もし伊織くんが葦名一心を召喚したら   作:NEST中毒者

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ふと思いついた小ネタ

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」


「……召喚に従い、参上した」

「そう。じゃあ早速、貴方のクラスと真名を教えてもらおうかしら」

「……言えぬ」

「え?」

「明かせぬ……」

「……は?」

本編とは特に関係ないです




酒と影と

 

「――――と、云う訳じゃ」

 

 凄絶なる戦いが明けた後、男――宮本伊織は、セイバーと名乗った老人と共に、自らの住処である長屋へと戻った。

 

 そうして、セイバーから「盈月の儀」なるものの概要について聞いている最中である。

 

「どうした、呑まぬのか」

 

 そう云い、セイバーが指すのは――彼がどこからともなく取り出した徳利である。

 その中は、白く濁った酒――どぶろくで満たされており、セイバーは話をする傍ら、すでにそれを数杯注いでは呑んでいた。

 

「……頂こう」

 

 促され、伊織もどぶろくを注ぎ、口に付ける。

 普段は愚直に剣の修行に励む彼であったが、別に酒を一切呑まぬわけでもない。

 たまには、屋台で酒を嗜むこともある身だ。

 

「……美味い」

 

「じゃろう? 水が良いのよ水が……カカ、盈月とやらも気の利いたものよな」

 

 カラカラと笑うセイバー。その姿は、先程の戦いで見せた鬼気迫る様相とは打って変わり、単なる酒好きの老人……そんな風に見えた。

 

「気の利いた……というと?」

 

「ああ……宝具でもない酒を、こうして持ち込めた事よ……まあ、儂と酒は切っても切れぬ関係故、当然の事やも知れぬがな」

 

 そう云いながら、セイバーは酒をぐいと飲み干す。どぶろくは非常に酔いやすい酒であることで知られるが、そんなことはまるで気に留めぬ勢いである。

 

 

「して、セイバー……いや、一心殿」

 

「うむ」

 

「『盈月の儀』……その概要については、粗方理解した」

 

 セイバーから話を聞いた伊織は、ある種異常とも言える呑み込みの早さで以て「盈月の儀」の概要を理解した。

 セイバーらは、英霊と呼ばれる人理の影法師であること。

 自分たちは、その英霊を従僕(サーヴァント)として従える、七人の(マスター)の内一人であること。

 その七人七騎が殺し合った果て、最後に残った陣営には万能の願望機たる盈月が与えられること。

 

「そして貴殿が……あの葦名一心であることも」

 

 加えて――セイバーと名乗った老人の正体を。

 

「ほう……儂の名も、いくらかは伝わっている様じゃな」

 

「当然だ。剣の道を志す者ならば、戦国にて名を馳せた北の国、その地を治めたと云う剣聖の名を知らぬ筈は無い」

 

 葦名一心。戦国の世に生きた大名であり、剣聖。

 彼の……そして彼が生きた地の伝説は、江戸の世に生きる伊織の耳にも届いていた。

 

 国盗りによって僅か一代で一国一城を成した葦名衆の伝説。

 勇壮なる彼の配下たちの、様々な武勇伝。

 

 なにより、彼自身が興した流派――葦名流の剣名は、()()()()()()()()今も残り続けていた。

 

「そうか。……一つ尋ねたいのじゃが、今の世にて葦名はどのように伝わっておる?」

 

「……()()()()()()()()()()()、そしてその地には……()()()()()()()()()、と」

 

「…………」

 

 セイバーが、微かに目を細める。

 その眼に宿るは心残りか、あるいは。

 

「……一心殿」

 

「……何じゃ」

 

「手にすれば、如何なる願いをも叶えるという盈月。貴殿は……それに何を願うつもりだ?」

 

 伊織の問いに込められた懸念はこうである――もし目の前の老人が、惨劇によって滅んだ葦名を取り戻すために盈月を欲しているとして。

 盈月を手に入れるために、一切の手段を択ばず他の陣営を(ころ)そうとするのならば。

 少なからず、その過程で犠牲が出ることになる。

 

 ――それは、きっと悪しきことなのだろう。きっと。

 

 だが、セイバーの返答は予想に反するものだった。

 

「カカッ、そう心配するでない……儂とて心残りが在らぬ訳ではないが、それを盈月でどうこうしようとは思っておらぬわ」

 

「……ならば、貴殿は何故に召喚に応じた? 英霊は、何かしらの願いがある故に招かれるのだろう?」

 

「なに……少々、血が滾ったまでのことよ」

 

「血が?」

 

「左様……津々浦々の地、種々様々の時代に生きた強者と刃を交えるなど……まこと、血が滾るであろう?」

 

 そう云ってまたカカと笑う老人の姿を見て、そこに伊織は嘘を感じなかった。

 

 盈月に集うた強者を前に、ただ死闘を求める。

 

 あるいは、真っ当に盈月を求める魔術師であれば、それを虚偽と断じたかもしれない。そんなことのために、名のある英霊が使い魔に甘んじるなど、と。

 

 だが。彼にとって、その考えは()()()()()()()であった。

 

「……そうか。ならば、勝つために民へ無用な犠牲を強いることはしない……そう考えて構わないのか?」

 

「ああ、無論よ」

 

 そう返すセイバーも、伊織を見ていた。

 正確には、その眼――――そこに見え隠れする()を。

 

「今度は、こちらから問おうか――伊織と云ったか、お主はこの盈月の儀、なんとするのじゃ」

 

 セイバーがそう問うと同時に、場の気配が張り詰める。

 今まで好々爺然としていたセイバーの雰囲気は、幾ばくか先程の鬼気迫る様相に戻ったかのようだった。

 

「……俺は」

 

 伊織もそれを察し、()()()()己の答えを口に出す。

 

「……貴殿らのような英霊が相争えば、江戸の民草に多くの巻き添えが出、死ぬだろう。それは悪しき事、許されぬことだ」

 

「その巻き添えを減らすべく、割って入ると云うことか?」

 

「……そうだ。八百八町を火の海にはできない。それは人の道に反する」

 

「そう、か……」

 

 それを聞いたセイバーは、少し意外そうに眼を細める。

 その言葉に、()()()()()()()()()()。嘘はなかったのだ。

 

 されど。いや、それ故に――――

 

(難儀な、事よのお)

 

 セイバーの脳裏に、二人の男の姿が過ぎる。

 一人は、()()()()()()()()()

 そしてもう一人は、()()()()()()()()()

 

 一人は堕ちかけ、もう一人は堕ちた。

 ただ斬ることにのみ、心を囚われた者たち。

 

 そして、()()()()()()()()利他を口にしたこの男の目にも、彼らと同じ影がちらついているのだ。

 全く以て、難儀な事である。

 

「……うむ。まこと天晴れな答えである。一先ずはそう云っておこうかの」

 

「……ああ」

 

 幾ばくか考えた末、セイバーは彼の行く末を見極めることとした。

 彼がこの先どうなるかは、まだ分からない。なにより――

 

 

 ()()()()()()()()()()

 

「良いじゃろう……お主を、共に儀を戦う者として認めようではないか」

 

「……感謝する」

 

 故に、セイバーは一先ず彼と共に儀を戦うことを決めた。

 共に戦っていけば、自ずと彼がどう在るか見えてくるだろう。

 その果てに何があるのかは、辿り着くまで分からないが。

 

「さて……そうと決まれば、やることは一つじゃな」

 

「というと?」

 

 まさか、今より他の陣営に討ち入るのか。

 伊織の脳裏にそのような考えが過ぎる。だが――

 

「今宵は呑むぞ! 付き合えい、伊織!」

 

「ほ、程々に願いたいのだが……」

 

 さらにどぶろくを注ぎ始めるセイバー。

 

 慣れぬ深酒により見事に潰れた伊織が訪ねてきた義妹にどやされるのは、翌朝の話である。

 

 




一心様の酒は……エミヤのペンダントみたいなアレということでお願いします。
彼が生涯に渡って愛した酒なので。

一心様の属性は

  • 混沌・善
  • 中立・善
  • 秩序・善
  • 混沌・中庸
  • 中立・中庸
  • 秩序・中庸
  • 混沌・悪
  • 中立・悪
  • 秩序・悪
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