を返すだけだな。ただその前に、ちょっと準備をば……っと。

 

「レオーネちゃん、無事「レオーネえぇ! 大丈夫かぁぁ!?」ちょ、うっさ……!?」

 

「兄さん、ラーナさん……クーニュさんも、ありがとうございます。クロコさんも……あ、あの、クロコさん?」

 

「────」(クイックイッ)

 

「はいはい、眼鏡っ娘かわいいかわいい。ほら、気が済んだらレオーネちゃんに返してあげなさい」

 

「……ああ、そういうことでしたか」

 

 バ、バカな、反応が淡白すぎる……! クロコちゃんの眼鏡っ娘バージョンやぞ!? 世界一の美少女のギャップ萌えですのことよ!?

 ――いや、そういうことか。レオーネ嬢の眼鏡は何故か目を隠す。普段からメカクレちゃんの俺がこの眼鏡をかけても、なんら新鮮さが無いんだ。ガーン……!!

 

 レオーネ嬢の素顔を初めて見た時はあんな衝撃的だったのに……。『ヤる時は眼鏡を外すな』派の俺だが、もろちんギャップ萌えを否定するわけではない。むしろ推進派、ダブスタクソ親父は褒め言葉。

 それだけにレオーネ嬢の眼鏡offバージョンをガン見してた時は『テンション上がりますねぇ!!(ハン・ジュ◯ギ)』状態だったんだがなぁ。無念にゃりぃ……あ、こちら返しますドゾー。

 

「ぐ……くっそ……! やってくれるじゃねーかクソ猫ォ!」

 

「はあ、はあ……う、腕がぁ……! 私の腕があ! よくも! よくもオオ!!」

 

『キーシシッシ♡ ハンムラビ法典を知らニャいのぉ? 目には目を、歯には歯を、美少女の指(未遂)にはオジサンの腕を破壊♡ ただの等価交換ニャン♡』

 

「知るかああ! これのどこが等価だ、ふざけるなあああ!」

 

 そもそも美少女とオッサンの価値が等価じゃないから仕方ないね。

 

「チッ、誰かカスヤネンの治療を! おい、野郎ども! 護衛の依頼人を害された以上クソ猫は排除対象だ! 失敗扱いになりたくなければソイツは殺し、他の連中は捕らえろ!」

 

「よしキタ! 一番槍は俺がもらうぜェ!」

 

「――ッ」

 

「させないわ! クロちゃんは自分と3人を守ることに集中、攻撃は私に任せて!」

 

「――(コクン)────ぱぺっと操霊術(ねくろまんしー)

 

 戦いに関してはクーニュさんかレオーネ嬢の意見が優先だ。

 俺はこの1ヶ月の間にラーナたんに作ってもらってあったパペットを左手に嵌め、魔法を行使。すると、大きな盾を構えたゴブリンパペットが黒いオーラに包まれ、地面から新たなるゴブリンが這い出てくる。

 そのゴブリンの外見は闘士(ファイター)とほぼ同じだが、手に持つ物が違う。ファイターが棍棒なのに対し、そのゴブリンが持つのは木材をベースに石で補強した簡素な大盾(クーニュ製)。

 ゴブリンウィッチとデカブツによる間引きを免れた者たち。そいつらの守護を任されていた中位種、それがゴブリン盾持ち(シールダー)だ。

 

「なっ、ゴブリ――ッ!? 俺の槍を止めただと!」

 

「うふふ。そう、それでいいわ。ほら、まずは2つ!」

 

「ぎっ!?」「ぼごぉっ!?」

 

 そんなシールダーが冒険者どもの攻撃を、盾と己の肉体で耐えている間にクーニュさんが昏倒させていく。見栄えは最悪だが効率的な作戦だね。

 ……ただし、邪魔が入らなければの話だが。

 

「さらに1つ! 次は「そこまでだクーニュ! オラァ!!」――レンドッ!」

 

 3人目を倒して4人目に目を向けたクーニュさん目掛け、カスヤネンを戦域から離脱させたレンドが襲いかかる。まあ、こうなるよな。そうそう何もかも上手くいくわけがないか。

 見た感じだと彼女とレンドの実力はほぼ互角だ。残念だが、これでしばらくはクーニュさんの援護は期待薄だろう。

 

 それと、問題はもう1つありまして。

 

 

(『チビジャリ、わかってると思うけど接近戦は天使ちゃんの領分ニャ。恐らく、オイラじゃあんまり持た(ニャ)いニャン』

 

 

 そーなんだよなー。実はシールダーを操ってる悪魔ちゃんって、そんなに近接戦闘が得意じゃないんだよね。

 

 どういうことかというと、また例によって例の如く俺の設定による影響だ。

 天使ちゃんと悪魔ちゃん、2人にはそれぞれ得手・不得手が設定されている。で、それに応じて操作対象の精度が変動したり、補助対象にバフ・デバフがかかったりするんよな。

 天使ちゃんは特化タイプ。ステゴロを筆頭に近接戦闘が得意で強烈なバフが乗る。逆に遠距離戦闘や魔法が不得意で、デバフすらかかってしまう場合も。

 悪魔ちゃんはオールラウンダー。天使ちゃんと違って苦手なことは無いものの、得意とする遠距離戦闘や魔法でも相方ほどのバフは乗らない。

 だから、今までもクーニュさんやナイフ持ちゴブリンは右手(天使ちゃん)が担当。ウィッチや弓ゴブなんかは左手(悪魔ちゃん)が担当してることが多かったのだ。

 

 なので、本来であればシールダーパペットは右手に装着するのがベストなのだが……現状では不可能だな。クーニュさんとレンドの戦闘、見た感じだと近接特大(天使ちゃん)バフがあってクーニュさんがギリ優勢くらいだ。彼女のパペットを右手から変えるわけにはいかない。

 となると現状で取れる戦法は、やはり耐久戦しかないだろう。悪魔ちゃんが耐えている間にクーニュさんがレンドを倒すか、もしくは――って、ヤバッ!?

 

「しゃあ! もらったぞボケェッ!」

 

「――ッ」

 

 

(『し、しまったニャァァン!?』)

 

 

 恐れていた事態。群がってくる冒険者どもをなんとか捌いていた悪魔ちゃん(シールダー)だったが、一瞬の隙を突かれて弓矢にド(タマ)をぶち抜かれてしまった。

 それと同時に左手が弾かれ、俺は無様にも背中からブッ倒れる。ぐえぇっ。

 

 内心で半泣きになりつつも起き上がると、視界の端にヤム◯ャ状態で地面に沈むように消えていくシールダー。召喚時の逆再生のような光景、恐らくパーカーのポケットに還ってしまうのだろう。

 撃破されたペナルティはそれだけじゃない。俺の手から弾け飛んだパペットが、黒い光の粒子となって空中へ溶けるように消えていく。くそっ、ツイてねぇ。ロストだ。

 それに加え、今の個体は自動修復が終わるまでは召喚できない。手持ちにシールダーはもう1体いるし、パペットにも予備があるからまだ大丈夫だが……このままだとジリ貧じゃあぁぁ! へるぷみーー!!

 

「クロちゃん!!」

 

「あぁん? チッ、まだ盾持ちがいやがるのかよ。だが、このままだとマズイよなぁ、クーニュよぉ。そろそろ本気――緋刃の出し時じゃね? ま、出せればだけどな。クックク」

 

「……」

 

「あんにゃろう、クーねぇが人間相手にあんな危険技を出せるわけないって知ってるくせに……!」

 

「おっと、それは違うぜラーナちゃん。クーニュはそこまで甘ちゃんじゃねぇ。出せるんならとっくに出して、最低限でも今頃この剣を細切れにするくらいはしてるハズだ。だが、未だにそれすらできてないってことは――」

 

「…………」

 

「え……ク、クーねぇどうして? だって、魔力の問題はもうクロコの能力で……」

 

 ラーナたんの言葉に合わせ、俺に集まる視線。いやぁん、照れちゃうぅ♡

 ……いや、そんな目で見られましてもねぇ。俺にも何が起きてんのか、さっぱりなんだが? ハァーさっぱりさっぱり。

 

 でも、そうか。言われてみれば最近のクーニュさんは緋刃を使ってなかったような気がするわ。前は狩猟や採集でスパスパぶった斬ってたのに、ここ数日くらいは切断の仕事をしてるのも見てないかもしれん。

 もし本当に緋刃が出せないのだとしたら、原因はラーナたんの言う通りに魔力量に不安があるからだろう。ただ、その問題は俺の能力により解決しているハズなのだが……あれ、ちょっと待てよ。

 そういえば彼女が緋刃の使用を控えだしたのって、俺の体調がおかしくなってからじゃね? もしかして何か関係がある?

 

 仮にクーニュさんに魔力が譲渡されてなかったとすると、その原因は何だ?

 魔法がうまく機能しなかった……いや、それはない。彼女の足が動いているのが証拠だ。

 なら、他に考えられるとしたら――

 

 

 

 供給側()の魔力不足

 

 

 

 ピシリ

 

 

 

「――ッ」

 

「クロコ!? ちょ、どうしたのよ!!」

 

 俺のすぐ後ろから聞こえた、何かが割れるような異音。振り向けば、マイ右尻尾にある尻尾飾りの黒い宝石(?)にヒビが入っていた。

 疑問符を浮かべつつも普段は意識なんてしない “魔力” に気を向ける。で、魔力がだいぶ減っているのを認識した瞬間のことだった。

 

 身体から力が抜け、俺は無様にも膝から崩れ落ちてしまったのだ。

 

 困惑のせいだろうか、思考にモヤがかかったように頭が回らない。だが、そんな状態でもこのままではマズイことくらいはわかる。

 急いで立ち上がろうとして……気づく。辛うじて動かせるのが目と耳のみだということを。当然、手も指もピクリとも動いていない。

 

 

 ――操作・補助中に勝手に動き回る手が

 

 ────動いていないのだ

 

 

「えっ……きゃあ!? あ、足が動かない……っ!」

 

「クーねぇ!?」

 

「ギャアア!? ゴブリンもブッ倒れちまったぞ、オイィ!」

 

 手が動いていない=俺の魔法が効果を発揮していないということ。案の定、クーニュさんへの補助とシールダーへの操作が勝手に途絶えているようだ。

 

 

(ちょっと2人ともー!? なに、今どういう状況なのこれー!?!?)

 

 

(『そんにゃの!』)(『こっちが知りてえのニャー!?』)

 

 

 な、なんだ? 2人の声にまでモヤがかかったように聞き取れない。よーわからんけどヤバイヤバイヤバイ!

 今はまだ警戒してるのか遠巻きに観察されているだけだが、どんなに長くとも数十秒後には一網打尽にされちまうって! はよ魔法を掛け直さないと!

 

 体内の魔力を強く意識し、両手に魔力を流す――!?

 

 

 ――それ以上はダメ――にャ

 

 

 脳内に突如響く、推し声優のダウナーボイス。ハッキリとまでは聞こえなかったが、この俺様が推しの――愛娘(まなむすめ)の声を聞き逃すわけがない。

 ま、まさか……クロコちゃん!?

 

 

 ――そう――にャ────パパ

 

 

 はい氏んだー。わりい おれ氏んだ(にいっ)

 

 

*1
おんぶ紐が採用された原因その2

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