今回も3000文字になりました
料理学校を卒業することになる小松に大竹と仲梅の3人は、食材の声を聴けるようになっており、料理人として成長していたことは確かだ。
そんな3人には俺からの贈り物として、特別に用意した包丁を渡す。
鍜冶師として、この世界の素材には興味があり、様々なものを作ってみたりもしたが、やはりこの世界では調理器具が喜ばれるのは間違いない。
料理人である3人に渡すなら、包丁が1番だろうと決めて、彼等の卒業が近付く最中に用意していた包丁が数本。
自己再生機能を促す鉱物を用いて造り出した包丁は、上手く使えば蘇生包丁としても使えるだろう。
食材の味や鮮度を保つ効果がある蘇生包丁。
それが大小2本で、3人分の計6本ではあるが、使いやすいように3人の手にそれぞれ合わせた包丁達。
恐縮しつつもお礼を言って包丁を遊園地に来た少年のような瞳で見ていた小松、礼を言いながらも上を目指す野心に溢れていた大竹、純粋に喜んでいた仲梅という3人。
それぞれ反応が違っていて面白いな、とは思っていたが、この中だと危ういのは大竹かと感じた俺は、上を目指すことだけを内心では考えていて気を張り過ぎている大竹に必要なものを探してみる。
大竹がオトギのしろという孤児院出身であることを知り、その孤児院を訪れてみた俺が見たのは、壁に貼られた大きな紙いっぱいに、孤児院の先輩である大竹を応援していた子ども達の文字。
毎日応援しているという文面だけではなく、いつかお金を貯めて大竹シェフの店に行きたいとも書かれていた。
先輩である大竹のことを誇りにしていた子ども達は、大竹を自慢の先輩だと思っていたんだろう。
新聞に大竹の記事が載れば、それを自慢気に掲示していた子ども達にとって、大竹が載った記事は宝物だったのかもしれない。
直観で孤児院の子ども達と孤児院を経営していた女性に死の気配が迫っていると感じた俺は、経営者の女性に毒食材の解毒処理の方法を丁寧に教えておき、食中毒が起こることのないようにしておくと、死の気配は消え去った。
何となくの直観ではあったが、俺がこの孤児院に来なければ毒食材による食中毒が起こっていた可能性は高かったようだ。
食材の声を聴けるようになって料理人として成長し、修行していた店から出て独り立ちして店を開店したりもしていた大竹。
そんな大竹に呼ばれて、料理人として停滞しているという悩みを相談された時、俺は大竹を連れて孤児院オトギのしろへと向かう。
そこで子ども達に大歓迎されて戸惑う大竹を連れて、大竹を応援している子ども達の言葉がいっぱい書かれて壁1面に貼られた紙を見せてみた。
孤児院の先輩である大竹を応援する様々な言葉が書かれた紙を見た大竹は、自分がどれだけ孤児院の子ども達に誇りに思われていたかを知り、涙を流す。
「ごめん、ごめんな皆」
自分を恥じるような顔で、涙を流したまま子ども達に謝るような言葉を言う大竹。
「きみは食材の声を聴けるようになって料理人として成長した。それはいいことだ。だが、たまには食材以外の声を聞いてみるのも悪くはないと思うぞ。例えば子ども達からの美味しいって言葉とかな」
俺のその言葉を聞き、涙を拭った大竹は「今日はおれが子ども達の料理を作るよ」と孤児院の経営者の女性に言って、厨房に向かっていった。
大竹が用意した料理を食べた子ども達は「美味しい」と喜んでいて、全員が幸せそうに笑っていたのは間違いない。
もし俺が大竹のことを気にかけることがなかったのなら、孤児院の子ども達がこうして笑顔で大竹の料理を食べることも無かった筈だ。
それでも今は、笑顔で大竹の料理をほうばって喜ぶ子ども達の姿を見ることができている。
悲しいことなんて、あるよりかは、ない方がいい。
その日は俺がデザートを作り、子ども達に提供してみたが、甘いデザートに凄まじく喜んでいた子ども達。
デザートに大喜びしていた子ども達を見ていた大竹は、子ども達が喜ぶ料理を作りたいと考えていたみたいだ。
孤児院オトギのしろに行った日の翌日から、大竹は料理人としての停滞を抜け出して、更に料理の腕が上がっていた。
順調に料理の腕を磨いていた大竹は、子ども達から届く手紙にもちゃんと目を通すようになり、きちんと返事を手紙に書いて送ったりもしていた大竹。
時折孤児院オトギのしろに行き、子ども達に料理を振る舞うようにもなった大竹は、いい顔をするようになっていたな。
今の大竹なら大丈夫だろうと考えた俺は、小松と仲梅が元気にやっているかも確認しに行ってみた。
小松はホテルグルメのコック長として働いていて、高級な食材の匂いが手に染み付く程に働いているようではある。
食材の声を聴けるようになるのが1番早かった小松は、初見の食材でも食材の声を聴いて捌くことに成功したらしい。
料理人として成長を続けている小松は、食材に愛されるという才能も間違いなく持っているだろう。
小松のその才能は料理人にとって、とても大切な才能であるのは確かだ。
強い食運も備わっている小松なら問題は無さそうだと考えた俺は、ホテルグルメで働く小松を少しだけ見守った後、仲梅の様子を見に行く。
どうやら仲梅はグルメツーリストの会長専属料理人となっており、元気そうにはしていた。
だが、グルメツーリスト会長のモイとやらは、少々きな臭い。
そう考えながら遠目でモイ会長を見ていた俺の背後に近付いてきた僅かな気配に振り向く。
「そこで、止まれ。それ以上動けば攻撃するぞ」
「気配は消していたつもりでしたが、アカシアの三弟子以外に、貴方のような化け物がいるとは」
包丁を片手に持ち、フード付きの黒装束で顔を隠した男性が俺の言葉で立ち止まった。
「貴方を殺すのも、調理をするのも手間取りそうですね。ですが、傷をつける程度なら」
そう言いながら包丁を振るおうとした黒装束の男よりも早く動き、霊波動と共鳴させた聖光気を発動して強力な気鋼闘衣を瞬時に纏った俺は「ささやかだが、プレゼントだ!」と言い放ちながら指先から霊丸を繰り出す。
黒装束の男に迫るのは、霊力と聖光気が混ざった球体の弾丸。
圧縮されたそれはS級妖怪であろうと1発で死亡する威力がある。
「サタンミンチ!」
霊丸が直撃する寸前に、男の包丁によってみじん切りのように刻まれた霊丸が霧散し、防がれた一撃。
本気の霊丸ではなかったが、それでも並みの相手では防げない威力が確実にあった霊丸。
そして普通なら見えない霊丸を男が視認していたということも、警戒しておかなければいけない。
「まるで霊食を捌いたかのような感触でした。今のは単なる食欲のエネルギーとは違いますね」
霊丸を捌いた感触が独特だったのか、とても興味深そうにしていた顔を隠した男性。
此方を観察する視線には、まるで未知の食材を発見した料理人のような興奮が混じっていた。
「その衣を纏ってから明らかに強さが段違いになった貴方に傷をつけるのは無理そうです。ここはわたしが退きましょう。いずれまたお会いしましょうね千利さん」
興味があっても深追いをする性格ではないのか、此方に背を向けて立ち去ろうとした男に俺は言う。
「また会うつもりなら、名前ぐらい言ってけ」
立ち止まり、俺の言葉にクスクスと楽しげに笑っていた男は口を開く。
「これは失礼、わたしの名はジョア。料理人です」
それだけ言ってその場から姿を消したジョアという料理人。
ジョアは本気ではなかったが、かなりの実力者であるのは間違いない。
どうやら俺も更に強くなる必要がありそうだ。
孤児院で子ども達に応援されていることを知り、料理人として一皮剥けた大竹は料理人ランキングも上がっていて、現在は90位にランクインしています
そして今回現れたジョアは、本作主人公にかなり興味を抱きました