TSネコ少女おじさんは百合の間に挟まらない(叶わぬ願い)   作:TSの聖地(性地)ハーメルン巡礼者N

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1-4 VSゴブリンたち

 

 

 

『フシャアアッ!!』

『フシュウウッ!!』

 

 牙と爪を剥き出しにして威嚇する天使ちゃんと悪魔ちゃん。その視線の先で下卑た嗤いを向けてくる3匹のゴブリン(推定)たち。

 先頭の1匹はナイフで武装。後ろの2匹は使い古したようなボロ桶を抱えている。どうやら水汲みと、その護衛。

 チッ、野生環境での水場の危険性を考慮していなかった俺の落ち度だ。

 

「ゴブゴブ!!」

 

『! 来ます!』

 

『ニャロウ! 迎え撃つニャ!!』

 

 遭遇戦、敵側に作戦も何も無し。ナイフ持ちが真っ先に突っ込んできて、その後ろでは桶を手放した2匹が枝や石に持ち替えている。

 天使ちゃん&悪魔ちゃん(相棒の2人)が興奮してるからか、意外にも俺は冷静だ。そんな俺が、周囲の状況も踏まえて実行した行動。

 それは――

 

 

 

 逃亡一択!

 

 

 

 逃げるんだよォ! 2人ともーーーーッ!!

 

『わあ~ッ!!』

『ニャんだこの(おとこ)(おんニャ)ーッ』

 

 男も女もあるかっ! 戦うにしてもパペットを作製しないと話にもならんし、そもそも戦うメリットがほとんど無いんだよ!

 

 俺はゴブリンどもに背を向け、周辺に生えている中では一番背の高い木のもとへと走る。見たところ、ヤツらの身体能力は人間の10歳児程度。猫人の俺に追いつけるわけがない。

 案の定ナイフ持ちとの距離はどんどん開いていき、ヤツらがたどり着く頃には木登りを終えていた。それどころか、安全な枝に腰を落ち着けて観察する余裕すら生まれていたのだ。猫人スゲーな。

 

 さて、下では悪あがきが始まっている。ナイフ持ちの指示で他の2匹が木をよじ登ろうとしてずり落ちたり、届かない投擲をしてみたり。やれやれ、はよ諦めればいいのに。

 好き好んでゴブリンに関わるつもりは無いが、こうしていても暇なのでゴブリンパペットの制作に取り掛かる。練習練習っと。

 ゴブゴブギャーギャー、下から聞こえる不快なBGMに耐えながらチクチク縫い続け……完成! 緑色の産業廃棄物~!

 

『まるで成長していニャい……成長力が足りニャいよ、だニャン』

 

『ゴブリンというより、ドラ○エのバブルスラ○ムでございますにゃん……』

 

 これもう無理じゃね? 俺じゃあ魔人形操師の能力を使いこなせないのでは……?

 尻尾と耳を垂らし、己の不器用さを呪う。

 

 だが、次の瞬間――

 

「――ッ」

 

 俺の大きな耳だから捉えられたわずかな風切り音。それと、背筋を伝うピリッとした感覚。その感覚の赴くままに音の方向へと尻尾を動かし、俺の斜め下を通過しようとしていたナニカを絡め取る。

 そのナニカを目の前に持ってくれば、それは1本の粗末な “矢” であった。

 う~ん、俺は素人だから断言はできないが、多分この矢自体に殺傷力はほとんど無い。無いんだが……気になるのは先端部に塗られている粘体。

 この粘体が致死性の毒なら良い。いや、良くはないけどまだマシなんだ。

 最悪なのは――

 

 チラッ

 

 目線を下へ向ける。すると、そこには3バカ以外にもう1匹ゴブリンが合流していた。しかも、そいつはボロいショートボウと矢筒で武装し、最悪なことに既に二の矢を(つが)えていたのだ!

 

『? あのぅ、わたくしにはまだ矢を手にしてすらいにゃいように見えるのでございますが?』

 

 最悪なことに既に二の矢(意味深)を(つが)えていたのだ!

 ――あ、なんなら二の矢(♂)でも可。

 

『意味深……? オスのマーク…………ニ゙ャ゙ッ゙!? も、もももっこり――レイパーだこいつぅぅニャアアアッ!?!?』

 

 うん、そうなんだ。どうやらこの世界のゴブリンは()()()()()()()らしいね。

 となるとぉ~、この矢に塗られた粘体って~……恐らく、しびれ毒とか眠り毒とかなんだろうなぁ。弓ゴブ以外の3バカが俺の真下で受け止め体勢(当然の権利のようにもっこり完備)で待ってるし、間違いないだろうなクソがッ!!

 うわぁマジか……さぶいぼさぶいぼ。女性って大変だわ。ここまで露骨なのはそうそう無いだろうけど、男から性的に見られるキツさってのを実感したよ。

 

 ま、まあ、それはともかく。さて、どうしたもんかねぇ。

 このまま逃げるのは容易い。身体のバネに物を言わせ、木から木へと跳び移っていけば楽々逃げ切れることだろう。

 だが、このチュートリアルとも呼べる戦闘チャンスをみすみす逃してよいのか、って考えもあるんよなぁ。比較的安全に戦闘経験が得られること。これが、この遭遇戦に応じた場合のほぼ唯一のメリットだ。

 

 …………よし、決めたぞ。

 クロコちゃんは “ナス食え!” でチュートリアルすら経験することを許されなかった。だが、それが叶う機会が目の前に転がってきたんだ。ならば、与えてあげるのが親の役目。戦うぜ!

 

 そうと決まれば、やることは青い角ウサギの時と一緒だ。ゴブリンの目と鼻の先に同族の猟奇死体ドッペルを顕現、それに怯んでいる隙に操る。

 まずは厄介な弓ゴブから。操りに成功したら即座にナイフ持ちを射て、矢で自傷させる。決まれば毒で2匹行動不能、魔力消費も抑えられるだろう。

 ――ふっ、我ながら完璧な作戦だぜ!

 

 右手の天使ちゃんパペットを、ぶかぶかゴブリンパペット(醜)に変更。真下にいる3匹と少し離れた位置にいる弓ゴブ、そのちょうど中間に向けてジャンプする。

 ぽきゅんと着地後、一気にダッシュ! 弓ゴブとの距離を縮めてゆく。

 そんな俺の行動に慌てたのか、弓ゴブは慌てて矢筒に手を伸ばしたが――させるかオラァ! 出てこい、ゴブリンドッペル!

 

「――ぱぺっと幻影(どっぺる)

 

「ゴブッ!?」

 

 突如として俺との射線を塞ぐように現れた、形が崩れたちょいデカゴブリンに弓ゴブの悲鳴が上がる。ドッペルの影に隠れるために姿勢を極限まで低くしている俺からは見えないが、さぞビックリした顔をしていることだろうよ。

 作戦の成功を確信した足はさらに加速、ついにドッペルまであと数歩という距離へ。

 後はパペットを額に押し付ければ勝ち確。そう思い、右手に意識を割こうとした時――

 

『ッ!? チビジャリ危ニャい!!』

 

「――ッ」

 

 俺の前方。強い衝撃により、弾け飛んだドッペルが光となり消えてゆく。

 

 そして────目の前に迫る、矢じり

 

 文字通り目前に迫った “死” に時間が極限にまで引き伸ばされてゆく。マジか。本当にあるんだな、この現象。

 だが、こうして思考できたところで……正直、もう手遅れだ。放たれた矢より身体が早く動くならまだしも、どう足掻いても数瞬後には肩に矢が突き刺さるだろう。その後に訪れる未来は――考えたくもない。

 前髪のせいでただでさえ黒多めの視界が、絶望によりさらに闇色に侵食されてゆく。

 ほら、現に横から矢に迫るような勢いで黒いもふもふ毛玉が…………毛玉?

 

 ペシンッ

 

 聴こえたのはそんな、どこか気の抜けるような軽い音。だがしかし! その軽い音がもたらした結果は、重大かつ重畳なものであったのだ。

 肩への直撃コースを辿っていた矢が逸れ、大きめ猫耳に風切り音だけを刻みつけて視界から消えてゆく。

 すると、助かったことを認識したことで集中力が切れたのか、時の流れが正常へと戻った。

 

 矢が外れた今なら、無防備となった弓ゴブを操るのは容易かっただろう。

 だが、残念ながら俺は戦いの素人。突如訪れた危機により盛大にテンパっていたため、接近を中止して一目散に木の上へと逃げ出してしまったのだ。もうやだおうちかえるぅぅ!

 そして、そこでひとまずの安全を得た俺は、今回の功労者を称えるべく感情を爆発させようとしていた。

 

『ふ、ふふん! そこまで言うニャら称えさせてやるニャ! さあ、思う存分敬うといい…………ニャ?』

 

 よーしよしよしよしよしよし、いい子でちゅね~。ムツゴ○ウさんリスペクトの精神で2本の尻尾を撫でそやし、頬ずりする。

 そう、俺の危機を救ってくれたのは2本の尻尾。正確には、“ナス食え!” にて猫型や猿型などの長い尾を持つ種族の固有防御スキル―― “()ートパリィ” のおかげなのだよ。

 このスキルはHPの1割(一定の被ダメージ)以下の軽い攻撃を、尻尾が自動で弾いてくれる種族スキルだ。ただ、発動には条件があってな。近距離からの攻撃の場合、敵の攻撃モーションを()()()()()()()()。これが条件となる。

 

 

(『あれれ~、おかしいぞ~? ドッペルを挟んで接近していたクロコからは、ゴブリンの攻撃動作が見えにゃかったハズでございますが~? くすくす』)

 

 

 某小学生探偵ばりの棒読みで天使ちゃんが指摘した通り、俺自身が直接目視したわけじゃない。目視していたのは――悪魔ちゃんだ。

 彼女の位置は俺の左手。俺とは違う角度の視点から見ていたおかげで、たまさか視認できたのだろう。魂を同じくする彼女の目はイコールで俺の目とも言える。ちとグレーっぽい気もするが、助かったのだからそれで良いのだ。

 

『オイラのおかげニャのに……グスッ』

 

 ちゃんとわかってるからイジケないイジケない。俺は本命(好物)は最後まで取っておくタイプなんだよ。ほ~れ、いい子いい子、ちゅっちゅっ♡

 

『む、むふ~。ようやくオイラの偉大さを理解したニャ? だったら、これからの扱いはより丁寧に……って、ニャにしまおうとしてるニャァァ――』

 

 すぐ調子に乗っちゃう子はしまっちゃおうね~。

 

 さて、ぼっち特有の1人漫才で落ち着いてきたことだし……そろそろ仕切り直しといこうか。

 

『あのようにゃ目にあってもまだ戦うのでございますにゃ? わたくしとしては逃亡も選択肢としてアリだと思うのでございますが……』

 

 悪魔ちゃんの代わりに出てきた天使ちゃんからの提案。確かに、それもアリだろう。

 前も考えたことだが、この戦闘はリスクとリターンが釣り合っていない。そのリスクが現実になりかけた今、逃げたい気持ちは高まる一方だ。

 

 

(『ゴブリンから逃げる転生者www ざぁこ♡ ざこざこ♡ よわよわ意志力ぅ♡ ニャあ、チュートリアルとか考えておいて今どんニャ気持ち? 異世界にざこざこだってわからせられちゃってぇ、ど~んニャ気持ちニャ~~?? キシシッ♡』

 

 

 ぐぬぬ、ここぞとばかりに煽りおってからにこのメスガキがぁ……!

 ええい、やってやらぁ! プランBでいこう!!

 

 

(『あ?』)

『ねぇよそんにゃもん! でございますにゃん』

 

 チッチッチッ、あるんだなぁこれが。それも、ゴブリンの習性を利用したパーフェクトプランがな。

 

 というわけで、第2ラウンドだ。

 ヤツらの様子はっと……ふむ、しっかり前衛と後衛を分けて陣形を組んでるじゃん。なんか静かだと思ってたけど、先の攻防で警戒させちまったようだな。

 なら、まずはその陣形を崩してやんよ!

 

 俺は木の上からヤツらとは反対方向へ飛び降り、そのまま逃げ去る素振りを見せつける。そうすれば……ほい、この通り。ゴブリンどもが我先にと陣形を乱して追いかけてきまーす。ぷぷっ、たんじゅ~ん。

 相手側の構成はナイフ・石・枝の軽武装組と弓の中重量武装者にわかれている。ならば当然、俺を追いかけてくる距離が長くなるほど――

 

『操作を狙う弓ゴブと他との距離が開く、ということ。クロコ、“今” でございますにゃん!』

 

 合点承知の助! さあ、出てこい!

 

「――ぱぺっと幻影(どっぺる)

 

 天使ちゃんを引っ込め、取り出したるは角ウサギパペット。これで、俺は2体のドッペルを召喚可能となった。

 出現目標地点は軽武装組の目の前。突如として現れた敵を前に、ゴブリンどもが取ってしまう行動は1つ。

 

「ゴブッ!?」

 

「「ゴブゥッ!!」」

 

 俺の存在を一時的に忘却し、反射的に目前の敵を優先的に攻撃してしまう。かかったなアホが!

 3バカどもの意識が逸れたのを確認し、俺は即座に反転。弓ゴブ目掛けて猛ダッシュで距離を詰めてゆく。

 

「ゲギュ!? ゴブッ、ゴブゴブゲ!!」

 

 恐らく3バカに向けて注意と罵倒をしてるんだろうが遅ぇんだよ! ほれ、これでタイマンだぜ!

 

 3バカとの距離が開いたことで弓ゴブも諦めたのか、弓を引き絞り俺を狙う。

 ボロ弓にボロ矢、粗末な腕前の3点セットじゃあ距離が離れているとなかなか当たらない。弓ゴブもそれをわかっているのか、俺をきっちり引きつける。

 ギリギリまで引きつけ、引きつけ────矢を放つ瞬間を俺は()()

 

 ペチンッ

 

 尾ートパリィにより弾かれた矢を、驚愕の表情で見遣る弓ゴブ。残念だったなァ、最初からお前に勝ち目なんざ無かったのよ。

 

「――ぱぺっと制御(こんとろーる)

 

 呆然と立ち尽くす弓ゴブの額に、すれ違いざまに左手を伸ばす。強制契約の光を確認し、俺は再び距離を取る。

 だが、まだ操作はしない。時を待て……!

 

 弓ゴブは訝しげに己の身体を確認していたが、異常が無いと判断したのかニヤニヤと俺を嘲笑っている。

 さあ、仕切り直しだ。弓ゴブは新たに矢を(つが)えつつ後退し、逆に3バカどもは懲りもせず突っ込んでくる。そして、だんだんと3バカと弓ゴブの距離が縮まってゆき――すれ違う!

 

「ゴブブブブッ!? ────ゴブ?」

 

「…………ブ?」

「ゴブゴブゥ!?」

 

 先頭で勇ましく吶喊していたナイフ持ちの背に矢が突き立つ。立ち止まり、その矢を不思議そうに見つめるナイフ持ちと石持ち。

 残る枝持ちは犯人を指差し、困惑したような声をあげている。その指の先、視線の集まる先にいるのはもちろん呆然としている弓ゴブ。

 

 ハハ、アイツらの驚愕はどれほどだろうな。だが、まだ終わりじゃないぜ。弓ゴブが抵抗を始める前に、もう1手。

 

 俺が操る弓ゴブが矢筒から矢を取り出す。そして、逆手で持ったソレを――自分の腹に突き刺させる!

 

「「ブギャアアァ!?!?」」

 

 弓ゴブは膝を付き、しびれ毒が回ったナイフ持ちが倒れ伏す。その意味不明な状況にパニクり、悲鳴をあげる残りの2匹。

 俺はそんな2匹の背後にそっと忍び寄り…………忍びy……ええぃ、足音がぽきゅぽきゅうるせえええ!!

 

 

(『お(ミャー)の設定のせいニャー! “黒子” のクセに存在感マシマシとかふざけんニャ!』)

 

(『この靴、足場が草地だろうと河原だろうと “ぽきゅる” のでございますよねぇ……』)

 

 

 忍べないならいっその事堂々と接近する。幸い、俺の足音よりヤツらの悲鳴のほうが大きいから気づかれないっぽいし。

 ……ほい、背後を取れましたので石持ちの肩をツンツン。ガバッと振り向いたところでコントロール成功。今度は即座に操り、尻餅をついていた枝持ちの後頭部をガツンガツン!

 枝持ちが倒れたところで抵抗が始まり、魔力がヤベェ勢いで失われていくが……ここまできたら残る作業は詰めの1つのみ。間に合う!

 俺は石持ちの腕を目一杯上げさせ――

 

 グシャアッ!!

 

「コ゜────ピギョアアアッッ!?!?」

 

 ――思いっきり右足に石を叩きつけてやった。音的に指3本は逝ったかな?

 さて、こうなったらもう消化試合だ。俺はコントロールを解除し、倒れている弓ゴブの矢筒から矢を拝借。のたうち回る元石持ちの傷口にしびれ毒を付着させる。……おk、直接傷つけるわけじゃないから問題なくできたな。

 ついでに枝持ちの傷口にも毒を塗り込んでおき、そのまま待つこと数十秒。2匹もぴくぴくとしか動かなくなったところで全員行動不能。戦闘終了だ。

 念のために猫耳に意識を集中して周囲の安全確認……ヨシ!(現場黒猫)

 それじゃ、パペットを外して天高くVサイン。

 

 

 

 ――俺の勝ちだ!!

 

 

 

 こうして俺の初戦は、苦闘の末に辛勝というカタチで終わった。

 いろいろと反省点は多いが……とりあえずは生き延びたことを喜ぼう。やったぜ!

 

 

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