次回も頑張るので応援よろしくお願いします。
〜ファング視点.
ニィロウに事情を話すと、彼女は一瞬だけ戸惑ったようにまばたきをした。しかし次の瞬間には、その迷いを振り払うように俺の手をぎゅっと握りしめていた。温かくて小さな手。その震えが、逆に覚悟の強さを伝えてくる。
「私も行くよ!」
その声には、不思議と影がなかった。恐怖を認めた上で、なお踏み出す人間の強さが宿っていた。
「いいのか? 多分、物凄く大変な場所に行く事になるんだぞ。」
俺は念押しするように言った。彼女だけは、危険から遠ざけてやりたい。そう思う自分がいた。
けれどニィロウは首を横に振り、俺の目をまっすぐ見た。
「うん。戦うのはちょっと怖いけど…私、ファングだけに大変な目に合わせたくないもん!」
その一言で胸が詰まった。
守りたいと思っていた相手に、守ろうとされている。
嬉しいような、申し訳ないような、複雑な気持ちが渦を巻いたが……最後には素直に頷いていた。
「……ニィロウ。分かった。ニィロウがそう言うなら。一緒に来てくれ。ただし、無理はするなよ。」
互いに微笑み合ったその時、背後から声がした。
「お前だけじゃないぜ、ファング。」
振り返ると、マルクと十夜が立っていた。その後ろには、宵宮とフリーナまで揃っている。
思わず笑ってしまう。仲間という存在は、どうしてこうも騒がしくて、頼もしいのか。
「マルク…十夜…。それに宵宮さんとフリーナまで。」
十夜が手をひらひらさせながら言う。
「大一番の勝負なんだ。不安だろ。」
「だな……正直、責任重大すぎて荷が重い。」
思わず本音が漏れる。それくらい今回の件は重い。俺たちが選べる未来が、たった一歩で変わるかもしれない。
マルクは腕を組み、いつもの落ち着いた調子で言う。
「僕だけじゃない。他のみんなも同じ気持ちだろう。だからこそ、全員で立ち向かうべきだ。」
隣でフリーナが胸を張る。相変わらず無邪気だが、その目はしっかりと前を向いていた。
「僕達も精いっぱい頑張るからね!」
宵宮も笑って肩を叩いてくる。
「ウチも協力するで。覚悟決める時やろ?」
仲間たちの存在が、一気に胸の奥まで染みてくる。
孤独な戦いじゃない。自分一人の命運でもない。
背中を押されているような、支えられているような、不思議な安心感が湧き上がった。
「……みんな。悪いな。頼りにさせてもらう。」
そう言った時、ようやく腹の底に熱いものが灯った。
恐怖も不安もまだある。だが、それよりも――。
全員で勝ち取る未来を、絶対に掴み取るという確かな意思が、静かに燃え上がっていた。
〜玄鳥視点.
「……」
皆に状況を伝えるのは、思っていた以上に骨が折れた。
玲瓏と伏龍が刻晴と甘雨へ説明に向かった時──案の定叱られたらしい。それでも二人とも、「放っておけない」とついて来てくれることになった。あいつららしい反応に苦笑がこぼれる。
俺も胡桃以外の仲間へ話し終え、ようやく一人になれる時間を求めて屋根へ上がった。夜風が心地よく、月は白く滲むように輝いている。けれど胸の奥は重かった。
「玄鳥。」
振り返るまでもなく、声の主が誰かは分かる。
「胡桃。」
隣に腰を下ろした彼女は、風で揺れる髪をそっと押さえながら空を見上げていた。いつもと変わらぬ笑顔。だがその奥にある微かな不安も、長く一緒にいれば気づくようになってしまった。
「聞いたよ。大変な事が起きるみたいだね。」
「ああ……胡桃は来てくれるか?」
「勿論。」
返事は短く、迷いがなかった。
その強さが嬉しくて、同時に胸の痛みに変わる。
二人して黙り込んだ。
風が瓦を撫でる音だけが響く。沈黙の中で、心臓の鼓動が妙に大きく感じられた。
俺はその音をかき消すように、そっと胡桃の手を握った。
「胡桃……約束する。必ず一緒に帰ってこよう。」
思わず視線を上げると、月明かりの下で胡桃の紅い瞳がまっすぐ俺を見ていた。
その瞳があまりに綺麗で、つい心の奥の本音まで零れ落ちてしまう。
「……正直、怖い。俺は……死ぬんじゃないかって思うと……」
声が震えた。
自分でも驚くほど弱々しい声だった。
胡桃は一瞬きょとんとした後、不意にふっと笑った。
「なんだか玄鳥。本音言えるんだね。前まではそんな事、絶対言わなかったのに。」
図星すぎて目を逸らした。
昔の俺なら、怖さを見せるなんて絶対に出来なかった。
けれど今は──彼女には、隠せない。
胡桃は俺の手を握り返し、力強く頷いた。
「うん。約束だよ。絶対帰ってこようね!」
「……ああ。絶対に。」
月光の下、指と指が絡んだ。
その温もりが、戦いよりもずっと怖くて、そして何より勇気をくれるものだった。
……
二日という時間は、覚悟を固めるには短いのか長いのか──それを考える余裕もないほど、俺たちは準備に追われていた。
そしてその朝。空気がひりつくような静けさの中、三幻魔が天から降り立った。
『覚悟は決まったのだな。』
ラビエルの低い声が空気を震わせる。
俺はわずかな逡巡も見せず、まっすぐ頷いた。
「ああ。」
『では案内しよう。我らが主人へと続く道へ。』
次の瞬間、三体の巨神は空へ向けて腕を掲げた。
大気が割れ、天へと伸びる眩いエネルギーの道が展開する。
地上の景色が淡く揺らぎ、雲を突き抜ける光の階段が天空へ続いていく光景は、神話そのものだった。
「………よし、行こう!」
俺が一歩踏み出すと、みんなも迷いなく続いた。
雲を貫く度に空気は薄れ、光は鋭くなり、そして──突然、風が消えた。
耳鳴りだけが残り、空が青から深い藍へ変わり始める。
やがて黒い幕が開き、星々が散りばめられた空間が広がった。
「これが……“宇宙”か。」
言葉にした瞬間、体がふわりと浮く。
重さが消え、世界が逆さまにも横にも広がっていく。
「うわっ、なんだこれ!?」
十夜が上下を見失って手足をばたつかせる。
「無重力というやつか……。」
玲瓏は淡々と呟きながら翻る髪を押さえ、姿勢を保とうとする。
背後から何かが大きく広がる気配を感じて振り返ると──
巨大な青い球体が、静かで荘厳な姿を見せていた。
「あれが地球……」
息を呑んだ。
あまりにも大きく、あまりにも青かった。
「私たち、あそこに住んでたって事!? なんだかすごい!」
藍硯は宇宙遊泳のように回りながら無邪気に笑う。
「与太話してる場合じゃないぞ。」
十夜が彼女の肩を掴んで向きを正す。
「俺たちはアーミタイルに会いに行くんだからな。」
そう言って十夜が指さした先──
蒼いオーラをまとった巨大な“彗星”が、闇の海を滑るように輝いていた。
「あそこから……スゲェ力を感じる。」
伏龍の声がわずかに震えている。
「間違いねぇ、アーミタイルはあそこだ。」
仲間たちは次々と彗星へ向けて加速していく。
無重力に戸惑いつつも、全員の背中には確かな決意が宿っていた。
俺も拳を握り、深く息を吸い込む。
(これが──最終決戦だ。)
胸の鼓動が宇宙空間でやけに響いた。
けれどもう迷いはなかった。
青い彗星へ向かって、俺は仲間たちと共に飛び出した。
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