CクラスでもDクラスでもEクラスでも少年少女たちは頑張ります!! 作:酒匂馬酔木
坂柳邸のコンサバトリー。入って来る柔らかな陽射し。まだ3月の月頭だが、暖かで居心地が良い。
坂柳家当主、坂柳成守が、ティータイムを愉しむ有栖の元に訪れる。
宇治の和紅茶は有栖が自身で淹れたもの。
タルトタタンは長年坂柳家に仕える家政婦が焼いたもの。
観葉植物の緑の中で、クリムゾンレッドのワンピースとオフホワイトのショートジャケットを身に纏い、たおやかな風情を醸しながら北欧ヴィンテージチェアに座る有栖。
その穏やかな光景に成守は満足する。
「有栖、三日間の試験、お疲れさま。どうだったかな?」
成守が尋ねる。
「ご存知なのでは?」
「まあ、大凡、どんな様子だったかは聞いているけども、私は有栖がどう感じたのかを知りたいのだよ。」
有栖はいつもの様に超然とした態度で話す。
「余りにも人が多くて少しだけ草臥れましたが、試験結果で坂柳の名を汚すことはないでしょうから安堵しています。お父さまも御安心を。」
「そうか、それは重畳。本当は今日、中学校では授業を行っているのだろうけども、草臥れたのであれば、休んで一向に構わないよ。」成守が優しく笑みを浮かべながら言う。
「勝手に学校を欠席する不良娘を、偶には叱ってくれて良いんですよ。」
「この程度で有栖を不良娘呼ばわりして叱りつけるほど、私は薄情ではないよ。」
クスッと笑う有栖。「お父さまは私を猫可愛がりし過ぎです。」
「そんな自覚はないんだがね。じゃあ、これもそう思われてしまうかな? 試験を終えた御褒美という訳ではないけども、有栖へこれを贈るよ。一昨日、木工教室で私が作ったものだ。」と、檜のコースターを四枚手渡す。
桜、梅、牡丹、菊の意匠を施した花文様。檜の好い香りがする。「良ければ使っておくれ。」
「ありがとうございます、お父さま。」拝謝する有栖。「インテリアとしてお部屋に飾っても良さそうですね。」
頷く成守。「うん、どうぞお好きに。」成守は愛娘に対し常に寛大だ。
「さて、お父さま。お訊きしたいことが。」「何だろう?」
「木工教室が何処でやってたかは知りませんけども、その地で彼に会ったのでしょう?」
流石、有栖。見抜かれてしまっていたか。と成守は感嘆する。
「どうでした?」「うむ。言える範囲だけ、で良いかな?」「はい。」
「8年前と変わらず、笑顔など見せることなく無表情だったね、彼は。試験だが……国語の難解な問題以外はパーフェクトだったよ。」
「そうですか、口惜しいですね。私は、時間が足りなくて、数学の簡単な問題は八割程度までしか手が回りませんでした。総合点では彼に勝てれば良いんでしょうけど、どうなるやら。」
唇を噛む有栖。そんな表情も可愛いと思う親馬鹿の成守。
「ですが、まあ、この程度のペーパーテストなどはどうでも良い、と思うことにします。それよりも、先ず大事なのは、彼と逢うこと……! 全てはそこから、です。」
「うん? ちなみに、あうの『あ』はどういう漢字を書くのかな? 会津藩の会、かな?」
有栖がひっそりと笑って答える。
「会津藩の会よりも、逢引の逢がふさわしいですね。」
有栖の、ほんの僅かに高くなった声のトーンから、もしや、と思ったが……やはり!「……逢引の逢か!」会うと逢うでは意味が違う。 成守は天を仰ぐ。
「そうです。私のこの彼への執着は、もう、愛、と言っても良い感情でしょうから。」
それを聞いて、成守は絶望の表情を浮かべる。いつの間に、有栖のあいつへの感情が、ただのライバル意識からこんな風に変わってしまったのか……?
「愛か……! 私の娘がどんどん大人になって……男と……。いつか私から離れていくのかな? 今から悲しくなるよ……。」
対し、有栖は困惑と悲憤の表情。声を荒げる。
「愛と言っても、男女の恋愛感情などでは断じて、あ、り、ま、せん、よ!」
だが、成守はその言葉を信じない。これからどうなっていくかなど、誰にも判らない。何と言っても、有栖は世界一の美少女なのだ。今まではずっと女子校だったが、これからは訳が違う。有栖の想いがどうだろうと、有栖へ手前勝手な恋慕の情を抱き、陰嚢と精嚢の中に薄汚い欲望を滾らせた男どもがわらわら湧き、有栖にうようよ集るのは必定。そして、不遜にも無理矢理有栖の幼気なカラダを玩具にしようとして来るかも知れない。もう既にその対策は講じてあるが、様々な能力に長けたあいつ相手であれば防ぎ切れない可能性は高い。その上あいつは、どちらかと言えば、女好きのする顔立ちをしている。絶対に、有栖が絆されない、過ちを犯さない、という保証はないのだ! ──と、成守の思考はどんどん狂った方へと突っ走って行く。
成守は腹を決める。
もしあいつが有栖に手を出す様なら、ギッタギタのメッタメタにして、泣こうが喚こうが容赦なく敦臣へ突っ返してやる! と。