【本編完結】仄かな焔は璃月を舞う   作:サツキタロオ

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ナド・クライに入ったらしいのでしっかり終わらせたいと思いました。


第26幕:臼と杵

 

〜マルク視点.

 

「マルクー。」

「どうしたフリーナ?」

部屋で漫画を読んでいると、フリーナがドアを開けて入ってきた。手には紙袋と、もうひとつビニール袋。

「なんだ、それ。」僕はビニール袋を指さす。

「これかい? お餅だよ。」

「餅? あの、米から作るやつか?」

「そうそう。安かったし、美味しいって評判なんだって! せっかくだから買ってきたんだ。一緒に食べようよ!」

「………」

さっき飯を食ったばかりだが……まあ、小腹は空いてる。せっかくだし、付き合うことにした。

 

………美味い。しっかりした餅だ。非常に素晴らしい。

「美味いな。」

「でしょ? ほっぺが落ちそうだよ〜」

フリーナは頬をふくらませ、幸せそうに餅を頬張っている。その表情が妙に柔らかくて――僕はつい手を伸ばした。

「むにゅ」

指先に伝わる、やわらかさ。

「……やわらけーな。」

そう言いながら感触を確かめるように頬を押していると、フリーナが顔を真っ赤にして僕の手を振り払った。

「マルクー! いきなり何するのさ! びっくりしたじゃないか!」

「嫌だったのか?」

「嫌じゃないけどぉ……!」

「じゃあいいよな。」

再び伸びる僕の手。フリーナは口を尖らせながらも抵抗しきれず、結局また「むにゅ」と押される。モチモチしていて、正直ちょっと面白い。

 

………………………………

 

「――というわけで、稲妻に来た。」

「唐突だな、おい。」

稲妻の街に足を踏み入れた瞬間、十夜が呆れたように眉をひそめた。確かに事前に連絡はしたが、説明が簡潔すぎたかもしれない。

「十夜、餅の作り方を教えてくれ。」

「はあ? なんでさ。」

「僕は、餅の美味しさをもっと知りたくなった。――だから稲妻に来た。そういうわけだ。」

「理由が雑だな。」十夜は肩をすくめながらも、歩き出す。「まあ確かに餅は稲妻発祥だ。もち米を蒸して、杵で搗いて作る……古来から伝わる食べ物だな。」

歩きながらの説明を、僕は手帳にきっちり書き留める。こういう知識はちゃんと記録しておきたい性分だ。

「……ガキの頃はよ、宵宮やらと一緒によく食ったもんだ。きなこ餅とか、醤油餅とか……あれは美味かったな。」

十夜が少し懐かしそうに笑う。彼の視線の先には、通りの奥にある木造の餅屋が見えた。木の看板には太い筆文字で「臼と杵」と書かれている。

近づくにつれ、蒸した米の甘い香りが漂ってくる。店先では、逞しい腕の男が大きな杵を振り下ろし、「よいしょ!」と威勢のいい掛け声を響かせていた。臼の中で白い餅が弾むたび、見物人から小さな歓声が上がる。

「着いたぜ。ここが稲妻でも評判の餅屋だ。」

十夜が腕を組んで店先を見上げる。僕はしばらく、臼と杵のリズミカルな音に聞き入っていた。まるで一つの演奏のようだ。

「んすごい。なんか知らんが音楽のようだ。」

「――早速だ。作ってみるか。」

 

「作れんのかよ。」

 

「当たり前だ。稲妻出身だからな!」

 

胸を張る十夜。その勢いに押されて、気がつけば僕も杵を手に取っていた。

 

「まずは体力作りだ!」

「押忍!」

なぜか掛け声だけはやたら本格的だ。続いて僕らは山奥の清流まで走り、汲みたての天然水を確保した。

「使うのは、この冷たく澄んだ水だ!」

「押忍!」

やたら真剣な雰囲気になってきたが、まだ餅は一ミリもできていない。

――そしてここから、完全に常識が吹き飛んだ。

「玄鳥! この餅を加熱しろ!」

「え、餅? まあいいけど……」

 

玄鳥は愛用の剣を抜き放ち、刃に炎を纏わせる。轟々と燃え上がる火柱が餅を瞬時に炙り、湯気が立ちのぼる。

「次は急速冷凍だ!」

「なら僕の出番だな!」

 

氷の剣士が無駄にカッコよく登場し、冷気を纏った一閃で餅を一気に凍らせた。

「……次に月の光に当てる……伏龍!」

呼ばれた伏龍は、無言で矢に餅をくくりつける。

「これで撃てばいいんだな?」

「ああ、思いっきりやれ。」

「……餅は好物だからな。」

 

餅は矢とともに月へと撃ち出され、宇宙を経由し、流星のごとく地上へ落下――臼の中にズドンと着地した。

「最後は超怪力で搗く! ファング!」

「任せろ。」

 

ファングの怪力が唸りを上げ、臼の中の餅をこれでもかと搗き続ける。

 

その瞬間――餅が、まばゆい黄金色の光を放ち始めた。

 

「な、なんだこれ!? めちゃくちゃ輝いてるぞ!?」

「餅って……普通、こんなに光らないよな……?」

 

玄鳥が半ば呆然としながら呟く。確かに見たこともない神々しさだ。もはや食い物というより、伝説の秘宝みたいになっている。

 

「……玲瓏に食わせてみるか。」

僕は玲瓏を呼び出して向かわせる。

「おい、なんなんだ俺は今サボりで忙――」

 

現れた玲瓏に、僕は容赦なく餅を突き出す。

「玲瓏。この餅を食ってみろ。」

「……? 分かった……。」

玲瓏は訝しみながらも、一口で餅を頬張った。

 

「ぬ……ぬおおおおお!! 体が巨大化していくッ!? 目や口から光が……いやでも美味い!! すこぶる美味いぞぉぉぉ!!」

 

玲瓏が絶叫しながらも、次の瞬間には夢中で餅を頬張っていた。体は巨人のように膨れ上がり、背後にはなぜか後光まで差している。

 

「……食べても大丈夫みたいだな。」

「これで安心だぜ。」

玄鳥と僕はホッと胸を撫で下ろす。どうやら爆発したり、呪いが発動したりはしないようだ。いや、あの光り方はちょっと怪しいが――まあ、美味いならいいか。

 

「……美味いな。」

「美味い。」

 

言葉少なに、僕らは光り輝く餅を黙々と食べ続けた。月を経由し、炎と氷と神秘の力を宿した餅。味は保証付きだし、何より――このバカげた工程が妙に楽しかった。

 

こうして一日が終わる頃には、臼と杵の前に食べ終わった皿の山ができ、僕らはやけに満ち足りた気分で空を見上げていた。

 

思い出には、なったな。

 

その頃――璃月

 

夜更けの執務室で、刻晴は机に積まれた資料を手際よくめくっていた。

「玲瓏の奴……またサボってどこかに行ったわね……」

眉をひそめる刻晴の隣で、甘雨が控えめにため息をつく。

「いつものことですよ。伏龍さんも姿を見せませんし。」

二人が半ば呆れながらも書類整理を進めていると――

 

バサリ……

 

窓の外から、何かが落ちてきた。

「……あら、これは?」

刻晴が拾い上げたそれは、一通の手紙だった。封蝋には、見慣れぬ紋章が刻まれている。月と餅を象ったような、不思議な印。

 

「…何かしらコレ…」

 





ウチは毎年餅つきします。

次回はしっかり本編です。信じてくださ

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