イグニスさんが弱過ぎる
イグニスは――さらに変貌した姿、PHASE-Ⅲとなって現れた。
その背後にはコズモノーザや、重装化したハードダトマスが列をなす。だが、彼らだけではない。隊列の中に見慣れぬ異形の兵士が混じっていた。
「カエル……?」
「カエル兵士か。厄介そうだな。」
伏龍たちが呟くと、視線の先にはカエルの頭部を持つエイリアン兵――ゲコニストの姿があった。首をヒクつかせるような独特の動き、湿ったような皮膚が光り、跳躍力と機動性を感じさせる不気味さがある。
イグニスは戦場を見下ろし、冷笑を浮かべた。
「さて、お前らはここで終わりにしてやる!」
彼は戦艦を見上げると、甲板に向かって足を進めた。声は届く範囲の者すべてに向けられている。
「これで聖火競技場を焼き払ってやる。それでお前らは終わりだ。」
言い終えるなり、イグニスは戦艦へと乗り込んでいった。戦艦のハッチが閉じると、鋼鉄の巨体が唸りを上げ、空へとその影を伸ばす。
「来たな。総員、戦闘準備!」
マーヴィカの声が指揮を貫いた。ナタの民たちが一斉に武器を取り、咆哮のように突撃していく。
「よし、俺たちも行くぞ!」
「おう!」
伏龍と玄鳥は迷わず飛び立った。熱と風を切る音が耳を裂き、二人は戦艦へ向かって一直線に伸びていく。
「俺も連れてってくれー!」
玲瓏が叫び、伏龍の足にしがみついたまま空へ引き上げられる。
「俺も行く。イグニスに一発かましてやらないと気が済まない。」
「……わかったよ。しっかり捕まってな!」
伏龍は返事をして、仲間をしっかりと支えながら、戦艦へと向かった。
そのまま三人は戦艦の内部へと滑り込み、甲板に降り立った。金属の床が響き、上方からは機械の低いうなりと、遠くで主砲の冷却音が周期的に聞こえてくる。戦艦内部特有の鋭い匂いが鼻をつく――油とオゾンと、かすかな焦げの香りだ。
「こいつには主砲があるはずだ。主砲を破壊できれば、船ごと沈められる。」
玄鳥が顔を引き締め、周囲を見渡す。装甲の継ぎ目や配管の走行路、砲塔へと伸びる動力ケーブルが視界に入る。
「なるほど!」
玄鳥が即座に同意し、作戦が固まる。空気が一瞬引き締まる。
玄鳥は力強く拳を振り上げ、主砲の方向に殴りかかった。だが、拳がぶつかると鈍い音がしただけで、装甲はびくともせず、まるで鋼の壁に阻まれたかのように溶けもしなかった。
その瞬間、甲板のどこからか、機械じみた嘲笑が響いた。スピーカー越しの、冷たい嗤い声だ。
『ハッハッハ! それは対策済みだぜ。ばーか。』
「ぐぬぬ……」
玄鳥の顔に一瞬だけ苦虫が走るが、すぐに引き締め直す。弾かれた感触が、逆に闘志を煽る。
「気にすんな、玄鳥。そいつが対策してるってことは――それだけお前が脅威って証拠だ。」
玲瓏が肩を叩いて励ます。彼の声は明るいが、その目には確かな覚悟がある。
「ああ、そうか。そう考えると、ちょっと悲しくなるな!」
玄鳥は少し誇張して吹き出すように笑った。その笑顔に、玲瓏は内心で微かな安堵を覚える。ポジティブな反応は、緊迫した状況を和らげる。
「よし、このまま奥へ進んで、イグニスをぶん殴ろうぜ。」
玲瓏は刀を肩に掛け、二人に軽く合図をした。甲板のざわめきが遠ざかり、三人は艦の奥深くへと足を運ぶ。金属の廊道を進むごとに、敵の数は増えていくが、足並みは乱れない。
空気は重く、先に待つ“本丸”への緊張が確実に高まっていた――だが、仲間の短い軽口が、戦いの先にある希望の小さな火種でもあった。
「迷うな。」
「迷路みたいだな……」
戦艦内部は文字どおり迷路だった。金属の通路が複雑に交差し、曲がり角ごとに赤い警告灯が瞬く。床や壁には罠の痕跡が残り、ところどころから蒸気や電気放射が吹き出している。敵の歩哨が巡回する音が遠くで反響し、常に気を張らせる。
「しょうがねえ。玄鳥、俺と一緒に主砲を破壊しに行くぞ。玲瓏、お前はイグニスを頼む。」
「分かった。一発殴ってやる。」
三人は短く頷き合うと、そこで別れた。足音はすぐに別々の方向へ吸い込まれていく。迷路の冷たい鉄の匂いだけが残った。
――数分後――
玲瓏は長い廊下を抜け、暗がりの向こうに立つ一つの影を見つけた。イグニスだ。PHASE-Ⅲの威圧的な姿が、周囲の空気をねじ伏せている。
「見つけたぜ、イグニス。覚悟しろ。今度こそ一発ぶん殴ってやる。」
「へー。雑魚一人でやれるのか?」イグニスは慇懃に嘲る。
玲瓏は答えずに剣を握りしめると、内側から力がほとばしり出すのを感じた。光が刃をなぞり、血のような影が彼の周囲に滲む。
「どうかな。俺に任せてくれたんだ。勝つ。」
言葉と同時に、玲瓏の身体から異様なエネルギーが噴き上がった。周囲の金属が微かに振動し、床のセンサーが警報を鳴らす。
「おい、嘘だろ……またかよ!?」イグニスの声が思わず裏返る。
玲瓏の姿は変わった。背負う影が広がり、両肩には禍々しい装飾が生えたように見える。鎧の輪郭は鬼のような形を取り、瞳は冷たく赤く光る――まるで古の鬼神が憑依したかのような出で立ちだ。
「この力、試させてもらう!」玲瓏は低く叫び、剣を振り上げた。刃が空気を裂き、金属と光の衝撃波が廊下を満たす。イグニスも構えを取り、二人の間で数秒の静寂の後、殺し合いが始まった。
その頃、主砲室では。
玄鳥と伏龍は巨大なジェネレーターを前に立ち尽くしていた。主砲へと繋がる動力コアは脈動し、内部から規則的に光が漏れ出している。周囲には無数の機械部品と配線、冷却パイプがうねるように配置されていた。
「ここか。」玄鳥が天井の配管にある放熱弁や、動力ラインの露出箇所を指さす。
「さっさと破壊しよう。」伏龍が銃を構えて引き金を引いた。
しかし弾は弾かれる。ジェネレーターの外装は厚く、弾道は弾き返された。火花が散り、金属が軋む音だけが響く。
「駄目か……」伏龍が一歩引く。額に汗がにじむ。
「これならどうだ!」玄鳥は腕に炎を集め、拳に注ぎ込む。紅蓮の熱線がジェネレーターに叩きつけられ、金属が赤く焼ける。しかし、コアは耐え、内側の脈動はやむどころか一層強くなったように見える。
「弾かれるだと……対策されてるのか?」伏龍が歯を食いしばる。振り返れば、通路の端で機械の目が光り、補助ドローンが起動している気配があった。どうやらここも単なる装甲ではなく、自己修復や防御フィールドで守られているらしい。
玄鳥は機構を観察してから、唇を引き結んだ。「単独でぶっ壊すのは無理かもしれない。同期破壊か、動力ラインを一斉に断つ必要がある。」
伏龍は拳を握り、風を纏わせながらうなずく。「よし、合図で一気に行くぞ。俺が引き付けて、玄鳥は周囲の端子を叩くんだ。」
二人は短い合図を交わし、次の一手へと動き出した。だが戦艦の奥深く――そこでは既に、別の戦いが凄まじい勢いで燃え上がりつつあった。
……………
「くそっ、なんで攻撃が当たらないんだ!」
「予知してるからな!」
イグニスの怒号と共に、閃光の斬撃が空間を切り裂いた。
玲瓏はまるで未来を読んでいるかのように身を翻し、刃の風圧を紙一重で避けていく。床を踏み抜くたびに金属がひび割れ、空気が震えた。
「うらぁッ!」
玲瓏の拳が閃光のように走る。
「ぐおっ――!?」
イグニスの巨体が弾かれ、玉座ごと壁に叩きつけられた。装甲が軋み、赤い火花が散る。
「まだまだ、こんなもんじゃないぜ。」
玲瓏の声は低く、力を押し殺したように響く。両肩のサブアームが自動で展開し、金属音と共に切り離された。
「行け。」
二本のアームが滑空し、蛇のような動きでイグニスへ襲いかかる。
その隙に玲瓏は背の大太刀を抜き放ち、振りかぶった。
轟音と共に、斬撃が床ごと敵を切り裂く。
「ぐっ……バカな……!?」
イグニスはよろめき、片膝をつく。装甲が砕け、蒸気と火花が吹き出す。
「この戦艦は――破壊させてもらう!」
玲瓏は一歩踏み込み、蹴りを放つ。
「ぐっ――!!!」
衝撃が走り、イグニスの身体が通路の奥へ吹き飛ぶ。壁を突き破り、金属片をまき散らしながら遠くまで滑っていった。
玲瓏は姿勢を低くし、クラウチングスタートのように構える。
「終わりだ!」
瞬間、左右に魔導式カタパルトが展開。白い煙を吐き、玲瓏の背を押し出した。
加速。閃光。
玲瓏の身体が弾丸のように走り抜け、空気が衝撃波で裂けた。
「ぐぅわぁあああああああぁぁぁぁぁ!!!」
イグニスは悲鳴を上げ、吹き飛ばされる。
そのままジェネレーター室の壁を突き破り――脈動する動力コアに、激突した。
凄まじい衝撃と共に、エネルギーラインが暴走を始める。
「玲瓏!」
駆けつけた玄鳥が叫ぶ。
玲瓏は微笑みを返し、わずかに息を吐いた。
「どうやらお前も強くなったみたいだな。」
伏龍が苦笑しながら肩を叩く。
「ああ。さっさと脱出するぞ。」
三人は視線を交わし、崩壊する艦内を駆け出した。
背後で警報が鳴り響き、エネルギーが連鎖反応を起こす。
――そして。
夜空を裂く閃光。
巨大戦艦は白炎に包まれ、爆音と共に地上へと落ちていく。
大地が震え、爆風が空を薙ぎ払った。
「……終わったな。」
玄鳥が息を整えながら呟く。
玲瓏はその光景を見つめたまま、静かに答えた。
「ああ――でも、まだ戦いは終わっちゃいねえ。」
風が吹き抜け、三人のシルエットだけが残った。
もうすぐナタ編も終わり…次章までもうしばらくお待ちくださいまし。
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