Fate/Revenant Zero   作:愉悦部副部長

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ACT.05 魔術師殺しの亡霊

 

 

 二撃、三撃。豪快な剣捌きでもって、バーサーカーはセイバーを攻め立てる。迎えるセイバーは防戦一方だった。

 

 バーサーカーのクラスは固有スキル「狂化」によって理性や一部の技術を失う代償に、肉弾戦では敵無しの圧倒的破壊力を持つ。

 

 基本的な知識としてセイバーもある程度は覚悟していたが、想像以上に強い。今のところセイバーの防御は破られていないが、バーサーカーの怒涛の連撃を前にして防戦一方だ。

 

 

 セイバーを圧倒するのは、その勢いだけではなかった。バーサーカーが猛連撃を続けていられるのは、最も優秀な剣の使い手たるセイバーにさえ反撃の隙を与えないほどの剣捌き。しかもその得物は、元は彼を奉る神殿の支柱を石斧剣としたものである。

 

 断じて、ただの狂犬ではない。このバーサーカー、元の英霊は相当な使い手だ。狂化してなおこの手練れというからには、尋常ならざる腕前であることがうかがい知れる。

 

 

「貴様……一体!?」

 

 

 瞠目するセイバーに答えを返すはずも無く、巨大な巌は空気を震わす咆哮とともに鉄柱を振りかぶる。風が唸りを上げた。

 

 

 イリヤもまた、その光景にただ驚愕に息を吞んでいた。

 

 テクノロジー全盛期の現代において、ただの前時代的な決闘でしかないはずなのに、ほとばしる熱量が違う。

 

 ただ鍛えた肉体が振るう鋼がぶつかり合うだけで、超音速の力の奔流が吹き荒れる。

 踏みしめる脚が路面を穿ち、空振った一撃の風圧が電柱を折り曲げる。

 

 それはホムンクルスのイリヤをしても視力で補足することはできず、激突する余波を見届けることしか敵わない。

 

 

 

 それでも―――。

 

 

 

「大丈夫……セイバーは誰にも負けない。世界で一番、強いんだから!」

 

 

 イリヤは剣の英霊を信じた。

 

 それは決して、都合の良い祈りでも、「最優のクラス」に驕ったからでもない。ただ当然のように、己のサーヴァントの鍛えた技と力、矜持と信念のもたらす力を認めた上での結論だった。

 

 事実、セイバーとバーサーカーの対決は依然、拮抗したまま続いている。それどころか既に膠着の様相を呈し始めたと言っていい。

 裏を返せば、バーサーカーが優位に立ちつつも、決定的な一撃を与えられず、攻めあぐねていることと同義であった。

 

 その証拠に、セイバーはいまだ掠り傷ひとつ追っていない。疲弊の色も無い。口元には不敵な笑みすら刻みつつ、バーサーカーの力量を底まで計りとらんと小手調べをしているようにも見えた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 そしてサーヴァント同士の戦いと歩調を合わせるように、マスター同士の戦いもまた始まっていた。

 

 

「形骸よ、生命を宿せ―――!」

 

 二小節の詠唱で、イリヤは一気に魔術を紡ぎあげる。貴金属の形状操作はアインツベルンの真骨頂だ。その秘跡は他の追随を許さない。

 

 銀の針金が縦横に輪を描き、複雑な輪郭を形成する。互いに絡み合い、くっつき、さながら編み細工のように複雑な立体物となって出現したのは、猛々しい翼と嘴に鋭利な鉤爪を持つ鷹だった。

 

 

 それは彼女の母、アイリスフィールも得意としていた術……錬金術による即席ホムンクルスだ。

 

 

 まるで金属の刃が擦れるような甲高い嘶きと共に、針金の鷹はイリヤの腕から飛び立った。弾丸もかくやとばかりの飛翔は、アトラムの想像を大きく上回った。

 

「猛れ!!」

 

 その一言とともに、電撃が巨大な手となり雷速で鷹の前に立ちはだかる。

 

「チッ……!」

 

 不意を突かれたが、アラブの魔術師とて後手に回るだけではない。すぐさま反撃の準備を整える。熾烈な戦いに慣れたアトラムからすれば、錬金術に特化した魔術師など物の数ではないはずだ

 

 元来、アインツベルンという魔導の一族は錬金術に特化するあまり、戦闘魔術の運用を不得手とすることで知られている。

 

 3度の聖杯戦争においてことごとく序盤で脱落したのも、彼ら北の魔術師の一門が実戦において甚だ脆弱であったが故だ。

 第4次では衛宮切嗣という傭兵を召し抱えて最終決戦まで生き残ったが、アインツベルンのホムンクルスが戦果をあげたという報告は聞いていない。

 

 

 ―――次の一撃で決める。

 

 

 だが、アトラムは気づくべきだった。

 

 

 ―――戦闘魔術を不得手とするアインツベルンが、なぜ自ら正面決戦を挑んできたのか。

 

 

 つまり、アトラムはこう考えるべきであった。

 

 

 ―――この場所に、誘い込まれたのだと。

 

 

 

 ***

 

 

 

 アインツベルンの森の奥、木々に覆われた茂みの隙間から一丁の銃が伸びる。

 

「……セイバーはうまくやってくれてるみたいだな」

 

 熱感知スコープからは、2つの人体の放熱パターンを示していた。どちらも、サーヴァントを挟んでその対決を見守るように対峙している。

 

 

 両者ともに自身のサーヴァントから近い位置にいるのは、漁夫の利狙いでやってくる第3者のマスター狙いを警戒してのことだ。結局のところ、自分のサーヴァントの傍ほど安全な場所はない。

 

 もとより霊的存在であるサーヴァントに傷を負わせることができるのは、同じ英霊であるサーヴァントのみ。衛宮士郎の狙撃銃にどれほどの威力があろうとも、サーヴァント相手には豆鉄砲ほどの効果もない。

 

 

 それでも戦闘が白熱してくれば、サーヴァントいえどもマスターの保護に神経を割けなくなってくる。そこを狙い撃つのが、衛宮切嗣から受け継いだ戦法だった。

 

 

 

『―――いいかい、士郎。魔術師という生き物の弱点は、その驕りによる油断にある。彼らは自分たちが神秘と人知の間に位置する者だと信じて疑わず、それゆえ脅威があるとすれば同じ魔術師以外にはありえないと信じて疑わない』

 

 かつて『魔術師殺し』と呼ばれた義父……衛宮切嗣は数多の魔術師と死闘を繰り返し、ひとつの公式を得ていた。

 

 

 ――魔術師は、魔術に寄らない攻撃にこそ脆弱さを曝け出す。敵の予期せぬ攻撃こそが、全ての戦いにおける勝利への近道なのだ。

 

 

 魔術師は戦闘において魔術の気配に過敏となる一方で、魔術によらない純粋に物理的な戦いを二次的な脅威として認識する。科学技術を軽視し、人間が魔術に頼ることなくどれだけのことが出来るのかを、正しく認識していない。

 

 

「―――5」

 

 秒読みを始めながら、士郎は熱探知スコープの照準をアトラムへと重ねる。

 

「―――4」

 

 士郎が選んだ狙撃銃は、大型の軍用対物狙撃銃――バレットM82A1だった。通常であれば重機関銃に使用される12.7x99mm NATO弾を使用している点が特徴で、重い大口径弾の優れた弾道直進性を活かして、一般的な狙撃銃をはるかに上回る距離での狙撃を行える。実際、実戦においては2kmほど先の敵兵を狙撃した例もあるという。

 

「――3」

 

 この時、士郎とアトラムの間には1キロ近くの距離があった。バレット対物狙撃銃ならば威力に問題の無い射程範囲で、これほど離れていればそう簡単に特定されることはない。仮に狙撃を外したとしても、充分に距離を開けている士郎には安全に脱出できるだけの公算がある。

 

「――2」

 

 士郎の持つバレット対物狙撃銃は、アイツベルンで何度か試射を済ませてクセを呑み込んでいた。長距離の射程において銃弾が風の影響を受けやすい事や、緩い放物線を描くことも織り込み済みだ。

 

「――1」

 

 静かに息を吐き出しながら、士郎はゆっくりと引き金を絞り込んでいく。バレットの銃口は微塵も揺るぐことなく、そのうつろな空洞でもって標的に必殺の凝視を送る。

 

 

 そして次の瞬間、耳を弄する轟音が響いた。

   

 




 アトラムさん、サーヴァントとの相性的にはバーサーカーみたいな方が向いてそう。
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