もし伊織くんが葦名一心を召喚したら   作:NEST中毒者

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猛将と王者

 

 バーサーカー陣営との邂逅より、数日が経った。

 

 彼女らと情報交換の約定を交わした伊織らは、一先ず顔と名の知れたライダー陣営から調べる方針を決める。

 その結果得られた情報は、マスターである由井正雪が何らかの形で幕府と繋がりを持っていること、私塾を開いており、門下の浪人たちに大層慕われている人格者であるということ――そんな所である。

 

 また、伊織らをつけ狙う奇妙な御家人たちや盈月に呼び寄せられた怪異たち、そして、上野の霊地に紐づけられた逸れのライダーであるタマモアリアなど、盈月の儀に関連する複数の存在との接触を持つこともできた。

 

 そして――現在。

 

「一体、この(オレ)巴比倫弐屋(ばびろにや)に何の用だ? 雑種ども」

 

 彼らは、本拠である浅草に突如開店した縮緬問屋を訪れていた。

 

 

「ふむ……まったく、英霊とは千差万別よの……」

 

 伊織とセイバーの目の前に立つのは、黄金の髪に黄金の装いの男。

 そしてその身からは、外見に違わぬ黄金の威光めいたものを感じさせた。

 

「この男も英霊……か」

 

「ああ。それも……相当にやりおるぞ」

 

 目の前の男を眺め、カカと笑みを溢すセイバー。

 

「この男……儂とも、これまで会ったどの英霊とも違う……異質の力を持っておる」

 

 その笑みに含まれるのは、未知の強敵に対する好奇心だろうか。

 

「貴様……この(オレ)を差し置いて、知恵者気取りで評論を垂れるか。その罪、刎頸に値するぞ?」

 

 そして、その笑みを向けられた黄金の男もまた、高圧的な言動に反してニヤリと笑みを浮かべている。

 彼もまた、セイバーに対して好奇心を抱いているようだった。

 

「ほほう、儂を裁くとは……これでも一応、一国一城の主であったのじゃが?」

 

「たわけが。貴様など、至高の王たる(オレ)の庭にほんの一時旗を立てていただけの僭称者に過ぎぬ」

 

「カカッ、そう云われれば立つ瀬が無いのう……!」

 

 圧力に満ちた笑みが巴比倫弐屋(ばびろにや)に飛び交う。

 笑みとは本来、攻撃的なものである――とは、まさにこのことだろう。

 二人は、片や剣気、片や王気をその身に滾らせ、早くも一触即発の雰囲気である。

 

「弁えているではないか雑種。ここは一つ、芸でも見せれば先の無礼は不問にしてやらんでもないが?」

 

「……まったく、寛大なことよ! じゃが生憎、儂の覚えた芸など()()しかないのでな……死んでも知らぬぞ?」

 

「ほう、吠えたな貴様!」

 

 セイバーの言葉に、黄金の男が一際凶悪な笑みを浮かべた。

 それに呼応するようにセイバーもまた、笑みを一層深める。

 

「場所を変えるぞ雑種。それとも、この場で盛大に民草を巻き込みながら戦うか?」

 

「……そうよな。伊織よ、どこぞ、開けた場所は――」

 

 

「……待ってくれセイバー、いきなり始めるのは……それに貴殿も――」

 

 あれよあれよと開戦しようとする雰囲気に、さすがに伊織が割って入る。

 

「馬鹿め、貴様風情にこの(オレ)を制止する権利があると思ったか?」

 

 だが、黄金の男はそれに耳など貸さない。故に――

 

 

「ワカダンナー! 新作見せて、新作!」

 

「私も、見たい……」

 

 ――それを制止したのは、予想外の来客であった。

 

「エイキチにミヨか。いいだろう、この入魂の一作……心して拝謁せよ!」

 

「わー! すっげー! うまそー!」

 

「ワカダンナ、そっくり……!」

 

「そうであろうそうであろう! この飴はこの(オレ)が――」

 

 若旦那と呼ばれた男は、現れた二人の子供に対し、自らを象った飴を取り出し見せつける。

 先ほどまでの圧力はどこへやら、されどその傲岸さは据え置きのままだ。

 

 そんな彼に、子供たちは随分と懐いているようだった。

 あれやこれやと愉快な掛け合いをする様子から、気心の知れようが伺える。

 

 そんな三人を見て、セイバーは先ほどとはまた違う笑みを溢した。

 

「ハッ……興が削がれたわい」

 

「……セイバー」

 

「あれが――強き王と云うものかの」

 

「王……か」

 

「ああ。儂は……強き将には成れたが、強き王には成れなんだ。儂が人を導けたのは、戦や、剣の振り方――それらに於いてのみよ」

 

 そんなことを云うセイバーの声に、悲哀は無い。

 自身や国の結末を悔いているわけではないのだ。

 あくまでも、目の前の男を評する上で引き合いに出しているだけのことである。

 

「じゃが、あの男はまさしく強き王よ。あの男が率い、導く国は――――さぞ、強いのじゃろうなぁ」

 

「……そうだな」

 

「まあ、戦となれば、負けるつもりは毛頭ないが」

 

 そう云って、またカカと笑ってみせるセイバー。

 その一方、若旦那は未だ子供たちと話しているようだった。

 

「ああ待てエイキチ、その石はやめておけ……代わりに追加の飴をやろう」

 

「やったー!」

 

「ところで、お代……ほんとにいいの?」

 

「ふん、幼子から搾り取るほど、(オレ)の宝物庫は乾いておらぬわ!」

 

「じゃーなー! ワカダンナー!」

 

「エイキチ、貴様少しは感謝を覚えい!」

 

 飴を手に持ち、とてとてと歩き去っていく子供たち。

 それを見送った若旦那は、セイバーたちに向き直った。

 

「何だ貴様ら、まだいたのか」

 

「ああ。それで、先程の話はどうなる?」

 

「やめだ、やめ。興醒めよ。今の(オレ)は機嫌がいいのでな、恩赦くらいは与えてやってもよい」

 

「カカッ、有難いような、名残惜しいような……」

 

「ところで、セイバー……と、そのマスター。貴様、名は?」

 

「……宮本伊織と」

 

「ほう……」

 

 見定めるような視線を、今度は伊織に対して向ける若旦那。

 その蛇のような眼をしばし細めると――こう言い放った。

 

「貴様には、この(オレ)との手足となり働く栄誉をやろう!」

 

「……いや、俺達にそんな暇は――」

 

「なに、貴様らは何時も通りに過ごし、目についた宝を巴比倫弐屋(ばびろにや)に届ければよい……さすれば、それ相応の褒美――そうだな、(オレ)の蔵を満たす至高の酒、その一つくらいは下賜してやらんでもないぞ?」

 

「――――ほほう」

 

 この言葉、伊織に向けて放たれたものではあるが――露骨に興味を示したのはセイバーである。

 

「伊織よ、この話――受けて損は無いと思うがのう?」

 

「いや、それは貴殿が酒に興味があるだけでは……?」

 

「カカカ、まさかまさか!」

 

「…………」

 

 訝し気にセイバーを見る伊織。

 だが、そこに若旦那も口を出した。

 

「んん? よもや、この(オレ)の下で働く栄誉を蹴る不届き者などおるまいな?」

 

「……分かった。その話、受けよう……」

 

 

「結局、あの英霊が何者かは聞きそびれてしまったな……」

 

 巴比倫弐屋(ばびろにや)を出て帰路につき、長屋に戻った伊織たち。

 

「まあ、あの様子からするに逸れ、盈月の儀に割って入る気も薄いと見たぞ」

 

「……なら、誼を通じておくのは悪い話ではない、か……」

 

「であろう? 儂とて、ただ酒に釣られたのみではないぞ?」

 

「……酒に釣られたこと自体は否定せぬのだな?」

 

「カカカ、無論よ! あの王が持つ至高の酒とやら……竜泉と飲み比べてみたいものよな!」

 

「……それと、最初の方は戦う気満々であったように見受けたが」

 

「まあ、それはそれよ! 一度剣に問うてみる、というのも悪くはなかろう」

 

「…………」

 

 なかなかに読み切れない、と。

 あっけらかんに笑うセイバーを見て、伊織はそんな印象を抱いた。

 

 だが、次の瞬間――

 

「――伊織よ、用心せい」

 

 セイバーの表情が、またも切り替わった。

 

「……! これは……」

 

 

「――――鼠の、気配じゃ」

 

 そう云い、外に注意を促すセイバー。

 その夜闇には、複数の影が揺らめいていた。

 

一心様の属性は

  • 混沌・善
  • 中立・善
  • 秩序・善
  • 混沌・中庸
  • 中立・中庸
  • 秩序・中庸
  • 混沌・悪
  • 中立・悪
  • 秩序・悪
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