【本編完結】仄かな焔は璃月を舞う   作:サツキタロオ

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長いようで短かった第四部も終わりです。


第50幕:光を越えて

 

「基地が……」

 

破壊されたクーヴァキ実験設計局の跡地を見たコロンビーナは、震える声で言葉を漏らした。

黒煙が天へと昇り、焦げた金属の匂いが戦場全域に広がっている。

 

「とんでもない威力ね……ドットーレの奴、まさかあんな姿になるなんて……」

サンドローネは表情こそ緩やかだが、その瞳の奥には確かな恐怖が宿っていた。

 

上空で咆哮した《ファライガー》は、再び大気を吸い込み始める。虚空が歪み、風が逆巻き、砂利が音を立てて浮き上がる。

 

「チッ……またあれを撃つつもりか……! 総員、撃て!」

ツカサの叫びと同時に、デュミナス部隊が一斉射撃を開始した。

砲撃と銃撃が集中豪雨のようにファライガーを叩く。だが――。

 

「無傷だと!?」

ファライガーは微動だにしない。砲撃の閃光すら、その巨体の前ではただの火花に過ぎなかった。

次の瞬間、白光が奔る。

 

「来るぞ!!」

放たれたビームはツカサ達の頭上すれすれを通り抜け、背後の山肌を一瞬で蒸発させた。

轟音が地鳴りのように鳴り響き、遠くの峰が崩落していく。

 

「なんて化け物だ……」

その光景を少し離れた空から見ていた胡桃達も絶句していた。

 

「やば……とんでもないよ、あいつ……」胡桃が顔を引きつらせる。

 

「さっさと止めないと、テイワットごと蒸発するぞ。」ファングが鋭く吐き捨てた。

その中で、マルクだけは目を細め、迷いの一滴すら浮かべない。

「――ここで終わらせる。行くぞ!」

振り返ることなく言い切ると、翼に龍気を込めて、光の軌跡を残しながらファライガーへ飛び込んだ。

 

『愚か者め! 私の前から消え失せるがいい!!』

巨体が咆哮し、大地が震えた。

 

……………………

 

「くっ……お前に構ってる暇はないのに……!」

玄鳥は吐き捨てるように言い、拳を構える。

対するネオブラックドラゴンも、低く笑って翼を広げた。

「ふん、戯言だ。くらえッ!」

二人は空中で激突し、爆ぜるような衝撃が走る。

拳と拳、爪と剣、翼と蹴り――互いに一歩も引かず、嵐のようなラッシュが続く。

 

金属が軋む音。空気が裂ける音。

長き戦いの果てに、二人はわずかに息を吐きながらも攻撃の手を止めない。

 

(……なんだ、この感じ……)

玄鳥は胸の奥に、言いようのないざわめきを感じていた。

 

(懐かしい……? いや、何故に……?)

同じ思いが、ネオブラックドラゴンの脳裏にも確かに走っていた。

戦いながら互いの瞳がぶつかるたび、既視感のような感情が胸を締めつける。

 

「お前……まさか……」

「……!」

二人が何かに気づきかけた、その瞬間。

 

――空が裂けた。

巨大な影が横合いから突っ込んできた。

「「!?」」

 

『フハハハハハ!! 貴様らもまとめて消し去ってくれるわッ!』

 

ファライガーだった。

仲間たちの攻撃は全て弾き飛ばされ、巨体は傷一つ負っていない。

 

「くっ……こんな時に……!」

「邪魔をするなァ!!」

玄鳥とネオブラックドラゴンは視線を交わすと、無言で戦いを中断し、そのまま同時にファライガーへ突撃した。

互いに武器を装備し、二条の光が並んで一直線に走る。

 

玄鳥の炎の剣が火花を散らし、ネオブラックドラゴンの黒き爪が唸りを上げる。

二人の攻撃が巨体に叩き込まれた——が。

 

ファライガーが翼を一度、鋭く羽ばたかせた。

その一撃だけで、空気が爆ぜ、玄鳥とネオブラックドラゴンの体は弾丸のように吹き飛ばされた。

「ぐっ……!」

「まだだ……!」

 

地面を何度も転がりながら二人は踏みとどまる。

その視線は、まるで自然と同じ方向――ファライガーへと向けられていた。

 

その横では、ファデュイの残存部隊が次々に駆けつけ、ファライガー迎撃の陣形を整え始めていた。

 

「……生き残った部隊は、これだけか……」

ツカサが歯噛みする。

猛攻を受け、デュミナス部隊はすでに大半を失っていた。

「サンドローネ、稼働可能なデュミナスをすべて前線へ。防衛線を維持するぞ!」

「了解。……本当に、壊すのが好きね、あの化け物。」

サンドローネがため息をつきながらも指を動かし、残存兵器を総動員する。

 

一方で——

「…………」

コロンビーナは、戦場のざわめきの中でじっと玄鳥とネオブラックドラゴンを見つめていた。

その様子に気づいたツカサは、軽く肩を叩いた。

 

「コロンビーナ。……何か視えたのか…?なら、お前に任せる。」

「ありがと、ツカサ。」

小さく微笑むと、彼女は静かに二人へ歩み寄っていった。

玄鳥とネオブラックドラゴンは警戒しつつも、その少女の纏う“異質な静けさ”に思わず動きを止める。

 

「……?」

「……」

コロンビーナは無言のまま、二人をまっすぐ見た。

そして、ゆっくりと――透けたアイマスクに手をかけ、外す。

 

次の瞬間。

 

「――っ!」

玄鳥とネオブラックドラゴンは息を呑んだ。

その瞳は月光のように澄み切り、底知れぬ神秘を宿していた。

戦場の光と影を受けて、まるで本物の月を閉じ込めたかのように輝いている。

 

「……思い出して。“忘れている方”の記憶を。」

コロンビーナは二本の指をそっと掲げ、そのまま二人の間に伸ばした。

淡い光がほとばしり、玄鳥とネオブラックドラゴンの脳裏へ一気に流れ込む。

 

――断片的な映像。

――同じ魂を分け合った、かつての存在。

――二つに割れた“始まり”の姿。

 

「こ、これは……」

玄鳥が震える声でつぶやく。

「馬鹿な……何かの間違いではないのか……!?」

ネオブラックドラゴンも瞳を大きく見開いた。

二人はゆっくりと互いを見つめ合う。

 

静寂——。

 

風が止まり、戦場の音ですら遠くに感じた。

「……この記憶が本当なら、俺とお前は……」

玄鳥が言葉を紡ぐ。

「私とお前……元は……」

ネオブラックドラゴンも続けた。

 

「最初から——運命だった、というのか?」

玄鳥が呟くように言った。

 

二人がコロンビーナに視線を向ける。

コロンビーナは静かに微笑み、月光の瞳で二人を見返した。

 

「月は嘘をつかないよ。」

その声は、戦火の中とは思えぬほど柔らかく、温かく響いた。

 

「これが本当なら……」

「お前の力——我が元へと還るということ……!」

 

二人の身体は淡い輝きに包まれ、まるで引き寄せ合うようにして天へと舞い上がる。

 

コロンビーナはアイマスクをそっと戻し、目を閉じ、微笑んだ。

「頑張ってね。」

 

月光のような声は、どこか祝福の響きを帯びていた。

 

……………………

 

「くっ……なんてパワーだ……!」

 

ファライガーの一撃をまともに受け、十夜たちは地面に叩きつけられていた。

周囲には瓦礫と焦げ跡が散らばり、戦況の絶望的なまでの差が刻まれている。

 

「ただ合体しただけで……こんなにも力が違うというのか……」

マルクは顔を歪め、再び剣を構えて飛翔した。

 

フリーナたちも続けざまにエネルギー弾を撃ち込む。

しかし——

 

「……ダメージが……薄い……」

刻晴は歯を食いしばる。

 

ファライガーは一切怯まず、咆哮と共に反撃の雷光を放つ。

その瞬間——空が裂けた。

 

「っ!? なんだ——!」

 

灼熱の炎が走り、ファライガーの巨体が地面へ叩き伏せられた。

土煙の中、翼を広げた影がゆっくりと降り立つ。

 

その姿は——玄鳥。

だが、誰もが知る玄鳥ではなかった。

「寄生……いや、違う……これは融合……?」

藍硯がかすれ声で呟く。

 

「玄鳥……」

胡桃の声は震えながらも嬉しさを含んでいた。

ファライガーは激しく身を震わせて怒号する。

 

『何……!? 寄生してなお力を増すだと!?』

 

雷撃の奔流が玄鳥へと向けて放たれた。

しかし玄鳥は無表情のまま手を上げ、その雷光を——掴んだ。

 

「吸収した……!」

玲瓏たちは言葉を失い、ただ見上げるしかなかった。

胡桃は目を潤ませながら玄鳥の背中を見つめた。

 

ファライガーは追撃の雷撃を放つ。

だが玄鳥はそれを巻き取り、逆に砲弾のように叩きつける。

 

『くっ……ふざけるな……!』

 

怒気を帯びて翼を羽ばたかせるファライガー。

しかし玄鳥は一歩前に踏み込み、炎を頭上で螺旋状にチャージし、燃え上がる彗星のごとく突撃した。

ファライガーの体を灼熱が貫き、雷と炎が交差するような閃光が空を裂く。

 

『馬鹿な…この私が……最強の電脳獣が……負ける筈は……』

 

ドットーレの声は途中で途切れ、ファライガーは真っ二つに裂け、爆散した。

眩い光が散って、空にはただ玄鳥だけが残された。

 

 

 

マルクたちは呆然としながらも、その雄姿に向かって駆け寄る。

「アイツ……本当に、やりやがった……」

玄鳥はゆっくりと降り立ち、地上へと歩く。

胡桃はこらえきれず駆け出した。

 

「玄鳥——っ!!」

その声は戦場の空気を切り裂き、まっすぐ玄鳥へと届いた。

 

……………………

 

「玄鳥……」

仲間たちの声が震えたのは、ただ久々の再会だからではなかった。

顔を上げた玄鳥は、いつもより気迫を帯びた表情をしていた。静かで凛とした佇まい。しかし何より異様だったのは――片目。

赤く燃えていたはずのその目は、禍々しい深紫へと染まっていた。

 

十夜が息を呑む。

「……まさか、ネオブラックドラゴン……いや、ルクスに寄生されたのか?」

 

蛍が伏龍の合図に頷き、静かに目を閉じて玄鳥の気を読み取った。

その眉がわずかに震える。

 

「…………玄鳥の気だけじゃない。ルクスの気も確かにある。でも……これは寄生じゃない。もっと複雑で……混ざってる?」

視線が揺れる蛍に、玄鳥がゆっくりと口を開いた。

「事情を話すよ。」

重い息を吐き、玄鳥は胸に手を置いた。

「俺はコロンビーナの力で記憶を取り戻した。何億年も前の……とんでもなく古い記憶だ。」

 

仲間たちは声を失ったまま耳を傾けている。

「俺とルクスは、もともと一つの存在だった。善の心と悪の心――二つに分けられたのは、“とある事情”があったからだ。」

「善は俺。悪はルクス。そう分離された。」

 

玄鳥の胸の奥から、微かに紫の光がにじむ。それは禍々しいはずなのに、不思議と穏やかな脈動をしていた。

 

伏龍が黙って目を伏せる。

「……なるほど。だったら辻褄は合う。正義感だけで突っ走るにしては、少し無茶がすぎると思ってた。」

 

それに玄鳥は照れたように微笑んだ。

「まあ、でも――俺が玄鳥であることは変わらないよ。だから……いつも通り、よろしくな!」

 

その軽やかな言葉に、重かった空気がふっと緩む

「……生意気だぜ。」

 

玲瓏が苦笑しながら玄鳥の肩に腕を回した。

 それを皮切りに、他のみんなも玄鳥の周りに集まる。

 

安堵、驚き、恥ずかしげ、そして喜び――さまざまな感情が入り混じる中で、玄鳥は昔と変わらない笑みを浮かべていた。

 

空はゆっくりと晴れ、裂けるように開いた雲の隙間から光が差し込む。

 激戦の名残を照らすように、その光は静かで、暖かく、どこか祝福めいた輝きを帯びていた。

 

誰かが小さく息を呑む。

――虹がかかっていた。

 

戦いの埃と焦燥を洗い流すように、七色の弧が天へ伸びていく。

その下で玄鳥は一歩、また一歩と前へ足を進めた。仲間たちも同じように、光の向こうへと歩き出す。

 

ルクスの気配を片目に宿しながらも、玄鳥の歩みは確かだった。

光を越えて、影を抱え、それでも前へ。

 

玄鳥達は――新しい一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

暗闇。

光の祝福が届かない深淵の底。

 

「――興味深い……」

 

その声は、笑っているのか、怒っているのかすら判別できない。

ただ冷たく、ただ鋭く、ただ世界の奥底で何かを見透かしている。

 

虹の光が彼らを照らすその瞬間にも、誰も知らない影が、静かに動き出していた。

 





次の連載はスタレか一作目のリメイクです。アンケートで決めようと思います。

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