今回も3000文字になりました
強くなる為に何ができるかを考えると、美味いものを食べながら修業するのが1番だという結論に至った俺は、様々な食材に調理を施して美味さを最大限に引き出して食べると修業に励んだ。
ノッキングマスター次郎から聞いた猿武というグルメ界の猿が用いる武術を修得する為、60兆を超える細胞の足並みを揃えていこうとするが、即座に上手くいくということはない。
全ての細胞を1つの意思で統一し、力を受け流すことが猿武の基本。
普段自分が思うように動かしているつもりの身体も、細胞全員が脳の命令に従順である訳ではない。
エネルギーの流れを正確に捉える為には、細胞の足並みを完全に揃える必要がある。
それさえ可能になれば、効率よく力を受け流すことができるようになる猿武という武術。
「猿武の修業に使うといい」と言いながら次郎が大量に置いていったのは、ビービーダンゴムシというグルメ界の虫。
ビービーダンゴムシはグルメ界でも珍しく弱い臆病な生物であるそうだが、1度ビックリして丸まると強力な防御力と逃げる術を発揮する。
物凄い速度で転がったり、持ち上げられないくらい重くなったり、時には風に舞う程軽くなることもできるようだ。
重くなったり軽くなったりするだけではなく、速くなったり止まったり臭くなったりもして、0.1秒以内に放さないと手が溶けるような毒も出すビービーダンゴムシでお手玉をすることが、猿武の修業になるとも言っていた次郎。
ビービーダンゴムシの変化を感じて、脳がそれを認識してからでは遅い。
指先で、それこそ細胞で変化を感じ取って細胞自身の判断で対応しなければ、ビービーダンゴムシの変化には到底間に合わないと理解できる。
気配を肌で感じ、ビービーダンゴムシの次の動きを全ての細胞で予測しなければいけないが、それには全ての細胞の意思を統一する必要があった。
幾度も死を経験した俺は死が近い時の走馬灯に、細胞の意思を統一するヒントがあると感じ、死する時の感覚を思い出す。
命の終わり、近付く死、思い残すことなく迎えた最期の瞬間。
それら全てを思い出していくと全細胞の意思が一致し、最速で反応して思考する細胞によって得たのは、時を圧縮したような体感時間。
全ての細胞が同調し、統一された今の感覚を忘れることなく、拾い上げたビービーダンゴムシでお手玉をする。
先程とは違い、止まって見えたビービーダンゴムシをお手玉することに成功した俺は、お手玉に使うビービーダンゴムシを更に増やしてみた。
数を増やしても全てのビービーダンゴムシの動きが見えた俺は、目で追うのではなく細胞全体で捕らえることができており、1度に50匹のビービーダンゴムシでお手玉をすることに成功。
そんな俺の動きを見て、真似をしていた般若パンダのダンは、いきなり10匹のビービーダンゴムシでお手玉ができていて、細胞の足並みを即座に揃えていたダン。
獣が生み出した猿武という武術は、同じ獣の方が身に付けやすかったのかもしれないが、ダンに技を真似る才能があることは確かだ。
翌日には100匹のビービーダンゴムシでお手玉ができるようになった俺と、50匹でお手玉をしていたダンは、数を増やしても問題なくお手玉ができていた。
猿武の入り口に到達した俺とダンは、互いに相手の攻撃をくらってみて、猿武を実戦で使えるように修業を積み重ねていく。
猿武で実際の攻撃を受け流すのは全細胞に高い技術が求められ、攻撃が強ければ強い程に受け流しの難度は増していくが、捕獲レベルで1000はあるダンの攻撃すらも完璧に受け流すことに成功した俺。
ビービーダンゴムシ200匹を使ってお手玉している俺に対して、100匹でお手玉しているダンは、日々の食事と猿武の修業で捕獲レベルが更に上昇。
現在では捕獲レベルにして1500に到達し、人間界では1番強いかもしれない猛獣にまでなった般若パンダのダン。
そんなダンの攻撃を真正面から受けて、全ての威力を猿武で受け流すことができた俺は、基本となる力の受け流しを高いレベルで身に付けることができたと確信。
そこでふと考えたのは基本である受けに足並みを揃えている60兆を超える細胞の意思を、全て攻撃に転化するとどうなるのかということだった。
かなりの威力が期待されることから、地球に向かって打つのは避けた方がいいと考えて、空へと放った拳の一撃。
まるで空が割れたかのように消し飛んだ雲、上空へと昇っていく莫大な力。
それが地球を飛び出して宇宙にまで飛んでいく程に凄まじい一撃であったのは確実だ。
統一した全細胞による攻撃、それこそが猿武の奥義なのではないかと思ったところで、俺には新たなスキルが発現していた。
【猿武舞踏】
・猿武をどの世界でも使用可能
発現した新たなスキルは、猿武を修得したことで発現したスキルなのは間違いない。
スキルとして発現する程にまで猿武を身に付けることはできたが、もっと強くなる必要がありそうだと感じた俺は、修業を継続することを決める。
料理人としての修業も疎かにすることはなく、毎日料理を欠かさず作り、食材に触れる日々。
お手玉して回すごとに食材として美味しくなるビービーダンゴムシという不思議な食材も、1万回ぐらい回すと食感もキャベツのようになり美味しくなっていた。
1万回ぐらい回したビービーダンゴムシが俺の適合食材の1つであったようで、細胞のレベルが格段に上がった俺は更に強くなる。
美味いものを食べることで、強くなることが可能なグルメ細胞。
グルメ細胞はある程度成長すると、必ず壁にぶつかるが、それが限界ではなく通過点であるなら壁を打ち破り、細胞は進化していく。
壁の総数は潜在能力を示し、それを超える為の食材も個人によって違うものだ。
もっと強くなる為に、俺に適合する食材を探しに行くのも悪くはない。
俺を呼ぶ食材の声に耳を傾かせながら、向かうのはメルクマウンテンより北に約30km進んだ先にある地下数万メートル下のヘビーホールという場所。
特殊な磁場と気圧の関係から地球の引力の影響を強く受ける場所であり、人間界で最も地下深い洞窟。
ヘビーホールでは数倍となる重力を猿武によって全細胞で受け流し、加わる重力を身体に停滞させることなく随時かわし続けて進んだ先で、俺を呼んでいたメルクの星屑を手に入れた俺は、今度は別の場所へと向かう。
ザーベル島の命の滝壺を飛び降りて、ブレスドラゴンが放つ空気弾を軽々とかき消して、到着したアングラの森。
グルメ界と人間界の境目にあるアングラの森で、出会う猛獣を威嚇で退けて進み、発見したエアツリーを調理。
食欲を刺激する香りを放つエアツリーの実を持ち帰り、用意するのは固い素材を削ったことでメルクの星屑から出た金色の粉。
新種のアミノ酸で構成されているメルクの星屑の粉は、極上の旨味成分を含んでいる。
調理したエアツリーの実にメルクの星屑の粉末調味料をふりかけてかぶりつくと、俺に適合していた食材によって進化した細胞。
鳥でも豚でも牛でもない上質な厚肉のような味わいで、肉汁の如き果汁が溢れるジューシーなエアツリーの実に、極上の旨味を宿す黄金の粉をふりかけて食べると、2つが噛み合って調和した味は極上以上の味わいとなった。
「美味い!」
思わずそう言ってしまう程に美味な食材は、俺の心身を満たす。
美味いものが沢山食べられるこの世界は、グルメなやつには、正に天国と言えるような世界かもしれない。
猿武の師範以上に猿武を修得した本作主人公とダンは強くなりました
それでも強くなることに意欲的になった本作主人公は、更なる強さを目指しますね