〜三人称視点.
ファングたちが警戒しながら外へと出た瞬間、目の前に広がる光景に言葉を失った。そこには無数の機械兵が整然と並び、その中心には二人の男が立っていた。どちらも人間離れした威圧感を放っている。機械兵の機械音だけが、辺りに不気味に響いていた。
「……来たか。随分と待たせてくれたな?」
右に立つ男が、手にした銃を器用にクルクルと回しながら、ゆっくりと口を開いた。その声音には余裕と狂気が入り混じっている。
「へっ、遅ぇんだよ。こっちはもう飽きちまったぜ?」
左に立つ男が鋭い眼光を放ち、ファングたちを睨みつけながら吐き捨てるように言った。
ファングが一歩前に出て問いただす。「貴様ら……何者だ?」
その問いに、右の男がわざとらしくため息をついた。
「我々に敬語を使わないとは……まったく、最近の若者は礼儀を知らない。そんな無礼、万死に値しますよ?」
「へへ……言ってやれ兄貴。こいつら、俺たちが誰なのか思い知らせてやらねぇとな」
二人の男は懐から邪眼のような奇妙な装置を取り出すと、それぞれの銃に手際よく装着した。
「――“重装”」
その言葉と共に、銃のトリガーが引かれ、濃密な煙が彼らの体を包み込む。そして煙の中から現れた姿は、先程とはまるで別人だった。硬質な装甲に包まれた肉体、重厚なエネルギーが全身から漏れ出すような異形のシルエット。
「……その姿……あれは……!」
「アクアブロス……」「そして……フレアブロス……!」
「……なんだあの化け物たちは……!
「みんな、気をつけろ!」
「了解でさァ、親分!」
「うん……行こう!」
ファングたちは各々の武器を構え、目の前の機械兵たちへと向かって一斉に突撃を開始した。玄鳥は一歩先んじて前に出ると、腰に携えた剣を素早く抜き放ち、ダトマス兵の一体を斬り裂く。
一方、三人衆もそれぞれの邪眼を発動させ、アーマーを纏って戦闘態勢に入っていく。彼らの体から発せられる魔力の波動が、大気を微かに歪ませた。
「ふっ……ダトマス、排除開始」
フレアブロスが冷静に指示を出すと、背後の機械兵ダトマスたちが一斉にライフルを構え、猛烈な銃撃を開始した。銃弾が雨のように降り注ぐ中、爆発音と金属音が交錯する。
「さて、私も行くわ。」
燕が短く呟くと、長剣を手に跳躍し、鋭い軌道を描いてダトマスの群れへと突撃した。地を蹴るたびに小さな爆風が生じ、剣閃が閃くたびに機械兵の装甲が切り裂かれていく。
………………
「くっ……コイツら、強いっ!」
「こんなの……どうやって相手しろってんだよ……!」
玲瓏たちは、ダトマス率いる大軍勢に苦戦を強いられていた。
敵の一体一体は決して手強いわけではない。だが、次から次へと押し寄せる数の暴力が、確実に彼らの体力と集中力を奪っていく。
「……チクショウ、玄鳥たちの援護に行きてぇのに……!」
苛立ちと焦燥が混じった声が、伏龍の喉から漏れた。
一方その頃、ファングとラールたちは、アクアブロスとフレアブロスという強敵二人を相手にしていた。
「……こいつら……!」
ファングが歯を食いしばる。その視線の先で、アクアブロスが冷ややかな瞳を向けながら口を開いた。
「雑魚どもが……我々の邪魔をするな」
その言葉と同時に、アクアブロスの蹴りがファングの腹部に炸裂。ファングは吹き飛ばされ、街灯に激突した。
「ぐっ……!」
呻き声を上げながらも立ち上がろうとするが、全身を走る激痛に膝が崩れ落ちる。
「雑魚に用はねぇ。さっさと死ね」
アクアブロスの手に握られた銃が赤く光り、エネルギーが収束されていく。照準は、動けぬままのファングの胸元を捉えていた。
「親分、危ねぇっ!」
その瞬間、ニーラーが飛び出した。
ファングの前に身を投げ出し、エネルギー弾の直撃をその身で受け止める。
「……チッ、雑魚が雑魚を庇いやがって……」
アクアブロスが忌々しげに吐き捨てる。
……
煙が晴れたと同時に、ニーラーの体が地面に崩れ落ちた。
「ニーラー……! 大丈夫か……!?」
ファングはよろけながらも必死に立ち上がり、彼の元へ駆け寄った。
だが、ニーラーの体は既に崩壊の兆しを見せていた。
粒子が皮膚の表面から滲み出るように舞い上がり、徐々に形を失っていく。
「ニーラー……クソッ、何が起きてやがる……!」
「親分…」
かすかな声でそう呼ぶと、ニーラーは震える手でファングの手を握った。
その手には、彼の首から下げていたドッグタグのひとつが握られていた。
「し、心配だな…親分…俺が居ないと何にもできないから…」
無理に笑おうとする顔に、死の影が忍び寄る。
ニーラーはそのドッグタグをファングの手に託すと、最後の力を振り絞るように囁いた。
「親分…何があっても…一緒ですよ…」
その言葉と共に、彼の体は無数の光の粒へと砕け、空へと還っていった。
ファングは何も言えず、ただその場に膝をついた。手の中には、温もりを失った金属のタグだけが残されていた。
………………
「ふーん……まぁまぁってとこか。この“分裂弾”、なかなかの威力じゃねぇか」
アクアブロスがつまらなそうに呟いた、その瞬間だった。
「てめぇッ!!」
怒声と共に、伏龍と玄鳥が飛びかかる。斬撃がアクアブロスの懐を狙って迫る。
「お前!何したか分かってんのかッ!!」
伏龍の叫びが怒りに満ちる。だが、アクアブロスは眉ひとつ動かさず、逆に銃を構えて二人を撃ち払った。
「はあ? ただのおもちゃが壊れただけだろ? ……それの何が悪ぃんだよ?
その言葉に込められた無関心と残酷さは、凶器以上に冷たく響いた。
「じゃ――お前らも、用済みってことだな」
アクアブロスが再び銃を構え、エネルギーのチャージを始めようとしたそのとき。
「お止めなさい、雷」
フレアブロスの静かな声が、その動作を制した。
「ゴミ共に、それ以上の無駄撃ちは必要ありません」
「……ちぇ。なんだよ、それ。つまんねぇな」
アクアブロスは肩をすくめ、つまらなさそうに吐き捨てた。
「そんじゃあな、雑魚共。せいぜい絶望の味でも噛み締めてな」
そう言って、アクアブロスは銃口から排熱の煙を放ち、フレアブロスと共にその場から姿を消した。
「……クソッ、逃げやがったか……」
伏龍が拳を握りしめ、地面を睨みつける。
「……いや、それよりも……」
玄鳥が小さく呟き、視線をファングの方へ向けた。
その声に釣られるように、伏龍も振り返る。
そこには、静かに膝をついたファングの姿があった。
彼の拳には、今はもう持ち主を失ったドッグタグが強く握られている。
声にならない叫びが喉の奥で震え、唇がわなないていた。
怒りでも、悲しみでもない。
その叫びは、ただ――心の奥底から絞り出される、どうしようもない喪失そのものだった。
空には、まだ戦いの残り香が漂っていた。
けれどその時、ファングの周囲だけは異様な静寂に包まれていた。
書いてる途中にニヤけてしまいました。
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