CクラスでもDクラスでもEクラスでも少年少女たちは頑張ります!! 作:酒匂馬酔木
数学の試験は終わり、正午。皆で七瀬が持って来た昼食を摂る。
かき揚げを挟んだライスバーガーがふたつ、ふきのとうの天麩羅がよっつ。
凍み豆腐の味噌汁、卯の花、漬物、そして熱い緑茶。
「もうひと月ほど経てば、ふきのとうだけじゃなく、筍とか色んな山菜の天麩羅をお出し出来るんですけどね。」と七瀬。
「いやいや、実に美味そうだ。腹ぁ減ってたんですよ、私。」と言い、大口を開けバーガーを豪快に貪り食う福谷。
すると、福谷は首を傾げ、七瀬に訊く。「あれ? これ何のかき揚げです? 何だか食べたことない味がします。」
七瀬はすまし顔で答える。「人参の皮、大根の皮、そして、千葉とかの他県にある森羅の里で養殖されたコオロギですね。福谷さんが食べたことないと思われるのは、味と栄養価を良くする為に特別な餌を与えた養殖ものだからかも知れません。」世間ではゲテモノと捉えられかねないコオロギを食べた福谷の反応を見る。が、意外にも福谷は冷静だ。
茶柱は言う。「福谷は特殊作戦群の出だからな。野山でとっ捕まえた蛇とか食ってたんだろう? 養殖コオロギなんかでは驚かんし気にもせんよ。なぁ、福谷。」
「まぁそうですね。おっ! ふきのとうも実に美味いです! 味噌汁も!」
「これは今年からウチで採用される無料定食の実験サンプルだ。食料問題は上の連中、主に農林水産省が問題視しているからな。ウチでもそこらへん何とかせざるを得ん。今後、国民が、美味くて安くて栄養のあるものをいっぱい食える様にするのが国の目標ということだな。で、その先鞭のひとつがウチだ。そこに里が一枚噛んで、実験的な食材だの山菜だの色んなもんをウチへ安く大量に納入してる訳だ。まぁ、ふきのとうは無料にはならんがな。毎年、ウチの学食じゃ春限定で山菜定食が提供されるんだが、無料ではなく比較的高級なメニューで、身内価格で750円から1000円ってところだな。私はアラサーになった所為か味覚が変わってきてな、ふきのとうもうどもたらの芽もこごみも美味いと感じられる様になった。学食で山菜定食を食べるのが楽しみだよ。」
「去年の春もウチじゃ、年配の方々に大人気だったそうですね、山菜定食。」
「私もそうだが、日本人は期間限定ってのが大好きだからな。」
「あと、凍み豆腐と卯の花は、食糧問題解決のひとつの方策として、豆腐製造廃棄物の有効利用を考えてのメニューですね。おからは里独自の製法で乳酸菌等を加えたものです。」と説明する七瀬。「なるほど、なるほど。」と、うんうん頷く福谷。
「今の話を聞くに、学食は無料なものばかりじゃない様ですね。山菜定食の他にどんなものが?」と清隆。
綾小路は施設で、完全栄養食のバーとかゼリーとか、そういうのばかりを食って、それで何の不満も言わなかったって聞いたが──今は、色々と美味いものの味を知りたくなってきてるのか、と茶柱は思う。
「綾小路、私は、食に関しちゃ無頓着だってイメージをお前に持っていたが、改めよう。で、だな、学割価格で、C定食が150円、B定食が250円、A定食が350円だな。値段が上がる程に実験という色は薄まる。カレーは有料で、松と竹と梅があるな、梅は安価だが、ちょいとばかり実験的な食材を使ってたりするな。でも出汁は牛骨とか馬骨とかでちゃんと丁寧に取られたもんだから実に美味いぞ。他にもちゃんとした定食はある。トウキョウエックスとかブランド豚のとんかつ定食とかな、ちょっと値段が高いが。」
「そうですか。全部食べてみたいですね。」
「学食以外だと、隣の商業区域へ行けば、ミシュラン星付きの店が集中してるんで、様々なジャンルのグルメを堪能出来るぞ。大枚を叩かなきゃならん一流の高級店ばかりだがな。私なんぞは滅多に行けないが、毎日、金を持った美食家たちが外から大勢やって来る。お前も行きたいか? 綾小路。」
「行きたくてもオレは大して現金を持ってませんよ。食べるなら無料定食の一択ですね。」
「うむ、まぁ金に関することは、追々説明していこうか。話が長くなり過ぎる。綾小路、ウチの無料定食は美味いが、農林水産省やら環境省やら、上の連中が推す実験的な食材がふんだんに使われている。鹿、猪、キョン、ブラックバス、ブルーギル、ウシガエル、大豆ミート、培養肉、昆虫、ミドリムシ、ジャンボタニシとか、だな。カミツキガメやワニガメも偶に出るな。お前はそういうものを食べるのに忌避感を覚えるか?」
「いや、別に。食べたことがないものは取り敢えず味と調理法を知りたいですね。それも学びのうちかと。」「ふん、そうか。」バーガーと天麩羅を食す茶柱。
「初めて食ったがコオロギも美味いな。小海老みたいだと巷間言われるが、食感がほんの少し似ているだけだ。これはこれで美味い。そして何よりふきのとうが美味い!」
「で、試験はどうだったんですか? 清隆さん。」と七瀬が話題を変える。
「何の心配も要らないんじゃないかな?」と福谷。「一番難しい問題から順に、凄いスピードで解いていって、終いには中学レベルの問題まで、全問解いてしまったね。マシーンかな? と思ってしまうくらい、もうこれは、人外のレベルでしょう。 普通、一般入試枠の天才秀才の子たちでも、冊子の問題でチカラと時間が尽きてしまって、PCで出される問題までは手が回らないんじゃないのかなあ? ほんと凄いよ、綾小路くんは。」
目をきらきらさせて清隆を称賛し続ける福谷。
無言でバーガーを頬張る清隆。
リアクションの無さに寂しさを感じた福谷が、意を決した様に声を張って言う。
「よし! 綾小路くん、食べ終わったら腹ごなしにバスケしよう! 1on1で勝負だ!」そう高らかに告げる。
茶柱が、「おいおい、福谷、脳筋馬鹿なのか? 親が死んでも食休みって言うだろう? お前、食って直ぐ走って、腹ぁ痛ぇよぉと悶絶するのを子供ん頃から散々繰り返して来た、そんな覚えはないのか? 試験っていう大事な日だし、綾小路に怪我をさせても詰まらん。やめとけ。」と忠告するが、「良いですよ。」と清隆は了承する。
「ここじゃ12歳以下の小さな子が多いんでちゃんとした5対5のバスケは出来ませんし、そもそもオレは昔からチームプレイのスポーツなんて経験がありません。でも、本気の1on1は栄一朗とふたりでやってました。体育教師相手にどこまでやれるか試したいですね。」
全て平らげ、緑茶を飲み終わり、程なくして 1on1が始まる。
「ストーブにボールをぶつけるなよ。」と注意する茶柱。
「綾小路くん、君のオフェンスからだ。」とボールを渡される清隆。間を置かず低い姿勢から疾走。右手で素早いドリブル。ペンを持つのが右手だったのを見たこともあり、福谷は清隆が右利きだと判断し、大きな体躯でシュートコースと清隆の右を塞ぐ。が、清隆は更に右、若干ゴールリングから離れて行く方向へドリブル。それに付いて行き、清隆を3ポイントライン上、エンドライン1メートル手前まで追い込む。予想通り、清隆はここでストップ。ボールは右手。ここから無理矢理ジャンプシュートするならボールを叩く、一瞬で綾小路のどんな動きにも追従してみせる、と心に誓い、両腕を上げながら膝を曲げ腰を落とす。すると、清隆は右から自分の股を抜きドリブルし、左手でボールを持つ。右足を軸に左足を僅かに浮かせ、反時計回りに高速で90度バックターンしながら後方へ倒れ込んで行く。ボールは左手から離れないまま。そして、左足で踏み切って大きくジャンプ。福谷の予想を超える程の角度で遠くへフェイドアウェイ。ジャンプの高さは60センチを超える。左手でフックシュート。レッグスルーからの全ては数瞬。福谷に為す術はない。ボールはリングへ吸い込まれる。
福谷が叫ぶ。「何だよ、それ! チートだろ。もうスカイフックじゃん。ディフェンスなんて無理、無理! て言うか、15歳のやるこっちゃないよ、すんごいな、マジで。て言うか、右利きじゃないのかよ、騙されちゃったよ。」言葉遣いが砕けた調子になっている。満面の笑み。
対し、清隆は変わらず無表情、息が切れた様子もなく平然としている。「オレは手も足も両利きですよ。」
「流石、綾小路清隆、ですね!」七瀬が喝采を送る。
「もう良い、福谷、攻め手を変えて続ける必要はない。プレイの差は圧倒的だ。勝負はついた様なもんだ。」茶柱が告げる。
「さあ、1時からは国語の試験だ、準備しろ!」