CクラスでもDクラスでもEクラスでも少年少女たちは頑張ります!! 作:酒匂馬酔木
粥を食べた後、ゆったりと熱い緑茶を飲む。午前7時。
理事長が老婦人に訊く。「松尾さんは今何処に居られるのですか?」
「息子さんと一緒に、罠猟で仕掛けた罠の巡回をなさってます。松尾さんは免許持ってませんけど、巡回なら出来ますからね。そろそろお帰りになる頃合いかと思います。」
「里の為に元気で働いてらっしゃる様で何よりです。で、その後は?」
「巡回の報告をしてから朝食、そしてスクールの教師役ですね。栄一朗さんも、まだ14歳ですけどもかなりの秀才ですから、親子で教師役です。まぁ教師役と言っても、子供たちの勉強は自習を中心にそれぞれの能力に応じて緩めの感じでやりますので、理事長と松尾さんが茶飲み話をなさる時間はいくらでもありますよ。」
「そうですか。栄一朗くんと会うのも久し振りだなぁ。」
「あと一年、皆で栄一朗さんと翼さんをお護りしますので、その後は、坂柳理事長、ふたりを宜しくお願いしますね。」
「解っています。」
「勿論、その前に、清隆くんを。」
「ですがね、綾小路家の親と子、双方がどう動くか次第で未来は大きく変わります。どうなりますやら。」
「それでも、です。清隆くんには無限の可能性があります。それを潰したら、坂柳理事長、私は綾小路敦臣だけでなく、あなたも許しませんよ。」
老婦人の厳しい言葉に対し、理事長は苦笑いで返し、話を有耶無耶にするかの様に会話の相手を遠くの席で熱心に打ち合わせをしている教師たちへ変える。
「あぁ、それはそうと、茶柱くん、福谷くん。おふたりにお任せします。そろそろ清隆くんの方を。」
「理事長は同席されないのですか?」
「そうですねぇ、まぁ初日は冒頭だけ、私から綾小路くんへひとことくらいあるべきでしょうねぇ。その後は友人とその息子と、旧交を温めて楽しいひとときを過ごすとしますよ。」
午前7時半。体育館のフロアに大型の石油ストーブと長机が置かれ、その周囲に椅子が四脚。
綾小路清隆と大人三人が腰掛ける。ストーブは点火されて間もない。体育館はまだまだ寒い。
理事長は、ビジネスコートに見えるデザインのダウンジャケットを着ている。が、「寒いねぇ。もっとインナーに気を配れば良かった。3月の山を甘く見てたよ。」と零す。
「綾小路くんは随分と軽装だね。寒くないの? まぁ寒くてもちゃんとピアノ弾けるくらい指が動いてたみたいだし。何か防寒の秘訣があるの?」
「……丹田呼吸法とか、ですかね。」ボソリと答える清隆。
「何か知らない言葉出て来たね。何だか面倒臭そうだから、私は使い捨てカイロで良いや。まぁそんなことより取り敢えず……。」
ストーブへ向いていた身体を清隆へ向ける理事長。「始めようか。先ずは挨拶から。」
「どうも、綾小路くん、理事長の坂柳です、初めまして。と言っても、私は初めてではなくてね。以前、何度か君を見させてもらいました。」
「以前、ですか。」清隆は理事長以外の大人ふたりを一瞥し、また理事長へ視線を戻す。「それを知ってるのは理事長だけですか?」
「いや。」笑顔で堂々と理事長が言い放つ。「私の隣に居る教師ふたりは知っているよ。おおまかに、だけどね。そして……。」
あからさまに渋面を作ってみせ、「君は慨嘆するだろうけど、私の娘も知っているんだよね。すまないね、ほんとごめん。」と軽い調子で謝る。
「四人も、ですか。知られて嬉しい話ではないんですがね、全く以て。」清隆は憮然として尋ねる。「理由を訊いても?」
「君はDクラスへの配属が決まってます。茶柱佐枝くんはDクラスの担任、福谷恭司くんは副担任。君の将来を慮り君をより良く指導する為の存在です。このふたりは当然知っておくべきだろうと私が判断しました。娘についてはね、君が居た施設へ娘とふたり、見学へ行ったことがあってね。当時、娘はまだ七歳だったこともあって、まぁかなり衝撃を受けていたよ。と言っても、施設の非人道性とかではなく、君という存在自体に衝撃を受けてたんだけど。」
「あんな狂った場所へ七歳の娘を連れて行くなんて、理事長、あなたも大概ですね。オレの父親と同じ様な人種だと解釈しても良いですか? あぁ、それと……。」「何ですか?」と笑顔で訊き返す理事長。
「オレは、もう配属先のクラスが決まってるんですね。ということは、合格も、でしょう? ならば、試験を受ける必要などないのでは?」
理事長は一瞬で笑顔を消す。「君の勘違いを正しましょうかね。君はウチからのスカウト枠での受験ということになっています。その枠の場合、例年、試験の点数など問わず100%合格。でも、君は施設の最高傑作なんでしょう? 本気で試験を受けて最高傑作だと証明してください。もし、あぁ最高傑作がこの程度かぁ……と私が思う様な不甲斐ない試験結果なら、綾小路敦臣から護るだけの価値は君にないと断じます。不合格です。」
椅子から立ち上がる理事長。再度、破顔一笑。「以上。さぁ、もう直ぐ試験の時間だ。本気出してよ、綾小路くん!……あぁ、それからあともうひとつ。」
清隆に顔を近付ける理事長。それを見て、目だけは笑ってないなと思う清隆。
「私が綾小路敦臣と同じ人種だなんて心外にも程があるよ! そんなことないから! 絶対にないから! そこんとこ宜しく! ね!」