Fate/Revenant Zero   作:愉悦部副部長

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ACT.03 英霊召喚

 

 魔術の素養を備え、真摯に聖杯を求める者――そうした人物を、聖杯はマスターとして優先的に選抜ぶ。その筆頭に挙げられる存在が「始まりの御三家」であるが、それ以外の人物でも聖杯を手にするにふさわしい人間を聖杯それ自体が選抜する。

 

 よってマスターは合計で7人、そのいずれが聖杯の担い手として相応しいか、死闘をもって決着させるために。

 

 

 かくして、衛宮士郎の右手には3本の令呪が宿った。

 

 

 

 冬木の地に住み、聖遺物を保有し、聖杯を望む魔術師……これを聖杯が逃すわけがない。表向きはアインツベルンと距離を置いているが、週末には郊外にあるアインツベルン城でホムンクルスのセラから魔術や戦闘の指南を受けている。

 

 

 ―――すべては切嗣のシナリオ通り、第5次聖杯戦争でアインツベルンに勝利をもたらすために。

 

 

 

「それはそうと、当主様から何か貰ったのって今回が初めてだったような……?」

 

 ドイツより空輸で送られてきた小包を開けた衛宮士郎は、ふとそんな感想を漏らした。アハト翁と会った回数は多くないが、会う度に厳めしくプレッシャーをかけられた記憶しかない。

 

 届いた小包の中身は、古代ギリシャ文字で書かれた古い書物であった。サーヴァントを召喚するための触媒……英霊を招く神秘の聖遺物だ。

 

 

 どの英霊が呼びかけに応じるかは、マスターと聖遺物に左右される。

 

 召喚する英霊を特定しなければ、マスターの精神性や性格が優先され、似通った魂の持ち主が呼び出されることが多い。召喚される英霊がランダムであることは不利なように見えるが、似通った魂を持つ英霊とは性格面や価値観も似てくるため、結果的に相性が良いことも少なくなかった。

 

 

 しかし聖遺物による縁は、それ以上に優先される要素だ。

 

 聖遺物の来歴が確実であればあるほど、召喚される英霊は1つに絞り込まれていく。もし特定のクラスを召喚しようと思えば、各クラスに相応しい活躍を生前に残した英霊の聖遺物を見つけてくればいい。

 

 

「英霊はキャスター……計画通りだ」

 

 

 士郎に与えられたのは『魔術師』のクラス、キャスターだ。魔術を得意としており、魔術師としては聖杯戦争中最強格。中には神代の魔術を扱うものもいる。半面、他のサーヴァントに対しては白兵戦能力で大きく劣るものが多い。

 

 一方で自陣での防衛戦や強力な魔術、高い魔力、そして権謀術数の数々を利用した謀略戦など、戦術的なサーヴァント戦よりも戦略的な行動に適したクラスである。また、マジックアイテムの制作やマスターの強化など、サポートに関しては他のクラスよりも優秀であり、何より魔力の消費が少ない。

 

 

 マスターではあるものの魔術師としてではなく、『魔術師殺し』として参加する士郎にとっては、まさにうってつけのサーヴァントだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 かくして、その夜――。

 

 

 冬木市、その果てにあるアインツベルン城では、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが礼拝堂の床に書き終えた魔法陣の出来を確認していた。

 

「キリツグは前の聖杯戦争で、『騎士王』を召喚して決戦まで勝ち残った。だから、お爺様の選択は間違っていなかった」

 

 一時はバーサーカーを召喚するという案も検討したアハト翁であったが、切嗣から事の次第を聞いて考えを改めていた。

 

 

 ――衛宮切嗣が最後の令呪を使って聖杯を破壊さえしなかえれば、騎士王アルトリア・ペンドラゴンが勝利していた可能性は十分に高かった。

 であれば、切嗣の役割は士郎に担わせ、アイリスフィールの上位互換たるイリヤをマスターとすれば、今度こそは。

 

 

 水銀で描いた紋様に、歪みやムラがないか詳細に検証しながら、イリヤが聖遺物を設置する祭壇に視線を移す。

 

「シロウ、準備はいい?」

「ああ、バッチリだ」

 

 (いにしえ)の黒魔術に使う生贄のように、祭壇に捧げられていたのは衛宮士郎その人だった。仰向けに倒れ、召喚の儀を今か今かと待ちわびている。

 

 その体内には、第4次聖杯戦争で切嗣がセイバーを召喚した聖遺物―――聖剣エクスカリバーの鞘である結界宝具「アヴァロン(全て遠き理想郷)」が埋め込まれていた。

 

 かつて瀕死の士郎の命を救うべく埋め込まれたものであったが、当然ながら英霊を呼び寄せるための触媒としても問題なく機能する。

 

 

 (士郎)の返事に満足したのか、イリヤが嬉しそうに頷いて立ち上がった。

 

「じゃ、始めるわよ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 その日、冬木の異なる場所で、異なる対象に向けて呼びかける呪文の詠唱が、一部の例外を除いてほとんど時を同じくして沸き起こった。

 

 いずれのマスターも、その悲願は同じ。ただ1つの奇跡を巡り、それを獲得すべく血で血を洗う。彼らが時空の彼方の英雄たちに向ける嘆願の声が、いま一度地上から一斉に放たれる。

 

 

「告げる―――」

 

 

 しくじれば命すら失いかねない危険な魔術だが、イリヤに緊張の色は無かった。この日の為に、自分はたゆまぬ鍛錬を重ねてきたのだ。

 

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ――」

 

 

 体内を巡る魔術の感触。全身の魔術回路が沸騰するような悪寒と苦痛。それに歯を食いしばって耐えながら、イリヤは更なる詠唱を紡ぐ。

 

 

「誓いを此処に。我は常世すべての善となる者、我は常世すべての悪を敷く者――」

 

 

 逆巻く風と稲妻。見守るホムンクルスのセラとリーゼリットすら目を開けていられないほどの風圧の中、召喚の紋様が燦然と輝きを放つ。

 

 

「汝、三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の護り手よ―――!」

 

 

 そう結びをつけたイリヤが身体中の魔力の本流を限界まで加速させると、ついに魔法陣の中の経路はこの世ならざる場所と繋がった。

 

 滔々と溢れる眩いばかりの光の奥から、現れ出でる伝説の英雄。かつて人の身にありながら人の域を超えた者たち。人ならざるその力を精霊の域に格上げされた者たち。

 

 

 そして―――。

 

 

 凍てつく石の城にて、いま凛とした声が響き渡る。

 

 

 

「問おう―――汝が、私のマスターか」

 

 

 

  ***

 

 

 

 窓から見える冬木の夜景を眺めながら、アトラム・ガリアスタは口元を歪めた。

 

 続いて視線をある一点へと移す。冬木市の郊外にてうっそうと茂る森林地帯は、魔術師の間で『アインツベルの森』と呼ばれていた。

 重層の幻覚と魔術結界によって守られた、60年にただ1度だけ戦のための出城として主を迎え入れるあやかしの城……聖杯戦争に際し、アインツベルンが富に物を言わせて土地ごと霊脈を抑えた拠点である。

 

 

「さて、こちらも始めるとするか」

 

 アトラムがそう呟くと、背後で大勢の人が動く気配がした。すべて、彼の率いる助手と愛人の女魔術師たちである。

 

 

 ガリアスタ家は、中東に居を構える魔術師一族のトップだ。歴史こそ浅いものの、若くして既に相応の実力と圧倒的な財力を持っていた。

 

 彼の魔術は100年ほど前に先祖が金で魔術を買い、特権階級の嗜みとして息子たちに残したものを起源とする。

 当初は動物を生贄として魔力結晶を生成する原始的なアラブの呪術に過ぎなかったものだが、アトラムは石油ではなく人体を燃料として、最新の科学術の力を導入することによって代償魔術へと昇華させていった。

 

 

 魔術の技量は二流だが、アトラムの真の恐ろしさは「魔術使い」としての側面にあった。切嗣と同様に科学技術の利用に積極的で、高層ビルに築いた彼の魔術工房にはいくつもの科学設備が導入されている。どちらかといえば「魔術」を道具として割り切った使い方をするアトラムは、原始電池を使用した戦闘用魔術でいくつもの熾烈な戦いを生き抜いてきた。

 

 

 アトラムの使う魔術は、『原始電池』と呼ばれるものだ。

 

 かつてこの魔術を伝えてきた一族のひとつが没落する寸前に金で歴史ごと買い上げ、古代の多くの地域で神威や神鳴と崇められてきた『力』を制御することで繁栄を享受してきた。

 

 もともと鉱石や代償の魔術を研鑽していたことも相まって、電力へ自らの魔力を乗せることで一流の戦闘用魔術としても完成されている。戦闘時には強力な電撃が雷速で相手に襲い掛かり、一族に連なる魔術師が数十人がかりで儀式を行えば天候の制御すら可能だ。

 

 

 アインツベルンがどんな防御で待ち構えていようとも、アトラム・ガリアスタにはそれを打ち破る覚悟と自信があった。

 

 

「儀式の準備は?」

 

 アトラムが問いかけると、褐色の肌をあらわにした妖艶な女魔術師が答える。

 

「万事、予定通りに」

「それは結構」

 

 アトラムは満足げに頷くと、エレベーターで最上階へと上がった。

 




 召喚直後のマスター(イリヤ)を見たセイバー「あれ、アイリがちっちゃくなってる……?」

 なんだかんだで騎士とお姫様だから相性は良さそう。
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