CクラスでもDクラスでもEクラスでも少年少女たちは頑張ります!! 作:酒匂馬酔木
試験最終日、夜、スクールの食堂。
桃の節句らしく、幼年の女の子たちが作った紙雛があちこちに飾られている。うっすらと、ひなあられの甘く香ばしい匂いが漂っている。幸せそうな子どもたち。茶柱にとっては、もう長い間無縁だったものばかりだ。
ここで皆と食卓を囲むのも最後か、と茶柱は少し感傷的になる。
もうここへ泊まることなく、夕食を摂ったら直ぐ職員寮へ帰る予定だ。
当初予感した様に、自分にとってここが良い学びの場になったのか、綾小路との面談が良いものになったのか──は判らない。
が、ここで最後にこの夕餉を共にする時間は、予感を現実とする為に誠心誠意頑張ろう、と決意する。
「綾小路、試験、お疲れ。で、振り返ってみて、どうだった? この三日間。」と切り出す。
「国語はもう諦めました。トップの成績は無理でしょう。」
「そうだな。一般入試枠の子たちは、ああいう類のメンド臭い……意地の悪い問題を解くことに特化した国語の勉強をしてるからな。お前がそこでそういう子らに勝つのはなかなか……な。だがな、坂柳理事長も言ってたが、そんなんでお前を切り捨てることはしない。数学と英語と理科は完璧だったしな。ペーパーテストで見る学習習熟度なら総合的にはお前がたぶんトップだろう。」
「かも知れませんが、試験三日目の作文。あれ、受けを意識して嘘を混ぜて、かなり適当に書いたんですが。それと、IQテストは良いとして、EQテスト。あれも、こう答えれば悪く捉えられないんじゃないかと予想して適当に回答しました。オレを含めてそんな不誠実で適当な感じで合格する生徒が居たり、正直に答えて不合格になる生徒が居たりするんじゃないですか? 大丈夫ですか? この試験。公平な判定が出来ますか?」
「まぁそこらへんはウチの課題だな。何にせよ、お前が心配することじゃない。それに、作文もEQテストも合否に直結するほど重要視されてないしな。」
「そうですか。」
「まぁそれよりも、だ。作文のお題だった、ウチで何をやりたいか? 将来どうなりたいか? ……ここでは、適当な答えじゃなく、本音を訊かせてくれないか?」
それを知ることこそが、茶柱にとって、清隆との面談を成功と断ずる最低条件だ。
その為に、正直になることで可能な限り信頼を得ようと考え、自分のネガティヴな情報も明け透けに話して教えた。
「私と福谷はそれを実現する為に全力で後押しし、必要なら、拙いかも知れんが指導もして行くぞ。」
「ありがとうございます。でも、未だその時ではないと思っています。それに、話したとしても、最高傑作くんが願うのはそんな程度のことか? と落胆させてしまいそうで。」と微苦笑してみせる清隆。
「では、これだけは訊かせろ。お前は卒業後、施設へ戻るのか?」
ひとつ溜息を吐いてから、清隆が力強く答える。
「いえ。もしそうだったら松尾さんたちと一緒にここへ来たりはしてません。」
「勿論そうでしょうね。」と栄一朗。
「当然です。」と七瀬。
「うむ、そうか、それで良い。その答えだけでも聞けて良かった。だがな……。」と茶柱。
「一昨日も言ったが、理事長はこの先どうなるか判らん。私や福谷の様にシンプルな立場にある訳じゃないからな。そこは肝に銘じておけ。」
試験初日に坂柳は清隆へ、三日目の夕食で会おう、みたいなことを言ってたが……結局来なかったな、クソだな、と茶柱は思う。
清隆たち、そしてスクールの皆と別れの挨拶を交わして、黒塗りのVG40センチュリーに乗り込む。
福谷が助手席、茶柱が後部座席。見ると、車内に坂柳の姿はない。
「理事長はもう今日のお昼、御邸へお帰りになりました。」と運転手。
あらためて茶柱は心の中で叫ぶ。
クソだな……! と。