Fate/Revenant Zero   作:愉悦部副部長

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ACT.12 呉越同舟

 

 新たな来訪者を前に、遠坂凛はまず相手を観察する。

 

(あの赤い槍……安直だけど、クラスはランサーで間違いないようね)

 

 それよりも問題は、乱入してきたこのサーヴァントが敵なのか味方なのか。全てはそこに集約される。凛は宝石を掌に忍ばせ、警戒心も露わに問いかけた。

 

「学校に何の用かしら? 少なくとも、ここの生徒じゃなさそうだけど」

「用があるのは、ジョークのセンスが最悪なお前さんだよ」

 

 あとそこのガキな、とランサーが答える。ビクッと慎二が反応し、それを庇うようにライダーが前に出た。

 

「待て待て。こっちに戦う気はない」

 

 ランサーは苦笑しながら、ストップと言わんばかりに両の掌を出す。

 

「不毛な争いをしている、お前さんたち2人を見かねてな。少しばかり手助けしてやろうと、出しゃばりに来たわけだ」

「聞き違いかしら? 今、手助けするって聞こえたんだけど」

「なんだ、分かり辛かったか? じゃあハッキリ言ってやるよ――お前たちのどっちかだけ、あるいは2人いてもアインツベルンには太刀打ちできねぇ」

 

 直球過ぎるランサーの言い草に凛も慎二もカチンと来るが、物言いはともかくとして発言内容が妥当である点は認めざるを得ない。

 

 最優と称されるセイバーに、聖杯戦争史上最高のマスター適性を持つイリヤスフィール。この主従だけでも厄介だというのに、後方支援に長けたキャスターまでもが加わっているのだ。

 

 

「だから、俺が手を貸してやろうって言ってるんだよ」

「……ランサー、それは貴方のアイデアかしら?」

「マスターからの指示だ。ま、アインツベルンを潰すまでの共同戦線って奴だろうよ」

 

 ランサーの提案は、実に妥当な戦略といえよう。残ったサーヴァントが共同戦線を張ってギリギリ倒せるかどうか、といった相手なのだ。内輪で潰し合っていては、アインツベルンを利するだけ。

 

「まぁ、理由としては真っ当ね。私は賛成」

「おい、遠坂! 僕を抜いて勝手に話を進めるなよ!」

 

 慎二が食って掛かる。冗談じゃない、とでもいうように大きく手を横に振って凛とランサーを睨みつける。

 

「そんなどこの馬の骨とも分からない相手に、いきなり同盟なんて言われて“はいそうですか”って首を縦に振るなんて正気か?」

 

 こう見えても、慎二は御三家の一角たる間桐家のマスターである。同じ御三家の遠坂とアインツベルンはともかく、飛び入りの外様に与するのはプライドが許さない。

 

 

「じゃあ慎二、貴方はライダー1騎で勝てる自信があるの?」

 

 ぐっ、と慎二は歯噛みする。凛に口で勝てないと見るや、今度は矛先をランサーの方に向けた。

 

「せっ、せめてマスターの顔ぐらい見せろよ! 怪しいんだよ、オマエ!」

 

 びしっとランサーを指さす慎二。戦力的に厳しいのは事実だが、だからといって背後から刺されては敵わない。

 

 

「たしかに、慎二の言葉にも一理あるわね」

 

 凛は顎に手をやり、ランサーをじっと見据える。

 

「貴方が裏で実はアインツベルンと手を組んでいるとか、そうじゃない保障が欲しい。マスターと直接話をさせてもらえないかしら」

「あいにくだが、それは出来ない相談だな」

 

 ランサーは首を横に振る。

 

「バーサーカーのマスターがどうなったか、お前さん達も見ただろ?」

「狙撃が怖いから戦いはサーヴァント任せにして、自分は最後まで安全な場所にコソコソ隠るつもりってこと?」

「まぁ、そんなとこだ。あいにく、俺のマスターは臆病でね」

 

 マスターを侮辱した凛に怒るでもなく、ランサーは肩をすくめた。うっすらと浮かべた笑みからは、むしろ凛の言葉に共感すらしているような印象すら受ける。どうやらランサー自身、あまりマスターのやり方を好ましく思ってるわけではないらしい。

 

 

 

「ああ、だからといっては何だが……名前ぐらいなら教えもいいと言われてる。マスターの名は()()()()()()()()()()()()()……時計塔から派遣されてきた魔術師だ」

  

 

 

「バゼット………」

 

 時計塔の魔術師―――その言葉に、凛は少し納得のいった顔になる。たしかに時計塔の魔術師ならば、まず自身の身の安全を優先するだろう。

 

 

 もっとも名前と多少の経歴が分かったところで、ランサーのマスターを信用するほど凛もお人よしではない。

 

 とはいえ、結局のところ最終的には聖杯を巡って殺し合うのだ。ある程度は裏切られるリスクも考えて警戒しつつ、「敵の敵は味方」としてお互い利用し合うしかないだろう。

 

 

「あいにくだけど、名前と経歴だけじゃ足りないわ。そんなの、少し調べればすぐ出てくる情報だもの」

「まっ、そう言うだろうと思ったよ」

「そっちのマスターの情報が明かせないってなら、せめて代わりの情報がもう少し欲しいわね」

 

 魔術の基本は等価交換だ。マスターの情報においてランサー陣営があくまで秘匿を続けたいというのなら、釣り合うだけの対価を差し出す必要がある。

 

 

「アインツベルンについて、そちらが掴んでいる情報を全て開示して。それが無理なら、共闘は無しよ」

 

 あくまで凛は主導権を主張するよう、高飛車に切り出す。

 

「時計塔の魔術師っていうなら、その程度の情報収集はお手の物でしょう?」

「ああ、それなら手土産があるぜ。キャスターのマスターについての情報が」

 

 ランサーはにやりと笑い、少し驚いた様子の凛に続いて慎二を伺う。慎二はムスッとした表情ながら、先を続けるように顎で促し、承諾の意志を示した。

 

 

 慎二としても、一番気がかりなのはキャスターとそのマスターのことだった。

 

 およそ真っ当な魔術師であればまず行わないであろう、超遠距離狙撃という奇策でアトラムの足元を掬った人物……そして如何なる理由があって、最初からアインツベルンと組んでいたのか。

 

 得体の知れなさでいえばランサー陣営も胡散臭いが、キャスター陣営の動きはあまりに異質と言えた。それだけに気がかりであり、その素性を知らぬまま聖杯戦争を続けるのはあまりにリスクが大きい。

 

 

 だが、ランサーから告げられた名前は、慎二と凛が想像だにしないものだった。

 

 

 

 ――それは。

 

 

 

「おい……お前いま何て言ったんだ?」

「なんだ、聞いてなかったのか? だから、さっき言っただろ。マスターの名前は――」

 

 

 

 

 衛宮士郎。

 

 

 

 

「嘘でしょ……なんで、衛宮君が……」

 

 動揺しているのは慎二だけではない。凛もまた、ランサーから告げられた名前に衝撃を受けていた。

 

「なんだ、二人とも知り合いなのか?」

「知り合いっていうか、同級生よ。衛宮君についてなら、慎二の方が詳しいんじゃない?」

 

 凛と士郎は学年こそ同じだが、クラスはA組とC組で分かれている。対して慎二は同じクラスメートであり、部活も同じ弓道部に属しているという点で凛よりも詳しい。

 

(まさか……)

 

 2人が裏で繋がっている可能性を考慮し、凛の顔が更に険しいものになった。

 

 

「衛宮が……」

 

 だが、慎二の様子を見る限り、ランサーから聞かされるまで本当に知らなかったようだ。むしろ凛よりも衝撃を受けている節すらある。

 

 もちろん学校で親しいことと、魔術師として親しいことは別の話だ。かくいう凛も間桐の養子となった桜について、現状は最低限しか把握していない。それだけに慎二が関知していなかったとしても、さほど不思議はなかった。

 

 

 

「でも、どうして衛宮君はアインツベルンと?」

「アインツベルンのマスター、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、衛宮士郎の義父・衛宮切嗣の娘だ。ホムンクルスとはいえ、一応は姉と弟という関係だな」

 

 すらすらと淀みなく答えるランサーに、凛とアーチャーは戦慄する。内容も衝撃的だが、それ以上にランサーが今まで他のマスターに気づかれることなく、ここまで詳細な情報を調べ上げている点に舌を巻いた。

 

 

 一方、慎二は相変わらず、ブツブツと呪詛のように士郎の名を呟いている。

 

「そうか……衛宮だったのか」

 

 魔術の類に無縁と思っていた士郎が実は魔術師であることを隠していたことへの憤り、そんな士郎が早くもバーサーカーのマスターを討ち取ったことへの焦り……そしてアインツベルンをパートナーとして選んだことに対する、嫉妬にも似た黒い感情が慎二の中で渦巻いていく。

 

「そうか、そうか。衛宮がそういうつもりなら、手加減はいらないよなぁ」

 

 うすら笑いを浮かべ、小刻みに震える間桐慎二。やがて震えがおさまると、慎二は意を決したように顔を上げた。

 

 

「仕方ない。同盟の話、乗ってやろうじゃないか」

 

 

 先ほどとは打って変わって、その顔には生気がみなぎっていた。威勢の良い手のひら返しに傍で見ていた凛は小さくため息を吐くが、変に煽ってヘソを曲げられても面倒なので押し黙る。

 

「遠坂も異論はないよな?」

「ええ」

 

 凛と慎二が共闘路線で意見が一致したことを見て取り、ランサーは「よし」と手を合わせた。

 

「じゃあ、次に連中の居場所だが、壊滅したアインツベルン城は放棄したらしい。しばらく姿をくらましていたが、今は柳洞寺にいる」

「柳洞寺……」

 

 柳洞寺は、深山町の外れにある山寺である。龍脈に対する要石としての役割を持ち、冬木市最大の霊脈だ。アインツベルン陣営がキャスターを擁していることも鑑みれば、拠点とするにはもってこいの場所といえよう。

 

 

「……そうなると、あまり時間をかけるのは得策とはいえないな」

 

 それまで仏頂面だった慎二が、ようやく口を挟んだ。

 

「キャスターのクラスは大抵、相応の『陣地作成』スキルをもっている。一等地の霊脈である柳洞寺の上に『神殿』でも作られたら厄介だからな」

 

 聖杯戦争のマスターは、他のサーヴァントのステータスを視るための特殊能力を授けられる。それは戦況を有利な方向へ導くためのマスターならではの能力で、アトラムを倒したキャスターの能力値は2人とも把握済みだった。

 

 

 ちなみに『神殿』というのは魔術工房の強化版であり、高い魔力に『道具作成』スキルを保有するキャスターならではの戦略だ。

 本来は白兵戦の苦手なキャスターがそれを補う戦略として用いられるが、セイバーがこれに加わるとなれば鉄壁の守りと化す。

 

 

「柳堂寺ほどの魔力にあのキャスターが加われば、時間はアインツベルンの味方になる。こうしてる間にも諜報用の使い魔だの、戦闘用の魔道具だので戦力増強に勤しんでることだろうし、マスターだって魔道具でどんどん強化されていく」

 

 慎二の言葉に、凛は少し感心したように片方の眉を吊り上げた。

 

 間桐の家は代を経るたびに魔術回路が枯渇していると聞くが、それでも慎二なりに勉強はしっかりとしていたらしい。そもそも間桐慎二という男は魔術回路を持たないだけで、勉学や運動においては天才肌の万能タイプであった。

 




 アインツベルンが強過ぎて争ってる場合じゃねぇ!

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