前作から31話も早い!
「行くぞ!」
玄鳥は短く宣言すると、腰のユニットを静かに展開した。金属が滑るような音を立て、機構が組み上がる。次の瞬間、背中から炎の翼がゆっくりと、しかし確実に形を成していった。朱と金が混じる光が周囲を照らし、まるで夜明けの一筋の光のように存在感を放つ。腕に炎を纏わせたその両腕をゆっくりと構え、玄鳥はまっすぐイグニスたちへ向かった。
「な、何ィ!? あれは――!」
イグニスの声が戦場にこだましたが、言い終わる前に玄鳥の一撃が叩きつけられた。防御の構えを取ったはずのイグニスの体が弾かれ、吹き飛ばされる。衝撃の余波が砂と瓦礫を巻き上げ、光の粒子が舞った。
その直後、巻き込まれたエイリアン兵たちが苦鳴もなく崩れ、装甲が滴り落ちるように溶解していく。黒い体液が地面へ垂れ、最後は小さな爆散とともに跡形なく散った。視界にはただ、光と蒸気だけが残る。
「なんだよ、あれ……!?」
「なんか、すげぇ……」
玲瓏と伏龍は目を見開き、口元が震えた。驚愕と畏怖が混じる表情だ。玄鳥は二人に歩み寄り、その炎の手をそっと伸ばす。
「二人とも、大丈夫か?」玄鳥の声は以前よりも落ち着いていたが、その中に静かな力が宿っている。
「……まあ、怪我したくらいだ。」玲瓏が苦笑を浮かべる。
「こっちは腹に深い傷を負ったぜ。」伏龍は腹部を押さえ、顔をしかめていた。
玄鳥は炎をぎゅっと固めるようにして、二人の傷口へと触れた。炎は燃えるというより、温かな光の膜のように広がり、触れられた部分から冷たさが消え、痛みが和らいでいく。皮膚の切れ目が縁からゆっくり溶け合い、肉が再接合していくその光景に、二人は思わず息を呑んだ。
「うわぁお!!……あれ、熱くないな。」玲瓏が驚きを隠せずに口を漏らす。
「むしろ……傷が、癒えていく……」伏龍も目を丸くした。
だが、戦場は甘くはなかった。イグニスは怒りを露わにして突進してきた。拳を振るい、再び玄鳥を叩き潰そうとする。だが玄鳥は振り返りざまにその腕を払い、相手の攻撃を受け流しながら逆に強烈なカウンターを叩き込む。鉄の衝撃が空気を裂き、イグニスの体が軋んだ。
「はあっ!」
玄鳥の蹴りが入ると、イグニスは制御を失ったように吹き飛び、地面の上に叩きつけられていった。蒼白い破片が散り、彼の装甲には深い亀裂が走る。イグニスは呻きながらも立ち上がろうとしたが、その足取りは明らかに鈍っていた。
玄鳥は息を整え、炎の翼をゆっくり畳む。背中の羽はなおも淡く残光を放ち、周囲に立ち込める蒸気が竜巻のように渦を巻く。戦場の音が一瞬止まったかのように、仲間たちの視線はただ一人の少年へと向けられた。
その瞳には、確固たる決意と、どこか遠い場所を見据える静けさが宿っている。彼はもはや、ただの同胞ではなかった――何か大きな力を宿した存在として、戦う者たちの前に佇んでいた。
砂煙の中、仲間たちは互いに顔を見合わせた。勝利の余韻より先に、今後の戦いがより一層厳しくなることを誰もが直感していた。だが同時に、胸の奥に湧くのは淡い希望である。玄鳥が立った――それだけで、この戦場の均衡は確かに変わったのだ。
「状況が悪すぎる……ここは引いてやる!」
イグニスが忌々しげに吐き捨て、背後のゲートへと手を伸ばした。ゲートの縁が青白く脈打ち、彼とその一党は光の波に飲み込まれるようにして消えていった。
空気が一変する。戦場に漂っていた焦げた金属と血の匂いが、熱気の中にゆっくりと溶けていく。
「……よし。」
玄鳥は息を吐き、静かに拳を握った。炎の翼がゆらりと揺れ、やがて散るように消えていく。
彼の姿を見て、仲間たちはゆっくりと近づいてきた。瓦礫を踏む音だけが響く。
「……玄鳥、だよな。」十夜が呟くように言った。
「そうだよ。」玄鳥が苦笑いを浮かべて返す。
「なんだその服。」ファングが指を差し、思わず目を丸くした。
「え? いや、いつの間にかこうなってて……」玄鳥は袖口を見下ろして困惑したように笑う。
白炎の羽衣のような服装は、神秘的でどこか非現実的だった。
「……強くないか?」マルクが羨ましげに呟く。
「それほどでも……ないと思うけど。」玄鳥は頬をかき、照れ隠しのように笑った。
そんなやり取りの最中、遠くから駆け寄る足音が響いた。
「……玄鳥!」
胡桃が叫びながら玄鳥のもとに駆け寄り、そのまま勢いよく抱きついた。
「ありがとう……私のこと、守ってくれて……」
玄鳥は驚きつつも、静かにその背に手を置いた。
「ううん……俺の方こそ。胡桃の声が聞こえなかったら、多分、戻れなかった。」
「……戻ってこないかと思って、不安で……」
胡桃は玄鳥の胸に顔を埋め、震える声で言った。涙が玄鳥の服を少し濡らす。
その温かな空気を破るように、後ろからさらりと声がした。
「私も……いいかしら?」
燕がそう言って、軽く笑みを浮かべながら二人の間に加わるように抱きついた。
「じゃあ、私も!」
藍硯が勢いよく背後から飛び込んできて、三人まとめて玄鳥を押し倒す勢いで抱きつく。
「ちょ、ちょっと待っ……!? 藍硯、痛い痛い!」
玄鳥が慌てて助けを求める。
「蛍、助けて!」
蛍はその光景を見て、口元を押さえて笑った。
「だーめ。私も混ぜて。」
そう言って、彼女も加わる。柔らかな笑い声が響き、重なった手と腕の温もりが混じり合う。
戦場の空気がようやく静けさを取り戻し、ほんの一瞬だけ、世界が平和を取り戻したかのようだった。
玄鳥は呆れながらも、どこか安心したように微笑んでいた。
「……ほんと、騒がしい仲間たちだな。」
その呟きには、疲労の奥に微かな安堵と幸福が滲んでいた。
玲瓏「玄鳥。今の状況は?」
玄鳥「ちょっと苦しいです!」
書いててちょっと羨ましいと思いました。
次の連載
-
続編
-
リメイク