【本編完結】仄かな焔は璃月を舞う   作:サツキタロオ

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前作から31話も早い!


第32幕:誓いの梅の花

 

「行くぞ!」

 

玄鳥は短く宣言すると、腰のユニットを静かに展開した。金属が滑るような音を立て、機構が組み上がる。次の瞬間、背中から炎の翼がゆっくりと、しかし確実に形を成していった。朱と金が混じる光が周囲を照らし、まるで夜明けの一筋の光のように存在感を放つ。腕に炎を纏わせたその両腕をゆっくりと構え、玄鳥はまっすぐイグニスたちへ向かった。

 

「な、何ィ!? あれは――!」

 

イグニスの声が戦場にこだましたが、言い終わる前に玄鳥の一撃が叩きつけられた。防御の構えを取ったはずのイグニスの体が弾かれ、吹き飛ばされる。衝撃の余波が砂と瓦礫を巻き上げ、光の粒子が舞った。

 

その直後、巻き込まれたエイリアン兵たちが苦鳴もなく崩れ、装甲が滴り落ちるように溶解していく。黒い体液が地面へ垂れ、最後は小さな爆散とともに跡形なく散った。視界にはただ、光と蒸気だけが残る。

 

「なんだよ、あれ……!?」

「なんか、すげぇ……」

 

玲瓏と伏龍は目を見開き、口元が震えた。驚愕と畏怖が混じる表情だ。玄鳥は二人に歩み寄り、その炎の手をそっと伸ばす。

 

「二人とも、大丈夫か?」玄鳥の声は以前よりも落ち着いていたが、その中に静かな力が宿っている。

 

「……まあ、怪我したくらいだ。」玲瓏が苦笑を浮かべる。

「こっちは腹に深い傷を負ったぜ。」伏龍は腹部を押さえ、顔をしかめていた。

 

玄鳥は炎をぎゅっと固めるようにして、二人の傷口へと触れた。炎は燃えるというより、温かな光の膜のように広がり、触れられた部分から冷たさが消え、痛みが和らいでいく。皮膚の切れ目が縁からゆっくり溶け合い、肉が再接合していくその光景に、二人は思わず息を呑んだ。

 

「うわぁお!!……あれ、熱くないな。」玲瓏が驚きを隠せずに口を漏らす。

「むしろ……傷が、癒えていく……」伏龍も目を丸くした。

 

だが、戦場は甘くはなかった。イグニスは怒りを露わにして突進してきた。拳を振るい、再び玄鳥を叩き潰そうとする。だが玄鳥は振り返りざまにその腕を払い、相手の攻撃を受け流しながら逆に強烈なカウンターを叩き込む。鉄の衝撃が空気を裂き、イグニスの体が軋んだ。

 

「はあっ!」

玄鳥の蹴りが入ると、イグニスは制御を失ったように吹き飛び、地面の上に叩きつけられていった。蒼白い破片が散り、彼の装甲には深い亀裂が走る。イグニスは呻きながらも立ち上がろうとしたが、その足取りは明らかに鈍っていた。

 

玄鳥は息を整え、炎の翼をゆっくり畳む。背中の羽はなおも淡く残光を放ち、周囲に立ち込める蒸気が竜巻のように渦を巻く。戦場の音が一瞬止まったかのように、仲間たちの視線はただ一人の少年へと向けられた。

 

その瞳には、確固たる決意と、どこか遠い場所を見据える静けさが宿っている。彼はもはや、ただの同胞ではなかった――何か大きな力を宿した存在として、戦う者たちの前に佇んでいた。

 

砂煙の中、仲間たちは互いに顔を見合わせた。勝利の余韻より先に、今後の戦いがより一層厳しくなることを誰もが直感していた。だが同時に、胸の奥に湧くのは淡い希望である。玄鳥が立った――それだけで、この戦場の均衡は確かに変わったのだ。

 

「状況が悪すぎる……ここは引いてやる!」

イグニスが忌々しげに吐き捨て、背後のゲートへと手を伸ばした。ゲートの縁が青白く脈打ち、彼とその一党は光の波に飲み込まれるようにして消えていった。

空気が一変する。戦場に漂っていた焦げた金属と血の匂いが、熱気の中にゆっくりと溶けていく。

 

「……よし。」

玄鳥は息を吐き、静かに拳を握った。炎の翼がゆらりと揺れ、やがて散るように消えていく。

 

彼の姿を見て、仲間たちはゆっくりと近づいてきた。瓦礫を踏む音だけが響く。

「……玄鳥、だよな。」十夜が呟くように言った。

「そうだよ。」玄鳥が苦笑いを浮かべて返す。

 

「なんだその服。」ファングが指を差し、思わず目を丸くした。

「え? いや、いつの間にかこうなってて……」玄鳥は袖口を見下ろして困惑したように笑う。

白炎の羽衣のような服装は、神秘的でどこか非現実的だった。

 

「……強くないか?」マルクが羨ましげに呟く。

「それほどでも……ないと思うけど。」玄鳥は頬をかき、照れ隠しのように笑った。

 

そんなやり取りの最中、遠くから駆け寄る足音が響いた。

「……玄鳥!」

胡桃が叫びながら玄鳥のもとに駆け寄り、そのまま勢いよく抱きついた。

 

「ありがとう……私のこと、守ってくれて……」

玄鳥は驚きつつも、静かにその背に手を置いた。

「ううん……俺の方こそ。胡桃の声が聞こえなかったら、多分、戻れなかった。」

 

「……戻ってこないかと思って、不安で……」

胡桃は玄鳥の胸に顔を埋め、震える声で言った。涙が玄鳥の服を少し濡らす。

 

その温かな空気を破るように、後ろからさらりと声がした。

「私も……いいかしら?」

燕がそう言って、軽く笑みを浮かべながら二人の間に加わるように抱きついた。

 

「じゃあ、私も!」

藍硯が勢いよく背後から飛び込んできて、三人まとめて玄鳥を押し倒す勢いで抱きつく。

 

「ちょ、ちょっと待っ……!? 藍硯、痛い痛い!」

玄鳥が慌てて助けを求める。

「蛍、助けて!」

 

蛍はその光景を見て、口元を押さえて笑った。

「だーめ。私も混ぜて。」

そう言って、彼女も加わる。柔らかな笑い声が響き、重なった手と腕の温もりが混じり合う。

 

戦場の空気がようやく静けさを取り戻し、ほんの一瞬だけ、世界が平和を取り戻したかのようだった。

玄鳥は呆れながらも、どこか安心したように微笑んでいた。

「……ほんと、騒がしい仲間たちだな。」

その呟きには、疲労の奥に微かな安堵と幸福が滲んでいた。





玲瓏「玄鳥。今の状況は?」
玄鳥「ちょっと苦しいです!」

















書いててちょっと羨ましいと思いました。

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