【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

13 / 56



◇◆◇



次回更新は6月2日を予定しております。



◇◆◇



■13.発動、CFB計画。

「ジオン統帥府の発表です。軍事作戦につき日時の詳細の公表は差し控えるものの、ジオン宇宙攻撃軍の機動艦隊は、ルナツー宇宙要塞を攻撃。敵基地機能に深刻な被害を与えると同時に、トラファルガ級航空母艦『エンタープライズ』を撃沈しました」

 

「トラファルガ級航空母艦『エンタープライズ』は開戦以来、宇宙要塞ソロモンや月面基地に対する作戦に従事してきた宇宙艦艇であり、ジオン宇宙攻撃軍からすると、目障りな羽虫のような存在でした」

 

「これにより些細な憂いは完全に絶たれ、ジオン宇宙攻撃軍および突撃機動軍は約束された勝利に向けて今後も邁進していくことになるでしょう!」

 

 トラファルガ級航空母艦『エンタープライズ』は、ジオン軍による2回目の“撃沈”を経験し、ルナツーに凱旋した。

 とはいえ、無傷というわけではない。艦体中央部の装甲板には無数の破片が突き刺さり、メガ粒子砲の砲撃を浴びて生まれたクレーターが残っている。そして右舷・左舷の航空甲板をはじめとする航空関係設備は、24時間稼働する無人工廠を以てしても修理に2か月を要する惨状となっていた。

 工廠入りする『エンタープライズ』を後に、地球連邦軍航空宇宙第1統合戦闘団は、地球連邦軍浜松基地へ降りることとなった。

 

 さて。

 前紀元20世紀末、アメリカ合衆国とソビエト連邦というふたつの超大国が睨み合っていた冷たい戦争の時代、両国は対衛星兵器を研究していた。

 当時から今日に至るまで人工衛星による偵察は万能ではないが、しかしながら戦略的に重要な位置を占めている。

 故に米国もソ連も、そして他の大国も人工衛星に対する攻撃を考えるのは至極当然のことであった。

 ソ連はまず地上発射型のロケットによる人工衛星破壊兵器を配備し、続いて高出力のレーザーを人工衛星に浴びせる実験を繰り返した。このレーザーは人工衛星を破壊するほどの威力はなかったが、米国製衛星のセンサーを一時的に盲目にするには十分であった。

 米国もまた地上発射型のロケットの人工衛星破壊兵器を配備した。

 ソ連製ロケットも米国製ロケットも現在の軍事技術からすればお粗末な性能であり、人工衛星に直撃させることは困難であった。が、命中精度の悪さは核弾頭を採用すれば補えた。

 

 しかしながら米軍は核弾頭搭載型の対衛星ミサイルを配備しながら、とある矛盾に気づいていた。衛星軌道上で核爆発を起こせば、確かにソ連の人工衛星を破壊、ないしは無力化することが可能だ。が、同時に味方の人工衛星もまた破壊することになる。

 

 そこで80年代には“直撃”を必須とする運動エネルギー弾頭と、航空機発射型の対衛星ミサイルが開発され、破壊試験にも成功。その前後で十数発ではあるが生産された。

 

――ASM-135ASAT。

 

 これは弾頭を含めて3段式のミサイルであり、高度2kmまで上昇した当時の米国製制空戦闘機F-15Aから発射され、その後に高度2000km以下の低軌道目標に向かうという代物だった。

 

「そこでですねぇええええ!? われわれ航空宇宙コア・(C)ファイター・(F)バトル(B)計画本部はぁあああああ……!(息継ぎ)……この航空機発射型対衛星ミサイルに目をつけ、現代先端軍事技術ぅううう? をもってリ・メイクすることにしましたぁあああああ!?」

 

 地球連邦空軍浜松基地の講堂に響き渡るプレゼンの声。

 

「……」

 

 地球連邦軍浜松基地に向かうシャトルの機内でも一度は資料に目を通したものの、やはり信じられない思いがした。

 

「申し遅れましたぁあああ! 私は連邦空軍少佐で京大航空宇宙学研究科博士の……(息継ぎ)……癖原(へきのはら)ぁあああ! と申しますぅううう!」

 

「ご覧ください! このASAT-1Aはぁあああ……(息継ぎ)……私が設計ぇしましたぁあああああ!」

 

「ASAT-1Aの長所はですねぇえええええ!? セイバーフィッシュのよぉなぁあああ大型戦闘機からぁあああああ!……(息継ぎ)……FF-6“TINコッド”のよぉなぁあああ大気圏内用戦闘機ぃいいいいい……(息継ぎ)……小型戦闘機のトリアーエズまでぇ装ぉ備が可能ぉである点ですぅううううう! つまり……!」

 

 確かに原作においてMSの開発計画を含むV作戦が始まるのは、ジオン軍の地上侵攻作戦発動と同時かその後だったと記憶している。とはいえ地球連邦空軍・地球連邦宇宙軍が(現時点では)従来の装備体系の延長線でジオン軍に対抗しようとしている様子をこうも見せつけられると、不安になってくる。

 

「続いてぇえええええ!? ヘンリー・ボールドウィン海軍大将閣下――改名されてジオンコロスノダイスキー・ボールドウィン海軍大将が提っ唱ぉされたぁあああ……!(息継ぎ)……Global Ocean計画と協ぉ力してぇ開発中のぉおおおおおお……!(息継ぎ)……新型艦上機FF-6NXについてご説明ぇしまぁあああすぅううううう! このFF-6NXはぁああああああ……!(息継ぎ)……航空母艦およびぃ宇宙空母で運用ぉが容易であるよぉうにぃ!? ……(息継ぎ)……主翼および機体各所が折り畳めるようになっていますぅううううう!」

 

「最後にですねぇええええええ!? 我がCFB計ぇ画の核となるぅううう……(息継ぎ)……熱核融合炉搭載型戦闘攻撃機についてぇえええええ……(息継ぎ)……ご説明ぇえええええ……!(息継ぎ)……しまぁあああ……!(息継ぎ)……すぅうううううう!(息継ぎ)(息継ぎ)(息継ぎ)」

 

 ……不安になってくる。

 隣に足を組んで座っているシルヴィア准将の横顔に、顔を近づけた。

 

「シルヴィア准将、大丈夫なんですか」

 

「何がだ」

 

「コア・ファイター・バトル計画と、あの癖原少佐の両方です」

 

「CFB計画については万事うまくいく」

 

 シルヴィア准将はこちらに視線を遣ることもなく、自信満々に断言した。

 CFB計画とは戦闘機(ファイター)を中核とした軍事作戦をより強化するための開発計画である。

 最後の勝利を収めるのは、ジオンのMSにあらず。連邦の戦闘機である。

 その信念と航空母艦『エンタープライズ』の活躍を背景に、シルヴィア准将が提出したもので、地球連邦軍統合参謀本部やその上部組織のことごとくが、すでに認可している。

 

「コア・ファイター・バトル計画で最も重要なのは熱核融合炉搭載型戦闘機であって、あとはおまけだ。そして航空機用熱核融合炉については、戦闘を考慮していないとはいえ、現時点でミデア級輸送機やFF-3EAのレベルまで小型化できている。制空・制宙戦闘機に搭載できる水準に至るまで、そう時間はかからない」

 

「……」

 

「MSを遥かに超える速度と、MSを一撃で葬るメガ粒子砲。我々はジオンが苦し紛れに生み出した玩具を圧倒する」

 

「そう、ですか」

 

「……だいたいほとんどはエレクトロニックセイバーの改修で浜松(ここ)に寄ったとき、酒の席できみが口にしたアイデアだぞ」

 

「え」

 

「何も覚えていないのだな、きみは」

 

 シルヴィア准将はにやりと笑ってから、言葉を続けた。

 

「それから責任者となった癖原少佐だが、あれに任せれば間違いはない」

 

 いや、いまにも酸欠で倒れそうに見えるんですが……。

 

「もとより天才。そしてあれと我々は、連邦宇宙軍、連邦空軍は勿論、あらゆる軍種から協力を得ることができる。それはなぜかわかるか?」

 

「あなたのコネクション、ですか?」

 

 シルヴィア准将は初めてそこで、こちらに顔を向けた。

 吐息がかかるような近さで、彼女は嗤う。

 臙脂の瞳が、意地悪そうに輝いた。

 

「憎悪と復讐が、我々を連帯させているのだよ」

 

「癖原少佐は信用できる。あれは兄と弟を一度に失った。サイド3の連中を殺すためならば、生理現象の処理に必要な時間以外のすべてをCFB計画推進のために費やすだろう」

 

「癖原少佐だけではない――ジオン軍将兵を殺す、この一点だけで軍種も派閥も企業も超えて我々は協力できる」

 

「艦隊派が立案中のビンソン計画も、酒の席できみが予言したMS開発計画も、このCFB計画も、どれが正解かはわからない。だからこそ連邦はすべてに総力を挙げるだろうし、我々は歩調を合わせることができる。選択と集中など、この連邦には必要ない。連邦は全部やる」

 

 ……。

 

 また数日後、地球連邦軍浜松基地では“航空戦訓研究会”なる勉強会が開かれた。これは先の1週間戦争からルウム戦役に参加した空軍・宇宙軍の将兵が中心となり、戦闘機部隊が直面した課題を共有し、改善のための意見を出し合うための会である。

 主催者は当然ながら、シルヴィア・プロット・バックランド宇宙軍准将。

 またこれを後援したのは、統合参謀本部副議長のサヴェリオ・デ・モル空軍大将である。

 以下がその議事録となる。

 

 ◇◆◇

 

■散布されたミノフスキー粒子は、散布器から数十km圏内においては、レーダーを利用した終端誘導を不可能とする“雲”を生成する。そのためアクティブレーダーミサイルをはじめとする長距離誘導弾が無力化され、視界外戦闘を封じられた。これがMSに対する戦闘機部隊の優位性喪失につながった。

 

→赤外線や可視光線に対する妨害効果は低いため、赤外線誘導方式および画像認識誘導方式を採用した短距離・近距離誘導弾は従来どおりに使用できる。前線部隊は視界内戦闘を想定した作戦を基本となし、教育部隊は教育カリキュラムを見直す。ビームライディング方式や光ファイバ有線誘導方式も有効であり、こちらは宇宙空間の戦闘(以下空間戦闘)レンジでは短いが、攻撃ヘリによる地上戦の戦闘レンジでは適切である。

 

→新たな長距離誘導弾の開発計画としては、ミノフスキー粒子検知器を採用してミノフスキー粒子の“雲”に向かう中間誘導と、画像認識誘導方式の終端誘導を用いた新型誘導弾が癖原少佐から提案されている。

 

→敵が生成したミノフスキー粒子の“雲”を逆手にとる。敵艦や敵機が備える対空榴弾は近接信管が無力化されるため、対艦攻撃に参加した戦闘機部隊の生存率は想定よりも高くなっており、空軍・宇宙軍はより積極的に戦闘機部隊を対艦攻撃に活用すべきである。

 

■機関砲はMSに対しては効果がなく、現状ではデッドウェイトになりうる。

 

→空間戦闘においては、実体弾の射程は事実上無限に等しく、さらに母機の進行方向へ発射することで初速と威力が強化されるため、機関砲弾は対MS戦闘ではなく、未来位置が判断しやすい艦艇に対する戦闘に活用できる。今後は57mmあるいは75mm級機関砲の開発も検討すべきである。

 

■FF-4トリアーエズやFF-3セイバーフィッシュのような大気圏内・宇宙空間両用戦闘機は順次廃するべきである。FF-4の“誤植前”の愛称であるトリエアーズ(※)の由来を思えば、大気圏内戦闘と空間戦闘を両立させることに無理がある。大気圏内の飛行を念頭に置いた空力設計は、空間戦闘では無駄である。

 

(※)トリエアーズとは、宇宙空間、コロニー中心部や月面の低G空間、地球大気圏内やコロニー低空域の1G空間、(トリ・)空間(エアー)において平均的な操縦性と飛行能力を求められたことからつけられた愛称である。

 

→宇宙空間におけるMSのAMBACに対抗するため、FF-3Sセイバーフィッシュの一部を空間専用戦闘機に改造する。具体的には、ブースターパックを可動させる機構を大型化・長大化し、これを疑似的な四肢とすることで、より自由な戦闘機動を実現する。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。