【本編完結】仄かな焔は璃月を舞う   作:サツキタロオ

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息抜き回。


第39幕:決戦近し

 

〜胡桃視点.

 

「はあ……」

 

朝の空気は澄んでいるのに、胸の奥は少しモヤモヤしていた。

そんな私の前に、燕さんが紙コップのジュースを二つ持って現れた。

 

「どうしたの、胡桃? 珍しく元気ないじゃない。」

 

「……ちょっとね。」

 

「玄鳥のこと、でしょ?」

 

図星を突かれて、私は視線を逸らした。

 

「うん……最近、なんか構ってくれないんだもん。」

燕さんは苦笑して、ジュースを差し出す。

冷たい感触が、少しだけ気持ちを落ち着かせた。

 

「確かにね。最近は旅人と一緒に動いてるみたいだし。」

「でしょ!? あんなに仲良くしてるの見たら、さすがにヤキモチ焼くって!」

「ふふ、胡桃も分かりやすいなあ。」

「分かりやすくてごめんね!」

私がぷいっと顔を背けると、燕さんが優しく笑った。

「でも、玄鳥が誰かと一緒にいるのが心地いいのって、やっぱり玄鳥の事が好きだからかな。」

「……それは、分かってるんだけどね。」

ジュースを一口飲む。

冷たさが喉を通っていくのに、胸の奥の熱だけは消えない。

 

「旅人のこと、嫌いじゃないけど……玄鳥の“隣”にいるのは、やっぱり私がいいなって思っちゃうの。」

燕さんは黙って頷いた。

それ以上、茶化したりはしない。ただ、その静けさが心地よかった。

 

『玄鳥!! 俺の残したピーマンを食え!』

『はあぁ!? それはお前が食えってぇぇ!』

 

下の階から怒号と笑い声が聞こえてきた。

覗いてみると、伏龍さんが皿を片手に玄鳥を全力で追いかけている。

 

『玄鳥! 俺にピーマン食わせようとすんな! 俺、野菜苦手なんだよ!』

『野菜ぐらい食べなよ、半仙でしょ!?』

 

そう言い合いながら、二人は廊下を全力疾走。

皿の上のピーマンが宙を舞い、まるで戦場のような騒がしさだった。

 

『伏龍さ〜ん! また残して!』

 

今度は甘雨さんが慌てて追いかけていく。

あの様子じゃ、皿ごと逃げても意味なさそう。

 

「元気ね……」

燕さんが呆れたように言うと、私もジュースを飲みながら笑った。

「元気だねー。あの二人、ほんといつでも全力だもん。」

「うん……あの元気、ちょっと羨ましいわ。」

「私は同じぐらい元気だけどね!」

 

私が胸を張って言うものだから、燕さんが思わず笑ってしまった。

――こういう時間が、やっぱり好きだ。

 

…………………………

 

〜三人称視点.

「平和だな。」

「そうね。」

玲瓏がぼんやりと呟くと、隣で書類を整理していた刻晴が顔を上げた。

彼女の視線の先――玲瓏はサンベッドに寝そべり、上半身の服を脱いでサングラスをかけ、

まるで南国のリゾート客のように太陽を浴びていた。

 

「……何してるのよ。」

「太陽を浴びて電気を溜めてるんだ。太陽光発電。」

刻晴は眉をひそめた。

書類を手にしたまま、一瞬だけ口を開いて、そして閉じた。

「……効果はあるの?」

 

玲瓏はサングラスの奥で目を細め、わずかに口角を上げる。

「ない。」

間髪入れず、即答。

刻晴は一瞬だけ沈黙した後、ふっと息を吐いた。

 

「ほんと、貴方って時々わからないわ。」

「褒め言葉として受け取っておく。」

玲瓏は涼しい声でそう言って、再び日差しに身を委ねた。

その姿はどこか幸せそうで、刻晴も思わず小さく笑ってしまうのだった。

「そっちは何してるんだ?」

「仕事よ。最近ずっと溜めてばっかりだったもの。」

刻晴はペンを走らせながら、淡々と答える。

紙をめくる音と、海鳥の鳴き声だけが響く。

「そう言えば璃月を離れて何ヶ月だっけ。」

「もう五ヶ月よ。」

「そんなにか……」

 

玲瓏は空を仰ぐ。眩しさに目を細めながら、ぽつりと呟いた。

しばらく沈黙が流れる。

遠くで潮の香りが漂い、刻晴のペン先の音だけが規則的に響いていた。

 

「帰ったら……何する。」

玲瓏の問いに、刻晴は迷わず答えた。

「仕事よ。」

「えー……」

玲瓏が不機嫌そうに顔をしかめる。

刻晴は小さく笑って、書類から目を離さずに言った。

「別に書類じゃなくていいわよ。宝盗団の制圧とかどう?」

「じゃあいいぞ。」

玲瓏は微笑み、刻晴を見た。

刻晴が呆れたようにため息をつく。

「……やっぱり戦いが好きね。」

「戦わないのは退屈だろ。」

玲瓏は立ち上がり、軽く伸びをした。

その仕草には、太陽の下でしか見せない柔らかな笑みが浮かんでいた。

 

…………………………

 

 

「……そろそろか。」

イグニスが呟くように言い、腰のホルダーからケミカルボルトを抜き取った。

金属の匂いと微かなオゾンの臭気が、夜風に混じって漂う。

 

「もうすぐで──ナタの連中も、終わりを迎えるだろうな。」

彼は唇の端を吊り上げ、遠くに浮かぶ超大型戦艦を見上げた。

その船体は黒雲を切り裂くように光を放ち、静かに動いている。

 

「さて、じゃあ行くとしますか。」

そう言ってイグニス達はゲートに向かって歩き出した。





息抜きの次は多分シリアスです。

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