【本編完結】仄かな焔は璃月を舞う   作:サツキタロオ

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最終幕:新たな可能性の先へ

俺たちは彗星へ向かって一直線に進んだ。距離が近づくほど、胸の奥が押し潰されそうなほどの“圧”が迫ってくる。

そして──表面に触れた瞬間、視界がねじれた。

 

重力が消失し、次の瞬間には別の空間へと投げ出されていた。

 

「ここは……」

 

一歩踏み出す。足の裏には確かな接地感があるのに、周囲は完全な宇宙空間のように広がっている。

地平線も壁もない。

ただ、無限に続く闇と星々の輝きだけが浮かんでいた。

 

「おそらく彗星の“内部”でしょうね。」

刻晴の声は静かだが、どこか怯えている。

「………彗星の中とは、とても思えません……」

甘雨が不安そうに肩を抱く。

 

「ここにアーミタイルがいるはずなんだよな?」

周囲を探索しながら進むが、広すぎる空間はどこまでも沈黙していた。

その時だった。

「ねえ、誰か倒れてるわ。」

燕が指差す方向に、影が三つ──人の形をして動かない。

近寄った瞬間、ウリアの声が頭に響く。

『こやつらが天理の配下である者達だ。……どうやらアーミタイルに倒されたようだな。』

 

倒れていた三人は、もはや“人”とは呼べない姿だった。

肌はひび割れ、干からび、ミイラのように枯れ果てている。

 

「こ、これは……」

「天理ですら、アーミタイルをどうにかできなかったって事かな。」

蛍がそっと手を放し、息を呑む。

 

「エネルギーそのものを吸い尽くされた……そんな感じね。」

刻晴も顔を曇らせる。

俺はミイラをそっと地面へ戻し、広大すぎる空間を見渡した──その時だ。

 

空中に散っていた光が一か所へ集中し、閃光が弾けた。

巨大な影が浮かび上がる。

星々を背に、三幻魔を掛け合わせたような超越的な姿。

その存在だけで、空間が震えた。

 

『我が名はアーミタイル……この宇宙を管理する者なり。』

 

声は低く、重く、宇宙全域に響き渡るようだった。

「……アーミタイル。どうしてこんなことを?」

 

俺が問いかけると、その巨神は厳然と答えた。

『律者──それは神に等しい力を得た破壊者であり、救世主でもある。お前たちがその力をどう使うのか……私は“未来”を見届けたい。』

 

『これは試練である。私の配下となり、人類の行く末を“定めよ”。』

「み、見定めるだと……?」

玲瓏が目を見開く。

 

アーミタイルはさらに続けた。

『テイワットは誤った文明を歩み続けた。魔神戦争……カーンルイア……アビス……電脳獣の複製……』

『人類は過ちを積み上げ過ぎた。故に、私は“修正”を始めるのだ。』

 

「ふざけんな!俺たちはお前になんか絶対従うつもりはないんだよ!」

伏龍が吠え、全力で駆け出した。

 

その瞬間──アーミタイルは腕をわずかに動かしただけだった。

「──ッ!?」

 

目には見えない衝撃が奔り、俺たち全員の体を真正面から叩きつけた。

大地が歪み、肺の空気が一気に抜ける。

 

「ぐっ……!?な、なんだ……ただの衝撃波でこれか…」

体の芯まで砕かれるような痛み。

必殺技の直撃に近い、いや……それ以上。

 

アーミタイルは微動だにせず、ただ静かに俺たちを見下ろしていた。

 

アーミタイルの衝撃波で地面に叩きつけられた痛みは、まだ体中を焼くように残っていた。

それでも、胸の奥で燃えるものは消えていない。

「アーミタイル……俺たちは人間を守る!お前に“修正”なんてさせない!」

 

声を張り上げながら、俺は震える腕で武器を構え直す。

その横で伏龍も、玲瓏も、ファングも、十夜も……全員がボロボロになりながら立ち上がり、俺の背に並んだ。

 

再び突撃。

あらゆる属性、剣閃、攻撃がアーミタイルへと叩きつけられるが──

巨大な腕がわずかに振られるだけで、俺たちの攻撃はすべて霧散させられた。

 

『……何故、そこまで戦うのだ、お前達は。』

静かで、しかし宇宙全体が震えるような声だった。

俺は膝をつきかけた足を必死で踏みとどめ、歯を食いしばる。

 

「あの星には……俺たちの、大事な人が居るからだ……!」

喉が焼けるほど声を振り絞る。

無重力の空間でも、心臓の鼓動だけはうるさいほど響いていた。

 

「大切な人達を……俺は守る!何を犠牲にしても、それだけは……譲れない!」

 

アーミタイルはしばらく沈黙し──答えた。

『……分からない。』

その言葉に、俺は一瞬呼吸を止めた。

『私は“愛”“友情”“絆”といった感情を理解できぬ。何故……そこまでして人類を守ろうとする?お前達は利益も、報酬も求めていない……』

 

理解ではなく、本気で“分からない”という響きだった。

 

──ああ、そうか。

 

胸の奥で、何かが繋がった。

 

(こいつは……感情を知らないんだ。)

 

アーミタイルは知性の塊で、宇宙を管理するほどの力を持つ存在。

でも、“誰かを思う気持ち”だけは、きっと最初から欠けていた。

 

だからこそ、こちらが命をかけて向かってくる理由が理解できない。俺はそう思った。

俺は小さく息を吸い、仲間たちに手で合図した。

 

「みんな……武器を下げてくれ。」

驚きの視線が集まる。

だが、俺の顔を見て、全員がゆっくりと構えを下ろした。

そして俺は、巨神をまっすぐ見上げて言った。

 

「ならアーミタイル──俺たちの“記憶”を見てくれ!」

『……記憶、だと?』

「お前が俺たちの感情の意味が分からないなら、人間である俺達の心を……そのまま見ればいい!」

 

声は震えていた。

でも、迷いはなかった。

「それで……お前の抱えてる疑問も、悩みも晴れるはずだ。」

 

アーミタイルは沈黙し──

『…………面白い。』

巨大な手がそっと差し伸べられた。

 

『では……早速拝見させてもらおう。』

光が俺たちの胸に吸い込まれ、次第に体から温かい何かが抜けていく。

懐かしい感覚、痛み、笑い、後悔──人生で積み上げてきたすべてが流れていった。

 

そして、アーミタイルは手を離し、静かに目を閉じる。

しばしの沈黙。

そして──

『……おお……これが……人間の“感情”……』

 

その声は、先ほどとはまるで違っていた。

どこか震えて、どこか幼く、まるで生まれたての心が言葉を発しているようだった。

『喜び……悲しみ……誰かと紡ぐ時間……人は“違う存在”であるがゆえに、互いを求め、触れ合う……』

 

『友情…キズナ…これらは互いを高め、力を生むものなのか……』

 

アーミタイルはゆっくりと背を屈め、俺たちを手のひらへ乗せた。

そして──宇宙の闇へ舞い上がった。

 

『私はこの宇宙に生まれ……そして今、初めて“感情”を知った。人類とは……実に面白い生き物だ。』

 

その旅は言葉にできないほど美しく、そして短かった。

星雲を駆け、銀河を渡り、数えきれない光と闇を見た。

 

気の遠くなるほど長くて、そして一瞬のように短い時間。

 

宇宙は恐ろしく広く、美しく、泣きたくなるほど静かだった。

 

やがてアーミタイルは、俺たちをゆっくりと見下ろした。

『私は理解した……“人間”を。』

 

『テイワットの行く末は……お前達に委ねよう。人間達よ……ありがとう。』

 

そして、柔らかな光とともに俺たちは宇宙から送り返された。

眩しさが消え、最初に見えたのはテイワットの空だった。

「終わったのか……?」

息を飲んだ俺に、十夜が小さく笑った。

「多分な。」

その時、三幻魔も姿を現した。

 

『どうやらアーミタイルは理解してくれたようだな。』

『これで我らも、安寧の管理が可能となろう。』

『礼を言う……人間よ。』

 

「これからは……テイワットのこと、任せてくれ。」

 

『……分かった。信じよう。人間達よ──』

 

そして──俺たちは穏やかな光に包まれながら、ゆっくりとテイワットへと帰還した。

 

宇宙の闇が遠ざかり、懐かしい青と緑が視界の奥で滲みはじめる。あの彗星の内部でアーミタイルと対峙した時とは違い、今の光は刺すような輝きではない。暖かく、呼吸を深くさせるような柔らかい光だ。

 

やがて重力が身体を引き寄せ、足裏に土の感触が戻ってくる。

地上だ──俺たちが守ろうとした世界だ。

 

風が頬を撫で、草の匂いが鼻をくすぐる。あの過酷な戦いが、まるで遠い夢の残滓のように思えた。

 

俺は仲間たちと並んで空を見上げる。

 

──虹がかかっていた。

 

嵐の後のような澄んだ光。七色の橋が空を横切り、雲の狭間でゆっくりと揺れていた。

戦いが終わったことを、まるで空そのものが祝福してくれているようだった。

 

そんな景色を眺めていると、隣に立った胡桃がそっと俺の顔を覗き込む。

 

「これから忙しくなりそうだね。」

 

胡桃は、疲れを隠すこともせず、でもどこか楽しそうに笑っていた。

その表情を見た瞬間、胸の奥にあった張りつめた糸がゆっくりとほどけていくのを感じた。

 

「ああ。」

 俺は自然と頷いていた。

「……だって、これは俺たちの世界なんだ。守りたいって思える場所が、ちゃんとここにある。」

 

 言葉を口にすると、胸の奥に静かで確かな熱が灯る。

 

戦いは終わった。

だけど、これからが本当の始まりだ。

 

ふと、胡桃が俺の袖をつまんだ。

「ねえ、玄鳥。帰ってきた実感、少し湧いてきた?」

まるで子どもみたいな仕草だった。当然だ。あれほどの戦いの後、急に平穏を突きつけられれば、人間なんて簡単に地に足をつけられない。

 

「……まあ、まだ半分くらいだな。」

俺は少し照れながら答えた。

「でも、そのうち慣れるさ。みんながいるしな。」

 

「ふふ、そうだね。」

 

胡桃はそう言って、虹を指さした。

 

「ほら、あれ。まるで“おかえり”って言われてるみたいじゃん。」

 

その言葉に、俺は少しだけ笑った。

 

虹はゆっくりと形を変えながら空にかかっている。

いつか消える──でも、それでいい。

俺たちの旅も同じだ。終わりが来るからこそ、いま目の前にある景色が尊い。

 

「行こうか。みんなが待ってる。」

 

俺たちは再び歩き出した。

光の粒がゆっくりと散り、空いっぱいに広がる。

未来を照らすような柔らかい陽光が、ずっと先まで続いている気がした。

 

こうして──俺たちは帰還を果たした。

虹の下、確かな希望を胸に抱きながら!

 











これで完結となります。ありがとうございました。
次回もよろしく〜。
























「みんな、また何処かで!」

To be continued…

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