容量を…容量をくれ…
数日後。
戦いの余韻もようやく落ち着き、二人は潮風の香る海岸をゆっくりと歩いていた。
波が柔らかく打ち寄せ、白い砂の上には彼らの足跡が二本、並んで続いている。
「……あれ?」
ふとフリーナが立ち止まった。
波打ち際に、何かがキラリと光ったのだ。彼女はしゃがみ込み、そっとそれを拾い上げる。
「わあ……見てよ、マルク!」
手のひらに乗せたのは、虹色にきらめく小さな石だった。
角度を変えるたびに七色の光を放ち、まるで生きているように輝いている。
マルクも興味深げに覗き込み、にやりと笑った。
「ふーん、綺麗だね。でも僕のは負けてないよ。」
そう言ってポケットから青く光る石を取り出す。淡い波のような光がその中を流れていた。
「おおっ、マルクも拾ったのかい?どう見ても僕の方が綺麗だと思うけど!」
「いやいや、色の深みが違う。僕の方が“高級品”って感じだ。」
「むっ……言ったね。」
軽口を交わしながらも、二人の瞳はどこか不思議な輝きに惹かれていた。
マルクが少し真面目な声で言う。
「気になるな、この石。……一度、鍾離先生に見せてみるか。」
その提案にフリーナも頷き、二人は鍾離のもとを訪ねた。
岩王帝君は静かに石を手に取り、しばし沈黙したあと、低く呟く。
「……なるほど。これはただの鉱石ではないな。非常に古い力を秘めている。」
「古い力?」マルクが首を傾げる。
「うむ。この二つの石は、対となる石と互いに共鳴し合い、選ばれし者に凄まじい力を与えると言われている。
フリーナは目を輝かせて言った。
「へぇー!つまり、僕たちにぴったりってことじゃないか!」
その横でマルクが肩をすくめた。
「いや、フリーナ。君じゃ扱いきれないって。」
「な、なんだと!? 僕の実力を舐めないでよ!」
「うん、舐めてる。」
「なんだと〜?!」
そう言ってフリーナはマルクを追いかけ、二人は走り出す。
太陽の光が波に反射して眩しく、笑い声が潮風に溶けていった。
その様子を静かに見送っていた鍾離は、微かに笑みを浮かべた。
「……若いというのは、実に尊いことだ。」
………………………
荒れ狂う嵐の中、フォンテーヌの空が裂けた。
ドットーレが姿を現す。背後には、再び造り直されたレプリプライガとレプリフェイザーが控えていた。
その瞳は不気味な赤に染まり、機械の唸りと共に瘴気のような熱気を放っている。
「ふふ……ついに完成したぞ。あのサンプルを投与した“強化型”の力……!」
ドットーレは腕を広げ、狂気に満ちた笑みを浮かべた。
「さあ、実験開始だ。フォンテーヌの街を――試験場にしてやろう!」
レプリプライガの尾部に組み込まれたガトリング砲が火を噴く。
光の雨が通りを薙ぎ払い、家屋の外壁を削り取っていく。
同時にレプリフェイザーが翼を広げ、風の咆哮を放った。
空気が刃のように渦巻き、建物を次々と粉砕する。
「そこまでだ!!」
その声と共に、上空から玄鳥たちが飛び込んできた。
炎の翼が夜空を裂き、閃光が戦場を照らす。
「ふん……また貴様らか。」ドットーレは鼻で笑い、指を鳴らした。
「だが今回は違う。強化されたレプリプライガとレプリフェイザー、果たして貴様らに勝てるかな?」
その言葉を残し、ドットーレの姿は闇に消える。
残された二体の怪物が唸りを上げ、玄鳥たちへと迫った。
「来るぞ!!」
玄鳥は咄嗟に剣を構え、レプリプライガの爪を受け止めた。
しかし――
「うっ……ぐあぁッ!」
衝撃は以前とは比べ物にならなかった。受け止めた瞬間、骨が軋む音と共に、玄鳥の身体は吹き飛ばされた。
「玄鳥ッ!」胡桃の叫びが響く。
十夜が前に出て、薙刀を閃かせる。
「馬鹿な……前はあの攻撃を止められたはずだ!」
「防御も攻撃も、全部強化されてる……!」刻晴が歯噛みしながら雷撃を集中させた。
「よし、一気に叩くぞ!」
十夜と宵宮、胡桃と燕――それぞれが一斉に攻撃を仕掛ける。
だが、鋼の装甲に傷一つ付かない。衝撃波が逆に彼らを弾き返した。
レプリフェイザーが空を旋回し、風の奔流を巻き起こす。
「くそっ、押し切れない!」伏龍が再び立ち上がり、歯を食いしばる。
「大変だよ、マルク! 街がめちゃくちゃだ!」
「わかってる、急ぐぞ!」
遅れて駆けつけるマルクとフリーナ。
だが、その行く手に影が落ちた。
巨大な黒い翼。
空を裂いて降り立ったのは――ネオブラックドラゴン。
「貴様ら……ここで何をしている?」
低く響く声と共に、黒き巨体が彼らを見下ろした。
その瞳の奥には、かつてルクスだった頃の冷たい理性が微かに光る。
「うわ……マズい相手だ。」フリーナが顔を引きつらせる。
「くっ、ここで足止めかよ……!」マルクは刀を抜き放った。
蒼の石が反応し、刀身に光が宿る。
「来いよ、ドラゴン!」
咆哮が空を揺るがした。
マルクが斬りかかり、ネオブラックドラゴンが尻尾で迎え撃つ。
衝突の瞬間、衝撃波が砂浜を吹き飛ばし、海が盛り上がる。
フリーナがすぐさまサロンメンバーを呼び出す。
水の壁が展開し、マルクの前に出るが――尻尾の一撃で消し飛ばされた。
「ぐっ……まだ……!」
マルクは地に伏しながらも、血を吐くように立ち上がった。握り締めた刀が震える。
「諦めるわけには……いかない!」
彼は再びネオブラックドラゴンに突進する。
しかし、ネオブラックドラゴンは冷笑を浮かべ、片手をかざした。
「無駄だ!」
次の瞬間、目に見えぬ衝撃波――サイコキネシスが炸裂し、マルクとフリーナの身体を宙へ弾き飛ばした。
二人はそのまま海へと叩きつけられ、深い蒼の底へ沈んでいく。
………………………
――水の音。
ゆっくりと瞼を開けると、フリーナの視界に広がったのは静かな海の中だった。
気泡が揺らぎ、身体が重い。
「……僕……やられたの……?」
声は泡となって消える。
胸が締め付けられる。
(やっぱり僕は……運命には勝てなかったのかな……)
その時、目の前にマルクの姿が見えた。
彼はぼんやりとした光の中で、真っ直ぐこちらを見据えている。
(マルク……)
(フリーナ、僕は――まだ諦めてない!)
その瞳に宿る意志が、海よりも深く、熱かった。
「そうだ……僕だって……!」
フリーナは力を振り絞り、マルクへと泳ぎ出す。
その瞬間――
二人の胸に下げていた“あの石”が、共鳴するように輝き始めた。
「これは……!」
虹色と蒼の光が絡み合い、水中に魔法陣のような紋章を描き出す。
光が弾け、二人の身体を包み込む。
そして――
………………………
海面が爆ぜた。
轟音と共に、黒い蒸気と光が立ち昇る。
ネオブラックドラゴンが振り向いた瞬間、海から“それ”が這い上がってきた。
「……なに?」
蒸気の向こうから現れたのは、竜と人が融け合った姿.
黄金の瞳が燃え、黒と青の翼が広がる。
咆哮が空気を震わせ、地面が軋む。
その正体は、マルクだった。
だが、もはやただの人間ではない――古龍の力を宿した、律者。
「マルク……!」
フリーナが思わず叫ぶ。
マルクは鋭い眼差しで彼女を見て、低く言った。
「しっかり捕まってろ、フリーナ。」
背中に乗せ、翼をひるがえす。
次の瞬間、音を置き去りにしてマッハの速度で飛翔――
一直線にレプリフェイザーへと突撃、衝撃波と共に吹き飛ばした。
「なっ……何だあれは!?」
ネオブラックドラゴンが怒号を上げる。
フリーナはマルクの背から飛び降り、海風をまとって着地した。
その身体もまた、光に包まれて変化していく。
髪が流れ、衣が淡い青と白に輝き、瞳が神秘の紋章を宿している
「面白い……マルクとか言ったな。来るがいい!」
ネオブラックドラゴンの咆哮が空を裂く。
「ふんっ、いいだろう。」
マルクは刀を構え、蒼炎が刃を覆う。
「フリーナ、行くぞ!」
「任せてよ!」
マルクとネオブラックドラゴンは、互いに真正面から拳を振り抜いた。
拳と拳がぶつかり合い、衝撃波が地面を裂く。
「……なるほど。その力――“龍気”だな?」
ネオブラックドラゴンが唸るように呟く。
「へぇ、これが龍気って言うのか。」
マルクは口元を吊り上げ、冷気を纏う右拳を振るった。
「名前なんてどうでもいい――勝てばそれで充分だ!」
彼は右手に握った刀を構え、左手にもう一本の刃を召喚する。
双剣が蒼い光を放ち、風を裂く。
「はあっ!!」
刃の閃きが二重の軌跡を描き、ネオブラックドラゴンへと迫った。
「くっ……速い!」
巨竜は咆哮を上げ、爪で防御するが、衝撃波が空気を震わせる。
その直後――
「今だ、フリーナ!」
マルクが後方へ跳躍。入れ替わるように、フリーナの剣が激流をまといながら一直線に走った。
轟音と共に放たれた水刃がネオブラックドラゴンの胴を撃ち抜く。
「ぐっ……!」
水飛沫と黒煙が舞い上がった。
「フリーナ、オーラを高めるんだ!」
「うん!」
二人は呼吸を合わせ、剣に力を集中させる。オーラが共鳴し、刃先が光の奔流に包まれた。
「せぇぇいっ!」
マルクが先陣を切り、ネオブラックドラゴンの胸部に斬り込む。
「やるな……!」
竜は咆哮し、反撃の衝撃波でマルクの刀を弾き飛ばす。
「マルク!」
フリーナが叫び、すかさず自身の剣を投げる。
マルクはそれを掴み取り、全身の龍気を剣に注ぎ込み、一直線に突撃。
その刃がネオブラックドラゴンの腹部を掠め、閃光が走った。
「ぐっ……これ以上は無理か…」
ネオブラックドラゴンは苦悶の声を上げ、翼を広げる。
「覚えとけ、律者共!」
その叫びと共に、彼の身体が黒い霧に包まれ、空間の裂け目へと消えていった。
静寂。
荒い息をつきながら、マルクは剣を地に突き立てた。
「……逃げたか。」
「でも、きっとまた来るよね。」
フリーナが頬に残る血を拭いながら言う。
マルクは短く息を吐き、彼女の肩に手を置いた。
「言ってる場合じゃない。――玄鳥たちの援護だ!」
マルクの声が鋭く響く。
「うん!」
フリーナが頷くと同時に、マルクの翼から龍気が迸った。
蒼白い翼が一瞬にして展開し、風圧が砂浜を吹き飛ばす。
「うわっ、はやっ……!ちょっと待ってよ〜!」
フリーナは慌てて追いかけるが、マルクは既に空の彼方へと飛び去っていた。
その頃…
「どうするよ……このままじゃジリ貧だぜ!」
伏龍が汗をぬぐいながら叫ぶ。
レプリプライガとレプリフェイザーの猛攻に、玄鳥たちは防戦一方となっていた。
雷撃と風圧が交錯し、地面が抉れる。
その瞬間――上空から強烈な冷気が降り注ぐ。
氷の奔流が爪を受け止め、戦場が一瞬凍りついた。
「マルク!」
玄鳥が声を上げる。
氷煙の中から、槍翼から放たれる龍気で浮遊するマルクが降り立つ。
背後には水の光を纏ったフリーナの姿もあった。
「待たせたな。」
マルクが一言放ち、刀を抜き放つ。
「行こう。」
その言葉を合図に、玄鳥たちが再び構え直す。
「おう、やってやろうぜ!」
「今度こそ――終わらせる!」
レプリプライガとレプリフェイザーが咆哮を上げ、空気が震える。
対する玄鳥たちの視線は一点に集中していた。
サブメンバーも全員覚醒しました。これもう負けないでしょ。
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