【本編完結】仄かな焔は璃月を舞う   作:サツキタロオ

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今年中には終わらせたいと思っております。

……終わるかなぁ…。


第34幕:熱き疾風

 

〜三人称視点.

「……わあ、ヴェイン見てよアレ!」

昼下がりの市場。ヴァレサは手にしていたスープ皿を放り出し、空を指差した。

 

「なんだよヴァレサ……って、うわっ!?」

ヴェインが思わずコップを落とす。

空の彼方――聖火競技場の上空に、ゲートが向かっていた。

 

「なんだろうあれ……!これって、炎神さまに伝えた方がいいのかな!?」

「当たり前だろ! 下手したらナタ全体が危ねぇ!」

二人は顔を見合わせ、迷う間もなく走り出した。

 

 

その頃、聖火競技場。

「チッ……アビスだけじゃなくて、今度はサイバースペースの連中まで相手かよ!」

ファングは拳を叩きつけ、目の前の敵を粉砕した。

エイリアン兵・コズモノーザが数え切れぬほど押し寄せてくる。

 

「面倒この上ねぇな……!」

ファングの額に汗が滲む。

 

「文句を言えるなら、まだ余裕あるってことだろ。」

マルクが剣を振り抜き、周囲の敵をまとめて両断する。火花と油煙が舞い上がり、熱風が吹き荒れた。

 

「分かってるよ!」

ファングが叫び、再び飛び込んでいく。

 

その瞬間、競技場の中心部に巨大な衝撃波が発生した。

地面が隆起し、炎と黒い雷が入り混じった爆風が天へと噴き上がる。

 

「イグニスか!?」

「イグニスだな!」

「正解だぜ〜。」

 

するとイグニスが姿を現した。

しかし、その容姿は以前とまるで違っていた。

背からは淡い紅蓮の燐光が溢れ、髪の端は燃え立つように揺らめいている。

まるで“炎”そのものが形を取っているかのようだった。

 

「……なんか違くね?」

「フェーズ2、ってやつだ。コイツの火力は前の比じゃねぇぞ。」

 

イグニスが構えた小剣から、赤熱した火花が散る。

熱気だけで皮膚が焼けるようだ。

それでも彼は不敵に笑っていた。

 

「あーもう!なんでこういう時に玄鳥いないのかね!」

「そりゃあ炎神さまに呼ばれたからだろ。文句言うな。」

 

十夜が二人の間に入ってくる。

無造作に外套を翻し、イグニスと正面から対峙した。

 

…………………………

 

〜玄鳥視点.

「ここが……夜神の国、か。」

 

濃い霧が地を這い、月の光さえ鈍く歪んで見えた。

耳の奥で、誰かのすすり泣くような声がする。

空気が重く、冷たい。息をするたびに肺が軋むようだった。

 

俺はマーヴィカさんに頼まれて、この夜神の国へやって来た。

理由は――アビスがこの地から“出ようとしている”からだ。

それに、もし汚染地域を見つけたなら、俺の炎で浄化できるか試してほしい、とのことだった。

 

「……神様って、人使い荒いのかなぁ…?」

 

独り言のように呟きながら、足元の地面を踏みしめる。

辺りには死の匂いと鉄錆のような空気。

遠くで黒い影が蠢き、どこかで鐘の音が響いた。

 

「怖い、なんて言ってられないか。」

 

マーヴィカさんの信頼に応えるためにも、足を止めるわけにはいかなかった。

握りしめた手のひらに、紅蓮の炎がゆらりと灯る。

夜神の国の暗闇が、その小さな光を嘲るように飲み込んでいった。

 

…………………………

 

その頃、伏龍は療養中の部屋で、静かに瞑想していた。

窓の外では、灰色の雲が流れ、微かに雨音が響く。

 

(玄鳥には“守りたい”って理由がある。玲瓏には“任務”って理由がある。)

(……じゃあ俺は? 俺は何のために戦ってるんだっけ……)

 

記憶の底に沈んだ何かが、今にも浮かび上がりそうだった。

心の中に霞のような映像が広がる。

けれど掴もうとした瞬間――

 

「……あ?」

 

世界がぐるりと回転した。

次の瞬間、伏龍は大嵐の中に投げ出されていた。

 

「おわぁぁぁぁぁあ!!」

 

雷鳴、暴風、回転、回転、回転!

天地の区別もつかぬまま、必死で目を開けると――遠くに、一筋の光が見えた。

 

「あれは……なんだぁぁぁ!?」

 

必死に手を伸ばし、その光を掴む。

すると、光は一枚の小さな写真に変わった。

 

「……こ、これは! 甘雨の写真!!」

 

嵐が止まり、世界が静まり返る。

伏龍はその写真を胸に抱きしめながら、神妙な顔で呟いた。

 

「……そうか。やっと、思い出した。」

 

「俺がここまで戦ってこれた理由――」

 

「――甘雨にモテたかったからなんだーーッ!!」

 

雷鳴が再び轟く。

だがその瞬間の伏龍の笑顔は、どんな閃光よりも眩しかった。

 

「……まあ、微妙な関係なんだけどね…」

嵐の残骸の中で、伏龍の小さな声だけが虚空に溶けていった。

 

「そうと決まれば! こんなところにいてらんねぇぜ!」

伏龍は勢いよく跳ね起きる。体中を駆け巡る風の流れが、今までとは明らかに違っていた。

瞑想の余韻が消えると同時に、胸の奥から元素の奔流が湧き上がる。

制御を振り切って、風が渦巻く。

 

「……あー、ヤベぇ、これ暴れるやつだ!」

 

そう叫んだ瞬間、伏龍は飛び出した。

その速度はまさに疾風。地を蹴った足跡が爆ぜ、部屋の扉が風圧で吹き飛ぶ。

彼の進む先はただ一つ――甘雨のもと。

 

…………………………

 

「敵が多いですね。」

「……そうね。」

甘雨と刻晴は息を切らしながら、次々と押し寄せるコズモノーザの群れを迎撃していた。

 

「下がって、刻晴!」

「大丈夫、まだ――っ!?」

 

コズモノーザの一体が、腕に装着した注射器状の装置を突き立てる。

それはリヴォルトがイグニスに与えた強化薬――《ケミカルボルト》。

 

注入と同時に、敵の体表が膨張し、装甲が尖り、目が紅く染まる。

「なに、これ……動きが……!」

「注意して!」

 

だが、反応するより早く、炎と衝撃の嵐が走った。

刻晴が吹き飛ばされ、甘雨も膝をつく。

 

「くっ……まだ……」

立ち上がろうとしたその瞬間――

 

「――甘雨ーーーっ!!!」

 

突如、空から烈風が降り注いだ。

雲を裂き、光と風が混じり合う中、ひとりの影が落下してくる。

 

地面を砕きながら着地したその男の姿に、甘雨は目を見開いた。

 

翼を持ち、背中に浮遊する三本の槍。

髪が風に逆巻き、全身に風を纏っている。

 

「……伏龍、さん……?」

彼女の声は震えていた。

 

伏龍はニッと笑い、風の刃を構える。

「おまたせ。」

 

「その姿……どうしたんですか……?」

 

「いやぁ、甘雨のことを思ったら……こうなっちまった。」

「わ、私!? え、えっ!?」

「ま、とりあえずこれ終わったら――話がある!」

伏龍は一歩前へ出る。

その瞬間、槍が回転し、周囲の風が唸った。

 

「だから、それまで――絶対倒れんなよ!」

 

彼の叫びと同時に、暴風が戦場を包んだ。

 

…………………………

 

〜伏龍視点.

「……やっと見つけたぜ、イグニス。」

俺は風の槍を肩に担ぎながら、奴の前に立ちはだかった。

 

「何、その姿は…!」

イグニスが一瞬怯んだように後ずさる。

 

「へっ、玄鳥じゃなくて悪かったな。」

俺はニヤリと笑って、地を蹴る。

 

十夜がすぐ背後に来て言う。

「伏龍。」

「ここは任せとけ。お前らは他の奴の足止め頼む!」

「分かった。任せるぞ。」

 

仲間たちが戦場を離れ、風が静かに巻き上がる。

残ったのは俺とイグニス、そして吹き荒れる風の音だけ。

 

イグニスが唇を歪めた。

「へっ、所詮は雑魚だ!舐めんじゃねぇぞ!」

奴が炎を纏って突っ込んでくる。拳が地面を割るほどの衝撃。

 

だが、次の瞬間――

「悪ぃな。風、通るぜ。」

 

俺が手を払うと同時に、暴風が炸裂。

イグニスの体が吹き飛び、地面を何度も転がる。

風が残した軌跡が、まるで爪痕のように大地を裂いていた。

 

「チッ…ふざけやがってぇ!」

イグニスが怒り狂い、両腕を燃やしながら突進してくる。

だが俺は、右足で地を軽く蹴る。

 

瞬間、風が形を変え――銃剣を握る。

「さて、こいつのテストも兼ねてな。」

 

銃剣を回転させながら、俺は腰を落とす。

「そらよ!」

引き金を引くと同時に、弾丸が風を纏って螺旋状に飛ぶ。

一発ごとに圧縮された風が爆ぜ、イグニスの炎を削ぎ落としていく。

 

「なにィ!? 俺の炎が……消えるだと!?」

「悪いが、こっちは“嵐”担当なんでな!」

 

弾幕の隙を縫って距離を詰め、腕に風をチャージする。

「くたばれ!」

吹き荒れる竜巻がイグニスを包み、空へと飲み込んだ。

 

爆風の中、俺はゆっくりと銃剣を収める。

「……ふぅ。甘雨の前でカッコ悪いとこ、見せらんねぇからな。」

 

そうして再び飛び上がって敵の中央に急降下する。

「…食らえ!必殺の!!」

 

「大!旋!風!」

 

溜め込んだ風元素を辺りに解き放ってエイリアン兵を暴風で破壊した。

 

…………………………

 

伏龍が地面に着地した瞬間、風が静まる。

砂塵の中から甘雨が駆け寄ってきた。

彼女の頬には土埃が付いていたが、その瞳はどこか安堵に満ちていた。

 

「伏龍さん……無事で良かったです。」

 

その声を聞いた瞬間、伏龍の胸の奥で何かが弾けた。

長い戦いの中、ずっと言えなかった言葉が喉の奥からあふれ出す。

 

「甘雨……正直に言うぜ。」

 

彼は拳を握りしめ、一歩踏み出した。

 

「……えーっと、その……好きだから、付き合ってくれ!!なんなら結婚も考えて!」

 

次の瞬間――なぜか土下座。

しかも地面は雨上がりでぬかるんでおり、伏龍の頭には盛大に泥が跳ねた。

 

「……」

甘雨は数秒だけ固まり、やがてふっと笑みをこぼした。

 

「ふふっ……本当に、あなたって人は……」

 

そう言いながら、甘雨はそっと伏龍の泥まみれの髪を指先で払った。

彼女の頬が、少しだけ赤く染まっていた。





愛する男は強い。

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