【完結】この銀翼は後退れない――あるいは戦闘機でこの先生きのこれるか――   作:河畑濤士

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■20.フライマンタ(4)エースvs――!

 ジオン軍によって占領された地球連邦海軍セヴァストポリ基地は、三重の防衛網に守られていた。

 まず巡航ミサイルを用いた長距離攻撃や、こちらのセンサーによる捜索を妨害するため、ミノフスキー粒子の厚いカーテンと光学照準方式の高射機関砲、赤外線誘導方式の近距離地対空ミサイルから成る前進陣地が、“最外縁”――セヴァストポリ基地から北に100km以上離れた位置に構築されている(西方の海上にもミノフスキー粒子が戦闘濃度で撒かれている)。

 続いてセヴァストポリ基地近傍には移動式捜索レーダー、移動式火器管制レーダーとともに中距離地対空ミサイルが配されている。これは最外縁部を飛び越え、ミノフスキー粒子散布濃度が薄いところまでやってきた戦闘機部隊を叩くための防空陣地だ。

 この前進陣地と防空陣地をカバーするのが、突如として現れた敵戦闘機部隊であった。

 

 対する地球連邦軍欧州方面軍統合作戦司令部(以下EUJTF司令部)は最初、このセヴァストポリ基地を取りまく防御陣地をまともに相手するつもりはなかった。当初は戦略ロケット軍地球規模攻撃軍団の弾道ミサイル攻撃による基地無力化が検討されていた。終端速度マッハ10を超える極超音速の弾道ミサイル攻撃であれば、最新型の中距離地対空ミサイルシステムであっても迎撃は難しい。

 

 が、EUJTF司令部の上級司令部にあたる地球連邦軍統合参謀本部はこれを認めなかった。

 衛星を利用した誘導が期待できないこと、また高度数百kmの大気圏外まで上昇して急降下する弾道ミサイルは、敵の突入強襲阻止のための戦闘で生じた大量のスペースデブリの影響を受けやすいことから、半数必中界は極めて悪化している。セヴァストポリ基地を大きく外れて、市街地を誤爆しては敵方のプロパガンダにいいように使われてしまう。

 故にEUJTF司令部は通常航空戦力によるセヴァストポリ基地攻撃を決めた。

 主力は戦闘攻撃機フライマンタ12機から成る第91戦闘攻撃中隊。早期警戒機や電子戦機に支援された彼らがまずミノフスキー粒子のカーテンを高速突破し、セヴァストポリ基地周辺のレーダーとミサイルシステムを破壊。それからデプロッグから成る爆撃機隊が無防備となったセヴァストポリ基地を空爆する、という流れである。

 

 途中まではうまくいった。

 12機のフライマンタは黒海を超低空飛行で翔け、戦闘濃度で維持されているミノフスキー粒子の海を突破すると、一気に急上昇。セヴァストポリ基地を高空から睨みつけた。

 彼らはまったく油断していなかった。

 うち4機は空対空ミサイルを備えた護衛機役であり、高空からの援護に廻る。

 そして残る8機のフライマンタは、敵のレーダー波を逆探知して攻撃する対レーダーミサイルと、機体下部に設けた照準器が放つレーザーの反射光を捉えて目標へ向かう誘導爆弾、誘導ロケットを装備していた。

 

 彼らは予期していたとおり、激しい抵抗に直面した。

 連続して撃ち上げられる地対空ミサイルと、数機のザクⅡが連射する120mm対空榴弾。

 対して遅れて現れた電子戦機FF-3EAが、欺瞞の位置情報を敵弾頭に投射し、“目標が至近距離にある”と誤認させる。

 虚空で炸裂する無数の敵弾――その最中、フライマンタが投弾した対レーダーミサイルが活性化し、飛び交うレーダー波の中から地上の移動式レーダーのそれを探し当てた。

 

「1機、突っこんでくる――!」

 

 そのとき2基のブースターパックを機体上面に背負い、そして2基のブースターパックを機体下部に抱えた高速の機影が高速突撃をかけてきた。

 

 ……。

 

「我々の戦爆連合は全滅した――敵に、エースがいる」

 

 ふたりきりの司令部で、シルヴィア准将は忌々しげに言った。

 

「エース?」

 

「ああ。きみのように、ひとりで戦局を変えるようなやつが向こうにもいる」

 

「……俺は違いますよ」

 

「謙遜するなと言った」

 

 シルヴィア准将は不機嫌そうに吐き捨てると、司令部の片隅に置かれたモニターの電源を入れた。

 

「被弾しながらも生き残ったフライマンタのガンカメラだ。これを見ろ」

 

 映し出されているのは見知ったフォルム。

 FF-3セイバーフィッシュのそれである。

 そしてその主翼には、血塗られた金槌が描かれていた。

 

「すでに解散した第612戦闘攻撃中隊のエンブレムだ。それから尾翼に黒い1本線――こいつは間違いない。“ウォーパーティー”だ」

 

「……」

 

「知っているだろう。FF-4Cトリアーエズ単機で、南米反政府ゲリラの軽戦闘機4機を叩き落したエースだ」

 

「……」

 

「……」

 

(まったく心当たりがねえ……)

 

 軍事専門家、というよりは偏執的な愛好家(オタク)に近い知識量に圧倒されつつも、口を開いた。

 

「この“ウォーパーティー”というやつが、鹵獲したウチの戦闘機で暴れ回ったことはわかりました。……ではこのパイロットは、元・連邦軍の?」

 

「ああ。が、その経歴は話すだけでも反吐が出る。きみと同じ元・空軍のエースだった、ということだけを知っていればいい」

 

「わかりました。しかし情報は少しでも――」

 

「必要ない」

 

 彼女の瞳が、炎の色に輝いた。

 

「なぜならきみは私の――」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「~♪」

 

 緊急発進および敵機邀撃の命令が下り、機上の人となった好戦家(ウォーパーティー)のテランス・オースティン・ルーズベルトは、鼻歌を歌っていた。緊張感はない。いや、緊張はしている。気持ちは昂ってもいた。

 

「監視哨からの報告では敵は戦闘攻撃機約20機」

 

 管制官の言葉に、テランスは「20。面白くなりますね」と笑った。同格か、それ以上の敵との殺し合いを渇望してきた彼にとって、数的劣位は強がりではなく望むところなのである。出撃許可が下りるとともに、彼が操る局地防空戦仕様FF-3DF――スーパーセイバーは空に舞い上がったかと思うと、高推力で高空にまで達した。

 上昇力は戦闘機にとって極めて重要な能力のひとつだ。敵よりも高度をとることは、攻防ともに優位に立つことを意味する。空対空ミサイルひとつとっても、高高度から発射したそれと低空から発射したそれとでは、前者の射程のほうが長くなる。

 

(味方機は4――)

 

 テランスの背後に続くのは、同じく4機のFF-3DF。

 

(私の相手が減る、ということはないでしょうね)

 

 敵機はおそらく戦闘攻撃機フライマンタであろう。小型戦闘機であるFF-4トリアーエズやFF-6TINコッドは勿論、FF-3よりも大型の機体であるが鈍重ではない――味方機に瞬く間に叩き落されて終わり、ということにはならないだろう。

 そんなことをテランスが考えていると、僚機から通信が入った。

 

「ウォーパーティー。こちらローズマリー。撃墜数を稼ぎたいからって俺を撃つのはやめてくれよ」

 

「ローズマリー。こちらウォーパーティー。目の前に敵機がいる限りは、そうしないさ」

 

 ふん、と通信機の向こうで鼻を鳴らす音がした。

 

 と、同時に管制官から迎撃のための飛行経路と、装備する武器の使用ポイントの指示が飛んでくる。

 

「……」

 

 が、テランスはそれを無視して、スロットルを開いた。

 FF-3DFスーパーセイバーの最大の武器は、高推力による高速突撃。ちまちまとした連携など不要――それに性には合わない。突進して敵編隊を蹴散らして混乱を生じさせ、殺す、殺されるの格闘戦に持ちこむ。それこそが彼の愉しみであった。

 

「来るぞ――敵機1!」

 

 しかし今日は違った。

 

「ウォーパーティー。こちらは地球連邦軍航空宇宙第1統合戦闘団司令部だ」

 

 戦域に響き渡ったのは、冷徹な女性の声。

 

(……混線、いや、故意に割りこんできたのですか)

 

 テランスは興が削がれたように感じつつ、編隊の先頭機を除き、組織的に散開するフライマンタたちを見つめながら、それでも速度を緩めることはしなかった。先頭機を火器管制レーダーで捉える――相手もそうした。

 対航戦(ヘッドオン)

 空対空ミサイルと、機関砲が火を噴き、鈍色(にびいろ)の複座型フライマンタと、純白のスーパーセイバーが交錯する。

 

「ウォーパーティー。撃ったな? 故意の友軍誤射は極刑だ」

 

「茶番はやめませんか」

 

 スーパーセイバーは推力偏向ノズルを最大限稼働させながら急旋回する。対するフライマンタも速度を極力殺さぬように下降しながら旋回するが、運動性と加速力ではスーパーセイバーのほうが上だ。

 

「終わりです」

 

 第2撃は、FF-3DFが背後から一方的に仕掛けた。

 上空から放つ必殺の空対空ミサイル。

 超音速の弾頭はフライマンタのエンジンノズル内部で炸裂し、機体内部を破壊。哀れ敵機は爆炎を噴きながら海面に叩きつけられ、スーパーセイバーはその上空を高速で翔け抜ける――。

 そんなテランスの幻視を否定するように、鈍色のフライマンタは海面を舐めるような低高度まで急降下。失速ギリギリの機動で、波の直上を西へ翔けた。テランスが放ったアクティブレーダーミサイルは、海面からの乱反射とミノフスキー粒子の霧に惑わされ、波に激突して砕けた。

 

「……!」

 

 高速で翔けぬけたFF-3DFに、第3撃を加えるチャンスはない。

 高度エネルギーを使い尽くして死に体のフライマンタは、スーパーセイバーが離れたのをいいことに、急上昇して再び高度を稼ぐと、悠々と旋回してミノフスキー粒子が薄い空域まで戻ってきた。

 

「ウォーパーティー、勝ったと思ったか?」

 

「ええ」

 

 響く女性の声に、テランスは頷かざるをえない。

 が、同時に彼は理解していた。

 彼女があのフライマンタを操縦しているわけではない、と。

 

「しかし――」

 

 テランスはフライマンタが急上昇して高度を稼ぎ、戦域に戻ってくるまでの間、何もしていなかったわけではない。

 

「優位に立っているのは私のほうですよ」

 

 4基のブースターを全力で使い、彼もまた高度を稼いでいた。

 上昇力ではFF-3DFはフライマンタを容易く上回る。

 テランスは眼下にフライマンタを――主翼に描かれた“地球”を見た。

 

「私が勝つ」

 

 彼は自信たっぷりに断言し、2発の赤外線誘導ミサイルを発射した。

 撃ち下ろせる、という圧倒的優位にテランスとFF-3DFはある。

 が、そんなことは関係ない、とばかりに返事がした。

 

「勝つのは貴様ではない」

 

 鈍色のフライマンタは赤外線を放出するフレアをばら撒きながら、マッハ3で迫る空対空ミサイルを躱した。

 

「私のエースが勝つ」

 

「私の?」

 

「貴様よりも、私のエースのほうが強い」

 

「……何を仰っているのかわかりませんね」

 

 そのとき、テランスの操縦席でレーダー被照射警報が鳴った。

 

「私の目の前にいるのは、戦闘機乗りの誇りを汚した犯罪者だ」

 

 彼は機体を反転させ、透明な風防越しに1発のアクティブレーダーミサイルが翔け上がってくるのを見つけた。

 

(あの回避運動の中でこちらを捕捉した? いつ?)

 

 チャフをばら撒き、急いでミサイルに対して直角の針路を取る。

 

「そして貴様の目の前にいるのは、戦闘機乗りの誇りを取り戻した英雄だ」

 

 チャフを目標と誤認した弾頭が炸裂する――と同時に、テランスはもう1発のミサイルが迫ってきているのを見つけた。赤外線誘導ミサイル。ミノフスキー粒子散布下でも影響を受け難い、ということ以外にも、目標が放つ赤外線を追跡するだけの赤外線誘導ミサイルには、目標の警報装置に探知されづらいという特長がある。

 

「――ッ!」

 

 テランスは小細工を弄するよりもフルスロットルで赤外線誘導ミサイルを振り切ることに決めた。

 

「ただのエースが、私の英雄(エース)に勝てると思うなよ」









◇◆◇



■21.フライマンタ(5)――vs私のエース!

は6月24日に投稿予定です。



◇◆◇


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