【本編完結】仄かな焔は璃月を舞う   作:サツキタロオ

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終わりは近いです。


第五部:無限の明日へ
第51幕:三幻魔の到来


 

〜胡桃視点.

ドットーレとの戦いから数ヶ月。

あの地獄のような日々が嘘だったかのように、私たちは平和な時間を取り戻していた。

 

「あ、玄鳥。この荷物取っといてー」

「……ああ」

 

ラフな格好で気楽そうに答えた玄鳥は、以前よりどこか“大人びた”雰囲気をまとっていた。

肩の力が抜けて、余裕があって、落ち着いていて――いい意味で変わったと言えるのに。

 

……それでも私は、胸の奥がほんの少しだけざわつく。

 

なんだろう。

 

目の前にいるのは玄鳥。

声も、癖も、話し方も、全部玄鳥。

 

でも――“奥”が違う。

 

蓋をされたように静かで、何かを飲み込んだように深い。

以前の玄鳥なら、私がこんな風に不安そうに見ていれば、すぐ気づいて笑わせてくれたのに。

今の玄鳥は、気づいていないのか、それとも気づいていてあえて触れないのか……判断できない。

 

ルクスと融合してから、人格も統合されて変わった。

そう、玄鳥自身が言っていた。

 

――けれど。

 

融合した“誰か”が、確かに玄鳥の中で息をしている。

玄鳥の仕草の端々に、時々ふっと混ざる微かな影。

ほんの一瞬、紫の片目が冷たく見える瞬間がある。

 

「……」

 

私は玄鳥の背中を見つめた。

「どうしたの?」

「……! あ、ええっと……」

玄鳥の問いかけに胸が跳ねた。誤魔化そうとしたけれど、言葉が喉でつかえる。

玄鳥は少し首を傾げると、まるで私の心の奥を静かに覗き込むような目で言った。

「……やっぱり違和感ある?」

「っ……」

 

図星を刺されて、思わず身体が小さく震えた。

それでも玄鳥は責めるような表情は微塵も見せず、むしろ少し困ったように笑った。

「違和感を感じるのは分かるよ。俺だって、少し違和感を感じてるから」

そう言って玄鳥は一歩近づき、そっと私の肩に手を置いた。

その手は温かいのに、どこか底知れない静けさを纏っている。

 

以前の玄鳥と同じ触れ方なのに……全然、違う。

 

「胡桃は――今の俺が嫌いか?」

「ううん! そんなわけないよ!」

反射的に強く否定した。

すると玄鳥は一瞬きょとんとして、すぐに柔らかく目を細めた。

 

「そっか。なら良かった」

「だって……玄鳥は玄鳥だもん。ちょっと変わっても、嫌いになるはずないよ」

 

言いながら、自分の声がわずかに震えていることに気づく。

 

好き嫌いじゃなくて――“怖い”んだ。

玄鳥の奥にいる、まだ名前のつかない何かが。

 

玄鳥は小さく息をつき、私から目をそらさずに続けた。

 

「……でも、正直に言えば、俺も自分が完全に“俺のまま”かどうかは分からない」

「……え?」

「ルクスと統合してから、時々……自分の影が、もう一つあるように感じるんだ」

その言葉に、胸の奥がひやりとした。

 

「でも大丈夫だ。胡桃が違和感を覚えてくれるなら、それは俺が“だいぶ玄鳥のまま”ってことだから」

 

「……玄鳥……」

彼はいつも通りに笑っているのに、その背後で何かが静かに目覚めている気がした。

穏やかな日常のはずなのに、ふと風が冷たく吹き抜け、鳥肌が立った。

 

……………………

 

〜玄鳥視点.

胡桃と別れたあと、胸の奥に溜まったざらつきを振り払うように外へ出た。

夕暮れ前の風が冷たく、頬をかするたびに自分が“少し違う存在”になってしまったことを否応なしに思い出させる。

 

「やっぱり……慣れないな」

口に出すと、思ったより重く響いた。

自分の声なのに、ほんの少しだけ深みが増しているような気がする。

「でも……いずれは慣れないとな」

 

気分を切り替えるように軽く頭を振り、玲瓏たちがいる方向へと歩き出した。

すると向こうから数人の影が近づいてくるのが見えた。

 

先頭の伏龍が、いつもの気安い調子で手を上げる。

 

「よ。暗そうな顔してんじゃん」

「うん」

思わず素直な返事が口をついて出た。

本当は取り繕うつもりだったのに、みんなの顔を見た途端、胸の奥の重さを隠す気力が抜けていく。

十夜は目を細めてじっと俺の顔を覗き込む。

 

「……ふーん。胡桃に何か言われたか?」

 

「いや、そうじゃない。ただ……」

 

言いかけて、言葉が止まった。

“ただ自分自身が自分じゃない気がする”なんて、簡単に言えることじゃない。

 

その沈黙を、背後から近づいてきたマルクが破った。

「玄鳥の顔で悩み隠せるわけないだろ。どうせ内側で何かあったんだろ」

 

「……まあ、ちょっとな」

俺はため息をついて空を見上げた。

すると――空から巨大な影が三つ、ゆっくりと落ちてくるのが見えた。

 

「な、なんだぁ!?」

 

伏龍が思わず声を上げ、俺たちは反射的に武器を構えた。

だが――胸を刺すような敵意が一切ない。

むしろ、静かで重い波のような気配だけが広がっている。

 

雲が裂ける。

その隙間から姿を現したのは、三体の“規格外”の怪物だった。

 

赤く燃える龍――

金色の骨のような構造を持つ異形の龍――

そして、蒼き巨人の王――。

 

生物というより、“概念”そのものが落ちてきたような質量だった。

『……感謝する』

蒼い巨人が、直接頭に響くような声で語りかけてくる。

テレパシーだ。全員が思わず息を呑む。

『我らは、遠い銀河より来訪した“三幻魔”である』

 

「三幻魔……?」

 

俺が呟くと、赤い龍が大気を揺らす声で名乗った。

『我は三幻魔が一人――“ウリア”』

 

続いて、骨の王を思わせる金色の龍が静かに告げる。

『我もまた三幻魔が一人――“ハモン”』

 

最後に、蒼き巨人が重々しく胸に手を当てた。

『我は三幻魔が統べる者――“ラビエル”』

 

その名乗りに、俺たちは完全に身構えるのを忘れ、ただその圧を浴びるように見上げた。

玲瓏が喉を鳴らしながら言葉を絞る。

「……何が目的で、こんなところに?」

ラビエルはわずかに顎を引き、地響きのような声で答えた。

『簡潔に言おう。――テイワットに“危機”が迫っている』

「危機……?」

 

眉をひそめる俺たちに、青き巨人は続ける。

『我らが主――“アーミタイル”を、天理の者どもが狙っている』

「天理……アーミタイル……?なんの話だ?」

互いに目を見合わせる中、赤い炎の龍ウリアが低く語る。

『天理――この世界の秩序を支配する者。だが今は……その一柱が欠け、均衡が崩れている』

ハモンの骨の翼が不気味に軋む。

『その隙を突き、我らの主を奪おうとしている……愚行にも程がある』

 

最後にラビエルが強く地を踏み鳴らすように言い放つ。

『“神”でありながら、宇宙の理に手を伸ばすとは……実に愚かで、許し難い』

空気が震えるほどの威圧感――。

俺たちはつい息を飲んだ。

 

『天理は、神である我らすら“打ち滅ぼす”策を模索している。だからこそ――お前たち人間に我らの元へ来てほしいのだ』

 

ラビエルが静かに告げると、玲瓏が眉を吊り上げた。

「天理って奴らは、お前らで何とかできるんじゃねぇのか?アーミタイルって主人がいるんだろ。そいつに任せりゃいい。」

『……それが叶わぬのだ』

 

ラビエルは首を横に振る。

『アーミタイルは我らよりも遥か高みに立つ存在。我らが“抑えられる力”ではない。ゆえに、我々自ら動く事が出来ぬ』

 

俺たちは言葉を失う。

天理すら恐れる“主”を持ちながら、それでもなお危機に直面しているということなのか。

 

沈黙が流れた後、俺は口を開いた。

 

「……いいよ。行く。ただし――やり方は俺たちで決めていいんだな?」

 

ウリアが低く笑う。

『神に意見するか。実に傲慢で、実に――面白い』

 

『ああ、よかろう』

ラビエルが頷く。

『お前たちの方法に任せる。……期限は“明後日”だ。それまでに準備を整えておけ』

次の瞬間、三幻魔の巨体は、風景がひずむようにゆっくりと消失していった。

 

残されたのは、沈黙。

「…………大変な事になっちまったな。」

玲瓏が頭を掻き、誰もが同じ思いで空を見上げていた。

 

「悪い……ついああ言っちゃってさ…」

俺が呟くと、ファングが肩を押してくる。

 

「気にすんな。どうせ誰かが言ってたさ。」

マルクは腕を組み、真剣な眼差しで呟いた。

「僕たちの力が、本当の意味で試される時が来たってことだろう。」

 

「ああ――そうだな。」

俺も不敵に笑って返す。

だがその裏で、手がわずかに震えていた。

 

(……この戦いは、俺たちの運命を決める戦いになる)

 

震えを悟られぬよう拳を握りしめ、俺は晴れゆく空を見上げた。





続編のスタレは多分短いと思います。

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