Fate/Revenant Zero 作:愉悦部副部長
ビルの最上階では、彼の連れてきた10人ほどの女魔術師とその倍ほどの助手が魔法陣の周りで待機していた。既に術式の下準備は完成している。
「ふっ……あまり序盤から勝ち過ぎるのもどうかとは思うが、何事も先手必勝というからな」
アトラムが腕を上げると、居並ぶ魔術師たちが一斉に詠唱を唱え始めた。その中心にいるアトラムは、さながらオーケストラの指揮者のよう。
やがて詠唱が進むにつれて、ほとんど雲のなかった冬木の空に雨雲が立ち込めはじめた。それもただ一点、『アインツベルンの森』の上空にだけ展開している。それは自然の偶然ではなく、明らかに人為的にもたらされたものだ。
―――ガリアスタの魔術は、天候をも制する。
これによって土地そのものを傷つけ、敵対する魔術師の霊地に潜む防御機構を無効化する。財力に物を言わせて集めた優秀にして美しい女魔術師、大勢の助手、沢山の子供たちを生贄として生み出した魔力の結晶……それらすべてを束ねて魔術の威力を引き上げ、雷の鉄槌にて敵を粉砕するのだ。
始まりの御三家の優位性の1つは、共に一流の霊脈を抑えた土地の上に魔術工房を築いているという点にある。そういった地の利をもたない外様魔術師にとってはハンデ以外の何物でもないのだが、アトラムは財力と自身の魔術にモノを言わせてそうした不利を一挙に覆す気でいた。
「
アトラムが叫ぶ。
ほとんど同時に、『アインツベルンの森』上空に展開していた雨雲から雷鳴が轟き、眩く輝く稲妻が森へ向かって延びていく。風が吹き荒れ、竜巻が生じ、アトラムが解放した術式によって周囲一帯には強風が吹き荒れ、神罰のように降り注いだ稲妻は正確に森の中心に移置する城を直撃した。
財力と魔術によって極限まで強化されていた雷撃の魔術は、アインツベルンの強固な魔術結界を易々と突き破った。魔術要塞と呼ばれるほど何重にも展開された結界は、ただの一撃で灰塵へと帰した。
アトラムの雷撃を受けた、アインツベルン城は無残なものだった。美しかった石壁は溶け、樹木が消し炭となって蒸発する。瓦礫が吹き飛び、地面はえぐられ、周囲の森には火災が発生していた。
「こんなものかな」
アインツベルンの強固な要塞を一瞬で粉砕せしめた魔術師は、こともなげにそう呟いた。
かつてのエルメロイと違い、こちらは本気で勝ちに来ているのだ。そのために投資は惜しまず、かけた額も桁違いだ。この程度の結果は出してもらわねば困る。
(首尾は上々。これなら、遠坂と間桐の魔術工房も恐れることはない)
向こうも使い魔か何かで監視しているだろうが、分かったところでどうにか出来るはずもないだろう。それほどまでに、アトラムの手際は鮮やかで容赦が無かった。
―――もっとも、そのヒントを与えてくれたのはアインツベルン自身なのだがな。
くっくっ、と心の中でほくそ笑むアトラム。
有無を言わさぬ破壊力で魔術工房を物理的に粉砕する方法は、かつてハイアット・ホテルに籠城するケイネスに対して衛宮切嗣が用いた爆破解体にヒントを得たものだ。
アトラムはそれを、自分なりの“より魔術師らしい”やり方へとアレンジした。
成果は実に申し分なく、魔術師協会とて認めざるを得ないだろう。箔をつけるための戦いなのだから、戦いは圧倒的な勝利でなければならない。
ならば、後はその戦果を回収に向かうのみ……そう判断したアトラムは、他のマスターに先を越されまいとアインツベルンの森へ踏み込んだ。
**
アインツベルンの森は、まさに地獄と形容するのが適切な惨状だった。
10年前の大災厄もかくや、といった山火事が発生しており、ありとあらゆる生き物が死に包まれている。それでも辛うじて破壊を免れた魔術が侵入者に牙を剥くが、アトラムはそれを難なく防ぎ切った。
「アインツベルンを仕留めたら、この城を乗っ取って第2の拠点とするのも悪くないな」
闘志をたぎらせながら、アトラムは森の奥へと進む。やがて視界を阻む火災が消えると、目の前にかつて豪奢な城塞“だった”ものの成れの果てが現れた。
アトラムの雷撃で破壊された、アインツベルンの城だ。
―――まだ、人の気配がある。
(さっさと尻尾を巻いて逃げれば良いものを。これだから名門のプライドというやつは。それとも単に、逃げることすら出来なかったのか?)
自分の事を棚に上げて、アインツベルンを嘲笑する余裕すらあった。
事実、爆撃を受けたに等しいこの惨状にあってマスターはもちろんのこと、サーヴァントであっても現界していれば無傷では済まないだろう。
さらに奥へとアトラムが足を踏み入れようとすると、凛と透き通る声が響いた。
「止まれ――! 誰の許しを得て、我が主の森に足を踏み入れるか!」
逃げも隠れもせず、侵入者の前へと立ちはだかるはアインツベルンのサーヴァント。魔力によって編み込まれた、白銀と紺碧に輝く甲冑に身を包む、美貌の少女。彼女こそ、麗しき騎士王その人であった。
「………美しい」
風のように颯爽と現れた、凛々しき騎士の王。その姿を一目見た途端、自然と素直な賛辞の言葉がアトラムの口を突いて出た。
これまでアトラムが手に入れた、どんな美女とも違う。凛と引き締められたセイバーの美貌は、女性的な色艶とはまた異なる向きのものだ。
ほっそりとした体躯と、色白できめ細やかな肌、美少年とも美少女とも受け取れる清純無垢な色香の背後で、静かではあるが確かに感じられるほどの王者の覇気……使い魔で見ているであろうアトラムの愛人たちも、もはや嫉妬を超えて羨望の眼差し、あるいは色目を使う者がいたとしても納得できてしまうほどの美貌だった。
「……レディ、失礼した。ガリアスタ家が現当主、アトラムにございます。以後、お見知りおきを」
セイバーの問いを無視して、アトラムは名乗りを上げる。
「僭越ながら、その首を貰い受けに参りました」
アトラムはそう言葉を紡ぐとともに、全身の魔術回路を起動させた。
次の瞬間、2人の間に膨大な魔力の奔流が吹き荒れる。セイバーが瞠目する中、巻き上がる魔力は次第に凝固して形を成し、屈強な人影として実体化を果たす。
そこにいたのは、巨人と見紛うほどの巨躯を持つ巌のような大男。セイバーの倍以上の巨体だが、その動きに鈍重さはまるでない。
「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHHHH」
闇夜を切り裂くように轟く、巨人の咆哮。掛け値なしの殺気は、最優のセイバーをして瞬時に難敵であることを意識させる。
「バーサーカー……!」
イリヤが呟く。彼女が言葉にせずとも、確かめるまでも無く明らかであった。あれほどまでに凶悪な殺意と魔力の波動は、もはや狂乱の英霊しか思いあたらない。
かくしてここに、最初の激突が始まった――。
セイバーのステータス
・筋力A+
・耐久A
・敏捷A
・魔力A+
・幸運B
・宝具A++
マスターがイリヤなのでだいぶ強化されています。