最近、暑くなってきましたね。
第13幕:スメールの森の中
〜三人称視点
玲瓏はスメールの森の中へと一気に駆け出していった。風を切って走る彼の姿はまるで影のように速かった。
「ちょっと、玲瓏!待って!」
刻晴は引き止めようとしたが、そのスピードには追いつけなかった。目の前から玲瓏の姿がすぐに消えてしまい、彼女は思わずため息をついた。
「……もう…」
その時、背後から玄鳥たちの声が聞こえた。
「刻晴〜。」
振り向くと、玄鳥、胡桃、燕、そして蛍が走り寄ってきた。
「あ、みんな。」
刻晴は少し驚きの表情を浮かべると、玄鳥に答える。
「何があったんだよ。刻晴と玲瓏が璃月を出て行くのを見たから、ついてきたんだ。」
「何かあったんだ?」
燕が尋ねると、刻晴は少し呆れたように息をつき、話し始めた。
「玲瓏が『なんかスメールに落ちたの見たから見に行く!』って言って聞かなくて…そのまま取り逃したわ。」
「さっきの揺れってスメールからだったんだ。」
藍硯が言うと、刻晴は黙って頷いた。
「みんなには悪いけど…スメールまで着いてきてくれない?私、土地勘無くて…」
刻晴の声には少し不安が滲んでいた。いつも冷静な彼女でも、こういう時には心細くなることがある。
蛍が自信たっぷりに答える。
「任せて、スメールには行ったことあるから。」
そう言うと、蛍が先頭に立って歩き始め、みんなもそれに続いた。
「じゃあ、行こう!」
そのまま一同はスメールへと駆け出していった。
刻晴は少し安心したような表情を浮かべ、他のメンバーも心強そうに歩き始めた。スメールの地に何が待ち受けているのか、誰もまだ分からなかったが、少なくとも一緒に行動する仲間がいるということは、心強いことだった。
………………
「………こっちだよ」
蛍が木々をかき分けながら先導する。足元には湿った苔と絡みつく根、空は枝葉に遮られてほとんど見えない。
「ふっけぇ森だなぁ……ほんとに街なんかあるのかよ?」
伏龍がうんざりしたように呟いた。
「あるんだって。俺も前に少し歩いたことあるからさ」
玄鳥が振り返りつつ言うと、伏龍は眉をひそめながらも黙ってついていく。
しばらく歩いていくうちに、木々の間からぽっかりと開けた広い空間に出た。涼しい風が通り抜け、空が一気に開ける。
「この上に七天神像がある。そこからならスメールシティが見えるはずだよ」
蛍が指差した先には、切り立った崖。その上に石造りの神像が立っているのがうっすら見える。
「確かに高そうだな。よし、俺がそこから玲瓏を探してみる」
十夜が前に出る。
「俺も手伝うぜ」
伏龍も肩を回し、準備万端といった様子。
「じゃあ、俺も行くか」
玄鳥が軽く頷き、3人は崖を登り始めた。
岩肌は滑りやすく、木の根や蔓を掴みながら慎重に進む。登り切った先には、壮大な七天神像が静かに佇んでいた。その背後にはスメールの深い森が広がり、遠くには都市の輪郭が霞んで見える。
「見ろよ、あれだ! あの向こうにあるじゃねぇか!」
十夜が指をさす。陽光に照らされた建物の影が、森の奥に浮かび上がっていた。
「ああ……間違いない、スメールシティだ」
玄鳥が頷く。
「よし、じゃあ降りよう。合流して向かうぞ」
伏龍が先に崖を下り始め、他の二人もそれに続く。
ほどなくして、下で待っていた蛍たちと再び合流。
「見えたよ。都市はあっちだ」
玄鳥が指をさすと、一同は頷き合い、再びスメールシティを目指して歩き始めた。
深い森の先に何が待つかは分からない。けれど、確かな目的地がある今、誰もがその歩みに迷いはなかった。
………………
「うーん……ここ、どこだ?」
その頃、玲瓏はスメールの森の中で迷子になっていた。頭の中には地図も方角も無く、あるのはただの“勢い”だけだった。
(適当に走ってたら、いつの間にか迷ってた……)
深くうっそうと茂る樹々の間を抜けながら、玲瓏はひとまず歩を進めていた。その時——
――ビュッ!
背後から殺気。反射的に玲瓏は横に跳ねて回避した。
「っ……なんだ!?」
『避けたっスね?まさか気付かれるとは……やりますねぇ』
玲瓏が素早く振り向くと、そこにはコオロギを模した異形の魔物が立っていた。背中には不気味な棘、脚には異様な跳躍筋――その姿は明らかにただの獣ではなかった。
「なんだお前……」
『オレはコウロギス!で、お前、人間だな?』
「だったらなんだ」
『コロス!』
甲高い声と共に、コウロギスは飛び跳ねるようにして襲いかかってきた。奇妙な軌道で跳ね回りながら、玲瓏の周囲を翻弄する。
「ちょこまか動きやがって……!」
玲瓏は刀を抜き、素早く斬撃を繰り出すが、コウロギスの跳躍と反射神経は尋常ではなく、その刃は空を切るばかり。
「チッ……!」
すると、コウロギスは一際高く跳ね上がり、空中で脚をたたみ、鋭く蹴りを放ってきた!
だが――
『グワッ!?』
突然、横合いから飛来した光の軌道が、コウロギスの腹を捉えて吹き飛ばした。それは回転する鋭利なチャクラム。的確に急所を狙った一撃だった。
「今のは……」
「玲瓏!」
声に振り返ると、森の奥から刻晴たちが駆けつけてきた。先頭に立っていたのはチャクラムを操った藍硯だった。
「刻晴……」
「バカ!急にいなくなったら心配するに決まってるでしょ!」
刻晴は肩で息をしながら怒鳴る。だが、その瞳には安堵の色が見え隠れしていた。
「……わ、悪い……」
「それより、今の虫みたいな奴、どこ行ったの?」
藍硯が鋭く周囲を見渡す。
「あっちに吹っ飛ばされた。スメールシティの方向だ」
玲瓏が右手を伸ばし、森の開けた方角を指差す。
「あれが街の方角か……」
玄鳥が一歩前に出ると、すぐに足を踏み出した。
「追おう!あいつ、何か企んでるかもしれない!」
「よし、行こう!」
十夜と伏龍も玄鳥の後を追って駆け出し、他のメンバーもすぐに続いた。
〜玄鳥視点.
『グヌヌ……あの人間どもめ……』
スメールシティの入り口――
俺たちが森を抜けて駆け込むと、そこにはよろめきながらも市民に襲いかかろうとしているコウロギスの姿があった。
「待て、虫野郎!」
俺が叫ぶと同時に、奴は苛立ちに満ちた声で振り返った。
『ケッ!もう来たのかよ!?しつこい連中だぜ……!』
「こっちは急いでるんでな。早めに終わらせてもらう!」
俺と玲瓏は一気に距離を詰め、左右から飛びかかる。
鋭く交差する双剣の斬撃が、コウロギスの両腕を切り裂いた。
『グギャァッ!?』
苦悶の叫びを上げたその瞬間――
十夜が地面に剣を突き立てると、草元素が地面を走り、無数の蔦がコウロギスの体を絡め取った。
「動きを止めたぞ、今だ!」
「任せろ!」
伏龍が弓を引く。矢に風元素が集中し、白い閃光が先端に宿る。
「くらえ!」
矢は放たれた瞬間、真っ直ぐに空気を裂いてコウロギスの胸に命中し、衝撃と共に爆裂。爆風に巻き込まれ、コウロギスの体は粉砕された。
『ギャアアアアアア……ッ!!』
……やがて、黒い煙を残して奴の残骸は消滅した。
「よし!片付いたな!」
「やったぜ。」「チームワークの勝利、ってやつかな?」
一同が安堵の息をつき、勝利の余韻に浸るその時――
「お、発見したぜ。」
不意に聞こえた男の声に、全員が警戒してそちらを向いた。
視線の先から歩いてきたのは、三人の見知らぬ男たちだった。
――一人目は、赤いバンダナを巻いた筋骨隆々な大男。
――二人目は、青いバンダナを締めたやや小太りの中年男。
――三人目は、黄色いバンダナを巻いた小柄な少年。どこか油断ならない目をしている。
「誰だ…?」
警戒の声に、三人組の一人――赤いバンダナの大男がニヤリと笑った。
「ふっ……聞いて驚け!」
「ラール!」「ニーラー!」「ピーラー!」
「3人合わせて!」
「スメール三人衆!!」
「………………」
周囲に気まずい沈黙が流れた。風の音だけが通り過ぎる中、しばしの静寂を破ったのは――伏龍だった。
「…さてはお前ら… 馬鹿 だな?」
「な、何!?侵略者の癖に生意気だぞ!」
三人は一斉に懐から何かを取り出した。
それは一見、神の目に酷似した装置。
「……あれは……」
「“邪眼”…か?」
十夜と蛍が同時に言葉を漏らす。二人には、かつての戦いの記憶が蘇っていた。
三人は“邪眼”を自身の胸元や腕に装着すると、ゴォォ…と音を立てて黒く光り出す。
次の瞬間、彼らの体を覆うように、鎧と機械の意匠が融合した装甲が展開された。
「どうだ?侵略者。強そうだろ〜?」
「怖気付いたなら、街から出てって貰うぜ。」
「僕たちの力、見せつけてやる!」
完全にやる気満々な三人を前に、俺たちは戸惑いながらも自然と構えを取っていた。
「どうする?」
「誤解を解くしかないよ…なんか勘違いしてるみたいだし…」
玲瓏が小声で話してきた。確かに、彼らは俺たちを敵と勘違いしてるだけかもしれない…
だが、その緊迫を切り裂くように、どこからともなく別の声が響いた。
「おいおい……抜け駆けはダメだろ。」
視線を向けると――
フードを深く被った少年が、ゆっくりとこちらに歩いてきていた。
「「「親分ーっ!!」」」
三人衆が揃って敬礼のように手を挙げる。
「……親分?」
俺たちが目を細める中、少年はふっとフードを払った。
黒髪に派手に装飾された服と狼耳の生えた少年は、小さく拳を鳴らす。
「……じゃ、やるか。」
笑みの奥に、確かな威圧と実力を感じた。
腰の神の目が、紫色の光を放っていた。
(……これは、一筋縄じゃいかねぇな。)
思わず、そう心の中で呟いた。
遂にスメール編突入です。
新キャラも…
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