「ええい……愚かな者どもめ……!」
研究室の奥、青白い照明に照らされた硝子管が軋む。
ドットーレは手元の端末を叩きつけるように閉じ、苛立ちを隠そうともしなかった。
「二体とも、敗北した…レプリフェイザーだけでなくレプリプライガも、か。」
怒りに満ちた声が静寂を切り裂く。
背後のモニターには、レプリプライガが雷光に包まれて倒れる映像が繰り返し再生されていた。
「やはり、まだ“素材”が足りぬ……」
彼は指先で机を叩きながら、狂気を孕んだ笑みを浮かべる。
「ふむ……仕方あるまい。――あの女から貰うとしよう。
白衣の裾を翻し、ドットーレはナド・クライの格納庫へ向かう。
――
格納庫。
無機質な鉄の匂いと機械油が充満する中、無数のファデュイ技師が新型兵器の試作機に取り掛かっていた。
巨大なアームが火花を散らし、鈍い振動音が床を伝う。
現場中央に立つサンドローネは、鋭い目つきで設計図を見下ろしていた。
そんな彼女にドットーレが歩み寄る。
「久しいな、傀儡殿。」
「……忙しいの、見れば分かるでしょ?」
冷たく返す彼女。
「ふむ。単刀直入に言おう。例の“サイバースペースの戦士”から採取したサンプル――それを、私に渡してもらいたい。」
「……無理。」
即答だった。
「ほう、理由を聞こう。」
「理由? 簡単よ。」
サンドローネは端末を閉じ、ドットーレを睨みつけた。
「アンタが何してるのか分からない。あのサンプルは、ナタに襲撃を仕掛けた得体の知れない存在から採取したもの。“危険”そのものよ。それをアンタに渡したら、何を造るつもりか――考えただけでゾッとするわ。」
「……そうか。」
ドットーレの声が、かすかに愉悦を帯びる。
「ならば――残念だ。」
指が鳴る。
轟音が格納庫を揺らした。
鉄骨を突き破り、レプリフェイザーが姿を現す。
金属の翼を広げ、作業中のファデュイたちを吹き飛ばす。
「ドットーレ……!」
「私は“実験”を進めねばならん。サンプルを渡せ。」
「……チッ!」
サンドローネは憎々しげに舌打ちし、手元の小型カプセルを投げつけた。
ドットーレはそれを片手で受け取り、口角を上げる。
「感謝する。では、私はこれで。」
レプリフェイザーが咆哮を上げ、ドットーレを乗せて格納庫の天井を突き破る。
無数の破片と蒸気が飛び散り、残された者たちは呆然と空を見上げた。
「……アイツ、本当にどうかしてるわね。」
サンドローネは静かに呟き、割れた写真立てを拾い上げる。
その目には、わずかに――怒りと恐れが混じっていた。
………………………
「ふっふっふ……これで私の実験は、次の段階へ進む……!」
ドットーレは満足げに笑い、レプリフェイザーの背で帰還ルートを取った――その瞬間。
轟音と共に空気が裂けた。
炎弾が軌跡を描き、博士の行く手を遮る。
「……チッ、またも厄介な。」
振り向けばルクスが浮いていた。
彼は片手に輝く火球を纏い、博士を睨みつけていた。
『そのカプセルの中――』
低い声が、空間に響く。
『――それが“鍵”か。なかなか面白い物を持っているではないか。』
「ふん、渡すと思っているのか。」
ドットーレは冷笑を浮かべ、レプリフェイザーを操作する。
突風が巻き起こり、鋭い風圧がルクスを切り裂かんと迫る。
「無駄だ!」
ルクスは身をひねって風刃を回避し、杖を掲げた。
雷光が奔り、空を裂いて博士を狙う。
『ふんっ!』
レプリフェイザーが翼を広げ、衝撃波で雷撃を弾き飛ばした。
「ええい!うるさいハエめ!」
博士の叫びと同時に、風が爆ぜた。
巻き上がる砂塵の中、ルクスは吹き飛ばされる。
だが、空気が再び震えた。
新たな気配――玄鳥たちが、空を裂いて現れる。
「ルクス!ドットーレ!そこまでだ!」
玄鳥の声が響く。
『……玄鳥か。』
ルクスが低く唸る。
「チッ、また貴様らか……。プライガ!」
ドットーレが指を鳴らす。
咆哮。
地面を割って現れたのはレプリプライガ。
鉄の巨体が月光を反射させ、咆哮と共に周囲の岩を砕く。
「よし、玄鳥。プライガの方は俺らに任せろ!」
十夜が一歩前に出る。
「任せとき!玄鳥はルクスを!」
宵宮が笑みを浮かべて続いた。
「……二人だけで大丈夫か?」
「安心しな。――“覚醒”すんだよ、俺たちもな!」
瞬間、二人の神の目が共鳴し、まばゆい光が爆ぜた。
紅と金の輝きが交差し、風が巻き起こる。
「律者……!」
玄鳥は息を呑んだ。
「こんなにも早く律者に…?」
「よし、こっちは任せろ!」
十夜と宵宮は雷鳴のように駆け出し、レプリプライガへ突撃する。
――同時に、玄鳥はルクスと対峙した。
「ルクス……そろそろ決着をつけよう!」
『やれるものなら、やってみろ!』
二人の武器が構えられた瞬間、
空が唸り、地が鳴る。
「これで――!」
玄鳥は炎を纏う剣を生成し、ルクスへと斬りかかる。
轟音。
炎と光の奔流が交錯し、鍔迫り合いが火花を散らす。
『甘い!』
ルクスが雷撃を迸らせ、玄鳥を弾き返した。
だが玄鳥も踏み込み、再び刃を交える。
その頃、十夜と宵宮の前では、レプリプライガが金属の悲鳴を上げながら迫っていた。
「宵宮、援護してやるから撃て!」
十夜は薙刀を構え、地を蹴った。斬撃が空気を裂き、火花が散る。その瞬間、彼の足元から草のエネルギーが芽吹くように広がった。
「任せとき!」
宵宮は弓を引き絞り、炎の矢を次々と放つ。弦が鳴るたび、爆ぜる光弾がレプリプライガの装甲を焼いた
「なるほどな、これで…周りのエネルギーを増やせるってわけか。」
「そんなこと言ってる暇あったら攻撃しいや!」
宵宮の叱咤に十夜が苦笑する。次の瞬間、雷光が走った。レプリプライガの角から雷撃が放たれ、二人を貫かんとする。
「くっ!」
十夜は宵宮を抱き寄せ、転がるようにして回避する。地面が弾け、焦げた煙が立ち上った。
「トドメを刺してやる!」
十夜は立ち上がり、両手を掲げた。浮遊していた太刀、薙刀、長刀が一つに重なり合い、眩い光を放つ。
「——ドリームソード!!」
草のエネルギーが融合し、巨大な刃が形成される。その一閃が空を裂き、レプリプライガを貫いた。
『グオオオオォッ!!』
轟音と共に爆発が巻き起こり、レプリプライガは後方へ吹き飛んだ。
「チッ…プライガを吹き飛ばすとは……!」
ドットーレは焦燥を隠せぬ表情で叫ぶ。その声に、玲瓏と刻晴が同時に動いた。
「余所見してる暇なんてあるのかしら!」
刻晴が疾走し、雷光をまとった刃がレプリフェイザーの翼を斬り裂く。玲瓏も続けざまに飛び込み、刃の軌跡が鮮やかな紫を描いた。
「チィィッ……! この私が……!」
ドットーレは血走った目で彼らを睨み、杖を振り上げる。
「せいぜい思い上がれよ……!」
そして、ワープ装置の青光に包まれ、博士とレプリプライガ達は空間の歪みの中へと消えた。
「やった!」
玄鳥がそう叫ぶと、炎の剣の熱気がまだ地面に残っていた。
しかしその前に立つルクスは、静かに笑みを浮かべていた。
『――トドメだ!』
鋭い声とともに、ルクスが一瞬で距離を詰める。
玄鳥は咄嗟に飛び上がり、頭上から炎の剣を突き下ろした。
『ぐっ……!!』
炎の刃がルクスの胸を貫く。衝撃で地面が砕け、火花が散る。
玄鳥は後方に跳び、警戒を崩さぬまま剣を構えた。胡桃と燕も駆け寄り、彼の背後に並ぶ。
「……倒したの?」胡桃が息を整えながら問う。
「いや……多分、まだだ。」燕が低く呟き、ライフルを構える。
その言葉と同時に、ルクスの口元が吊り上がった。
『……ふふふ……やはり面白い。実に……実に素晴らしい!』
胸に突き刺さった炎の剣が、まるで吸い込まれるようにその体へと溶けていく。
「なっ……!」
ルクスは肩を揺らして笑い、纏っていた黒いローブを脱ぎ捨てた。
瞬間、全身に黒曜の鱗が浮かび上がり、背中からは四本の竜の首が唸りを上げながら伸びる。翼が広がり、尾の先には炎の剣を模した赤黒い刃が形成された。
地響きとともに、彼はゆっくりと顔を上げた。
その瞳は紅蓮に燃え、まるで古の神龍が覚醒したかのようだった。
「この力……素晴らしい。これぞ――ネオブラックドラゴン。
蛍が前に出て叫ぶ。
「ネオブラックドラゴン!そろそろお兄ちゃんを解放してもらう!」
「……ふふ、いいだろう。」
竜の巨腕がゆっくりと掲げられ、胸元から淡い光が漏れ出す。
「もはやこの器は不要だ。返してやる。」
光が弾け、空の身体が引きずり出されるように現れる。蛍が慌てて抱きとめる。
ネオブラックドラゴンは一瞥だけ残し、黒い翼を広げた。
「次に会う時を――楽しみにしていよう。」
地面が震えるほどの風圧と共に、巨体が夜空へと舞い上がる。
雷雲が渦を巻き、竜の影が月を覆った。
残されたのは、焦げた地面と静まり返った風だけだった。
玄鳥は剣を握りしめたまま、空を睨みつけて呟く。
「……あれが、本当の奴の姿か。」
蛍は腕の中の空の頬に触れ、涙をこぼした。
夜の闇に、竜の咆哮がいつまでも響いていた。
サイバースペースの戦士…一体何ニスなんだ。
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