甘雨回です。
「……休み、ですか?」
甘雨は凝光に呼び出され、少し戸惑ったように問い返した。
「そうよ。流石に半仙とはいえ、ずっと働き詰めじゃ体を壊すわ。」
凝光は書類を閉じ、穏やかに微笑む。
「しかし……仕事が残っていますし……」
すると凝光は、ちらりと部屋の奥を指さし甘雨も視線をその先に向ける。
視線の先――開け放たれた窓のそばに、一枚の紙が風に揺れている。
そこには丸い字でこう書かれていた。
『サボりまーす』
甘雨は思わず口元を緩めた。
「……そう、ですね。たまには……休むことにします。」
静かに一礼し、彼女は窓辺に歩み寄ると、外の風を受けながら軽やかに飛び出していった。
凝光はその後ろ姿を見送りながら、くすりと笑う。
「……あの子も変わったわね。昔は真面目一筋だったのに。――やっぱり、恋って人を変えるのね。」
にこやかに呟く凝光の背後から、玲瓏が顔を出した。
「そう言うあんたも、そろそろ――」「――あーら?何か言ったかしら???」
凝光がにっこりと笑う。
その笑顔が逆に怖い。
「ナンデモナイデス」
玲瓏は全力で手を振り、そそくさと逃げていった。
凝光の笑みは、どこまでも優雅で、そしてどこまでも鋭かった。
………………………
と言っても何しましょう…
私は仕事が趣味と言われるぐらいの仕事人間。休みを貰ったのでこれを気に何か趣味でも見つけられれば…
「!」
すると、玄鳥君を見つけた。どうやら友達と話している様子だった。
「玄鳥君。」
「甘雨さん。あれ、仕事は?」
「凝光から休みをもらって…今、何をしているんですか?」
「行秋、重雲、香菱、胡桃、藍硯、嘉明とかくれんぼするんだ。鬼は俺。」
「そうですか、頑張ってくださいね。」
「おう!」
そうして玄鳥君は駆け出して行った。
「……そういえば伏龍を見てませんね…」
あの置き手紙の字の丁寧さからおそらく伏龍が書いたであろう手紙。私は伏龍を探すのを目標にして璃月港を回る事にした。
暫く歩いた甘雨は、絶雲の間へと辿り着いた。
霧が薄く漂う静かな空間――だが、その奥に、不気味な気配を孕んだ黒い穴がぽっかりと口を開けていた。
「……この先に、伏龍さんが居そうですね。」
甘雨は小さく息を整え、覚悟を決めるように呟いた。
以前も同じように、この穴へ飛び込んだ伏龍を探しに行ったことがある。
今回も、きっと彼は――。
「行きます。」
軽やかに足を踏み出し、甘雨は光の尾を残して暗闇の中へ飛び込んだ。
――着地の衝撃と同時に、轟音が響く。
「最悪だぜ……飛び込んだ先にこんな敵が居るなんてよ!」
銃声。火花。
視線の先では、伏龍が二体の遺跡サーペントと激しく交戦していた。
それらはまるで絡み合う双蛇のように、地を這いながら攻撃を繰り出してくる。
「伏龍!」
「甘雨!? なんでここに!?」
「援護します!」
「助かる!」
甘雨は弓を構え、氷の矢を次々と放つ。
だが、矢は硬い装甲に弾かれ、サーペントたちは潜行して姿を消した。
「……チッ、厄介だな。」
伏龍が舌打ちする。
次の瞬間――地面を突き破って飛び出してきた蛇が、衝撃波を放つ。
二人は吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられた。
「くっ……!」
「まずいな。あの動きを正確に狙い撃てれば……」
伏龍が苦悩するように呟くと、甘雨が彼の隣で静かに微笑んだ。
「珍しいですね。伏龍が弱気だなんて。」
「そうか? まあ……そうかもな。」
「大丈夫です。――私がついていますから。」
一瞬、伏龍の目に映る彼女の瞳が淡く輝く。
「頼もしいぜ。」
その言葉に呼応するように、甘雨の身体から光があふれ出した。
「こ、これは……!」
「エネルギーが……共鳴してる!?」
光が彼女を包み込み、次の瞬間――弓が形を変え、長大な狙撃銃へと姿を変えた。
氷晶と機械の意匠が融合した、まるで伏龍の武装を模したような銃。
「もしかして、俺のせいか?」
「ふふ、でも……これは好都合ですね。」
甘雨は冷静に照準を合わせ、引き金を引く。
放たれた一撃は空気を裂き、遺跡サーペントの装甲を正確に貫いた。
「すげぇ……!」
驚く伏龍の声をよそに、甘雨は次の一手を読んでいた。
潜行――地面の震動。
「次は……そこです!」
地面へ向けて撃ち込んだ弾丸が炸裂。
直後、サーペントが飛び出し、そのドリル部に損傷を負っていた。
「やるな、甘雨!」
伏龍が笑う。その声に、甘雨も小さく頷いた。
「なら、トドメだ!」
伏龍は跳び上がると、銃と刀を交差させ、遺跡サーペントを十字に斬り裂いた。
刃が閃き、巨体が一瞬で沈黙する。爆散とともに砂塵が巻き上がった。
「……やった!」
「やったぜ!」
二人は顔を見合わせ、笑いながらハイタッチを交わした。
………………………
「……釣り、いいですね。」
「だろ?」
地上に戻った二人は、港の外れで並んで釣り糸を垂らしていた。
穏やかな波音と潮風が、さっきまでの激闘が嘘のように静かだ。
「こうしていると、落ち着きます。」
「甘雨にピッタリかなと思ってな。実はその釣竿、甘雨のために作っておいたんだ。」
「えっ……わざわざありがとうございます。」
甘雨は少し頬を染め、竿を握り直した。
その時、釣竿がぐいっと強く引かれた。
「き、きたっ!」
「おっ、いけいけ!」
必死に引き上げようとする甘雨だったが、勢いに負けてバランスを崩し――
「きゃっ!」
そのまま海に落下した。
「ははは!落ちてやんの――うわっ!?」
笑っていた伏龍も足を滑らせ、派手に水面へ落ちた。
「「……」」
水面から顔を出した二人は、無言で見つめ合う。
一拍の静寂。
「……ふふっ。」
「ははっ……!」
そして同時に笑い出した。
潮風の中、二人の笑い声だけが響いていた。
今年終わるの早くなーい?
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