TSネコ少女おじさんは百合の間に挟まらない(叶わぬ願い) 作:TSの聖地(性地)ハーメルン巡礼者N
(『こにゃくそおおおおお、でごぜーますにゃ!!』)
「GOB! BUUUOOOOO!!」
俺と悪魔ちゃん、それとエルフっ娘が固唾を呑んで見守る中、天使ちゃん操るナイフ持ちゴブリンとゴブリン闘士との戦いは千日手を迎えていた。
攻撃力はイーブン、スピードはこちらが圧倒。しかし、リーチと戦闘技量で負けるため、総じて一進一退の互角となってしまっているのだ。
……あと1手が足りない。
弓ゴブの矢で援護ができれば良かったのだが、現在それは不可能となってしまっている。というのも、以前の予測通りに数回にわたって現れた敵増援に対処していたら、ボロ弓がポキっと折れてしまったのだ。腕力上昇の弊害だな。
一応ステゴロという手も考えたのだが、さすがに力不足と判断。左手のパペットは悪魔ちゃんに戻してしまっている。エルフっ娘に指示を出すこともあるかもしれんしな。
さて、こうなってしまうと俺が飛び込むしかないのだが、今のところは保留中だ。さっき軽く確かめてみたのだが、どうやら覚醒後でも俺の身体能力は上がってないっぽくてな。まだ危険を冒すべき時ではない、という判断だ。
う~む、なにか……なにかないものか。
『うニャ~、やっぱりパペットの出来がショボすぎるのが痛いニャー。チビジャリが裁縫ざこざこ人形師じゃニャければ一瞬で片が付いてたハズだニャァ……』
うぐっ……。普段だったら『それなーwww』とか茶化してごまかすところだが、死にかけた今は流石にできんな。マジで死活問題なんだと身をもってわからされたわけだし。
そんな悪魔ちゃんがぽろっとこぼした愚痴。俺たち3人組だけなら、俺を少し凹ませるだけで流されるハズだった一言。
だが、そんな一言が――
――俺とエルフっ娘の一生を、関係を、運命をも変えたのだ。
「……ちょっとアナタ、今の……どういうこと?」
ん? どういうこともなにも――って、近い近い!? 美少女! あと顔がマジすぎるって! 美少女!!
『ああン? まあ簡単に言えば、パペットの出来が良くニャればニャるほど操作対象の能力が上がるのニャ』
そんな悪魔ちゃんのざっくり解説を聞いたエルフっ娘。彼女は俺の右手のゴブリンパペット(惨)を見るなり、カッと目を見開いた。
「もうっ、なんでそれを早く言わないの! アタシは針子よ。力になれるわ!」
『ニ゙ャッ!?』
マジ!? “あと1手” がキターー!!
針子っつーとアレだろ? たしか、店や雇用主の依頼通りに縫い物をする裁縫のプロ。デザインとかはしないけど、その分裁縫の技術に特化しているっていう。現状、うってつけの人材じゃねーか!
そうとわかれば即他人任せだ。悪魔ちゃんも同じ考えなのか、早速ポケットの中に
「え、なにそれどうなってんのよ、その服……。しかも、なに? この上質な布や道具は…………うそっ、全部魔力を帯びてるじゃない!?」
ん? なにブツブツ言ってんだ?
なんか知らんが、はよ、応急処置はよ――って、およ? 悪魔ちゃん、基となる俺が編んだゴブリンパペットを渡してないじゃん。もー、おっちょこちょいなんだからっ!
そう思った俺は、なぜか抵抗する悪魔ちゃんを無視してゴブリンパペットも手渡しておく「ていっ」――って、オィィィ!? なに一顧だにせずポイ捨てしてくれちゃってんのさ! 森への不法投棄はんたーーい!
「コレをどうにかしようなんて応急処置じゃなく死者蘇生レベル。ふざケロって感じよ。イチから作り直した方がよっぽど楽だわ」
えー、そこまで言うー?
プロから見たら、実は俺に秘めたる才能があったり「しないわよ」――ちくしょうめええ!
「ともかく、アナタは戦闘に集中してなさい。手順はだいぶ省くけど、それでも
ちょ、無意識なんだろうけど追加ダメージ入ってんよー。俺のパペットは見られないんですね、わかりますん。
まあいいや。なら、言われた通りパペットの方は任せて俺は戦闘に集中――
(『くっ、このぉ! にゃかにゃかやるもんでごぜーますにゃん!!』)
「BGOGO!! GOBYUGOB!!」
――する必要ないんだよなぁ。むしろ、俺が介入すると天使ちゃんの邪魔になる可能性がございまして。
う~ん……よっしゃエルフっ娘よ。お兄さんが何か手伝ってしんぜよう。ほれ、なんでも言ってごらん?
「えっ、あー…………………………そ、そうねぇ…………あ! 端切れや糸くずの回収は任せるわね、うん。ほ、ほら? 森へのゴミ捨てはダメだもんね!」
それ、キミの後ろに真顔で打ち捨てられている
ぐぬぬ、これ口調といい内容といい、子ども向けの
ケッ、なら役立たず同士、悪魔ちゃんと一緒に高みの見物とでも洒落込む――
「ねえ、まち針をもっと『はいよろこんでニャー、キシシッ♡』――助かるわっ!」
ドちくしょうどもめえええっ!! 俺にもなんか仕事ちょうだいよぉぉ!
ねぇ、俺ってばちょっと前に謎の覚醒をしたばかりの転生者だよ? ラノベとかだったら主人公でもおかしくない背景の持ち主なんだよ?? それがなんでニート予備軍の役立たずみたいな扱い受けているわけぇ???
『キシシシッ♡ にーと♡ にーと♡ ざこにーとっ♡♡
俺の覚醒の影響か、メスガキ
「──────────」
「────すご」
クロコちゃんに設定した発声例外設定の3つ目。それは “心の底から感動した時” や “激情に駆られた時” など、大きく感情が動かされた時にぽろっと出てくる一言だ。
普通の人が1の感情を1の言葉と表情で出力できるのに対し、クロコちゃんは100の感情でようやく1弱として出力できるってイメージだな。
そんな身体に転生した俺が、日本語換算でたったの2文字とはいえ驚嘆を口に出したのだ。
“神業”
神に近しい存在による奇跡で、俺は今ここにいる。なので、軽々しく “神” という文字を使いたくないのだが、そうとしか表現できない御業が目の前で行われていた。
縫い方こそシンプルなものの、その右手の針さばきに一切の淀みなし。その繊細かつ大胆な動きはまるで指揮者のように美しい。針を指に突き刺さないよう、おっかなびっくり縫っていた俺とは比べようもないほど迷いが無い。
縫い目だってそうだ。ガッタガタだった俺のソレに比べ、ミシンでも使ってんのかってぐらいの正確さ。
見た目も……うん、誰が見てもナイフ持ちゴブリンだとわかる出来だ。手順は省くとか宣言してたが、ナイフやボロズボンなんかの小物も完備している。いつの間にか型紙まで用意してるし……え、マジ? 綿まで入れてくれんの? 助かるぅー!
それらの工程を、早送りでもしてんのかってレベルの速度で行っているのだ。なるほど、見た者を圧倒するってのはこういうのを言うんだろうな。
オマケに、こんな状況だってのに俺と悪魔ちゃんがガン見してても気づかないほどの集中力まで「っし! できたわよ!」――って、速すぎるわ!? 脳内解説が追いついてねーじゃんかYO!
「……え、えっとその……どうかしら? ……やっぱり、あの…………」
完成直後の勢いはどこへやら。何故か声量と自信が徐々に萎んでいくエルフっ娘の様子に首を傾げる。
ともかく、こんな最高の仕事をしてくれたんだ。俺らがやることなんて1つしかないよな。
「──────あり」
「っ!! …………あ、う、うん……」
我が脳内で『あ゙り゙が゙どゔっ゙!!!!』と連呼することでどうにか絞り出した、またもや日本語換算でたった2文字の感謝の言葉。伝わるかどうか不安だったが、反応はあったし問題はなさそうだ。なんでか呆然としてるけど。
ま、いっか。さあ、ここからは俺たちの仕事だぜ。
まずすべきことはナイフ持ちの再召喚、いわゆる
天使ちゃん渾身の大振りの一撃で闘士を牽制後、ナイフ持ちを即座に引っ込める。そして、右手のパペットをエルフっ娘お手製のパペットに変えてナイフ持ちを再召喚――おおうっ! なんか、以前の比じゃねえくらい魔力が持っていかれるんだが!?
ちょいとビビっちまったが、今は謎覚醒のおかげで魔力は潤沢なんだ。なんだったらもっと持ってけ、ぐらいの勢いでもいいだろ。オラ、行くぜぇ!!
「――ぱぺっと
「GO……GOBURURU!?!?」
再召喚されたナイフ持ちを確認した闘士が怯み、1歩後ずさった。その顔は信じがたいモノを見たかのように歪み、悲鳴が漏れている。むふふ、きっと内容は『あいつ ワシより強くねー?』とでも言っているのだろう。
それほどまでに変化は一目瞭然。以前までとは比べようがない――格が違う。
別に姿カタチが変わったわけじゃないんだ。“ぱぺっと
だから、違うのはそれ以外のこと。
白目を剥いていた目には生前以上の光が宿り、その顔は生気に満ち満ちている。垂れ下がっていた舌も当然引っ込み、自信ありげに口角を吊り上げていたり。これは多分、中の人である天使ちゃんの表情をトレースしてるんだろうな。
(『はしたねーですが、そりゃこんにゃ顔にもにゃるってもんでごぜーますぅ。力が、
言い方ァ!? あとゴブリンの身体でクネクネしないで、めっちゃキモいから!
「GO、
(『ああん? この期に及んでまーだそんにゃこと言ってるでごぜーますぅ? だったら! その身をもって本当に “
ひっでぇ難癖をつけたチンピラが
そしてもちろん、強化されたのは身のこなしだけにあらず。
(『くひっ♪』)
「GOB!?」
“ニチャア...” って感じの粘っこいオリジナル笑顔で2度切りつけたナイフ持ち。1度目で闘士が咄嗟に盾にした棍棒を根本から断ち、返す刃で闘士の足を深々と切り裂いた。
はぇー、マジかよ。今までの苦戦は何だったんだよ、ってレベルの蹂躙劇じゃねーか。でも、これが魔人形操師の可能性なんだな。
「GOB……BUuu……」
(『くひ、くひひ♪ 逃げちゃやだやだでごぜーますにゃぁん。さあ、次はどこを切り刻んで――って、クロコ?』)
「────」
武器と機動力を失った闘士がズリズリ這いずって逃げようとしている。その光景を見た俺は少し考え……
コイツには恩がある。最悪の場合――闘士が雑魚ゴブどもの暴挙を止めず、エルフっ娘が “クーねぇ” なる人物の名を出さなかった場合――俺たちは現在進行形で慰み者にされていたことだろう。その点だけは感謝している。
だから
「────死ね――にャ」
「GYABU!? GO……B────」
心臓を一突き、苦しませることなく絶命させる。あばよ、来世では百合の間に挟まろうとしたり、引き裂こうとする男にだけはなるんじゃねーぞ。
闘士が動かなくなったことを確認し、周囲を見渡す。どうやら俺とエルフっ娘以外に立っている者はいないらしい。俺たちは……生き延びた。
『ふぅ、一時はどうにゃるかと思ったでごぜーまs……んんっ! どうにゃることかと思ったでございますが』
『条件さえ整えれば下位ゴブで中位種を圧倒、ジャイアントキリングも可能とわかったのは収穫ニャン!』
せやねぇ。しかも、
う~ん、目立ちすぎて俺のライフワーク――百合を陰からそっと見守ること――に支障を来すのは困るが、弱すぎて毎回こんなヒヤッヒヤな戦闘も困りものだにゃあ。
ま、その辺のバランスはおいおい考えるとしてだ。今回の戦闘の元凶かつ最大の功労者は何をしているのか、とエルフっ娘の様子を窺う。
俺もそれなりの時間考え事をしていたハズだが、彼女は己の手をぽへ~っと見つめながらなにやらブツブツ呟いているようだった。
「アタシ、なんかが……役に、立てた……?」
「────」
どうもさっきから裁縫が絡むと態度が二転三転してるような気がする。針子だと宣言した時は自信満々じゃなかったっけ?
……ふむ。俺はこの娘の事情を知らんし、今のは口先だけの呟きだ。
今なら耳を伏せて聞こえなかったことにすることもできるが――
『準備完了、いつでもオッケーでございますにゃん』
『しゃーねーニャー。つきあってやるニャン』
人々に笑顔を届けるエンターテイナー的に見過ごせないよなぁ!
ぽきゅぽきゅと音を鳴らし、少々エルフっ娘から距離を取る。理由はスペースを確保するためなのだが、何を勘違いしたのかエルフっ娘が激しく動揺しだす。
「え……あ、待っ『『にゃニャにゃニャーにゃーニャーにゃっニャニャーん♪♡』』――ふぇ?」
焦りが滲む声に被せる形で響く、某
むふふん。どうよ、細かいことなんてどうでもよくなるくらい “最カワ♡” やろ?
さて、別に俺がトチ狂ったわけでもスク◯ニに喧嘩を売ってるわけでもないからな。売ったとしたら “ナス食え!” の開発だから。
というのも、“ナス食え!” は戦闘勝利後に専用BGMと専用ポーズをキャラクターが取るんだが……それがまんま
当然、キャラメイクでこのポージングも調整できる。ならば必然、俺は100時間近くかけて弄り倒しちゃうわけでして。そのおかげで、クロコちゃんの身体が動くままに任せてみたらキレッキレのポーズをかましてくれたよね。
いや~、まさかこんなところで他人にお披露目できるとはなぁ。俺は娘のかわいさをアッピルできて嬉しい。エルフっ娘は俺のかわいさに萌え萌えキュンキュンできて嬉しい。まさにwinwinの関係ってやつよ、ガハハ!
「…………」
――あれ? なんでこの娘、背景に宇宙を背負ってるの? それ、どっちかというと元ネタ的に俺の方が適切じゃね??
『どういうことニャ? この世にチビジャリのかわいさにメロメロに
なんだと! もしやこの世界、創作でたまに見かける……いわゆる “美醜逆転” 世界なのでは!?
『だとしたらクロコは世界で最も醜悪にゃ生き物ということに……? い、いえ、あの天使様がそんにゃ世界に転生させるわけがございません! きっと、かわいすぎて見逃してしまったのでございますにゃ!*1』
な、なるほど! ならばもう一回。
ホイ、ぱぱぱぱーぱーぱーぱっぱぱーん♪
「………………」
アイエエエ! ジト目!? ジト目ナンデ!?
再びの想定外リアクションに、俺たちはたまらず第2回目の緊急会議を開催する。そこで、あーでもないこーでもないと激論を交わしていると――
「……ぷっ、あはは……あっははははは……っ!」
なんか、めっちゃ笑われてるんですけど。笑う要素あった?
んー、ちょっち納得いかないけど結果オーライか。本来の目的は達成できたわけだし、初めて笑ったことでおちゃめな八重歯も確認できて俺得って感じ。俺の
「ふふっ、あー、なんかいろいろ考えてたのがバカらしくなってきたわ。……うん、改めて自己紹介でもさせてもらうわね」
そう言うと、目尻に溜まっていた涙をピンと弾く。その翠眼に
「アタシの名前は “ラーナ” 。その……助けてくれたこと、か、かか……感謝……し、してあげなくもないわっ! …………あ、ありがとね」
ゴプァッ(吐血)
な、なんだこのかわいい生き物……! 素直になれない系美少女キター!
――って、内心だけで血を吐いてる場合じゃねえ。この展開ならあのテンプレゼリフを聞くことができるかもしれん。天使ちゃん!
『ふふ、了解でございますにゃん♪ おや、最後に
「っ……べ、別に何もォ!? 葉っぱの音でも聞き間違えたんじゃないかしら! ほら、あの木と……か……」
俺の魔力嵐で葉っぱはほとんど吹っ飛んでますが?(無情) あとついでに、今は無風ですが??(非情)
おーおー、顔真っ赤にしちゃってまあ。こうもテンパってると俺が猫人、つまり聴覚が優れていて全部聞き取っちゃってることにも気づけないんだろうなぁ。いや~、ごちそうさまです。
うし、エルフっ娘――じゃない、ラーナたんをからかうのはこれくらいにしとくか。これ以上は彼女の百合パートナーだけのもの。俺は陰からてぇてぇするナマモノに戻りとうございまする。
そうと決まれば握手握手。
「あ、ちょ、急になによ「――ごわごつ」……っ!? やだ、離して!」
天使ちゃんと悪魔ちゃんに一旦引っ込んでもらい少女の手を取る……が、返ってきた感触に衝撃を受ける。なぜなら、その手はあかぎれに豆だらけのごわごわごつごつ。お世辞にもキレイとは言えないものであったからだ。
「……ふん、汚らしい手で悪かったわね。でも、これでわかったでしょ? アタシに
すっごーい! なにこれなにこれー、みんみー!
頭が
一瞬で天元突破したテンションに任せて再び彼女の手を取り、湧き上がってくる尊敬と慈愛の感情のままに頬をすりすり尻尾ふりふり耳ぴこぴこ。ヒャア、こいつはたまんねぇ! マーキングじゃい!
俺には昔から愛してやまないものがある。それは、“努力痕” 。努力の結果に得た成果とはまた別の、その人の血と汗と涙の結晶。
それがどんなにみすぼらしいものだって構わない。俺が愛しく思うのは、そこから感じられる個々人の歴史なのだから。
「――尊敬――にャ」
「へ? 尊敬って――っ!? は、なあぁぁっ!?!?」
うん? 顔真っ赤だけど大丈夫? 俺の顔見ながら震えてるけどなんかあった??
ま、いっか。そんなことより風が出てきたな。さっきから
こうして未だに口パクパクして顔真っ赤な彼女に首を傾げつつ、ゴブリンたちのもとへと向かったのだが……
俺の言葉と表情は大部分がカットされるものの全部というわけではない。この設定は前にも思考した通りだ。
つまり、握手した直後から饒舌(当人比)となっていた俺の表情も、口に併せてそれなりに緩んでいたわけで。オマケに絶妙なタイミングで風が前髪を少しだけ持ち上げていたようでなぁ……。
俺のこのヤラカシが後にどんな未来を手繰り寄せてしまったのかは────秘密だ。今はまだ、な。