【本編完結】仄かな焔は璃月を舞う   作:サツキタロオ

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次回も頑張るので応援よろしくお願いします。


第52幕:神話のその先へ

 

〜ファング視点.

ニィロウに事情を話すと、彼女は一瞬だけ戸惑ったようにまばたきをした。しかし次の瞬間には、その迷いを振り払うように俺の手をぎゅっと握りしめていた。温かくて小さな手。その震えが、逆に覚悟の強さを伝えてくる。

 

「私も行くよ!」

その声には、不思議と影がなかった。恐怖を認めた上で、なお踏み出す人間の強さが宿っていた。

「いいのか? 多分、物凄く大変な場所に行く事になるんだぞ。」

俺は念押しするように言った。彼女だけは、危険から遠ざけてやりたい。そう思う自分がいた。

けれどニィロウは首を横に振り、俺の目をまっすぐ見た。

「うん。戦うのはちょっと怖いけど…私、ファングだけに大変な目に合わせたくないもん!」

 

その一言で胸が詰まった。

守りたいと思っていた相手に、守ろうとされている。

嬉しいような、申し訳ないような、複雑な気持ちが渦を巻いたが……最後には素直に頷いていた。

 

「……ニィロウ。分かった。ニィロウがそう言うなら。一緒に来てくれ。ただし、無理はするなよ。」

互いに微笑み合ったその時、背後から声がした。

 

「お前だけじゃないぜ、ファング。」

振り返ると、マルクと十夜が立っていた。その後ろには、宵宮とフリーナまで揃っている。

思わず笑ってしまう。仲間という存在は、どうしてこうも騒がしくて、頼もしいのか。

「マルク…十夜…。それに宵宮さんとフリーナまで。」

 

十夜が手をひらひらさせながら言う。

「大一番の勝負なんだ。不安だろ。」

「だな……正直、責任重大すぎて荷が重い。」

思わず本音が漏れる。それくらい今回の件は重い。俺たちが選べる未来が、たった一歩で変わるかもしれない。

 

マルクは腕を組み、いつもの落ち着いた調子で言う。

「僕だけじゃない。他のみんなも同じ気持ちだろう。だからこそ、全員で立ち向かうべきだ。」

 

隣でフリーナが胸を張る。相変わらず無邪気だが、その目はしっかりと前を向いていた。

「僕達も精いっぱい頑張るからね!」

 

宵宮も笑って肩を叩いてくる。

「ウチも協力するで。覚悟決める時やろ?」

 

仲間たちの存在が、一気に胸の奥まで染みてくる。

孤独な戦いじゃない。自分一人の命運でもない。

背中を押されているような、支えられているような、不思議な安心感が湧き上がった。

 

「……みんな。悪いな。頼りにさせてもらう。」

そう言った時、ようやく腹の底に熱いものが灯った。

恐怖も不安もまだある。だが、それよりも――。

 

全員で勝ち取る未来を、絶対に掴み取るという確かな意思が、静かに燃え上がっていた。

 

〜玄鳥視点.

「……」

 

皆に状況を伝えるのは、思っていた以上に骨が折れた。

玲瓏と伏龍が刻晴と甘雨へ説明に向かった時──案の定叱られたらしい。それでも二人とも、「放っておけない」とついて来てくれることになった。あいつららしい反応に苦笑がこぼれる。

俺も胡桃以外の仲間へ話し終え、ようやく一人になれる時間を求めて屋根へ上がった。夜風が心地よく、月は白く滲むように輝いている。けれど胸の奥は重かった。

 

「玄鳥。」

 

振り返るまでもなく、声の主が誰かは分かる。

 

「胡桃。」

 

隣に腰を下ろした彼女は、風で揺れる髪をそっと押さえながら空を見上げていた。いつもと変わらぬ笑顔。だがその奥にある微かな不安も、長く一緒にいれば気づくようになってしまった。

 

「聞いたよ。大変な事が起きるみたいだね。」

「ああ……胡桃は来てくれるか?」

「勿論。」

返事は短く、迷いがなかった。

その強さが嬉しくて、同時に胸の痛みに変わる。

 

二人して黙り込んだ。

風が瓦を撫でる音だけが響く。沈黙の中で、心臓の鼓動が妙に大きく感じられた。

俺はその音をかき消すように、そっと胡桃の手を握った。

「胡桃……約束する。必ず一緒に帰ってこよう。」

 

思わず視線を上げると、月明かりの下で胡桃の紅い瞳がまっすぐ俺を見ていた。

その瞳があまりに綺麗で、つい心の奥の本音まで零れ落ちてしまう。

「……正直、怖い。俺は……死ぬんじゃないかって思うと……」

 

声が震えた。

自分でも驚くほど弱々しい声だった。

 

胡桃は一瞬きょとんとした後、不意にふっと笑った。

「なんだか玄鳥。本音言えるんだね。前まではそんな事、絶対言わなかったのに。」

 

図星すぎて目を逸らした。

昔の俺なら、怖さを見せるなんて絶対に出来なかった。

けれど今は──彼女には、隠せない。

 

胡桃は俺の手を握り返し、力強く頷いた。

 

「うん。約束だよ。絶対帰ってこようね!」

「……ああ。絶対に。」

月光の下、指と指が絡んだ。

その温もりが、戦いよりもずっと怖くて、そして何より勇気をくれるものだった。

 

……

二日という時間は、覚悟を固めるには短いのか長いのか──それを考える余裕もないほど、俺たちは準備に追われていた。

 

そしてその朝。空気がひりつくような静けさの中、三幻魔が天から降り立った。

『覚悟は決まったのだな。』

ラビエルの低い声が空気を震わせる。

俺はわずかな逡巡も見せず、まっすぐ頷いた。

「ああ。」

 

『では案内しよう。我らが主人へと続く道へ。』

次の瞬間、三体の巨神は空へ向けて腕を掲げた。

大気が割れ、天へと伸びる眩いエネルギーの道が展開する。

地上の景色が淡く揺らぎ、雲を突き抜ける光の階段が天空へ続いていく光景は、神話そのものだった。

 

「………よし、行こう!」

俺が一歩踏み出すと、みんなも迷いなく続いた。

 

雲を貫く度に空気は薄れ、光は鋭くなり、そして──突然、風が消えた。

耳鳴りだけが残り、空が青から深い藍へ変わり始める。

やがて黒い幕が開き、星々が散りばめられた空間が広がった。

 

「これが……“宇宙”か。」

言葉にした瞬間、体がふわりと浮く。

重さが消え、世界が逆さまにも横にも広がっていく。

「うわっ、なんだこれ!?」

十夜が上下を見失って手足をばたつかせる。

 

「無重力というやつか……。」

玲瓏は淡々と呟きながら翻る髪を押さえ、姿勢を保とうとする。

 

背後から何かが大きく広がる気配を感じて振り返ると──

巨大な青い球体が、静かで荘厳な姿を見せていた。

「あれが地球……」

息を呑んだ。

あまりにも大きく、あまりにも青かった。

 

「私たち、あそこに住んでたって事!? なんだかすごい!」

藍硯は宇宙遊泳のように回りながら無邪気に笑う。

 

「与太話してる場合じゃないぞ。」

十夜が彼女の肩を掴んで向きを正す。

「俺たちはアーミタイルに会いに行くんだからな。」

 

そう言って十夜が指さした先──

蒼いオーラをまとった巨大な“彗星”が、闇の海を滑るように輝いていた。

 

「あそこから……スゲェ力を感じる。」

伏龍の声がわずかに震えている。

「間違いねぇ、アーミタイルはあそこだ。」

仲間たちは次々と彗星へ向けて加速していく。

無重力に戸惑いつつも、全員の背中には確かな決意が宿っていた。

 

俺も拳を握り、深く息を吸い込む。

 

(これが──最終決戦だ。)

 

胸の鼓動が宇宙空間でやけに響いた。

けれどもう迷いはなかった。

青い彗星へ向かって、俺は仲間たちと共に飛び出した。

 

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