かの黄金は裁定の王者   作:クソメガネ

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プロローグ

 綺麗な人工の大気の中で、アーコロジーと呼ばれる箱庭でこの半生を思い浮かべる。

 私の生きる理由は単に籠の鳥。お父様にとって有用な駒でしかないとわかっている。一つ行動を起こせば得られる至宝の如き利益は彼を大きく増長させ、そして世間から恨みを買った。

 でも如何こう出来る者はいない。世俗に言う財閥の長なのだ。そしてその娘である私は非常に整った容姿をデザインされた。

 財閥の有する人工的な遺伝子操作を元に極秘裏に、最初に作り出された最先端の寵児(デザインベイビー)。それが私だった。

 だが、現実逃避の暇もなかった。成長する過程で詰め込まれた経営学、経営のノウハウ。プログラミングの知識と生産性しかない効率を重視した思考回路の構築。

 最初は楽しかった。帝王学? そんなものまで習わされたし、テーブルマナーは当たり前。社交ダンスや世間に無礼(なめ)られる要因となりそうなものは徹底的に排除された。

 いつしか私はすべてを諦めて多くの製品のデザインや売れる株などの選定を任される様になった。齢にして16の小娘にそれをやらせるわが父は狂っていたのだろう。だがその期待に応えなくてはいけなかった私は徹底的に事をやり尽くした。

 

 結果的に財閥の業績は向上し、お父様を会長職に繰り上げ(はいじょ)してさらなる飛躍を見せた。軍閥との提携にこぎつけ、18歳の頃にようやっとCEOの席を降りることを許された。

 

 ……私はそれからと言う物の、自分のしたいことができず燻ぶっていた反動でニートになってしまった。働きたくないでござる。

 と言うか何もしなくても勝手に資産が増えて行くんだからもう働かなくてもいいでしょ? とお父様に打ち明けると、会長職からCEOに再び座らされた80代のジジイが唸りつつ「お前にはあと子孫を残す仕事があるんだ。早く儂に孫を見せろ親不孝者」と言われた際に私は養子をとってくればいいのか? と返してそれ以降ジジイは何も言わなくなった。

 

 どうあがいても地球は再生できない。アーコロジーの外で過ごせるほど私の体が丈夫ではない……のは分かっている。だが外に出たいという私の夢は意外な形で埋められた。

 

 D M M O R P G<Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game>のジャンルを確立させた金字塔的なゲームが2126年に日本のメーカーが満を持して発売した体感型のMMOに触れたのがきっかけだった。

 そのゲームタイトルは『ユグドラシル<Yggdrasil>』。

 大いに嵌った。その自由度に、そしてやりがいに……ずっとダイブして冒険をし続けるくらいには嵌った。出会ったフレンドの数も多くまぁ成金プレイヤーとしても有名になってしまったがそれは余談だと思う。

 黄金姫なんてあだ名を賜ったりと長々と12年付き合った。そして今日そのサービスは終了する。

 

「フン、つまらぬ物よな……買い上げようにも規模が規模。我が財を全て叩いてまだ赤字を量産する鉄屑を買い上げるわけにもいくまい……」

『仕方ないですよ、ゴールドミヤビさん……サーバーの維持費だけでも凄まじい金額だって聞いてますしこのデータ量ですよ?』

「たわけ、と言うのもこれが最後だろうな」

 

 最初に‘たっち・みー’の紹介で出会ったこの人。オーバーロードと呼ばれるクラスの死霊術を極めた魔法詠唱者(スペルキャスター)のモモンガ氏と他愛のない会話は私にとってアーコロジーの外を知る術でもあった。

 

「モモンガよ、これまでよく付き合ってくれた。ここ、ユグドラシルは(オレ)にとっては第二の故郷よ。貴様の労働環境をよく知れたことも交流の意味はあった」

『ゴールミヤビさん、キャラを最後まで崩さないんですね?』

「抜かるつもりはない! ここに在るは全てを手にしようとした強欲の姫よ! 貴様等からワールドアイテムを奪わずにおいたのは我が蔵に必要ないと断じたまで。今宵にでも奪いに行っても良いのだぞ?」

 

 ボイスチャットで大仰なセリフを吐くのが楽しくてこのロール。傍若無人の黄金姫たるこの世界の私はまさに金色、褐色の肌に神紋と呼ぶべき魔力が通う赤いボディペインティングラインが特徴の超絶美少女である。

 モモンガ氏のギルド、‘アインズ・ウール・ゴウン’がギルド武器並に手間と時間という暇をかけたこのアバターは完成まで苦心八年かけた。

 加えてクラスにサーバー内で2人といない唯一のクラス。‘ハーフ・ゴッズ’と言う希少性の高いユニーククラスだ。

 

『勘弁してくださいよ、みんながいたならまだしも……みんなが居たなら勝てるんです……!』

「……失念していた。すまん、モモンガよ」

『いえ、僕としてもフレンドがこうしてログインしてくれてるだけでも嬉しいんで。高望みはしちゃいけないんですけど……』

「わかるわ、その気持ち。たっちさん抜きでワールドチャンピオンクラス手にしても虚しいだけだもんね」

『ミヤビさん、素に戻ってますよ。ほら、しっかり!?』

 

 その言葉で黄金姫ロールを再開する。くっ、一生何度目かわからない不覚だわ。

 

「見苦しいものを見せたな、モモンガよ。して、貴様はここでこの黎明を終えるのか?」

『はい、サーバーダウンのログアウトまで見守るつもりです』

「そうか。ならばカウントダウンくらいは付き合ってやろう。もっとも、ナザリックに入るつもりはないが」

『チャットで、ですか?』

「ああ、それくらいの時間は付き合ってやろう」

 

 コンソールを開き時刻を確認する。時刻は深夜11:59.02。走馬灯のように出会いと別れ、そして衰退を懐かしむ。

 空舞う玉座こと。ヴィマーナの玉座に腰を下ろして、データが生み出した満点の夜空に散りばめられた星々の煌めきを眺めながら思い耽る。

 

『ミヤビさんは次のゲームの予定とかはあるんですか?』

「さてな? (オレ)としてはまだ決めあぐねている。他のDMMOの候補が多いのも確かだが、食指が動くかどうかはまた別問題よ」

 

 この問題に尽きる。ユグドラシルほどの自由度があるゲームがないのが現状の課題というべきか……もう、終わりか。

 

「さて、ではな。モモンガよ、貴様の労働環境は少しはよくなったか?」

『なんでかは分かりませんけど、ブラックな勤務体制はすこーしマシにはなりましたよ? へろへろさんも感謝してるって。まぁ、今日は疲れたからすぐにログアウトしていっちゃいましたけど……』

「そうか。(オレ)の威光に伏さぬ者などその程度か」

 

 カウントダウンは進む。そして、11:59.58……59……わたしは目を瞑る。さらば、我が楽園よ。さらば、ゴールドミヤビ……わたしの半身よ……しかし、ログアウトの浮遊感が訪れない。

 

 00:00.00……01、02……

 

「なぜログアウトされない!?」

 

 息を吸い込み、ハッとなる。呼吸しているのか、アバターが……!? いや違う、これは声を出している!? 鼻腔を突くのは青臭い草葉の匂い……!? 

 

「聴覚、嗅覚……嗅覚は規制されていたはず。どう言うことだ? アバターにここまでの再現性を盛り込むのは諦めたと言うのに……いやそれよりもだ」

 

 蔵を開く際に微量のMPを消費する。0.01秒も待たずに回復するので本当に微量程度だが。取り出したのは手鏡。肌を撫でる夜風が心地よく、刺激される。

 

「うっ、少し冷えるな……裸同然の格好ではまぁ仕方もなし、だがな」

 

 セクシャルコードに引っかかるギリギリまで肌を露出させてあるし、寒いのは当然。なので、蔵より取り出した分厚いネメア獅子の毛皮のコートを着て寒さをシャットアウトする。

 

「さて、やはり……表情筋が動いておるな。まるで生きているかのように」

 

 赤い、否。真紅の、ルビーの如き瞳は魔力を帯びて煌く。これは夜間をも見渡して見せる暗視の役目を持つ‘神眼’を発動したからである。

 周囲の生命の探知を可能とするらしく、要は‘千里眼’と言うべき代物なとても便利なスキルだ。その対象は自身のバイタルステータスにも及ぶのだが……コンソールも開けず、GMコールも並行して試しているが無駄に終わる。

 そして、バイタルステータスは正常で、脈も鼓動……心臓の動きが視えた。

 

「フッ、それはそれとしてやはり(オレ)は黄金よりも美しいな」

 

 見惚れる。パッチリとした二重瞼に治まる真紅の瞳は神に近いものである証明で、高く筋が綺麗な鼻梁。リップも無しに瑞々しさを持つ、程よく妖艶に膨らんだ桜色の唇。ここまでの顔のパーツによりはっきりとした美を体現する貌は見るものに畏敬、あるいは情欲をそそらせるだろうとわたしは予測する。

 

「……いかんな、見惚れている場合ではない」

 

 名残惜しさを感じる自分に嫌気がさしつつも手鏡を蔵に収めて、神眼を解除する。私は確かナザリック地下墳墓の近くが沼地にいたはずが、今はどこかの草原にいるのがわかる。

 

「マップの読み込みエラーではないだろうな。おそらくは異世界に転移した……と? いや、認めたくはないが……だな。大昔のアーカイブを読みすぎて頭がおかしくなったかと思うがそうではないらしい」

 

 人を探し、この世界のことを知るべきか否か。無為に動く必要もないかと夜明けを待つことにする。しかし……

 

「しかし、この空は美しいものだな。我が手中に収めるにしても……いいや、強欲もすぎるな」

伝言(メッセージ)……誰かいないか?』

 

 糸が繋がる感覚を覚え思わずレジストしかけてその声を聞き。その聞き慣れた声は私に安堵を齎してくれた。

 

「む、何用かモモンガよ……いや、モモンガ氏!? 君はどこにいるんだ!?」

『えええ!? ミヤビさん!? ミヤビサンナンデ!?』

 

 ──

 

 to be continued .

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