もし伊織くんが葦名一心を召喚したら   作:NEST中毒者

8 / 9
一握の慈悲も

 

「さて、ここか」

 

 長屋の周囲を嗅ぎまわっていた隠密と、何者かに操られたが如き様の虚ろな御家人たち。

 先程それらを退けた伊織らは、神田へと足を運んだ。

 これまでの調査で、由井正雪の開く私塾が神田にあると云うことは判明していたためだ。

 

 セイバーと邂逅したあの夜にライダーと共に襲ってきた者どもと同じ装いの隠密。

 そして、彼らを助けるように現れた虚ろな御家人。

 

 これらの繋がり――即ち、由井正雪と幕府の繋がり。

 些か判然としないそれらを確かめるためにも、正雪の本拠と思しき神田へと足を運んだ訳であるが――――

 

「結界……か」

 

 宙に浮かび上がる、紋章のような光。

 彼らの行く手を、実体無き壁が阻んでいた。

 

「セイバー、通れるか?」

 

「通れはせん。……斬れはするやもしれんが」

 

「…………」

 

「じゃが、斬ればそのことは結界の主にも伝わるであろうな」

 

 まあ儂は構わぬが……と、言外に伊織の意を訊ねるセイバー。

 それを聞いた伊織はしばし思案し、答えを口にした。

 

「……いや、ここは迂回する。ここで戦いになれば、巻き添えが出るやもしれん」

 

 そう云った伊織は、セイバーと共に踵を返す。

 その脳裏には、先程セイバーと交わしたやり取りが過ぎっていた。

 

 

◆

 

 

「さて、これで全てか」

 

 そう云い、戦闘の構えを解くセイバー。

 刀は抜いていない。彼は相も変わらず素手のみで、隠密と御家人を無力化していた。

 

 気を失い、倒れ伏す敵たち。

 それを横目に、セイバーは云った。

 

「して……こやつらも殺さぬのか?」

 

 問いかけるのは、伊織に対してだ。

 

「……ああ。やむを得ぬ時は致し方ないが、なるべくは――」

 

 

「――――そ(・)れ(・)は(・)、慈(・)悲(・)か(・)?」

 

 突然、遮るようにセイバーが問うた。

 

「お主が極力人を殺めまいとするのは――――慈悲ゆえに、か?」

 

「…………」

 

 暫しの沈黙が流れる。

 伊織は目を伏せ――しばらくの後、ゆっくりと口を開いた。

 

「……い(・)や(・)、違(・)う(・)」

 

「ほう」

 

「俺が人を殺めまいとするのは――結局のところ、俺(・)の(・)た(・)め(・)だ(・)」

 

「…………」

 

 そうか、と。

 

 暫し顎に手をやった後、伊織の返答にその一言だけを返したセイバー。

 その姿を見て、伊織は思う。

 

 も(・)し(・)返(・)答(・)を(・)誤(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)な(・)ら(・)、こ(・)の(・)場(・)で(・)俺(・)の(・)首(・)は(・)飛(・)ん(・)で(・)い(・)た(・)の(・)で(・)は(・)な(・)い(・)か(・)。

 

 そんな思考が、結界の迂回路を探る伊織の中で反響していた。

 

 

◆

 

 

「……こちらで良いのか?」

 

 紅玉の翁の助けを借り、霊脈の繋がりを辿る伊織たち。

 目指すのは、小石川だ。

 

「ああ。小石川と神田は水路で繋がっている。それを用いれば、神田に入れるやも知れん」

 

「カカッ、堀から城に潜り込む、と云う訳か!」

 

 セイバーは笑う。

 その手は、かつて自身の城に対して使われた手でもあった。

 

「うむ、水脈は霊脈! 水路があれば、神田に繋がる霊脈の路もあろう!」

 

 そう云って頁をパタパタとさせるのは、紅玉の翁だ。

 意見の一致を見た三名は、小石川への歩みを進めていく。

 

「さて、そろそろ見えてきたぞ、あれが――」

 

 だが、小石川の入り口に差し掛かった時、伊織の足が止まった。

 辿り着いたその地の様子は、尋常では無かったのだ。

 あちらこちらの建物が崩れ、燃え、あまつさえ怪異が闊歩している。

 

「これは……!」

 

「伊織よ、やるぞ!」

 

 すかさず伊織とセイバーは剣を抜き、怪異と交戦を始めた。

 人ならぬ怪異とはいえ、それらはサーヴァントに及ぶ存在ではない。

 伊織の加勢も相まって、怪異たちは次々と散らされていった。

 

 ――――その、一方。

 

「へぇ、アイツは……」

 

 怪異と戦う二人を、遠巻きに観察する者たちがあった。

 一人は、襤褸(ボロ)布の如き装束に身を包み、酷く古びた一本の旗槍を手にした男。

 もう一人は、黒い鎧を纏い、黒い二槍を携えた女。

 

 そんな二人は――共通して、幽鬼じみた威容をその身に宿していた。

 

「やれ、ランサー」

 

「……はい」

 

 男が、女に命じる。

 するとその女は、手にした二槍を構え――その槍から、炎を揺らめかせた。

 

 

「――――我が槍」

 

 紫に揺らめく、昏き炎。

 それは、交差するように掲げられた二本の槍へと集い――――収束する。

 

「慈しみを忘れた槍よ――――『悲嘆せし聖母(トリステス・ドゥ・ラ・ヴィエルジュ)』!!」

 

 やがてランサーがその二槍を振るえば、収束した炎は人の絶叫のような声と共に形を成し、強力無比な二つの斬撃となって放たれる。

 その狙いは、当然セイバーたち。

 戦いに誇りなど持ち合わせぬ男と、彼に最期まで付き従うことを決めた女だからこそ行える、初手から全力の奇襲である。

 

 

 だが――――

 

「……甘いわ」

 

 居合い一閃。

 

 その斬撃は、そちらに一瞥をくれたセイバーの一刀によって斬(・)り(・)払(・)わ(・)れ(・)た(・)。

 宝具――サーヴァントが持つ切り札による一撃を、である。

 

 明らかに異常だ――――そう男とランサーは感じる。

 宝具による一撃を斬り払ってみせたその斬撃。

 しかしそれからは何(・)の(・)魔(・)力(・)も(・)感(・)じ(・)ら(・)れ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)だ(・)。

 

「さあ、次はどうする?」

 

「……チッ」

 

 奇襲は失敗。だが、このまま逃げればそれこそ死に繋がる。

 こちらを向いたセイバーの様子からそう直感した襤褸布の男は、ランサーを伴ってセイバーらの前に姿を現した。 

 

 

「その魔力……儀の参加者か」

 

「テメェ、随分と戦(いくさ)を楽しんでいるじゃねぇか……宮本伊織」

 

 二人を見て呟いた伊織に、襤褸布を纏った男の方が言葉を返す。

 

「……何の話だ」

 

「とぼけるなよ。それで取り繕ったつもりか?」

 

 問い返した伊織に対し、そう吐き捨てる襤褸布の男。

 彼に対し、セイバーもまた口を開いた。  

 

「……お主ら、察するにランサー陣営と云ったところか。ここで遭ったのは偶然じゃが……遭い、仕掛けられたからには、のう?」

 

「そうだな……続けるとしよう」

 

 それ以上、語らうことも無い。

 二つの陣営は、互いにその武器を構えた。

 

「俺は地右衛門――――せいぜい喜べ、此処も地獄だ」

 

 襤褸布の男――地右衛門の名乗りを合図に、二人と二騎の戦いは幕を開ける。

 

 

 

一心様の属性は

  • 混沌・善
  • 中立・善
  • 秩序・善
  • 混沌・中庸
  • 中立・中庸
  • 秩序・中庸
  • 混沌・悪
  • 中立・悪
  • 秩序・悪
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。