もし伊織くんが葦名一心を召喚したら   作:NEST中毒者

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絢爛、望郷、理解と縁

 

 宮本伊織とセイバーの邂逅より、一晩が経った朝。

 

 セイバーの酒により珍しく酔いつぶれた伊織は、翌朝訪ねて来た義妹――小笠原カヤにどやされることになった。

 ――だが、彼女は兄の深酒を咎める反面、普段剣にばかり明け暮れている兄が俗的な一面を見せたことにどこか安堵しているようでもあった――というのは、その会話を横から聞いていたセイバーの見立てである。

 

 その後、セイバーの存在について妹にいくらか言い訳した伊織は、彼の師――魔術の師である、言の葉を話す書物――紅玉の書の言に従い、住処である長屋の修理や改造などを行った。

 

 それらの紆余曲折を経て、今彼らがある目的のために足を運んでいるのは――吉原である。

 

 

「やあ伊織さん! 今日もよろしく頼むぜ!

 

「ああ……助之進」

 

 目的とは単純。仕事である。

 盈月の儀がどうであれ、金が無くては飯は食えぬ。それが物の道理であった。

 故に、先日と同様に知人の同心である助之進の紹介する依頼をこなすべく、吉原に足を運んだ次第であった。

 

「ところで伊織さん……そちらの御仁は?」

 

「ああ、彼は……」

 

 そしてこの場には、セイバーも共に足を運んでいた。

 これに関して、当初伊織は一人で行くと言い出したのだが、どうせなら街を見て回りたいというセイバーも同行する運びとなったのである。

 

「……彼は名のある剣客で、故あって行動を共にしているんだ」

 

「へぇ、何という方なんだ?」

 

「……そうじゃなぁ、ここは『天狗』とでも名乗っておこうか」

 

「天狗? ……なかなか奇特な御仁だが、確かに腕は立ちそうだ。……じゃあ俺は野暮用があるんで、後はそっちの旦那に聞いてくんな!」

 

 早々に会話を切り上げ、足早に何処かへ向かっていく助之進。

 その場に残された伊織とセイバーは、同じくその場に残された護衛を必要としていると云う商人を護りつつ、吉原を歩く運びと相成った。

 

「しかし、賑やかなことじゃのお……」

 

 吉原をぐるりと見渡しながら、感慨深げにつぶやく一心。

 

「ここまで活気のある町は、葦名には無かったわ」

 

「……そうなのか」

 

「ああ……葦名は元々僻地の上、長年圧政に苦しんでおったからなぁ……斯様な活気など、そうそう無かったのよ」

 

「だから、国盗りを果たした、と?」

 

「そうとも。一度は国盗りを果たし、圧政を脱した……じゃが、それも二十余年で死地よ」

 

「そうか……」

 

 北の国、葦名。

 雪深い山と谷の国であり、その地に流れる水を祀るという独特の信仰を持つ国であった。

 だがその信仰は時の為政者により押さえつけられ、葦名の民は長年の間服従を強いられ続けていたのである。

 そして、それを良しとしない一心らによって国盗りは果たされ、葦名の国は解放されるも――その果てに待っていたのは、戦国最も悲惨な大量殺戮であった。

 そんな、悲劇の地。そのあらましは、伊織もある程度は知るところであった。

 

 それ故に、疑問も浮かぶ。

 

「……それでも、貴殿は盈月を用いて葦名を救おう……とは考えないのか?」

 

「……儂は、どうもな……そのようなものに頼ってまで願いを遂げようとは思えんのよ……あるいは()なら、違ったやも知れぬが」

 

「孫?」

 

「ああ、孫……弦一郎は、全てを擲って葦名を護ろうとしておった……時間も、幸福も、人間性も……全てをな。果たして――」

 

 そこまで言いかけたところで、不意にセイバーは言葉を止めて前を見据える。

 その視線の先には、こちらを待ち構えるように立つごろつきが複数人。

 

「散々っぱら待たせやがって……金はもってんだろうなァ?」

 

 頭目と思しき禿頭の男が、商人を威圧するように睨みを利かせる。

 背後に控える男たちも、追従するように武器をちらつかせた。

 

「白昼堂々、強請りたかりか……」

 

「……鼠狩り、と云ったところじゃな」

 

「セイバー、殺しは無しで頼む」

 

「……ほう。聞いておこうか、何故じゃ?」

 

「ここでの殺しはご法度だ。……なにより、人の道に反する」

 

「……いいじゃろう」

 

 伊織の言葉を聞いたセイバーは、腰の刀から手を放す。

 そのまま無手の状態で、ごろつき達に向かってゆっくりと歩み寄った。

 

「なんだジジイ、邪魔するなら――――ッ!?」

 

 無防備に近寄ってくる、明らかに商人の関係者であろう老人。

 それを殴りつけようとするごろつきの頭目だったが――――次の瞬間には、その姿が宙に舞っていた。

 

「てめぇ、何しやがった!?」

 

 あえなく地面に叩きつけられたごろつきは、訳も分からず叫ぶ。

 

「さあのう、神隠しにでも遭ったのではないか?」

 

 何があったのかは単純だ。

 セイバーは、殴りかかろうとするごろつきの腕を取り、投げ飛ばしたのだ。

 だが、その動きは流麗にして神速。まともに視認できたのは、投げた本人と――その(マスター)くらいであった。

 

「セイバー……」

 

「カカ、殺しは無しという事じゃ、ここは無手でやるとするかの!」

 

 笑い、刀を納めたまま戦闘態勢を取るセイバー。

 

「くそっ、やっちまえ!」

 

 対するごろつき達も、状況が分からないながら武器を抜いてセイバーらに襲い掛かった。

 

「フン、ハァッ!!」

 

 襲い来る無数のごろつき達。それをセイバーは、己が肉体一つで制圧していく。

 掌底で出鼻を挫き、肘で顎を打ってよろめかせ、背撃で弾き飛ばす。

 対するごろつきが武器を振るえば、セイバーはそれを跳び上がって躱し、そのまま蹴りつける。

 

「舐めんじゃねぇ!」

 

 起き上がり、セイバーの背後から攻撃を仕掛けようとするごろつきの頭目。

 だがセイバーそれを半歩逸れるだけで躱し、再びその腕を取った。

 

「もう一度じゃ!」

 

 またも、投げが炸裂する。今度はごろつき達が密集しているところに投げつけられたその巨漢により将棋倒しが引き起こされ、大量の男が倒れ伏す。

 

「さて、次に投げられたいのは、誰じゃ!」

 

 残ったごろつき達に、喝を浴びせるセイバー。

 

「ひ、ひいっ!」

 

「かなわねぇ、逃げろ!」

 

 このわずかな間に、嫌と云うほど力の差を思い知らされたごろつき達は、倒れ伏す頭目や仲間を放置して蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

「……こんなところか」

 

 敵がいなくなったことを確認し、ふうと息をもらすセイバー。

 

 戦闘開始から経った刻は、ほんの僅かだ。

だがその間に無手のセイバー(剣士)は、あっさりとごろつき達を制圧してしまったのである。

 

「……さて」

 

 倒れ伏すごろつきの頭目に向き直る伊織とセイバー。

 その男は、商人を睨みつけながら悔し気に吐き捨てる。

 

「くそ、借りた金は返さねぇ癖に、用心棒なんか雇いやがって……!」

 

「何? 貴殿――」

 

「さ、さいな――――」

 

「待てい」

 

 男の言葉によって後ろ暗い事実が発覚した商人は、すかさず逃げ出そうとするが――すかさずセイバーによって足を払われ転倒する。

 

「どうやら、鼠はこちらだった様じゃのう――斬るか」

 

「……待ってくれセイバー、斬るのは無しだ……」

 

「ふむ、仕方ないか……」

 

 その後、程なくしてやってきた札差に商人を突き出したセイバーと伊織。

 そして、打ちのめしたごろつきの代わりにいくつかの取り立てを請け負った後、帰路に付く運びとなった。

 

「セイバー、先程の無手の技も葦名流なのか?」

 

 帰り道を歩く傍ら、伊織はセイバーに問いかける。セイバーが暴れている間、彼も結構な数のごろつきを峰打ちで倒してはいた。その力量は間違いなく優れたものであるのだが、セイバーは峰すら用いずにその何倍もの敵を倒してのけたのだ。伊織がその技を理解したいと考え、問いを発するのも自然な事だろう。

 

「うむ。これの大本は、ある坊主どもの技じゃ。じゃが、勝つためにあらゆる流派を呑みこむ――それが儂の信条よ」

 

「……勝つために、あらゆる流派を――か」

 

 それを聞いた伊織の脳内に過ぎるのは、ある記憶。

 

『…………武蔵が恐れた剣なれば』

 

 存外に、似ていた。

 力量には未だ隔たりがあれど、両者の剣に対する捉え方は、どこか似通っていた。

 

 主従に息づく()のようなものを伊織が感じた時――

 

「用心せい、伊織」

 

 セイバーが、違和感に気付いた。

 

「これは……」

 

 セイバーの言を受けて、伊織もそれに気付く。

 

 ()()()()()()()()

 

 つい先ほどまであれほど活気にあふれていた吉原の往来に、誰もいないのだ。

 

 

「……嫌で、ありんすな」

 

 静寂に包まれる吉原に、一際大きく響いたのは錫杖の音。

 

 二人がそちらを見やれば――そこにあるのは。

 

「吉原で狼藉を働く、野暮が二人……かくなる上は」

 

 列をなして歩く男たちと、その中心に位置する一等華やかな女性。

 それ自体は、この地において何ら珍しいものではない。

 

 だが――その女性の背後に控え、傘を掲げる男。

 その姿は、見るからに尋常では無かった。

 

 余人の倍はあらんかという、鍛え抜かれた体躯。

 足許近くまで伸びた、豊かな緑髪。

 まるで凄まじい力で引きちぎられたような、両手の枷。

 

 そして何より――その全身に纏う()()が、彼が尋常の存在ではないことを表していた。

 

「わっち……高尾太夫が、冥土に送ってあげんしょう……覚悟しなんせ」

 

 行列の中心に位置する女性――高尾太夫が、そう宣言した直後。

 

 

「■■■■■■■■■■――――!!!!!」

 

 その尋常ならざる偉丈夫が傘を投げ出し、尋常ならざる咆哮を上げた。

 

 

 

 

 






葦名一心[セイバー]のステータス(仮)

注.滅茶苦茶独自解釈を含みます。未完成です。その内しれっと変えるかもしれません。
なんかツッコミどころがあったら言ってください。


混沌・善・人

筋力:B 耐久:E 敏捷:A++ 魔力:C 幸運:C 宝具:-

クラススキル

対魔力:D

魔術に対する抵抗力。
ランクはそう高くなく、魔除けのアミュレット程度の効果しかもたない……が、セイバーは魔術の類を一刀のもとに斬り捨てることが出来る。

騎乗:B

騎乗の才能。
将として騎馬に乗ることもあったセイバーは、魔獣、聖獣等を除けばたいていの乗り物を乗りこなせる。

固有スキル

葦名流:A++

自身が拓いた流派、「葦名流」に熟達している。
これはセイバーの戦いの歴史そのものであり、「勝つ」ことを突き詰めた剣である。
高ランクの心眼(真)、無窮の武錬を内包する複合スキルとしても機能する。

カリスマ:C-

軍勢や国を率いる才能。団体戦闘において自軍の能力を向上させる。
セイバーは軍を率いる将として高いカリスマを有するが、平時の君主としてはその限りではない。

病弱:C

虚弱体質。生来のものではないが、病死する寸前の肉体で召喚されているため付与されている。
耐久力の低下等を招くが、上記の葦名流に内包される無窮の武錬スキルにより、戦闘に致命的な支障をきたすことは無い。

神性:E-

神霊適性を持つかどうか。セイバーは神霊の血縁ではないが、生まれ育った地に息づく水の影響あるいは「汚染」により、きわめて微弱な神性を持つ。

■■■■(■):■

現在詳細不明

宝具(燕返しなどと同様、便宜上の分類)

現在詳細不明

一心様の属性は

  • 混沌・善
  • 中立・善
  • 秩序・善
  • 混沌・中庸
  • 中立・中庸
  • 秩序・中庸
  • 混沌・悪
  • 中立・悪
  • 秩序・悪
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