「――来たな。」
玲瓏の声が静かに響いた瞬間、地平の向こうから黒い雲の群れのように巨大戦艦が現れた。
続いて、無数のエイリアン兵が地を覆い尽くすように聖火競技場へと押し寄せてくる。
「スゲェ数だ……勝てるのか、これ!」
十夜が叫ぶ。
マルクは肩をすくめながらも、どこか楽しげに微笑んだ。
「一人で百人倒せば――いける。かも。多分。おそらく。」
「ちゃんとしろっ!」
ファングの怒声が響く。だが、その声にも恐れよりも闘志が宿っていた。
「どちらにしろ、あのゲートから来る敵を止めないと。」
蛍が冷静に言い、玄鳥へと視線を送る。
玄鳥は小さく頷き、唇に笑みを浮かべた。
「よし……俺がイグニスと決着をつけてくる!みんなは他を頼む!」
次の瞬間、玄鳥の背から紅蓮の翼が展開し、轟音と共に空へと舞い上がる。
彼の飛翔の軌跡が、まるで戦いの狼煙のように空を裂いた。
「へっ、俺たちも行くぞ。」
「分かってる!」
伏龍と玲瓏も後を追い、翼を広げて飛び立った。
その頃、十夜たちはハードダトマスやコズモノーザ率いる部隊と交戦していた。
ケミカルボルトによって強化された敵兵たちは、皮膚が金属のように硬質化し、再生速度まで上がっている。
マルクは歯を食いしばりながら叫んだ。
「くそっ、硬ぇな!まるで鉄板だ!」
「戦艦が多過ぎるな。」
ファングが舌打ちする。
「なら、任せてちょうだい。」
燕が悠々と現れ、大型の兵器を構えた。
それは、もはや「ライフル」と呼ぶにはあまりに巨大で、肩に担ぐ程の大きさだ。
「そ、それは……?」
マルクが目を見張る。
「超弩級荷電粒子(中略)電磁砲・ハイパーレールキャノンよ!」
燕の声が響いた。
次の瞬間、空気が震えた。
光速に近い弾丸が空を裂き、戦艦の中心部を貫通する。
遅れて轟音と衝撃波が競技場を包み、巨大な艦体が爆炎に呑まれて崩れ落ちた。
「す、スゲェ威力だ……!」
「暫くリロードしちゃうから、すぐは使えないけどね。」
燕は冷静に言い、無造作に煙を払ってリロードシステムを起動させた。
「よし、一隻減らしたんだ。この調子でどんどん減らすぞ!」
ファングの声に仲間たちが続き、地上の戦線が再び動き出す――。
――その頃。
玄鳥たちはゲートの元へと到着していた。
虚空の中で脈動するゲートは、まるで生きているかのように鼓動している。
「玄鳥、どうするつもりだ?」
玲瓏が問う。
「おそらくイグニスはこの先に居るはずだ。この中を通って行けば――」
「なるほど、敵の本体から叩くわけね。」
伏龍が言い終えるよりも早く、空間が歪んだ。
黒い渦が膨張し、ブラックホール弾が飛来する。
玲瓏が咄嗟に避けた直後、そこに赤黒い閃光と共にイグニスが姿を現した。
「イグニス!」
玄鳥が名を呼ぶ。
その姿は、以前のそれとは違った。
ケミカルボルトを過剰投与したことで、筋肉は金属のように変質し、血管からは赤黒いエネルギーが滲み出ている。
瞳は完全に焦げ付き、燃えるように輝いていた。
「玄鳥……待ちかねたぜ。」
イグニスが歪んだ笑みを浮かべ、両腕から爆炎を噴出させる。
「見ろ、このパワーをな!」
爆発的な速度で突撃してくるイグニス。
玄鳥は即座に玲瓏と伏龍へ叫んだ。
「二人はサイバースペースへ! ここは俺がやる!」
「了解だ、行くぞ!」
「あいよ!」
玲瓏と伏龍は一瞬だけ玄鳥を見て頷き、ゲートの中へと飛び込む。
残された玄鳥とイグニスはぶつかり合う。
爆音が轟き、二人の衝突が空間を震わせた。
拳と拳がぶつかるたび、地面が砕け、周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。
「もうすぐでこの世界は終わる!」
イグニスの咆哮が響く。
「そうすりゃお前らは俺たちの家畜になって、一生弄ばれんだよォッ!」
「――させるか!」
玄鳥が地を蹴る。
閃光のような速度でイグニスの懐に踏み込み、炎を纏った蹴りを叩き込む。
鈍い衝撃音。
イグニスの頭部がのけ反り、顔面に亀裂が走る。
だが、赤黒い液体が流れ出た瞬間、亀裂は再生していく。
「何……再生しただと?」
玄鳥が眉をひそめる。
「ケミカルボルトさ!」
イグニスは笑う。
「細胞を焼き潰して強制再構成する――痛ぇが、すげぇだろぉ!?」
イグニスが右腕を伸ばし、火焔を纏う掌底を玄鳥に叩き込む。
玄鳥は空中で身をひねり、爆炎をすり抜けるように回避した。
「再生するなら――何度でも破壊してやる!」
玄鳥の声と共に、炎が翼のように広がった。
彼は燃え立つ風をまとい、連撃を叩き込む。
拳、肘、膝、そして炎を纏った回し蹴り――。
イグニスの肉体が砕け、再生し、また砕ける。
破壊と再生が繰り返され、光と炎の残滓が戦場に花火のように散った。
「調子に乗るなァァァ!」
イグニスが咆哮と共に両腕を広げ、爆炎を撒き散らす。
その爆炎の中を、玄鳥は一閃で駆け抜けた。
次の瞬間、イグニスの右足が斬り飛ばされる。
金属のような悲鳴を上げながら、足が地面に転がった。
…………………
その頃、伏龍と玲瓏はゲートを通って。サイバースペースへとやってきた。
「ここが……サイバースペースか。」
伏龍は足を踏み入れた瞬間、空気のようなものが変わるのを感じた。
視界のすべてが電脳光の格子で構成され、空には無数のデータの流れが走っている。
「なんて空間なんだ。チカチカして目が痛くなりそう。」
玲瓏は眉をひそめ、頭上を通る光の回路を見上げた。
「……よし、ここら一帯をぶっ壊して、さっさと帰るぞ。」
「賛成。」
ふたりは武器を構えて進む。
伏龍が風の銃を放ち、玲瓏が雷撃で連鎖させる。
連続した爆光が走り、電脳都市が揺らぎながら崩壊していく。
だが――。
奇妙なほど静かだった。
コズモノーザも、ハードダトマスも姿を見せない。
「おかしいな。防衛が一切ない。」
伏龍が呟く。
「……もしかして、全勢力を向こうに集中してんのかも。」
玲瓏は唇を噛み、遠くに見えるノイズの渦を睨む。
「だったら、好都合だ。伏龍、拡散攻撃で畳み掛ける。」
「了解!」
伏龍が風の球体を作り出し、玲瓏が雷の球を蹴り飛ばす。
二つのエネルギーが空中で交わり、轟音と共に紫電の竜巻が街を貫いた。
崩壊するデータの都市。
遠くで、誰かの悲鳴のような電子音が一瞬響いた気がした。
「……終わったか。」
「終わった、ように見えるな。」
玲瓏は一瞬、背後を振り返った。
そこにはまだ、人の形をした“影”がノイズの中で動いている。
だが、それもすぐに消えた。
「戻ろう。」
「ああ。」
ふたりはゲートへと戻り、伏龍が銃を構える。
「こいつも破壊だ!」
「終わりだ!」
雷と風の同時攻撃がゲートを撃ち抜く。
爆発の衝撃波が走り、電脳の裂け目が音もなく崩壊していった。
………………………
「馬鹿なッ!?」
イグニスがゲートの爆発音に気を取られたその瞬間、
玄鳥の拳が正確に彼の腹部を貫いた。
熱と衝撃で空気が歪み、イグニスの口から黒煙が漏れる。
「これで――お前たちの野望も、終わりだッ!」
玄鳥が拳を抜き放つ。炎が血煙のように舞った。
イグニスは歯を食いしばり、なおも拳を構える。
「まだだ……!お前だけでも、この手で――!」
だが、その叫びは届かなかった。
横合いから、紅蓮の砲撃が閃光となって直撃した。
「ぐあッ!?」
「なっ……この攻撃、どこから――!?」
玄鳥が振り向く。
下方の地上に、キャノン砲を背負った胡桃が立っていた。
その瞳には、かつての陽気さではなく、静かな覚悟の光が宿っている。
「胡桃……まさか、“律者”の力を……?」
胡桃は微笑みながら頷いた。
「うん。玄鳥を助けたいって、そう思った瞬間……この力が応えてくれたの。」
その声は風のように穏やかで、それでいて背後の炎は夜空を紅く染めるほど猛々しい。
「くっ……この俺が、こんなガキどもに……!」
イグニスは狂気の笑いを上げ、全身にケミカルボルトの毒光を走らせる。
「終わるのは――お前の方だッ!!」
玄鳥と胡桃、二人の炎が共鳴した。胡桃は姿を変え、背部のウイングから剣を抜く。
大気が焼け、剣に宿る光が一つの十字を描く。
轟音と共に、二人の剣閃がイグニスの身体を十字に切り裂いた。
空気が爆ぜ、残った輪郭は黒く崩れ落ちていく。
「ば……馬鹿な……この俺が……この、俺がぁぁぁ……!」
イグニスの断末魔は燃え尽きるように消え、
彼の肉体は炎と共に灰燼へと散った。
静寂。
燃え落ちる残骸の中で、玄鳥と胡桃がゆっくりと剣を収める。
「胡桃……ありがとう。助かったよ。」
「ふふっ、やっとお役に立てた。」
二人の笑顔が交わり、背後で炎の羽が静かに消えていった。
イグニスが倒されると、他のエイリアン兵達は困惑して一気に崩れ去った。
そして暗い空が晴れていき、日差しが辺りを照らした。
勝った!第三部完!
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