【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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次回更新は5月27日を予定しております。



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■11.FF-3S(6)生起――

 ジオンに兵なし、と呼ばれることとなるレビル将軍の演説の後、彼我の軍事行動は目に見えて活発化している。

 地球連邦空軍・海軍はジオン軍の軌道爆撃に備え、主要な航空基地の疎開と航空戦力の分散を開始。特に宇宙空間からの攻撃に対し、陸上基地よりも生残性の高い水上艦艇は、今後の軍事作戦の中心になることを期待されている。

 地球圏ピンポンダッシュ作戦や機雷原の構築――俺たちが関わった作戦についてだが、こちらはどの程度の影響を敵に与えているか、まったくわからない。レビル将軍の脱出を支援するための陽動作戦の後、われわれ航空母艦『エンタープライズ』はルナツーにて補給を受けていた。

 

「今後だが――」

 

 航空母艦『エンタープライズ』の一室で、シルヴィア准将は湯煎された缶メシを喫食しながら口を開いた。

 

「准将、食べながら話さないほうが」

 

「私は私が話したいときに話す」

 

「……」

 

 閉口した俺に対して、彼女は器用にフォークで米飯を口に運び、咀嚼しながら話を続けた。

 

「さて。今後だが、貴官はどうなると思う」

 

「どうなる、とは」

 

「貴官の戦略眼はなかなかのものだ。そして私以上に西暦時代の戦争や歴史に精通している。その知見からくる今後の戦争の趨勢、その予想を聞きたい」

 

「……」

 

 褒められて悪い気はしないが、後ろめたさもある。戦略眼は機動戦士ガンダムという原作があってのもの。加えて西暦時代の戦争に詳しいのは、あくまでも前世で西暦という時代を生きたからだ。何か努力して勝ち得たものではない。

 

「大したことありませんよ」

 

「……謙遜するなと言った」

 

 シルヴィア准将のフォークが止まった。

 彼女の表情に険が浮かぶ。

 そのまま彼女は机上に並べた調味料のひとつ――ケチャップを取り出すと、米飯の上にかけ始めた。

 

「准将、ご飯にケチャップをかけるのですか」

 

「貴官はアジア系だったか。おかしいか?」

 

「おかしいと思いますが」

 

「おかしいのはきみのほうだ。米は野菜だろう。ならばこれはサラダだ。サラダに調味料をかける文化は、きみの故郷にはなかったのか?」

 

「えーっとですね……」

 

「とにかく貴官は謙遜せずに己の予想を話せ」

 

「はい、准将」

 

 原作の流れで言えば南極条約の締結後に、ジオン軍は地球降下作戦を発動するはずである。降下作戦は第3次まで続き、東欧、北米、オセアニアの大部分と東アジア・東南アジアの一部がジオン軍の占領下におかれる――というイメージだ。またこの前後でジオン軍は月面基地のマスドライバーを使用し、地球連邦軍の防空網を破壊していたはずである。

 それを時系列上に整理し、適当にボカしながら端的に話すと、シルヴィア准将は少し意外そうな顔をした。

 

ルナツー(ここ)には来ないと見るか」

 

「ルナツー、ですか」

 

 原作でもそうだったが、先のルウム会戦で地球連邦宇宙軍の主力艦隊は大打撃を被っている。

 地球連邦軍が保有する唯一に近い宇宙の軍事拠点であり、地球降下作戦を実施する上では目の上のタンコブになりそうなものだが、そこに有力な機動部隊がないのならば邪魔されることもあるまい、というのが彼らの判断だったのだろう。

 実際、原作ではジャブローから多数の宇宙艦艇が打ち上げられていた覚えがあるので、ルナツーの戦力は本当にルウム会戦を生き延びた残存艦隊しかなかったのかもしれない。

 

「敵はルウム会戦で(ワレ)の宇宙軍を壊滅させたと思っているでしょう。ならば空っぽになったここを攻撃するよりも、地球降下作戦に注力すると思いますが……」

 

(いや、待てよ)

 

 言いながら、思った。

 本当にそうか? 

 

(驕るつもりはまったくないが、俺たちはルナツーからソロモンとグラナダを長駆襲撃した。さらにサイド3周辺宙域であれだけの挑発をやった……)

 

「准将。考えが変わりました」

 

「ほう」

 

「我々はやりすぎたかもしれません」

 

 ◇◆◇

 

 南極条約が締結された翌日――宇宙世紀0079年2月1日、サイド3周辺宙域を航行していたフォン・ブラウン籍の民間貨物船からの通報を皮切りに、ジオン軍・宇宙攻撃軍の艦艇が宇宙要塞ソロモンに集結しつつあるという官民からの情報が、地球連邦軍の(もと)に集まり始めた。

 しかしながらこうした目撃情報の中に、大気圏突入・離脱の双方が可能なHLVのそれはまったく見受けられなかった。

 よって地球連邦軍統合参謀本部はジオン軍の次なる目標が宇宙要塞ルナツーの占領、あるいは地球の衛星軌道上の空間優勢(制宙権)確保にあると判断。速やかに地球連邦宇宙軍はルナツー防衛、陸・空・海軍は衛星軌道に対する攻撃を準備した。

 そして数日後には、宇宙要塞ソロモンをジオン軍・宇宙攻撃軍が発したという情報が、地球連邦軍にまでかけ上り、続いてルナツー周辺宙域へ数隻のムサイから成る小艦隊が現れた。

 

地球(ジ・アース)、こちらエンタープライズ(シャングリラ)・コントロール」

 

「シャングリラ・コントロール、こちらジ・アース」

 

 航空母艦『エンタープライズ』から緊急発進して10秒と経たず、同艦から通信が入った。感度は良好。ミノフスキー粒子による影響は全くないか、そもそも散布されていないようだった。

 

「ジ・アース。ムサイ4隻から成る敵艦隊はルナツーとの交差軌道を航行中。ミノフスキー粒子の濃度は皆無」

 

 俺は前方に敵のスラスターが放つ光でも見えないかと目を凝らしたが、さすがに遠すぎる。しかしながらFF-3Sセイバーフィッシュの機首レーダーはしっかりと敵影を捉えているし、同じく『エンタープライズ』から出撃したFF-3EAとのデータリンクにより、敵の位置情報ははっきりとわかっていた。

 

「シャングリラ・コントロール。敵の企図は威力偵察だろう」

 

 だろう、とは言ったものの、敵の狙いがこちらの防御体制を探るための偵察であることは間違いなかった。

 ムサイ4隻から成る敵艦隊は、ルナツーの近傍を通り抜ける軌道を高速で進んでいる。損害が抑えられるすれ違いざまの戦闘で、ルナツーに備えられた対空火砲の位置やミサイル陣地を暴露させ、それを本隊に伝えるつもりなのだろう。

 彼らがミノフスキー粒子を散布しない理由も、それで説明がつく。ルナツーの対空レーダーの所在を捕捉したり、防御火器の位置を探ったりする上では、ミノフスキー粒子は邪魔でしかない。

 

「ジ・アース。私だ。貴官は敵艦隊に殴りこみをかけろ。艦上攻撃隊は戦果拡大と、敵の情報収集機を狩る。こちらはミノフスキー粒子を撒く――ルナツーの火砲は使わない」

 

 オペレーターではなく、シルヴィア准将の冷たい声が響いた。

 どうやら彼女もまた同じ判断を下したらしい。

 ミノフスキー粒子が瞬く間に戦闘濃度になり、FF-3EAのデータリンクが途切れる。

 

(立場があべこべだ!)

 

 とは思ったが、こちらがルナツーの長距離ミサイルを使用しないのならば、むしろミノフスキー粒子を撒いてしまったほうがいい。少なくともムサイの対空砲火は無力化できる。

 

(今後は翼下にアクティブレーダーミサイルを積んだほうがいいか?)

 

 航空母艦『エンタープライズ』の全艦上機は、アクティブレーダーミサイルではなく、シーカーの捜索距離が短いもののミノフスキー粒子散布下の環境に強い赤外線誘導ミサイルを装備している。ミノフスキー粒子の存在を念頭において戦術を変更したことが、この瞬間はマイナスに働いてしまっていた。

 

(……ッ!)

 

 網膜を()く金色のビーム。

 遥か頭上を往くそれは、おそらくルナツー目掛けて発射されたものだろう。

 その閃光を照り返す人型の影を、俺は見た。そこから相手の未来位置を予測し、赤外線誘導ミサイルと連動するトリガーを弾いた。上部ランチャーから吐き出された円筒状の凶器は2、3秒前方へ推進した後に推進剤を使って、指示した敵の進行方向へその軌道を変えた。

 目算での発射だから、そうそう上手くいくとは思っていない。が、ファーストルック、ファーストシュートは西暦の頃からの変わらない勝利の大原則だ。うまくいけばシーカーがザクの放つ赤外線を捉えるだろう。

 さらにそこから離れた位置にもう1機、肉眼でザクⅡを視認し、その遥か前方へミサイルを発射――発射しつつ、周囲に視線を遣り、新たな獲物とこちらを狙う砲口がないかを探す。

 自機の遥か下方を友軍が放つ桃色のメガ粒子が駆ける。

 

(サラミスの艦隊統制射撃か)

 

 俺は飛来する曳光弾を認めると、4基あるブースターの内の2基――右下・左下のそれを偏向させて、これを躱す。

 かなり強引ではあるが、疑似的なAMBACが可能なのがこのFF-3セイバーフィッシュの長所だ。スラスターが機体後部に集中しているFF-4トリアーエズとは異なり、セイバーフィッシュはスラスターに加えて、4基のブースターがある。これは可動するミサイルランチャーと同居しているが故に、機体に干渉しない範囲で自由に動かせるのだ。

 

(やれる)

 

 確信とともに、俺は橙のマズルフラッシュを睨んだ。

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