【本編完結】仄かな焔は璃月を舞う   作:サツキタロオ

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第30幕:落日

 

デュアブロスは叫びもせず、鋼の巨体を振りかぶって突進した。彼の一撃は普通なら戦場の形勢をひっくり返す破壊力を持つ――だが、その拳は宙を切るばかりであった。

 

「どのような相手だろうが……私には勝てませんよ!」

 

 雄叫びが砂塵に消える間もなく、イグニスは軽やかに受け止めた。黒い装甲が衝撃を吸い、衝撃の連鎖がイグニスの肢体を伝って跳ね返る。彼の動きは機械のように正確で、連続する一撃は刃のように冷たく、容赦がなかった。

 

 一瞬のうちにデュアブロスの重装甲の継ぎ目が砕け、関節部から火花が散る。彼の体がのけぞり、砂浜に膝をつく。周囲の時間がゆっくり流れたかのように、破損した鉄片がぱらぱらと落ちる。

 

「おいおい、乱暴だな? ま、雑魚なりに頑張ってるんだと思うけどよッ!」

 

 イグニスは嘲るように笑い、踵でデュアブロスの胸板を一蹴する。衝撃で砕け飛んだ装甲の隙間から、内部構造がむき出しになり、油と蒸気が蠢いた。砕けた装甲片が砂に刺さり、鉄の匂いが鼻腔を刺激する。

 

「クソッ……馬鹿な……!?」

 

 デュアブロスの声は、もはや威圧ではなく、驚愕と恐怖に満ちていた。彼は己の優位を疑い、足元が揺らぐのを抑えきれない。だがイグニスは一瞬の躊躇も許さない。手早く、腰の装備から細長い針を取り出すと、冷酷にそれを突き刺した。

 

針先が肉(あるいは中枢の機構)に達した瞬間、黒い毒のような液体がゆっくりと流れ込む。デュアブロスの周囲で金属のきしむ音が高まり、彼の体は内側から崩れた。装甲に走る亀裂が広がり、やがて表層が溶解して滴り落ちる。生々しい臭気とともに、半ば溶けた残骸が地面に垂れ、風に乗って飛沫が散った。

 

 一同は、その光景に言葉を失った。ファングは拳を握りしめ、目に怒りと冷えた恐怖が交差する。

 

「マジか……」

砂の上で、デュアブロスはもがき、そして無残に崩れていった。彼の声は潰え、残ったのは錆びた歯車のかけらと、煙をあげる装甲の残骸だけである。

「なんてことを……」

甘雨の声は震えていた。人間でも機構でも、目撃したものの生々しさは変わらない。仲間の破壊が、現実の冷酷さを突き付ける――それだけの事実が場を硬直させた。

「へっ、別にいいじゃねぇか。さて……じゃあお前らにも死んで貰うぜ!」

イグニスは無感情に言い放ち、デュアブロスの散った銃を拾い上げた。彼がその銃を構えると、銃身は滑らかに光を帯び、冷たい機械音が耳をつんざく。狙いを定める彼の背中に、いっそうの余裕と殺意が宿る。

銃口が仲間たちを向いた瞬間、海風が鋭く吹き抜けた。遥かな波の音さえ、今は戦場の遠景に過ぎない。玄鳥たちは刃を固く握り、矢を番え、術式の集中を高める。互いの視線が交差し、言葉にならない意思が共有される――ここで後ずさるわけにはいかない……。

 

………………………………

 

「くっ…コイツ、俺たちの動きを先読みしているのか…?」

焦りを滲ませる声が響く。

 

「当然だ!」イグニスは嘲笑を浮かべる。「お前らの戦闘データは、既に俺の中に刻み込まれている!」

 

次の瞬間、イグニスの爆発的な動きにより全員が吹き飛ばされ、地面を転がった。

 

「みんなっ!」

玄鳥は呻きながらも立ち上がり、地に突き刺さったマルクの剣を掴む。両手に二本の剣を構えるその姿は、まるで決死の武人そのものだった。

 

「…やはりお前が一番の脅威か。面白い、楽しませてくれよ!」

イグニスの瞳が殺気に光る。

 

金属が火花を散らし、二人の剣が交錯する。重い衝撃音と共に、玄鳥の全身に凄まじい圧力がのしかかった。

 

「くそっ…! 強すぎる!」

玄鳥は必死に食らいつくが、イグニスの動きはさらに速い。

 

「遅い!」

イグニスの一撃が玄鳥の剣を弾き飛ばした。宙を舞った剣が地面に突き刺さる。

 

「終わりだ!」

イグニスの手に握られていたのは、起動済みの地雷だった。

 

「なっ…!?」

玄鳥の胸に張り付けられた瞬間、轟音と閃光が辺りを裂く。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

至近距離の爆発に巻き込まれ、玄鳥の身体は衝撃波と炎に呑まれていった。





主人公死す…?

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