CクラスでもDクラスでもEクラスでも少年少女たちは頑張ります!!   作:酒匂馬酔木

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3月1日 夜 坂柳と松尾

松尾親子に会うのは、まぁ後回しでも良いか、と思い直し、運転手と奥多摩を車であちこち巡り、昼に日本中の蕎麦通たちの間で有名な山奥の蕎麦屋へ着く。

春子の天麩羅と十割蕎麦の鴨南蛮。春子も蕎麦も真鴨も奥多摩産だ。

極上の味を堪能し尽くした後は、街での散策を楽しむ。

愛娘の有栖への土産を探したり、甘味処で旬の林檎や苺を使った和菓子を食べたり。

有栖には、奥多摩の檜を使って自作した花文様の小さなコースターをいくつか贈ることに決め、一日木工体験教室を予約する。

明日は、清々しい檜の香りの中でリラックス&リフレッシュだ。

16時、友人たちから高く評価されてるらしいオーベルジュにチェックイン。

部屋へ案内されてから、珈琲を注文。

丁寧なハンドピック後、半熱風式の機械を使い深煎りし、ブレンドしたコーヒー豆。日本各地の農園で収穫された新鮮なものだ。それをオーナーシェフが目の前で中細挽きしてからネルドリップで淹れてくれた一杯の和珈琲。スモークされた様な素晴らしい香り。酸味は薄い。苦味の中にほのかな甘味。美味い。

珈琲を飲んだあとは、山の風景を眺めながら露天風呂で寛ぐ。

 

夜、19時半、松尾がやって来て会食が始まる。

「やあ、松尾くん、久し振り。元気な様で何より。」

「坂柳さんも御健勝の様で。」と松尾。

奥多摩牛の熟成肉だけでなく、ワイン、バターと様々なチーズ、虹鱒、そして旬の野菜や果物等々、全て奥多摩産のフルコースだ。

「うん、噂通りだ、オードブルからして絶品だ。」

「そうですね。でもワインは、私が綾小路家で盗み呑んだものの方が美味かったですね。」

「そんなことしてたのかい? まぁ盗み呑みも執事の仕事のうちだって言うからねぇ。」と笑う坂柳。

「まぁ、兎にも角にも松尾くんは良い仕事をしてくれたよ。ほんと、ご苦労さまでした。いや、これからも苦労は続くだろうから、過去形じゃなく、ご苦労さまですと言うべきかな。とは言え、最大の山は越えた。一番大変なことをやってのけてくれた。」

「母木森羅教の手助けがありましたから、容易という訳ではありませんでしたが、それほど難事でもありませんでした。」

「そうかね。まぁ何にせよ、最高傑作が連れ去られて、一年経っても行方が掴めないのだからね。綾小路敦臣には大ダメージだろう。実に喜ばしい。」ワイングラスを掲げて冷笑する坂柳。

そこへスマートフォンのヴァイブレーション音が坂柳の耳に届く。

「おっと、すまんね。」部屋は個室なので、椅子に座ったまま電話に出る。

「……うんうん……うん……そうか、なるほど。国語が、ね……。まぁそりゃしょうがないよ。彼が居た施設とウチじゃ、国語のカリキュラム理論って言うかそもそも根本的に思想が全然違うからねぇ。でも、漢字や語彙問題や古文は完璧だったんだろ? なら、それで良いとしよう。私は彼の国語の点数、問題視したりしないから。……うん、じゃ、茶柱くん、これで。」と通話を切る。

「試験が駄目だったのですか? あの清隆くんが?」驚いて目を開く松尾。

「ウチ、と言うより日本の一般的な教育とあそこの教育じゃ全然違うからね、特に国語についちゃかなりの乖離があるだろう。でも私は、あそこの国語教育を否定したりはしないよ。あれはあれで正解だ、と思うね。だから、私はこんなことくらいで彼を見捨てたりしないよ。」更に言葉は続く。

「そもそも言語は、自己表現、コミュニケーション、情報と知識の共有……まぁそんなもんの為にある訳で、伝わり難かったり解り難かったりしちゃ駄目なもんなんだよ。ところが、日本の中高生たちは、複雑で勘違いし易くて難しい国語教育を強いられてる。伝わり易くて解り易い日本語を追求してそれを皆に学んでもらうべきなのにね、逆を行っちゃって、それを良しとしている。有用なツールとしての言語の否定だよ。それって、延いては、人間の意識や存在意義にも関わって来ちゃうんじゃないかな。大げさに言うのならば、きっとそういうことなんだろう。」と、前のめりになって説を垂れる坂柳。

「でもね、じゃあ純化を押し進めれば良いのか? と言う訳でもない。ツールとしての有用性だけを求めれば、今度は、多様性、多様化、そして進化……それらの否定へ繋がる。そうなれば言語の行く末はね……。」話は延々続く。

だが、松尾は坂柳の熱弁に取り合わない。

松尾はもうとっくに坂柳の話など聞いてない。心底どうでも良い。

この男は相手が辟易しようが無視して一方的に話を際限なく続ける癖がある。

愛娘の自慢話などその際たるものだ。それを聞かされる度に、お前の娘のことなど知らん! と叫びたくなる。

……未だ何か喋っている。呆れ果てた松尾は掌を坂柳へ向けてきっぱり言う。

「日本の国語教育がどうかはさて置き、取り敢えず清隆くんを入学というスタートラインに立たせることが出来るのであれば、私はそれで結構。その後は、清隆くんならば何とでもやれるでしょう、最高傑作らしく、ね。」

松尾の反応に少々げんなりしながら坂柳が言う。

「……最高傑作らしく何とでも、か。じゃ、彼のこれからは、彼を信じて彼に任せよう、気楽にね。私たちと綾小路敦臣の今後についても気楽に。明日は明日の風が吹く、だ。」

「風ですか。嵐かも知れませんよ。」

「そうかい?」

松尾がほくそ笑んで言う。

「嵐、と言うより、台風……。私には判ります。その台風の目になるのは清隆くんですよ。」

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