オンパロスやばくて鳥肌
〜玄鳥視点.
「いいなぁ。」
「何が。」
隣で藍硯がぽつりと呟いた。
夕暮れの光が彼女の髪を透かし、橙色に染めていた。
「胡堂主も旅人も、燕さんも……みんな玄鳥と同じになっちゃったんだもん。」
「私も同じになりたいなって。」
その目は真っすぐで、少しだけ羨ましさを帯びていた。
――律者への憧れ、か。
確か、崩壊エネルギーに強い耐性を持つ者が覚醒するって鍾離先生が言ってたな。
「この前ね、玲瓏さんから聞いたんだ。」
「玄鳥のおかげでなれたって!」
「……して欲しいってこと?」
「うん!」
無邪気に頷く藍硯に、俺は小さく息を吐いた。
気乗りはしなかったが、彼女の真剣な瞳を見たら断れなかった。
掌に崩壊エネルギーを込め、小さな火球を生み出して藍硯の胸元へと送り込む。
「………」
「………」
沈黙。
藍硯は少し目を瞬かせただけで、特に変化はない。
「特に……なんもならないよ?」
「みんな律者になるまで時間かかったし……」
俺は肩を竦める。
「てか俺も、最初は時間差だったしな。」
すると、藍硯がふっと笑って、俺の手をぎゅっと握った。
その手は小さくて、少しだけ震えていたけれど、温かかった。
「玄鳥からもらった力で――」
「玄鳥やみんなを、ちゃんと守ってみせるよ!」
その言葉に、胸の奥が少し熱くなる。
ああ、こういうところが、こいつらしいな。
「……頼もしいね。」
そう返すと、藍硯は嬉しそうに笑った。
その笑顔は、律者なんかよりもずっと眩しく見えた。
………………………
その頃。
伏龍と玲瓏は、逃げたルクスの気配を追っていた。
森の奥、霧が薄く漂う一角で、ルクスは大樹の根元に腰を下ろし、目を閉じていた。
「……寝てるのか?」
伏龍が呟く。
「油断してるとは思えないが。」玲瓏も構えを取る。
二人が同時に武器を構えた瞬間――
「――気付いていないとでも?」
ルクスの瞳がぱっと開き、杖の先から雷撃が迸った。
爆発音と共に地面が抉れ、伏龍と玲瓏は慌てて跳び退く。
「うわっ!」
「チッ、反応早ぇな!」
「数で勝負しようと?だが…!」ルクスは立ち上がり、手に光の剣を召喚した。
「数だけで戦況が決まると思うなよ。」
「上等だ!」
伏龍が銃を構え、玲瓏が剣を抜く。二人が同時に間合いを詰めようとしたその時――
空から、雷鳴にも似た轟音が降ってきた。
「っ!? 上だ!!」
三人が反射的に跳び退いた瞬間、巨大な影が地面を砕きながら着地した。
土煙が巻き上がり、風圧が森を震わせる。
「な、なんだありゃ……!」
煙の向こうで、全身灰色の巨大な鷹のシルエットが羽を広げる。
その高さ、二十メートルはあろうかという巨体。翼には金属質の光沢が走っていた。
「ふっふっふ……驚いているようだな。」
「誰だ!」ルクスが杖を構える。
鳥の肩の上に、人影が立っていた。
白い仮面。冷たい笑み。
「……あれが……」玲瓏が息を呑む。
「旅人が言ってたドットーレって奴か。」
「私の計画にとって、貴様らの存在は誤差ですらない。」
「だが、今この瞬間に邪魔をした――ゆえに、排除させてもらおう!」
博士は軽やかに手を振った。
その合図と共に、“レプリフェイザー”の喉が光を帯びる。
「来るぞっ!」
次の瞬間、レプリフェイザーの口から強烈な風の奔流が放たれた。
大地が抉れ、木々が吹き飛ぶ。伏龍は地面を転がって避け、玲瓏は剣を地面に突き立てて耐える。
「くそっ! あのマッドめ……余計なモン作りやがって!」
伏龍が歯噛みする。
雷と風が渦を巻き、ルクスの瞳も警戒に細められていた。
「……貴様も敵か、博士。」ルクスが杖を博士に向ける。
博士の声が笑いに混じる。
「貴様の“データ”も、利用価値はある。」
玲瓏と伏龍が視線を交わす。
「やるしかないな。」
「だな。」
二人は同時に走り出した。
雷鳴の中、レプリフェイザーの咆哮が森に響き渡った。
レプリフェイザーは翼を翻し、璃月の方角へと飛び去った。
「逃すか!」
ルクスはすぐさま追撃態勢に入り、炎を纏って空へ舞い上がる。
「……やべっ、俺らも追うぞ!」
「当然だ!」
二人も勢いよく跳躍し、青空の向こうへと消えた。
◇
璃月の街外れ。
玄鳥と藍硯は穏やかな風の中を並んで歩いていた。
「ねぇ、玄鳥。あれ——」
藍硯が指差した空には、不吉な光を放ちながら降下してくる影があった。
「離れろ!」
玄鳥は咄嗟に藍硯を抱き寄せ、後方へ跳ぶ。その直後、地面に赤熱した弾が着弾し、爆炎が吹き上がった。
「敵だ。藍硯、戦えるか!?」
「任せて!」
二人は同時に構え、降下してくるレプリフェイザーを睨みつけた。
「邪魔だ!」
怒声と共に爆風が走り、背後から炎が炸裂する。
その炎の中から現れたのはルクスだった。
「ルクス!」
「玄鳥、今は貴様の相手をしている暇など無い!」
ルクスはレプリフェイザーへと連続で火球を放つ。
「ええい、ちょこざいな!」博士の声が響き、レプリフェイザーが指示を受けて翼を広げた。金属の羽が閃き、ルクスへと突撃する。
ルクスは軽く飛び退いて攻撃を避け、再び炎を溜める。——その時、彼の視線が藍硯へと向いた。
「……ほう、興味深い気配だ。」
口角が僅かに上がり、ルクスは片手を掲げる。
「ふんっ!」
次の瞬間、火球が一直線に藍硯へと飛んだ。
「藍硯、危ない!」
玄鳥が叫び、藍硯は防御の構えを取る。だが炎が触れた瞬間、衝撃は来なかった。
代わりに、彼女の身体を眩い光が包み込む。
「な、なんだこの光——!」
「……やはり、そういうことか。」
ルクスの口元に確信めいた笑みが浮かぶ。
光が収まると、藍硯はゆっくりと目を開けた。
彼女の背からは淡い緑の光を帯びた翼が伸び、衣は崩壊エネルギーの粒子に包まれている。
その姿はまさしく——律者。
「……この力、もしかして…」
藍硯は自らの手を見つめ、驚きと戸惑いの中で小さく息を呑んだ。
玄鳥はその光景を見つめながら、胸の奥で小さく呟く。
「……藍硯が律者に……ルクス……!」
玄鳥が呆然と呟く。
「玄鳥、その話はあと! 今は行くよ!」
「う、うん!」
二人は息を合わせ、同時に空へと飛び上がった。
風が身体を包み込み、璃月の街並みが一気に遠ざかっていく。
「うわぁ……! 本当に飛んでる! 空って、こんなに気持ちいいんだね!」
初めての飛翔に、藍硯は目を輝かせた。
その背中の光翼が蒼くきらめき、律者の証を空に描く。
「よし、じゃあ行こう!」
藍硯は手にしたチャクラムを掲げる。
崩壊エネルギーが脈動し、円環が鋭いブレードの形へと変化した。
「——はぁっ!」
藍硯がブレードを投げ放つ。
蒼い軌跡が夜空を裂き、一直線にレプリフェイザーの翼を貫いた。
金属の悲鳴のような音が響き、機体が大きくバランスを崩す。
「やった!」藍硯が嬉しそうに叫ぶ。
「ナイス、藍硯! あとは俺が——!」
玄鳥は前方に出ると、炎を纏った右手を振り抜いた。
瞬間、紅蓮の鞭が空を裂くように伸び、レプリフェイザーを直撃。
轟音と共に、敵は炎の尾を引いて地面へと叩きつけられた。
衝撃で周囲の瓦礫が宙を舞い、焦げた風が二人の頬を撫でる。
藍硯はその光景を見つめ、息を呑んだ。
「……これが、玄鳥と一緒に戦うってことなんだね。」
玄鳥は微笑んで頷いた。
「チッ……初戦ではこのようなものか。」
博士は唇を歪めながら呟いた。
その目は冷たく、何かを計算しているようだった。
「だが——次は、もっと面白いデータが取れそうだな。」
その言葉を残して、博士の姿は光の粒となって霧散する。テレポート装置が作動したのだ。
「……逃げた。」
玄鳥が低く呟く。炎の残滓がまだ周囲に漂っていた。
二人が地面に降り立つと、少し離れた瓦礫の向こうにルクスが立っていた。
焦げ跡の中でなお、彼の金の瞳は鋭く輝いている。
「ふん。やるではないか。」
ルクスの口元がわずかに笑う。その声には、敵ながらの称賛が滲んでいた。
玄鳥は黙って剣を握り直す。
答えようとした瞬間、ルクスが背を向けた。
「……今回は、邪魔が入ったが——」
一瞬だけ振り返り、鋭い視線で玄鳥を射抜く。
「次は、貴様とだけ相手をしてやろう。」
その言葉と同時に、ルクスの姿もまた空間の裂け目に呑まれて消えた。
静寂が戻る。風が焼けた土を撫で、焦げた匂いだけが残った。
「……アイツ、何者なんだ……」
玄鳥はゆっくりと呟いた。
藍硯が隣で不安そうに彼を見つめる。
玄鳥は小さく息を吐いて、空を見上げた。
遠く、裂けた空間の痕跡がまだ淡く光っていた。
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